年賀状
1.クランハウス-マイルーム
あけおめことよろ〜。
「うん。明けましておめでとうございます」
部屋でスズキの献身的な介護を受けている。
俺は新年早々使い物にならなくなっていた。
クリスマスからこっち、気の休まる暇がなかったためと思われる。もう少し具体的に言うと、得体の知れない金属片と合体して機械化したり巨大化したり死後にMAP兵器を使ったり飼育員さんに激しく求められたりキャラロスト覚悟で【目口】の力を引き出したけど中途半端な結果に終わってサトゥ氏に封印術を施されたり、そういった様々な要因が重なって使い物にならなくなったと思われる。
思考能力が停止した俺が、俺の身体にはない「何か」に惹かれるのは至極当然のことだった。
「あ、こらっ。変なトコ触っちゃダメっ。もう……こういう時ばっかり」
俺はスズキによしよしと頭を撫でられた。
スズキは使い物にならなくなった俺の世話に幸せを見出しているようだ。こういう生活も悪くないかもしれない。俺が無理にがんばってもろくな目に遭わないし、災厄を撒き散らすだけだ。こうやって何もしないで女に甘えて暮らすのは楽だ。面倒臭いことは何も考えなくていいし、スズキもそれでいいのだと言ってくれる。
ドアがコンコンとノックされる。スズキは慌てて俺から身体を離して着衣の乱れを整えた。
「はーい」
名残り惜しそうに俺の傍を離れてドアを開ける。
両手いっぱいに荷物を抱えた赤カブトが部屋に入ってきた。
「食べ物買って来たよー。桃でしょ。ミカンでしょ。あと、これ。ペタさんが好きなリンゴ!」
俺は別にリンゴが大好物という訳じゃない。嗜好品みたいなものだ。
赤カブトが俺の顔を覗き込んでリンゴを差し出してくる。
「はい、あーん」
丸ごと食えってか。
ウチの三人娘が代わり番こに俺の世話をしてくれている訳だが、なんて言うか赤カブトの看病は雑だ。パワーで押し切ろうとしてくる。
ポチョなんかは意外と看病が上手くて、俺をキチンと甘やかしてくれる。まぁ普段から俺が甘やかしてるからな。俺の薫陶が効いてる。
その点、赤カブトはなってない。病人にリンゴと言えばすり下ろしリンゴだろうが。丸ごと差し出すバカがどこに居る。ぐいぐいと頬にリンゴを押し付けられた俺は、ガッと両手でリンゴを掴んでガシュガシュと貪り食った。
赤カブトが両手を打って喜ぶ。
「あ、元気になった」
芯まで喰らい尽くした俺は、ぺっとヘタを吐き捨ててそそくさと布団に潜る。
赤カブトがゆさゆさと俺を揺さぶってくる。
「ペタさん。ペタさんったら」
俺はごろりと寝返りして赤カブトに背を向けた。しかし赤カブトはしつこく俺を揺さぶってくる。
「ねえったら〜。遊ぼうよ〜」
ちっ。っせーな。俺は赤カブトの手をガッと掴んで布団に引きずり込んだ。抱き枕にしてごろごろとベッドの上を転がる。きゃーっと赤カブトが楽しそうに悲鳴を上げる。
おっとゴミのお出ましのようだな。外でゴミの叫び声がした。
「ジャムジェムさん! 俺に不老不死をくれ〜!」
ゴミがっ! 俺のボルテージは瞬時にMAXに達した。頭がフットーしそうだよぉ! 枕元に置いてある斧をガッと引っ掴んで部屋の窓からバッと飛び降りる。オンドレぁ! 俺は丁度いいところにあったゴミの首を刎ねた。ころりと転がった生首にぺっと唾を吐き捨てて悪態を吐く。見れば分かンだろっ、病人様が居んだ! 俺の手を煩わせんじゃねえッ! クズがっ、クズが! 俺は病を押して崩れ落ちたゴミの腹を蹴り上げる。不老不死だッ!? ンなもん神龍にでも頼めやッ! 探せばどッかに居んだろ! カス!
ちっ、胸糞悪ぃ。ウチの赤カブトを何だと思ってやがる。俺はぶつぶつと文句を垂れながらウチの丸太小屋の玄関から居間に上がった。すっかり目が覚めちまった。書き初めでもするか。元旦だしよ。ここらで一発、今年の抱負ってやつを決めておきてえ。去年は散々だったからな。今年は平穏に暮らしたい。
俺は書道道具を一式持ってきて今年のペタタマさんを象徴するワードを墨汁で半紙に塗りたくった。
臥薪嘗胆。
うむ。いい出来だ。
耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ。
俺は短気なところがあるからな。今年は我慢することを覚えるぞ。俺、がんばる。
おや? ジョンからささやきが入ったぞ。
『テキサス!』
何よ? 何なん? テキサス州がどうした?
『ペタタマサーン。重要なお知らせがありマース。ココだけの話ヨ。内緒ネ……』
女子か。何だよ? 安心しな。俺ぁ口が固ぇ。言ってみな。んんっ……!
『ふふ。ホントに内緒ですヨ……? エッダをやっつけたネ』
テキサス関係ねえ。エッダを。マジか。やるじゃん。んああっ……!
『テキサス! 辛く険しい道のりだったネ……。どうやったか知りたいデスカ?』
いや、俺は攻略本には頼らねえ派なんだ。しかし大したもんだぜ。おめでとさん。はあんっ……。
『そんなこと言わずに。ペタタマサーンなら内緒で教えてあげてもいいヨ。ちょっとだけネ。テキサス!』
テキサスごり押しやめろ。それ言いたいだけだろ。何なんだよ。だから言うなって。ネタバレしたら怒るぞ。ら、らめぇっ……。
『あっ、アンディがこっち来るネ……! ペタタマサンっ、エッダは性格が悪いネ! 私たちはそこを突いたヨ……! ご武運を祈るネ! See you!』
あっ、おい待て! くそっ、切れた。何だってんだよ。あいつ、週五で俺にささやき飛ばして来る。ステイシーとかいう恋人が居るらしいが、明らかに俺のほうが長く話してるぞ。俺は会ったこともないのにステイシーのドジなところや少し嫉妬深くて、けれどそれを表には出そうとしないところを愛しく思うようになってしまった。
しかし、あのエッダが倒されたか……。やっぱり攻略法はあるんだ。俺たちも負けてられないな。
心機一転した俺は、よっしゃと気合を入れ直して経験値稼ぎに移った。魔石を取り出そうとして、手がスカる。魔石を掴めない。俺はギョッとした。バカな。いつだ? 一体いつから……俺は死んでいた?
いつの間にかウチの居間に上がり込んでいたメガロッパさんが物思いに耽っている。
「エッダが……倒された……」
メガロッパさんは俺の側頭部に突き刺さった剣を引き抜いて言った。
「コタタマ。その話、もう少し詳しく聞かせて貰えますか?」
俺は苦笑した。
いいぜ。ただし生きて戻ってこれたらな。
昨年の暮れに俺は【敗残兵】の魔の手から赤カブトを取り戻すことに成功した。
しかしサトゥ氏の危惧したことは現実になった。
赤カブトの正体がαテスターの一員であることは、もはや周知の事実となってしまった。
そして……。
2.ポポロンの森-女神像付近
女神像付近で肉体を再構築した俺は、ゆっくりと目を開ける。
「ペタさん。遊ぼ」
正体がバレたということは、そのまま赤カブトが遠慮なく俺を殺しに掛かれるということを意味していたのである……。
赤カブトの両腕が真っ赤に燃える。俺を見つめるピンク色の瞳がキラリと輝いた。
【警告】
【強制執行】
【黄昏より来たれしもの】
【始まりすら定かでなく】
【自由は重荷でしかない】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:ペールロウの殺害】
【制限時間:00.00】
【目標……】
【ペールロウ】【ジャムジェム】【Level-70】
これは、とあるVRMMOの物語。
もう誰にも止められない。
GunS Guilds Online