GunS Guilds Online!
1.エッダ水道-最深部
【GunS Guilds Online】
【(ポポロンの子は野イチゴを摘む手を止めて振り返った)】
【(ワッフルの雛たちは空を見つめていた。小さくさえずり声を上げた)】
おおおおおおおおおおおおおっ!
俺はエッダに体当たりをした。
岸に乗り上げ、岩肌に押し付ける。ゴミどもを轢き潰し、なおも全身に力を込める。
俺の非力をあざ笑うようにエッダが身を震わせる。
Guggu GuGuGuGu……
プレイヤーとレイド級の戦いは総力戦に移行した。
エッダの咆哮に引かれて眷属がわらわらと最深部に押し寄せてくる。
レイド級にとって眷属とは潰しの利く駒であり、それ以上でも以下でもない。愛情を向ける対象ではないから、自分の寝ぐらに踏み入ることを許さなかった。
だが、その図式が崩れた。
今やエッダは俺たちに夢中だった。この性格だ。眷属を寝ぐらに招くのは不快なのだろうが、愉悦がそれを上回っている。
俺の身体は鋼鉄で出来ている。鋼鉄のまぶたをバキバキとこじ開け、黒い血の涙を流してエッダに挑む。
Pyaaaaaaaaaaaaaaa
Hoooooooooooooooooooooo
触手の先端に実った斧を振り下ろすが、タコ足にいなされた。
エッダのレベルは2810。俺の三倍近い。額面通りに受け取ったとしても大人と子供ほどの開きがある。実際はもっとだろう。
エッダのタコ足が俺の触手に巻きつく。無造作に力を込めるだけで俺の触手が根元からもぎ取られた。噴出した黒い血が地底湖をドス黒く染めていく。
「コタタマ!」
この声。トドマッか。俺の足元でちょろちょろと動いている小さな人影がそうなのだろう。
「戻れ! 憎しみで戦っちゃダメ! もるるるるっ!」
そいつは無理な相談だな。俺は答えずに笑った。何しろゴミどもを焚き付けたのはこの俺だ。それに……俺にはリチェットの考えがよく分かる。
この戦いでプレイヤーは全てを失う。それは絶対条件のようなもので、どうせ失うなら早いほうが絶対にいい。
そして、ゴミどもを断崖絶壁から突き落とした【敗残兵】の名声は地に落ちる。クラン解体は免れないだろう。リチェットは全て承知の上で実行に移した。
前以って匂わせるなりすれば違った結果もあったろう。ゴミどものヘイトを少しでも和らげる努力を放棄したのは、より確実に勝つためだ。
これまでの様々な思い出が俺の脳裏を過る。
(コタタマ)
(ペタさん)
(旦那〜)
(コタタマりんっ)
(コタタマ氏)
(コタタマさん)
(コタタマくん)
(ペタタマぁ!)
(崖っぷち〜)
あるいはもっとスマートな遣り方があるのかもしれない。
プレイヤー全体の質が向上すれば、正面から戦って勝てるのかもしれない。
でも、それっていつだ?
俺はこう思う。
ゲームの本質はシステムだ。
グラフィックは綺麗であるに越したことはない。しかし逆に言えばその程度のものでしかない。
VRMMO? 確かに凄ぇよ。
暫定エイリアンが作ったこのゲームはオーバーテクノロジーの結晶だ。
でも俺は、このゲームが最高のゲームだとは思わない。
聖剣伝説3のワクワク感はもっと凄かった。サガシリーズの戦闘システムには度肝を抜かれた。FFやドラクエに至っては言うまでもないだろう。ボンバーマンは? ロックマンは。ストリートファイター2にはハマったよなぁ……。
そういうことなんだ。
俺はゲーマーだ。どんなにレベル上げしたところで手元に何が残るでもねえ。しょせんはデータだからな。ゲーマーってのは滑稽な人種だ。
その上、単なる暇潰しだからと自分に言い訳して生きるのかい?
俺はゴメンだね。
だからよ……。
もう同じ手は通用しないだろう。二度目はない。
エッダはここで仕留める。
俺はエッダをカチ上げた。吠える。
【サトゥ氏!】
五面ボスみたいなのが俺を飛び越えてエッダに飛び蹴りを浴びせた。
遅れてアナウンスが走る。
【ゲスト参戦!】
【無職】【サトゥ】【Level-1006】
俺は正直びびった。
無職になってるぅ……。
え? どういうこと? なんでクルセイダー辞めたの? いや、辞めたっつーかそれ職剥奪食らってるよね? あっ、マナポ? マナポをキメすぎたの? レベル低いくせに無茶するから……。
サトゥ氏のエンドフレームは、キャラロストを介したことでより一層バロンズゥ寄りになっていた。フレームが半分剥き出しなのは相変わらずだが、背中に生えているビンからチューブのようなものが伸びて頭と繋がっている。ビンの中にはドロリとした赤い液体が入っていて、ブサイクな人形が偉そうに腕組みなどしている。
完全に操られてる……。
サトゥ氏がエッダに剣を叩きつけた。だが切れない。分厚いタイヤを殴っているかのように弾かれる。
岩壁に巨体を半ばほど埋没させているエッダが笑う。近寄ってきた眷属をタコ足で無造作に掴み取って食った。食っ、た……。
……体力を回復している?
俺とサトゥ氏はエッダに組み付いた。身体に巻き付いてくるタコ足に構わずエッダの巨体を持ち上げて地底湖に叩き付けて水中戦に移行する。
エンドフレームは宇宙でも問題なく活動できた。むしろ宇宙での戦闘を想定しているふしがあった。おそらく溺死することはない。いや、それどころか水中を立って歩くことができた。まるで見えない足場を走るかのようだ。とはいえ、水の抵抗がなくなる訳ではない。水中戦が不利であることは変わりない。当然ながらエッダは地面を這うよりも水中を泳ぐほうが速いのだ。……どうする。
いや、悩んでいる場合ではなかった。エッダが俺とサトゥ氏をギリギリと締め上げてくる。う、動けねえ。
光線が走った。エッダの締め付けがゆるんだ。その隙に俺とサトゥ氏は水上に脱する。
俺は胸中で舌打ちした。ちっ、遅ぇんだよ。何をチンタラとやってんだ……。
アナウンスが走る。
【ゲスト参戦!】
【猟兵】【セブン】【Level-1025】
このミノムシ野郎。
母体は一人一体という基本的なルールすら守れないセブンが大砲を地底湖に向けている。七門の砲口が一斉に火を吹いた。エッダに容赦のない集中砲火を浴びせる。
しかし見掛け倒しだった。
エッダはセブンの光線を物ともしていない。浮上してきたエッダに俺とサトゥ氏が体当たりをする。二人掛かりでタコ足を抱えて押し込んでいく。
後がつかえてるんでね。場所を移そうか。
エッダの寝ぐらは人間からしてみると広すぎるくらいだが、化け物同士がやり合うにはちと手狭だ。
俺たちは地底湖を抜けて海上に出た。
2.エッダ洋
種族人間の基本的な戦法は人海戦術である。
切り込み隊長の俺はともかく、サトゥ氏が逸早く完全変身を遂げたのは経験によるものだろう。
俺は笑った。
サトゥ氏とセブンは例外として、俺に呼応できるのは生まれついてのモブキャラだけっつールールでもあるのかね?
多分そうなんだろう。俺は遣り方を教えるとは言ったが、双方向回線が開いていないことにはどうしようもない。リチェットや宰相ちゃんみたいに輝くモノを持ってるやつは無理なんだろう。残念だ。せめて灰になるまで戦えたなら少しはマシな状況に持って行けたろうに。いや、あるいは……。俺はこうも思う。
俺は、戦後の状況が大まかに読めている。
だから、ここでリチェットや宰相ちゃんを失うのはマズいという下心が作用したのかもな。だとしたら悪いことをした。今頃気まずい思いをしていることだろう。
だが朗報もある。
種族人間の圧倒的大多数がモブキャラってことだ。
完全変身を遂げたモブどもが俺たちの後を追って駆けてくる。
どいつもこいつも人間が抱える深い闇を体現するかのようなドス濃いビジュアルしてやがる。
モブどもはハシャいでいる。
【崖っぷち〜。俺らも混ぜろや】
【お前さぁ、前っから思ってたけど俺らのことバカだと思ってるよな?】
【生産職が何イキッてんの?】
【俺、ガンランス。お前は? 崖っぷち】
どうすっかな。
いや言わねーよ。なに? お前ら徒党を組んでモンハンタイムを計画してんの? やめとけって。このゲームのプレイヤーってマジで民度最悪だからね。ギスギス勢とか言われて叩かれたらマジで目も当てられねえ。あと、もる語は禁止だぞ。
群れなす大型ゴミにエッダのテンションは天井知らずに登り詰めていく。海中に身を沈めたかと思えば、高速で俺たちの周りをぐるぐると泳ぎ回ってトビウオみたいに跳ねる。もはや俺たちを愛してしまっているのではないか。
まぁ分からんでもない。これだけ大量のゴミが完全変身してしまったなら、もはや犠牲者が出るのは避けられない。
三次職のヴァルキリーとクルセイダーは少しずつだが着実に数を増やしていると聞く。サトゥ氏がやったようにタガが外れたプレイヤーに封印術を施すことは可能だ。
いや、可能だった。
もう無理だ。とても手が回らない。
エッダ……。コイツは……ニャンダムもそうだったが……やはりシステムを把握している。だから【戒律】と引き換えに競争権を得るという発想が出てくる。
ガムジェムが無限の魔力を秘めるというのは妙な話だ。
そのエネルギーはどこから来ている?
何故、菓子なんだ?
まるで……ガムジェムそのものが意思を持ち、強い器を欲しているかのようだ。
……まぁいい。まぁいいさ。
ゲームタイトルに抜擢されるくらいだ。ガムジェムには、このゲームの根幹に関わる謎が秘められているんだろう。
その謎は次の世代とやらに託すことになる。
俺たちの冒険は、これまでだぜ。
じゃ、ま、おっぱじめるとしましょうかね。精々派手に散るとしようや。
エッダが海面に浮上する。
タコ足を高々と掲げ、甲高い咆哮を上げた。
Hoooooooooooooooooooooooooooo
波打つ青い光が俺たちを洗う。
アナウンスが走る。
【寄る波、渦巻き、踊る踊る破滅の狂い舞い!】
俺は吠えた。
【行くぞぁーッ!】
これは、とあるVRMMOの物語。
見渡す限りの死だ。一つの時代が今終わりを告げようとしている。鋼鉄の身体に灯る戦士の魂。熱く燃え、爆ぜる。灰燼と帰した街に希望の芽は咲くか。去りゆく背に、何を思う。次回、運命の時。特別なままでは居られない。
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