ネカマ六人衆
1.スピンドック平原
スピンドック平原には先史文明の名残りがあり、俺がモグラ帝国時代に拠点にしていた砦はその内の一つだ。
先史文明というのは、まぁ多分αテスターの活動時期なのだろう。建造物を見れば大抵のことは分かるものだ。通路の幅や天井の高さ、様式とかな。ティナンが住むには広すぎるが、先住者は少なくとも直立歩行していて腕を器用に使うことができたと見て取れる。まずαテスターだろう。
覚醒時の赤カブトはマールマールとエッダの魔法を使った。つまりαテスターは最低でもマールマールとエッダの討伐に成功している。しかし何らかの事情でポポロンの森に居住区を敷くことはできなかったのだろう。
……単純にポポロンには太刀打ちできなかったのかもしれない。現プレイヤーの俺たちだって限定エリア、女神の加護といったプレイヤー有利な条件が揃っていなければポポロンを倒すことはできなかっただろう。
クソ廃人どもに連れ去られた赤カブトを奪還するため、俺ら【ふれあい牧場】のメンバーとサタウは打ち捨てられた砦に急行する。
【敗残兵】の生放送を逐一チェックしているスズキによれば、放送の終盤に衝撃のニュースを発表する予定になっているらしい。鬼武者の巣のことか。それとも……。
赤カブトめ。俺も俺だが、アイツもアイツだぜ。余計な気を回しやがって。一言くらい相談して然るべきだろ。……いや、それは俺と先生にも同じことが言えるか。
赤カブトは、俺たちに保護されているのが嫌だったのかもしれない。対等でありたいと、そんなことを考えたのかもしれない。そこに付け込んだのがサトゥ氏という訳だ。クズめ。いや、それとも現マスターのリチェットの命によるものなのか。リチェットにしては遣り口がらしくないと感じるが……。
まぁどちらでもいい。この俺を敵に回したんだ。覚悟は出来てると見なしていいんだよな?
今日この日は【敗残兵】というクランの最後の日になるだろう……。
さしずめ今の俺は白馬の王子様ってトコかな?
俺はべろりと舌舐めずりして歯列をギラつかせた。
「皆殺しだ」
おっと? 何やら見慣れた無能どもを発見。ネカマ六人衆だ。えっほえっほと棺桶らしきものを肩に担いで原っぱを走っている。里抜けしたサスケかよっつー。
先生。あれはもしや?
「いや、違う。ジャムではない。彼らは、その、あまり強くないだろう? 護衛向きとは思えない」
しかし万に一つということもある。何しろ無能だからな。
俺は目に力を込めた。ネカマだろうが何だろうが、俺は女なら誰でもいいんだ。
脚照ッッッ!
「みゃーっ!」
悲鳴を上げたネカマ六人衆がつんのめって転倒した。くくくっ……。観念しな。クズどもが。
斧の刃をベロリと舐め上げて迫る俺に、六人衆がギョッとしてボロボロと涙を零した。あん? 泣けば許されるとでも思ってんのか? 甘ぇよ。死にな。
ハッとした先生が叫ぶ。
「コタタマ! 罠だ!」
六人衆が棺桶の蓋を外した。
「ペタ氏っ……! ジャムぅ! ゴメンよ〜!」
棺桶にはセブンの死体が納まっていた。
マズいっ、認識阻害のアビリティだ! この無能ども……! この俺を罠にっ!?
2.セブンの回想-エッダ海岸
ぽつんと砂浜に一人佇む女が夜の海をじっと見つめている。
髪は長い。燃えるような赤い髪。赤カブトか? それにしては少し育っているような……。いや、俺が赤カブトを見間違える筈がない。赤カブトだ。少し大人っぽくなってはいるが。
うん、やはり赤カブトだ。両腕が燃え上がり、たちまち鬼武者のそれに変貌していく。
「それがお前の本当の姿か」
セブンの声。認識阻害のアビリティに絡め取られた俺は、どうやらセブンの回想を見せられているらしい。
ハッとした赤カブトが振り返る。
「セブンさん……。どうして」
セブンはつまらなそうな鼻を鳴らした。
「チャンネル絞りが通用するプレイヤーばかりじゃねえってこった」
赤カブトのピンク色の瞳が揺れ動く。セブンの記憶をベースにしているためか、俺ほど夜間の解像度は高くないようだ。あまりよく見えない。
だが、闇夜に浮かぶ赤カブトの輪郭はどう見ても普段のそれではない。ポチョと同じくらい育っている。実りの季節だ。
セブンが言う。
「つらいか」
「え?」
「もう我慢が利かねえんだろう。お前が何かと崖っぷちを殺そうとするのは、ヤツが異常個体だからだ。異常個体は【ギルド】に近付いた個体なんだろ? だからお前は崖っぷちを殺すことでαテスターの血を鎮めてきた。違うか?」
「えっとぉ……。違うかと」
違うらしいよ。
俺も似たようなことをクァトロくんに聞いたけど、普通に否定されたもん。
だがセブンは自分の推測に自信を持っているらしく食い下がった。
「なら、その姿はどう説明する? ジャム。お前の居る【ふれあい牧場】はライト層の集まりだ。精々高く見積もってもミドル層……。先生や崖っぷちもそうだ……。連中じゃお前の身体に流れる血の渇きは鎮められねえよ。だから、ログインマーカーを切ってこんなところを一人でブラ付いてるんだろ?」
「いえ、あの……」
赤カブトはもじもじしている。気まずいところを見られたという感じだ。
あっ。俺は察した。
中二病だ。赤カブト、あいつ、知らぬ間に罹患してやがったのか。悲劇のヒロインぶって夜の散歩を決め込んでやがったな? わざわざアダルトバージョンに変身までして……!
セブンも察したようだ。ご高説をブチ撒けた自分を間抜けに感じたらしく「ちィ……」と舌打ちして話題を変える。
「……まぁいい。結論は変わらねえ。ジャム。お前、いつまで先生と崖っぷちに甘えてるつもりだ?」
「……甘えてるって何ですか?」
セブンは結論を急ぐ。
「お前は籠の中の鳥だ。お前自身、分かってんだろ? もう限界なんだよ。お前は崖っぷちほど嘘が上手くねえし、先生ほど賢くもなれねえ。お前はαテスターだからな。人間のスペックを超えてちゃ意味がねえんだ」
超人集団にテストをさせて満点を取ったからといって何になる、ということだろう。
αテスターの基礎スペックは人類の平均値を基準にしているのかもしれない。
夜の海を風が撫でる。赤カブトが夜風になびく赤い巻き毛を手癖で押さえていると、別の方向から男の声がした。
「ジャム。【ふれあい牧場】を離れろ。アイツらにお前は守れない」
海面から突き出た岩に、一人の男が腰掛けていた。
雲の切れ間から差し込んだ月明かりが、男の容貌を闇に浮かび上がらせる。
サトゥ氏は言った。
「結論は今すぐじゃなくてもいい。決行はクリスマス当日だ。他の連中に邪魔されたくないからな……」
ゆっくりと立ち上がったサトゥ氏がこちらを指差す。
「そういうことだ。コタタマさん。ジャムはウチで預かる。それが互いのためだ」
3.スピンドック平原
納得できるかボケぇ!
俺は斧を振り回した。ちっ、六人衆が居ねえ。逃したか。
ウチの子たちも俺と同じように幻覚に囚われていたようだ。先生が言う。
「今のがセブンのアビリティか。……私とはリソースの桁が違うな」
そう。アイツ一人だけスタンド使いなんですよね。しかも死後に発動するクソ強力なタイプの。
スズキ。生放送はどうなってる?
「引っ張るみたい。曲に入ってる。今の内にジャムを……!」
ああ、急ごう。
俺は走りながら胸中で毒吐いた。クソ廃人どもめ。俺らに赤カブトは守れないだと? 見くびりやがって。赤カブトは俺を殺すのが大好きなんだ。俺なしじゃ生きられない身体なんだよ。
見えた。砦だ。その手前でネカマ六人衆がウサギさんに絡まれている。セブンは居ない。途中で捨てたか、蘇生して一足先に砦に入ったかのどちらかだろう。
ネカマ六人衆は腐っても【敗残兵】の幹部だ。スピン一羽に後れを取ることはあるまい。スピンを撃退した六人衆がぱたりと倒れる。六対一で壊滅寸前まで追い詰められるとは。俺は六人衆に駆け寄ってざっと診察する。おぅ、傷は深えな。コイツらはもう助からねえ。
おい、死ぬ前に言え。ジャムはドコに居る。砦の中か?
六人衆は素直に頷いた。
「ペタ氏……。ゴメンね」
なんで謝る。お前らにはお前らなりの考えがあってジャムを攫ったんだろ。
六人衆は泣いていた。
「こんな筈じゃ、なかった。ウチの子たちは……おかしくなった」
「どうして、業者なんかと……。あいつら、嫌いだ」
「ペタ氏、行って。今なら……幹部以外は動けない」
「ウチは、生放送中はサクラを義務付けてるんだ……」
「……サトゥを……」
それだけ言い残して、六人衆は事切れた。
……言われなくとも行くさ。
赤カブトは俺のドラゴンボールだ。俺は、俺のために戦う。ずっとそうやって来た。それはこれからも変わらない。
俺たちは、打ち捨てられた砦を見上げた。
ここに赤カブトが……。
待ってろよ、ジャム。お前はクソ廃人どもに騙されてるんだ。お前はもっと俺らに甘えていいんだ。それが仲間ってもんだろう?
……そうさ。約束したじゃねえか。俺は、お前の傍にずっと居てやる。
だから俺に永遠の命をくれ。
これは、とあるVRMMOの物語。
パソコンに噛り付いてサクラをしている暇があるなら戦いなさい。
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