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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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AIの形

 先生の身代わりになった俺を、コニャックは満足するまで放してくれなかった。

 コニャックに激しく求められた俺は幾度となく果て、ようやく解放された時には空が白みがかっていた。

 憔悴しきった俺は、ふらつく足で帰路に着いた。山岳都市に降り積もった黒い雪は俺の身体を機械化しようとしたが、何故か俺には通用しなかった。まぁ俺の旧ボディだからな。免疫か何かが出来ていたのかもしれない。少し意識すれば機械化を抑えることができた。ついでに言うなら、黒い雪は俺の支配下にあるらしかった。抵抗のようなものを少し感じたが、それだけだ。俺がジョナサン流の強がりをぶつけてやると従順になったので、ゴミどもを皆殺しにするよう命令しておく。

 俺を取り巻いていた黒い雪がパッと四散して少し離れたところで凝縮していく。おお、クソ虫どもじゃねえか。よしよし、可愛い奴らよ。行け。ティナンには手出しするなよ。お前らじゃ勝てねえからな。スルーしろスルー。勝てねえ相手に喧嘩を売るのはアホのやることだ。お前らは違うんだ。いいな。

 モノアイを明滅したクソ虫どもが散開する。

 これでいい。何がクリスマスだ。この俺を差し置いて幸せになろうとするゴミは全員死ねばいい。精々派手に死ね。

 俺は這々の体で丸太小屋に……イヤ。元気になって来たぞ。どういうことだ。俺は先生の身代わりを買って出て死地をさまよい帰還した男。元気ハツラツで帰るのは違うだろ。仕方ねえ。軽く痛め付けておくか。俺はそこら辺の木にガンガンと頭を打ち付けた。くっ、効いたぜ。OK。這々の体で丸太小屋に帰還した俺を、ウチの子たちが歓迎してくれた。


「コタ……コタタマ〜! わ、私……!」


 俺はニコッと笑って感極まった様子の元騎士キャラに零式牙突をブチ込まれて下半身を置き去りに千切れ飛んで木の幹に磔にされて派手に死んだ。ダッシュで死に戻りして何やら恥ずかしがっている元無口キャラにヘッドショットされて死に戻りした俺は、アットムくんの胸にもたれ掛かった。へへっ、少し眠ぃや。帰ったぜ、相棒。

 アットムは涙ぐんでいた。

 

「おかえり、コタタマ」


 ウチの子たちも眠そうにしてるな。一睡もせずに俺を待ってたのか。

 俺は居間の床に仰向けになって駄々をこねた。

 今日はココで寝る! みんなと一緒がい〜い〜! 川の字になって寝るんだ〜い! ジタバタと暴れる。

 ……クリスマスイベントは乗り切った。もしも赤カブトの身柄を狙ってゴミが動き出すなら、そこが一番ヤバいと睨んでいた。しかし動きはなかった。俺と先生の思い過ごしだったのかもしれない。それなら、それが一番だ。

 だが、クリスマスイベント……。【敗残兵】の連中はドコで何をしていた? イベントと見ればいつでも駆け付けて勝手に仕切り出す連中だ。イベントをスルーして……今ドコで何をしている……?

 ……アイツらはもうダメだな。怪しすぎる。いっぺん皆殺しにしよう。それから、ゆっくりと事情聴取してやる。

 俺は、いそいそと居間に布団を敷いて横になった。俺と先生、赤カブトで川の字だ。スズキは……やっぱり勘付いてるんだろうな。ポチョを誘って赤カブトと一緒の布団で眠るようだ。俺はいざという時に備えて左隣のアットムくんと手を繋ぐ。

 金髪ロリに挟まれた赤カブトは口では嫌がりながらも楽しそうにしていた。


「え〜? これ暑いよ〜。スズキさん、くっ付きすぎぃ〜」

「たまにはいいじゃん。私、小さいし、そんなに気にならないでしょ」


 俺はログアウトする気はなかった。しかし思ったよりも疲れていたらしい。心地良いまどろみに誘われて意識が遠ざかっていく。

 夢うつつに赤カブトの声が聞こえた気がした。


「ペタさん。みんな。ありがとう」


 俺はガバッと跳ね起きた。危ねえ。ログアウトし掛けてた。赤カブトは……居ない。ログアウトしたのか? フレンドリストのマーカーは消えてる。ログアウトしてる。何だよ。驚かせやがって。意味ありげなこと言うんじゃねえよ。

 ……いや。本当にそうか? 赤カブトはログインマーカーを意識的に消灯できるんじゃないかという疑いはずっとあった。それは……多分このゲームの中でしか生きられないαテスターへの温情もしくは報酬だ。ネトゲーマーなら俺の言っている意味が分かるだろう。フレンドってのは時として重石になる。ソロで動きたくなる時ってのは絶対にあるんだ。αテスターにはリアルがないから、逃げ場がないから、ログインを監視されるような生活を続けてたらどっかおかしくなる。

 俺は奇声を上げた。


「ピャアアアアアアアアアアアアアア!」


「わっ!?」


 ログアウトし掛けていたウチの子たちがびっくりして目を覚ます。

 俺は先生ににじり寄った。

 先生。ジャムが……。

 ハッとした先生が素早く布団を這い出した。赤カブトが寝っ転がっていた掛け布団をめくる。念のために敷き布団もめくった。……混乱している。先生が。

 ヤバい。これは緊急事態だ。

 せ、先生!

 先生は呆然として言った。


「ジャム……。全て分かっていたのか」


 誘拐されたとかじゃない。赤カブトは、自らの意思で俺たちの元を去った。

 あいつ、自分自身の手でケリを付けるつもりだ。

 どうやって? 分からない。俺は、赤カブトを見くびっていた。


「ジャムっ!」


 スズキとポチョが駆け出した。赤カブトを探すつもりか? だが。

 先生が叫んだ。


「待て!」


 いつになく切迫している。焦っている。


「私が追う」


 そう言って、赤カブトの敷き布団にひづめを押し当てる。つぶらな瞳を徐々に細めていくと、先生の首周りが急にもこっとした。んん?

 

「幼い頃から私は鬼ごっこが得意だった」


 先生? 何を……。


「駆けっこも木登りも苦手だったが……何故だか鬼ごっこは得意でね。私は人を探したり何かを探すことに奇妙な執念を燃やす子供だった。きっかけは、そんな些細なことだ」


 ……先生の首周りがもこっとしている。普段の二割増し……いや三割増しでもこっとしている。


「追跡。それが私のアビリティだ」


 先生が何か言っている。


「ほんの少しでいい。望んだ時、必要とする今。暗闇の中を手探りで進もうとした時、松明の灯火があればいい。私は道標でなくともいい。ほんの少し先を照らしてあげたい。たったそれだけのことで人間は先に進めるのだから。私は勇気の灯火になりたい」


 先生のもこっとした首周り……。何かを彷彿とさせる。あれは、そう……。

 俺はハッとした。みつばちハッチのアレだ。ならば俺は、先生のアビリティをこう呼ぼう。

 スティンガー、と……!

 先生がスティンガーのアビリティを発動した。

 床に淡い光が灯っていく。

 これは、赤カブトの足跡か? これを追って行けば……。

 いや、そう甘くはないようだ。俺の内心を読んだように先生が言う。


「きっかけだ。完全ではない。これが私のリソースの限界なのだろう」


 先生は頭の中で目まぐるしく計算しているようだった。


「しかし推測の材料にはなる。倉庫には寄っていない。武器を置いて行っている。必要がないからだ。同行者が居る。しかも信頼に足るだけの」


 先生。それは。


「ああ。【敗残兵】だ。スズキ、君のスマホは状態2だね? 情報が欲しい。【敗残兵】の生放送だ」


「うん! うん! 待って! 今っ……!」


 スズキが慌ててメニューを開いた。リアルの身体を動かしているのだろう、ぎこちないながらも俺たちにも見えるようメニューを可視化。動画サイトと繋いで【敗残兵】の生放送を放映する。


 生放送はすでに始まっていた。

 俺は目を疑った。

【敗残兵】の生放送にスマイルの旦那が出演している。


『つまり米国サーバー同様、国内サーバーにもαテスターが居る、と?』


 何してる。コイツらは何をしてるんだ。

 スマイルの野郎は、すりガラスに話し掛けている。

 すりガラスの向こうに、ゴミの輪郭がぼんやりと浮かび上がっていた。


『ええ。それは間違いありません』


 聞き覚えのあるゴミの声だった。

 すりガラスの向こうでゴミが手を動かしている。


『証拠があるんです。動かぬ証拠が』


 動いた拍子に肘をぶつけたらしく、すりガラスが派手に倒れた。


『ああっ……!』


 ゴミがとっさに顔を隠したが、俺の目は誤魔化せない。

 サトゥ氏。あのゴミ野郎。

 ゴミ野郎の手から、はらりと動かぬ証拠とやらが滑り落ちた。

 写真だ。鬼武者の巣を写した写真だった。俺が手渡した写真だった。

 そうか。俺のミスか。俺の頭がどんどん冷えて行く。サトゥ氏。お前を信用した俺がバカだったな。


「ブッ殺す」


 俺は居間を飛び出した。魔石を取り出して斧をクラフトする。倉庫に寄る時間すら惜しかった。ヤツを殺す。

 丸太小屋を飛び出したところで人影が目の端をチラついた。俺は苛立っている。行き掛けの駄賃だ。死ね。

 だが、俺の斧は受け止められた。今のを防ぐか。手練れだな。刺客か?

 サタウだった。ウチの丸太小屋にもたれ掛かって立っている。


「ご挨拶だな。クラン潰し。行くのか?」


 お前……。知ってたな? 【敗残兵】のクソどもがジャムと接触していたのを。


「ああ。知っていたよ。いつかこんなことになるんじゃないかと思っていた」


 殺したいが、いいだろう。付いて来い。殴り込みだ。スマイルの首はくれてやるよ。

 復讐に燃える男、サタウはニヤリと笑った。


「君ならそう言ってくれると思っていた」

 

 よし。……だが、どこへ行けばいいのか分からない。カッとなってつい飛び出しちまったが、【敗残兵】がドコでロケをしてるのか分からない。

 ハッ。先生。先生がウチの子たちを引き連れて俺を追ってきてくれた。


「行こう。場所はスピンドック平原。モグラ共和国の、例の砦だ」


 かつて俺が人間牧場を管理していた砦だ。俺はあの砦の内部構造を隅々まで把握している。

 サトゥ氏……。何を考えている? 赤カブトに何を吹き込んだ?

 俺が殴り込みに行くことは想定内だろう。どうしてわざわざ地の利を捨てる?

 今の生放送は……俺へのメッセージかよ?

 来いと。そう言っているのか。

 ああ、行ってやるよ。首を洗って待ってろ。

 お前を殺して俺も死ぬ。

 俺とお前で赤カブトに土下座して腹を切るんだ。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 無理心中ですか?



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ガチコタタマはちゃんとかっこいいよな
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