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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
212/978

敗残兵たち

 1.打ち捨てられた砦-1F


 砦に突入した俺たちを最初に待ち受けていたのは、スマイルの旦那だった。イキナリかよ。


「やあ、コタタマくん。それに先生まで」


 旦那。どうしてあんたが【敗残兵】のために身体を張るんだよ? 俺らの問題だ。放っとけよ。

 スマイルは真面目に取り合う気がないようだった。手でカメラの枠を作り、


「いい画が撮れそうだ。蜜月関係にあった【敗残兵】と【ふれあい牧場】の激突。いいね。デカい金になるぞ」


 元々俺がこの砦を拠点に選んだのはタクティクスオウガっぽい造りをしていたからだ。

 段々になっている床に腰掛けて両足を投げ出しているミドリが俺にひらひらと手を振ってニコリと微笑む。スマイルを見上げ、


「隊長〜。儲かりそうならボーナスください。ボーナス。いいでしょ? ね?」


「それは君の働き次第だな」


 ……アオは居ないんだな? 冬休みかい?


「生放送中、【敗残兵】の守りは手薄になる。まぁそれはわざとそうしてるんだろうが……。この機会を待っていたのは君たちだけじゃないのさ。アオがそうでね。サトゥを追って行ったよ」


 ヤツはあんたのボディガードだろ。職務放棄か。部下の教育がなってねえようだな。

 スマイルは肩を竦めた。


「そういう契約だ。仕方ない。アオは自負心が強くてね。前回の敗北がよほど堪えたらしい」


 サタウが前に出る。


「スマイル〜。また会えたな……?」


 スマイルが今初めてサタウの存在に気が付いたような素振りをした。


「誰かと思えば、またお前か。サタウ。しつこいね。お前は、もういいよ。数字の取れない男に用はないんだ。ここに居るミドリのほうがずっと生産的だ。見目麗しく、華がある。だろう? ミドリ」


 ミドリがニコリと笑って槍をくるりと回した。舞を踊るように立ち上がり、


「少しくらいレベル上げてきた? コタタマくんは邪魔しないでね。変な目で私のこと見たら殺しちゃうよ〜?」


 サタウとミドリが衝突する。

 俺としては【敗残兵】がドコと組もうが知ったことじゃない。RMT業者どもの相手はサタウに押し付けてさっさと先に進みたいところだが……。


(ペタ氏……。ゴメンね)


 ちっ……!

 俺は舌打ちしてスマイルの旦那を指差した。

 おい、旦那。なんであんたがココに居る? 【敗残兵】と組んだってのはホントかよ?


「ん? そう意外なことかな? トレーダーと廃人は切っても切れない間柄だよ。君たちは廃人を肉体の限界に挑む人種のように考える。だから気付いていないだけだ。RMTの利用者の多くは廃人だ」


 それはそうかもしれねえが……。どうにも違和感が拭えねえ。サトゥ氏があんたと組むとは思えなくてね。


「【敗残兵】のマスターはリチェットだよ。コタタマくん。だが……まぁ我々としても意外には思っている。彼らと組むのは今回限りになるだろうな。私は六人衆に嫌われているようだからね」


 スマイルには余裕がある。ミドリがサタウに負けるとは少しも思っていない。


「少し昔話をしようか」


 昔話だ? スマイルは頷いた。


「最初は六人だった。彼らはオンラインゲームという、言ってみれば仮想世界の構築に強い可能性を感じた人間の集まりだった。まぁ金持ちの道楽というやつだ」


 ……ネカマ六人衆のことか。

 ミドリの掴みどころのない動きにサタウは押されている。不用意に仕掛けることは避けているが、地力の差が大きい。

 スマイルが続ける。


「揃いも揃った六人の廃課金ユーザー。そいつらが一人のガキに出会った。それが始まりだ」


 一人のガキ。サトゥ氏のことだろう。


「世間一般から見れば、いわゆる幸せからは程遠い家庭環境だったんだろう。今で言う待機児童に近いんじゃないか。本人がどう考えているかは知らないが……。しかし出会った」


 そう言ってスマイルは皮肉げに笑った。いつも人を食ったような笑みを顔面に貼り付けているスマイルにしては珍しく感情が滲み出ている。


「あれは怪物だよ。順序が逆なんだ。あれはゲームの中で人との関わりを、そしてリアルを学んだのさ」


 ……驚くような話じゃない。特定の分野で頂点に立つような人間には、それを為せるだけの背景がある。

 サトゥ氏にとってリアルは希薄な世界で、大した価値はなかったということだろう。そうした現実感の欠如がキャラクターに寄り添えるセンスの発露に繋がっている。要するにサトゥ氏にとって魔法はいつも身近にあるもので、戦士はスキルを使って魔物と戦うものなのだ。それが当たり前のことだから疑うことがない。


 慎重に受けに徹するサタウに、ミドリは一気に決着を付けるつもりだ。【スライドリード】を解除して軽やかに着地し、大きく身体をたわめる。

 その瞬間を待っていた。サタウが一転して攻勢に出る。爆発的な加速。【スライドリード(速い)】だ。カウンターへの警戒を怠っており、無謀な賭けに出たように見えただろう。しかしミドリは対応できなかった。「あっ」と間抜けな声を上げて、飛び上がった瞬間を狙われて大きな裂傷を負う。

 スマイルが「なにっ?」と意外そうな声を上げる。

 俺も意外だよ。いちいち言わなきゃ分かんねえのか? 俺は目がいいと何度言わせるんだ。


「……コタタマくん。君か? サタウに何か入れ知恵を……?」


 ああ、そうだよ。俺は認めた。

 旦那、俺の目の前で戦わせたのはマズかったな。あんたらしくもない失策だ。

 ゲーマーってのは因果なもんだな。自然と手が読めちまう。

 旦那、あんたの側近……ミドリだったな。ミドリが【スライドリード】のシフトチェンジを最低限に抑えてるのは一目で分かった。緩急の差で相手を出し抜く戦法なんだから、さっさと急加速しちまえばいいのにな。でも、やらなかった。

 一目で分かったよ。竜騎士のジャンプだろ? そういう拘りってのは実は大事だ。このゲームの戦闘はとにかく面倒臭えからな。ジャンプでケリを付けるっつー短期的目標、拘りはその女をどこまでも強くするだろう。そう、拘りは大事だ。蔑ろにしてもろくなことはねえ。

 だが、今日のところはサタウの勝ちだ。


 仰向けに倒れたミドリが血を吐いて笑った。


「ゴメン、隊長。負けちゃった……」


 スマイルが跪いてミドリの手を取る。


「一歩間違えばカウンターの餌食だったろうに。いや、それだけじゃないな。この短期間に信じられないほど成長している。レベルが上がっている。サタウ……。お前、まさか……?」


 ミドリの戦いを制したサタウだが、決着は呆気ないように見えて決して容易い道のりではなかった。狙いを悟られないよう立ち回らねばならなかったし、不慣れな【スライドリード】の使い方もした。

 サタウがポーションとマナポーションをキメて言う。


「廃人でしか廃人に勝てないというならば、私は廃人でいい」


「お前。仕事を辞めて……ニートに……?」


 一応俺は止めたんだけどな。

 価値観は人それぞれだ。リアルでは得られない何かをゲームに見出してしまったなら、人は呆気ないほど簡単に社会的なステイタスを手放してニートになる。

 リアルを捨てたサタウが剣をスマイルに突き付ける。言った。


「決着を付けよう」


 ミドリの身体が自壊していく。側近の最期を看取ったスマイルの旦那がゆっくりと立ち上がる。二振りの剣を左右の手にぶら下げ、サタウを見下す。


「ああ、失敗したな。サタウ。お前の仲間……何だったか、名前は忘れたが……彼らの死に様をキッチリと撮影しておくべきだった。そうすれば、この私をここまで追い詰めたお前は、さぞや見栄えのしたことだろうね」


 サタウが言い返した。


「サトウさん。あんたは賢い人間なんだろうな。あんたは自信家で、不器用にしか生きられない他人を常に見下している。だから、そんなあんたにとって、サトゥや先生はひょっとしたら生まれて初めての挫折を与えた存在だったんじゃないか」


 スマイルの旦那はどちらかと言えばオールマイティなタイプのプレイヤーで、専門的なタイプじゃない。特定の分野で後れを取るのは当たり前のことだ。

 しかしそれはスマイルにとっては当たり前のことではなかった。

 きら星のような才能を持つβテスターの中で、スマイルの万能さはともすれば器用貧乏と評されてしまうものだった。

 エリート志向に凝り固まったスマイルが、めきめきと頭角を表してくるサトゥ氏に何を思ったのかは余人の想像の及ぶものではない。

 しかしこの時、スマイルの顔から初めて笑顔の仮面が剥がれ落ちた。


「サタウ。お前、本気でこの私に勝てるとでも思っているのか?」


 サタウは答えない。これ以上の問答は無意味だった。剣を構え、じりじりと距離を詰めていく。


「行け。ヤツは私の獲物だ。そういう約束だったよな?」


 そうね。じゃ、よろしく頼まぁ。くれぐれもアッサリやられんでくれよな。俺らが挟み撃ちにされないよう励めよ。

 俺たちはサタウに構わず先に進む。正直サタウがサトウシリーズ御大に勝つのは無理だと思っているが、時間稼ぎくらいにはなるだろう。



 2.打ち捨てられた砦-2F


 二階に上がるなり、サトゥ氏を追って行った筈のアオが壁に磔にされていた。

 段々になっている床の縁にドカッと座るセブンが手の中で棒手裏剣を弄んでいる。

 アオは死に掛けている。切れ切れに言った。


「お前、どうして……。サトゥ、の、下なんかに、付いて……?」


 セブンはにべもない。


「さあな。お前が弱いんじゃねえか?」


 真面目に答えるつもりは一切ないようだった。

 アオが弱い? そんな筈がない。スマイルの旦那が認めるほどの腕利きだ。

 アオが弱いんじゃない。セブンが強いんだ。

 しかし……屋内戦でトップクラスの近接職を圧倒するほどとは思わなかった。

 この男。セブンとは、そういう領域のプレイヤーだったのか。

 セブンがゆっくりと立ち上がって俺たちのほうを振り返る。


「五人か。ふん、やっぱり業者はダメだな。口ほどにもねえ。金稼ぎしてる暇があるならレベルを上げろよ」


 スズキが俺を押しのけて前に出る。


「私が戦う。先に行って。ジャムを、お願い」


 セブンが無造作に歩み寄ってくる。


「誰でもいい。何なら全員で掛かってこいよ」


 弓に矢をつがえたスズキが前言を撤回した。


「ひ、一人じゃ無理かも」


 杖を下段に構えた先生がスズキの横に並ぶ。


「私も残ろう」


 先生。でも。


「コタタマ。サトゥが待っているのは君だ。私ではない」


 サトゥ氏が俺を? え? いや、それは困ります。もしかして俺がサトゥ氏と一騎討ちする流れなんですか? いやいや、勝てる訳ないじゃないですか。


「サトゥもそう考えているだろうね。でも、【敗残兵】は秘密裏に事を進めることもできた。それをしなかったということは、そういうことなんだよ」


 セブンがフッと笑った。


「ご明察。だが……俺は別にどっちでも構わないぜ。お前らがここで死ぬなら、お前らはその程度だったってことだ」


 くそっ、死に損ないめ。ちょっと強いからって調子に乗りやがって。

 五人総出でボコってやりたかったが、あまり悠長としていられないのも事実だ。【敗残兵】の生放送が終盤に差し掛かるまで若干の余裕はあるが、サトゥ氏が何を考えてるのか分からない。

 くそっ、くそっ。スズキ! 先生! 死ぬなよ! ジャムは俺らに任せてくれ!

 駆け出した俺の頭のすぐ横に棒手裏剣が刺さった。セブンがニヤリと笑う。


「外したか。命拾いしたな? 死に損ない」


 このっ……! セミ野郎っ。俺はカッとなったが、俺が殴り掛かるよりも先にスズキが仕掛けた。


「セブンさんっ!」


 射掛けられた矢をセブンは手に持つ棒手裏剣で弾いた。人間業じゃない。キャッチボールじゃねえんだぞ。

 くそっ、化け物め。あんなのどうにもならねえ。アットム、ポチョ! 急ぐぞ!



 3.打ち捨てられた砦-3F

 

 三階は無人だった。

 ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、俺の背後で鋭い金属音がした。

 おぅ、メガロッパの強襲だ。不意打ちを仕掛けて来やがった。ポチョのオートカウンターが作動したらしい。メガロッパとポチョが鍔迫り合いをしている。

 オンドレぁ! 好機と見て俺が斧を一閃すると、素早く飛び退いたメガロッパがぴょんぴょんと小刻みにジャンプして距離を置く。ちっ、また強くなってる。【敗残兵】幹部の中じゃ弱いほうなんだろうが、もはや俺の手に負える女じゃない。

 俺は宰相ちゃんの説得を試みる。

 メガロッパ! お前はウチのジャムと仲良くしてくれてたじゃねえか! どうしてアイツを追い詰めるような真似をする! リチェットやサトゥ氏に言われるがままか!? だとしたら俺はお前を軽蔑するぜ!


「……それは私に殺して貰いたいということですか? ひ、人前で何を言ってるんですか」


 ……?

 ダメだ、会話にならない。説得以前の問題だ。そしてポチョさんがじっと俺を見つめている。

 しかし宰相ちゃんは俺が言わんとすることも分かっているようで、火照った頬を冷ましながらこう言った。


「……リチェットさんが我慢してるのに、私が何か言える訳ないじゃないですか。私たちが間違ってるんですか? そんなの分からないじゃないですか」


 宰相ちゃんの目からポロリと涙が零れた。

 ……ええ? 俺はキョドった。泣くことないじゃん……。これは、あれだ。また俺が悪者にされる雰囲気だぞ……。

 宰相ちゃんが掠れた声で絞り出すように告げる。


「……ねえ、なんでこうなっちゃうの? 教えてよ、コタタマ」


 教えろと言われてもな。困っちゃうよ。お前らの事情がさっぱり見えて来ねえ。

 ポチョさんが前に出る。


「この面倒臭い女の相手は私に任せろ」


 ダメだよ。俺は異を唱えた。お前にはサトゥ氏をやっつけるという大事な仕事があるだろ。

 しかしポチョさんは引き下がるつもりがないようだった。


「アットム。コタタマをお願い。キミは、もう私よりも強い」


 アットムが目を丸くした。

 ウチのアットムくんと金髪はあまり仲が良くない。それはアットムがサブマスターの座を狙っているというポチョの勝手な思い込みによるものだった。

 しかしここに来て金髪が歩み寄りの姿勢を示した。ポチョは勝手な思い込みを捨てて確執を乗り越えようとしている。

 アットムくんはニコリと笑った。


「ポチョ。僕ら、十年前に会ってたら案外いい友達になれたかもしれないね」


 事実上の絶縁宣言に、ポチョがわなわなと震える。


「やっぱりキミはダメだ! 返せっ、コタタマを返せっ。返してっ」


「おっと」


 ぽかぽかと叩いてくるポチョをアットムが軽くいなした。ころりと転がされたポチョが跳ね起きて剣を振る。隙ありと見て襲い掛かってきた宰相ちゃんが二の足を踏む。

 ポチョ。本気で残るつもりなのか。……分かったよ。先に行ってるぜ。

 ポチョはコクリと頷いた。


「ジャムは、私たちの妹だ。よその子に口出しされる謂れなんかない」


 俺もコクリと頷いた。頼む。



 4.打ち捨てられた砦-4F


 仲間がどんどん減っていく。

 俺に残されたのはアットムくんだけだ。


 俺とアットムを待ち構えていたリチェットが言う。


「ここは通さない」


 リチェット〜。

 お前は【敗残兵】の頭だろうがよ。俺ぁよ、てっきりお前が最後の砦なのかと思ってたぜ。

 だが、そうじゃねえってんなら、お前は結局サトゥ氏の下ってことかよ? やっぱりお前にゃクランマスターの荷は重かったか? どうなんだよ? 答えなッ。


「オマエに何が分かる。サトゥが苦しんでるんだ。私は【敗残兵】のクランマスターだ。苦しんでいる仲間のために戦う」


 サトゥ氏が苦しんでる? 何の話だよ? 俺はジャムを連れ戻しに来たんだ。サトゥ氏のお悩み相談に来たんじゃねえ。どいつもこいつも被害者ぶってんじゃねえよ。訳の分かんねえこと言いやがって。お前じゃ話にならねえな。どけ。

 リチェットはふるふると頭を横に振った。


「イヤだ。どかない」


 どけよッ! うじうじしやがって……。目障りなんだよ! 消えろ!

 俺が怒鳴り声を上げると、リチェットさんはポロポロと涙を零した。

 ……ええ? 俺はキョドった。二回連続で女を泣かせてしまったぞ……。

 ひ、卑怯だぞ。そうやって泣けば何でも許されると思うなよ。お前らはそうやっていつも俺を悪者に仕立て上げようとする……。

 リチェットが金切り声を上げた。


「なんでオマエなんだ! 私のほうが、ずっと、ずっと、さのすけの近くに居たのにっ!」


 まぁまぁ。リチェットさんや。落ち着いて。事情を。まず事情を話してくれ。なんで俺って言われても、何が俺なんよ? サトゥ氏が何か言ったのか? ん? ペタタマさんが相談に乗ってやるから。な?


「問答無用!」


 リチェットが鈍器を振り上げて迫ってくる。

 苦手なタイプだわぁ。こういう暴力で解決しようとするタイプって一番苦手。よって目には目を。暴力には暴力だ。俺はアットムをけしかけた。

 アットム、ゴー!

 アットムが拳を引き絞って迎撃の構えを取る。

 へへっ。ウチのアットムくんは強いんだぜ〜? 【敗残兵】の猛者にだって負けるもんか。

 だがリチェットは三次職のヴァルキリーだ。嬌声を上げたリチェットが急加速して俺に迫る。アットムくんが俺を振り回して拳の直線上にリチェットを置く。リチェットはアットムの拳が持つ非常識な殺傷力を知っているらしく深追いを避けた。

 アットムが、一瞬だけ遅れてリチェットが【心身燃焼】を打った。

 命の火を燃やした両者が対峙する。

 アットムが言う。


「コタタマ。行って。今なら蘇生魔法が効いてる」


 お、俺を一人にするのか?

 嫌だよ。俺を一人にしないでくれ。俺なんかサトゥ氏にたちまち殺されっちまうよ。


「コタタマ。聞いて。【敗残兵】の人たちは君に期待してるんだよ。もしかしたらサトゥさんも。ポチョも気付いた。君はイマイチぴんと来てないかもしれないけど、僕らには分かるんだ。僕らも同じだったから」


 同じって何がだよぉ。


「残された側ってことだよ。言っとくけど僕ね、結構怒ってたんだよ。なんだアイツって思ったし、勝手なヤツだなって思った。でも、もう一度会いたいと思ったから……。会えたら、もういいやってなっちゃった」


 アットムくんはニコリと笑った。


「だから行って。コタタマ。君なら……きっとサトゥさんの記憶を取り戻せる」


 ……ん? 記憶を?

 あ、そうか。サトゥ氏の記憶が戻ってるのを知ってるのは俺とセブンだけなのか。戻ってると言っても完全じゃないだろうが……。

 もしかしてリチェットは聞いてないのか? いや、それはないだろう。しかしサトゥ氏が苦しんでるとか言ってたな。

 ……何かこじれたのか? いや、だからって何で赤カブトを巻き込む?

 分からん。まったく分からん。

 とにかく、こうなったらサトゥ氏を殺すしかない。俺にやれるだろうか……? 正直自信はないが、こうなったらやるしかねえ。

 俺は意を決した。

 しかし言われっ放しというのも悔しいので、リチェットにカマしておく。


「リチェット。どうやらサトゥ氏はお前じゃなく俺を選んだらしいな」


「そ、そんなことないっ」


 へへっ。動揺してやがる。ざまぁねえな。

 俺は畳み掛けた。きゃっきゃと飛び跳ねながら捨て台詞を残していく。


「いいや、あるね。ヤツの空虚な心を埋めてやれるのは俺だけなのさ。お前は悲しい女だ……。同情するぜ」


「こ、この泥棒猫!」


 くくくっ、ふははははははははは!

 負け犬の遠吠えは心地いいのぅ。お前はそこで指をくわえて眺めているといい。サトゥ氏が俺に籠絡されるその時をなッ。

 まぁ……ヤツは使える男だが、同時に厄介でもある。扱いづらくなるようなら返してやるよ。俺の中古で良ければ、な。


「待てっ!」


 嫌だね。

 俺は階段に足を掛けた。

 じゃあな、リチェット。もしもお前がウチのアットムを倒せたなら相手をしてやるよ。

 まぁ無理だろうがな。

 ははははははははははははははは……。

 


 5.打ち捨てられた砦-5F

 

「来たか」


 サトゥ氏〜。ウチのジャムをどこへやった? 返して貰うぜ。


「返す?」


 葉っぱを浮かべたマグボトルをじっと見つめていたサトゥ氏が立ち上がる。


「説明はしたつもりなんだがな。ジャムジェムさんは自分の意思でここに居るんだ。彼女はあんたの所有物じゃないし、あんたにそんな権利もないだろう」


 あんた? 随分と他人行儀なんだナ?

 いや、違和感はずっとあった……。

 そういうことなのか。

 お前、新生サトゥ氏のほうだな?


「そういうことだよ。コタタマさん」


 一つの身体に二つの意識。二重人格みたいなもんか。

 何でだよ? 何でこんなことをした? メガロッパは泣いてたぞ。リチェットもだ。アイツらはジャムと仲良くしてくれてたんだ。それを……踏みにじるような真似をしやがって。


「まぁ聞けよ」


 サトゥ氏は腕組みなどして剣の柄に手を置いた。


「あんたを殺すのは簡単なんだ。あんたはミドル層で、俺は廃人だからな。でも、それじゃあここまでお膳立てした意味がない。だろ?」


 簡単かどうか、試してみるか?

 お前のレベルは俺とそう変わらねえ筈だ。経験で勝るぶん、俺のほうが上かもな?

 お前にはお前なりの事情があるらしい。それは分かった。だが遣り口が気に入らねえ。テメェ、俺を誘き寄せるためにジャムを利用したな……。

 もう我慢の限界だった。俺は奇声を上げてサトゥ氏に突進した。オンドレぁ!

 俺の斧とサトゥ氏の剣が交差する。サトゥ氏の頭の横に念獣みたいなのが浮かび上がる。

 サトゥ氏の顔が苦渋に歪んだ。


「くそっ、まただ。人の頭ン中で喚き散らしやがる。少しは黙れねえのか……!」


 サトゥ氏の中で、二つの記憶がせめぎ合っている。記憶は感情を伴って初めて実体験として根付く。セブンのアビリティでは感情まで再現することはできない。だから新生サトゥ氏にとって旧サトゥ氏の記憶は他人事でしかなかった。


「サトゥ氏、サトゥ氏と……。いちいち馴れ馴れしいんだよ。あんたを殺して、コイツを黙らせる。繋がりを断ち切る。そうじゃなきゃ、俺はどこにも行けねえ」


 知ったことかよ!

 俺は斧を跳ね上げた。サトゥ氏が剣で抑える。サトゥ氏の身体が左右に残像の尾を引く。【スライドリード】だ。俺も【スライドリード】で応戦する。慣性制御を利用した後出しジャンケンだ。よく見える目があるぶん俺が有利の筈なのに、押されているのは俺のほうだった。くそっ、何でだよ。俺とサトゥ氏で一体何が違うってんだ。

 階下でズシンと衝撃音がした。振動が床に伝わる。【重撃連打】? 誰が……。

 サトゥ氏が後退した。俺は追えない。ダメージを受けている。くっ……。片膝を屈して少しでも回復に努めるしかなかった。サトゥ氏が黙祷を捧げるように目を瞑り、


「セブン……。やってくれたか。無駄にはしない」


 カッと目を見開く。

 サトゥ氏の頭の横に浮かんでいる不細工な人形に異変が起きる。ガクガクと震え、背中の生地が破れた。飛び散った綿を掻き分けるようにしてペットボトルが生えた。内容物の真っ赤な液体がちゃぽんと跳ねる。

 サトゥ氏の目が青白く発光した。俺を見下して言う。


「スキルチェイン。それが俺のアビリティだ。セブンが死んだことで、今……。条件を満たした」



 6.セブンの回想-マールマール鉱山-【敗残兵】前線基地


 葉っぱを浮かべたマグボトルをじっと見つめているサトゥ氏にリチェットが詰め寄る。


「ジャムの正体を公開する? どうしてそんなことをする必要があるッ!?」


「必要なことだからだ」


 サトゥ氏は振り返らない。淡々と言う。


「リチェット。国外サーバーにスパイを潜り込ませるのはウチの専売特許じゃない。αテスターの存在はバレた。国内サーバーには居ないなんて言い分は通らない。もう手遅れかもしれない。が、そうじゃないかもしれない。だから動く。俺たちが状況をコントロールする」


「先生にも無断でか!? そこに何の利がある! 他に遣りようもあるだろうにっ。サトゥ……。【敗残兵】のマスターは私だ! お前の勝手な判断を押し付けるな!」


 サトゥ氏は嬉しそうだった。口元を綻ばせ、


「リチェット。ありがとうな。お前が居てくれて良かった」


 その優しい声色に、リチェットは急に勢いを失ってふらついた。


「お、オマエは……どっちなんだ? あ、あまりにも不安定すぎる……。ころころと人が変わったように……」


 リチェットが不安そうにこちらを見てくる。セブンは壁にもたれ掛かっているようだ。無言でサトゥ氏とリチェットの遣り取りを見守っている。

 サトゥ氏が言う。


「嘘じゃないよ。でも、それだけじゃないことも確かだ。ジャムの正体を公開する。そうすれば、コタタマさんは本気で俺を追ってくる。サトウさんと組んでもダメだった。俺が俺と向き合うには、もうそれしかない」


「どうして、そこまで……」


「それは……」


 サトゥ氏は言葉を切った。言いあぐねるように俯き、しかしすぐに顔を上げた。リチェットの目を真っ直ぐ見据えて言う。


「ヤツが、俺にとって最も親しい友のままで居るからだ」



 7.打ち捨てられた砦-5F


「サスケぇ!」


 あ、サスケって言っちゃった。いちいちサスケっぽいことして来るもんだから、つい。

 サトゥ氏も吠える。


「ナルトぉ!」


 ナルトではないが。サトゥ氏も自覚があるらしく被せてきやがった。くそっ、何なんだよ。俺は螺旋丸なんか使えねえぞ。どうするんだよ。

 俺はサトゥ氏に弾き飛ばされた。くそっ、これで何度目だ? しかし追撃が来ない。

 サトゥ氏が苦しんでいる。虚脱したように両腕を垂らして、ふと苦悩にまみれた顔を上げて俺を見る。


「苦しいぜ。コタタマ氏……」


 何を……。俺はギリッと奥歯を噛み締めた。……何を、勝手に、一人で、獣の槍に魂を食われた潮みたいになってんだよ……。自業自得じゃねえか。

 俺の心の中でワッフルに詫びた。

 ゴメンな。ワッフル。せっかく封印してくれたのにな。


(ダメ!)


 ゴメンな。ポチョ。俺もお前と一緒に居てやりたかったけど、俺は……。

 俺はコイツを放っとけねえ。だから……。お別れだ。

 使うぜ。

 俺は腹に手を当てて命の火を引っこ抜いた。ワッフルが俺に施してくれた封印術だ。そいつを宙に散らす。俺にとって難しいことじゃなかった。ワッフルの封印術は俺の命を燃料にしている。

 俺の腹と背を突き破って触手が伸びる。二対の触手の先端が膨張し、鮮血を撒き散らして大振りの斧が産まれた。

 俺の額が割れた。伝い落ちた血を舌で掬い上げる。ガソリンのような味がした。それが何故か今は不快じゃない。俺の頭蓋をこじ開けて第三の目が生えた。ギョロリと動いてサトゥ氏を視界に収める。

 俺はサトゥ氏みたいに器用じゃない。それでもキルペナがヤバくなって【目口】の力をこの身に宿したことがあるし、強制的にとはいえニャンダムに完全変身させられたこともある。母体の力を引きずり出すプロセスは感覚的に分かっている。そして、もう戻れないことも。

 アビリティはとうに発現している。全身を薄黒く染め、触手を生やした俺をサトゥ氏はじっと見つめている。へらっと笑った。


「だから何だよ? あんたじゃ俺には勝てねえよ」


 サトゥ氏〜……。

 俺は歯列を剥き、寒々しい呼気を漏らす。今の俺は人間の体温を越えているんだろう。身体が中心がカッと熱く、そこから無尽蔵とも思えるエネルギーが湧いてくる。

 俺は地を蹴って飛び掛かった。サトゥ氏が動く。俺の目がギョロリと動いてサトゥ氏を追う。サトゥ氏の身体がブレて見えた。俺の目は今や【目口】のそれだ。チャンネルを跨ぐ目を持ってる。可能性は収束していく。

 俺の目を通して見るサトゥ氏はチャンネルごとにまったく異なる動きをしていた。これがサトゥ氏の、いやトップクラスのプレイヤーの見る景色なのか。最善と思えるルートを幾つも同時に瞬間的に思い描くことができるのだろう。人間の才能なんざちっぽけなものだ。だからどんなに常人離れしているように思える才能にも理屈がある。数値化できる。サトゥ氏は紛れもない天才なのだろう。

 だが、今の俺なら目で追える。その領域に足を踏み入れることができる。

 俺はサトゥ氏を殴り飛ばした。

 むくりと起き上がったサトゥ氏がぺっと血の混ざった唾を吐く。カツンと奥歯が転がった。俺に殴られた頬をさすりながらサトゥ氏が言う。


「なるほどな……。あんたは特別なんだな。レ氏も言ってたぜ。あんたは、まるで第三世代のプレイヤーであるかのように振る舞うってな」


 俺の知らないところでサトゥ氏とョ%レ氏が接触していても何ら不思議ではない。


「偶然なのか、必然なのか。それは分からないが、あんたは選ばれた存在なんだろう。誰よりもこのゲームのストーリーに沿っていて、誰よりもエンディングに近い……。レ氏はあんたを軽んじているが、一方で無視できずに居る。コタタマさん。あんたは『特別』だ」


 そう言ってサトゥ氏が両手を広げた。


「だが、俺はもっと『特別』だ」


 アナウンスが走る。


【Class Change!】

【サトゥ さんがウィザードにクラスチェンジしました!】


 コイツ……。とうに条件をクリアしていたのか。

 サトゥ氏が剣を俺に突き付ける。光の輪が刀身を取り巻く。俺は目を見張った。今、詠唱したか? この距離で聞き逃すなんてことはないだろう。無詠唱だと? 【全身強打】を完全にコントロールしている。サトゥ氏、お前は一体どこまで……。

 くっ……。あの剣はヤバい。今の俺でも食らったら一撃で死ぬ。

 俺は触手を床に突き立てた。俺の身体を吊り上げ、振り子の要領で揺さぶる。この一撃に全てを賭ける。

 ……最後に聞いとくか。

 おい、サトゥ氏。結局お前はどうなりたいんだよ?

 サトゥ氏が剣を引き絞るようにして構える。ふっと口元が緩んだ。


「野暮なことを聞くなよ。もうその件はいいんだ。お前も分かってんだろ?」


 いや、分かんねえな。

 俺も笑った。

 何も分かんねえ。だからお前をブン殴ってメガロッパとリチェットに詫びを入れさせる。もちろんジャムにもな。まぁそれは俺も一緒だが……。

 行くぜ。


「来い」


 俺は地に突き立てた触手を大きくたわませる。俺自身を砲弾に見立ててブン投げる。これが今の俺にできる最高最速の一撃だ。今のサトゥ氏はウィザード。どう転んでも【スライドリード(速い)】は使えない。

 そして俺の触手は四本ある。俺はサトゥ氏に到達する直前に触手を床に突き立てた。力業で針路を変え、サトゥ氏の刺突をギリギリで躱して頭上を飛び越える。ついでにサトゥ氏の右腕を斧で切り飛ばした。切り飛ばされた右腕を左手で掴んだサトゥ氏が振り返る。反応が早い。だが俺のほうが早い。俺の拳がサトゥ氏の頬にめり込む。吹っ飛んだサトゥ氏がニッと笑う。畜生め。殴られる直前にサトゥ氏が放り投げた剣が俺の腹に突き刺さっていた。

 俺は【スライドリード】を発動してダメージの進行を抑える。

 吹っ飛んで床を転がったサトゥ氏が、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。


「……無駄な足掻きをするな。じっとしてろ」


 何だってんだよ。

 一人で勝手に突っ走りやがって。

 お前がどっちだろうと、俺は……。


 どこからともなく差し込んだ光がサトゥ氏を照らす。


【Class Change!】

【サトゥ さんが聖騎士にクラスチェンジしました!】


 サトゥ氏が俺の額を小突いてくる。目潰しやめろ。俺は額の目を閉じてガードした。サトゥ氏が俺の第三の目に嫌がらせをしてくる。まぶた越しに俺の目をふにふにと突付き、


「言ったろ。もうその件はいいんだ。……俺の負けだ。もう俺の中の壁は取り払われて……ブッ壊されちまった」


 アナウンスが走る。


【条件を満たしました】

【イベント】【誰が為に鐘は鳴る】【Clear!】

【Class Change!】

【サトゥ さんがクルセイダーにクラスチェンジしました!】


 あ? クルセイダー? 三次職か?

 ヴァルキリーと同格の職位だとしたらレベルが足りねえ筈だぞ……。

 サトゥ氏は笑った。


「おお、手間が省けたな。おら、さっさと死ね」


 ぐりぐりと俺の第三の目をいじってくる。

 くそがっ、くそがーっ!

【全身強打】に侵された俺の身体に亀裂が走る。こうなったらせめてド派手に死んでやるっ。

 おごごごごっ……!

 俺は限界まで耐えて、しかるのちに爆散して死んだ。

 至近距離で俺爆弾を浴びたサトゥ氏が返り血で真っ赤に染まる。俺の肉片がこびりついて男前が台無しだ。へへっ、ざまぁ見やがれ。

 サトゥ氏はイラ付いている。


「ちっ、汚ねえな……。まぁいい」


 サトゥ氏が嬌声を上げた。無詠唱を完全に使いこなせる訳ではないようだ。


「アアッー!」


 命の火が燃える。

 金色の炎を纏ったサトゥ氏が両手をババッと構える。


「借りを返すぜっ、コタタマ氏ぃー!」


 ふわっと幽体離脱した俺は首を傾げる。

 借り? 何の話だよ?

 サトゥ氏が暴挙に出た。再生が始まった俺の肉片に目にも止まらない速度で掌底を打ち込んでいく。ああっ、何しやがる! 俺の肉片に一体何の恨みがあってこんな……!

 だが俺の肉片は負けない。再生スピードでサトゥ氏を圧倒する。しかし蓄積したダメージは相当なもののようで、完全復活を遂げた俺は信じられないくらい吹っ飛んだ。


「ゲェー!?」


 俺の目と口から金色の火が噴き上がる。

 俺はコテリと死んだ。

 両手をぐるりと回したサトゥ氏が、腰だめに拳を構えて吠える。


「おおおおおおおおおっ!」


 ちょっ、待て……。

 ギャッと地を蹴ったサトゥ氏が怪鳥のように飛び上がる。そして俺の土手っ腹に両の掌底を叩き込んだ。圧巻の死体蹴りである。

 タンタンと軽快なステップを刻んだサトゥ氏が親指で鼻をこすって言う。


「施術、完了……!」


 ああ、そういう……?

 俺は察した。

 サトゥ氏は俺の【目口】さんを封じてくれたようだ。

 そういえば、【全身強打】でバラバラにしてから【心身燃焼】で封印するって話だったな。

 ……ありがたいよ。ありがたいけどさぁ、なんか鬱憤晴らしにサンドバッグにされた感が否めない。


 ともあれ、だ。ともあれサトゥ氏は吹っ切れたようだ。

 復活した俺は、奥の部屋で呑気にお茶菓子をパクついていた赤カブトと合流し、連れ戻すことに成功した。

 しどろもどろに弁明する赤カブトによれば、ウチのAI娘はサトゥ氏の様子がおかしいことに気が付いていたらしい。つまり俺とサトゥ氏の仲を修復するために一芝居打ったという訳だ。

 いや、それ嘘だろ。お前がそんなに気が利く訳ねえ。


「う、嘘じゃないもん!」


 ハイハイ。俺は軽く受け流した。

 俺、サトゥ氏、赤カブトの三人でぞろぞろと階下に降りて終了を告げる。

 リチェットは泣いて喜んでいた。ぺたりと床に座り込んで、わんわんと泣き喚く。パンツが見えた。

 やれやれ、一件落着だな。


 しかし解決などしていなかった。



 8.【敗残兵】生放送


 世間をお騒がせした償いとして、俺とサトゥ氏は生放送の〆に腹を搔っ捌くことになった。

 ……いや、まったく意味が分からない。サトゥ氏はともかく、なんで俺まで?

【敗残兵】のスタッフがはらはらと花吹雪を散らしている。

 ひとまず言われるままに死装束を羽織った俺はゴネた。

 なあ、サトゥ氏は分かる。コイツはA級戦犯だ。満場一致で死罪だろ。でも俺は違うよね? そりゃあ鬼武者の巣の写真を渡したのはマズかったよ。俺も失敗したなと思ってる。反省もした。だったら、もういいんじゃね? 許してよ。ねえ、リチェットさん。聞いてる?


「介錯をつかまつる」


 武士モードに入っているリチェットさんは聞く耳を持ってくれなかった。


「つかまつる」


 赤カブトさんも同様だ。

 ねえ、ジャムジェムさん。なんでそんなに俺の首を刎ねる気マンマンなの? おかしくない? 絶対におかしいよ。だって俺、お前を助けるために色々とがんばったじゃん。この年末のクソ忙しい時にさぁ。

 俺はジタバタと暴れた。

 やだー! やだー! 死にたくない〜! ペタタマくん生きたいの〜!


 だが、そろそろ時間のようだ。カメラの前で見苦しく騒ぐのはダサすぎる。

 ちっ、仕方ねえ。サトゥ氏、やるぞ。男は度胸。何でもやってみるのさ。


「是非もなし」


 その意気やよし。参るぞ。

 ぬぅんっ……!

 俺とサトゥ氏は自分の腹に小刀を突き立てた。

 赤カブトさんとリチェットさんが介錯をつかまつった。

 俺とサトゥ氏の生首がころりと転がる。

 ったく、いつもこうだ。

 クソ廃人どもと関わり合いになるとろくな目に遭わねえ。

 俺は鍛冶屋だぞ。平穏な日々をこよなく愛する生産職なんだ。

 ふわっと幽体離脱した俺は明後日の方向にシャウトした。

 たまには生きて帰りた〜い!

 トホホ……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 これにて一件落着。



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― 新着の感想 ―
なんでお前がナルトなんだよ
[一言] デスペナ時の身体能力も正確に把握してそう
[良い点] サタウさん ついにサトゥと同じボトラーの道へ(涙 [一言] まさかのニート宣告
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