GunS Guilds Online……
1.山岳都市ニャンダム
俺とョ%レ氏が対峙した。
俺はョ%レ氏の肩を注視する。そして視線をやや上に。ョ%レ氏の肩越しに、ちらっとゴミどもを見る。ちらっちらっ。別に加勢してくれてもいいのよ? 俺は誰も死なせたくないけどぉ……お前らの自由意思を否定はしないからぁ。
「……めっちゃ見てくる」
「これは、あれだ。崖っぷちの引っ込みが付かなくなったパターン」
「サスケの状態2みたいになってるのは何なの? キショいわぁ……」
ゴミどもは高みの見物を決め込んでいる。くそっ、ゴミめ。せっかくチャンスをやろうとしたのに。性悪ディレクターをブチのめすチャンスをな。
だったら俺が倒していいんだな?
俺はガッガッと地面を均した。上体を倒してやや前のめりに。月明かりを浴びて俺の角がギラリと光る。
ョ%レ氏が人差し指を立てた。
「一つ、ハッキリさせたい」
何だよ? 手短に頼むぜ。
「あるいは諸君らは、このョ%レ氏を味方に付けたと思ったかもしれない」
……味方とは言わねえが、モモ氏からティナンを守ってくれたのは確かだ。その点は感謝してやってもいい。
ョ%レ氏は頷いた。
「まさしくその件だ。しかし感謝は不要……。知っての通り、私は私自身のスキルを諸君らに与えている。クラフト技能がそうだ。従って、このョ%レ氏を一度は打ち倒した諸君らに報酬を与えることができなかった。それは公平ではない……。私はそう考えた」
……その報酬にティナンを助けたとでも言いたいのか?
「まさしく。国内サーバーに所属する諸君らは、チュートリアルを除いて一度たりとてレイド級の討伐を果たしていない。誠に遺憾ながら、予想を遥かに下回る戦果と言わざるを得ない。反省をし給えよ」
そうかい。そりゃあ済まないことをしたな。何しろ農耕民族なもんでね。レイド級と本気で事を構えるつもりはねえんだ。深追いはしない。狩り場とバザーを行き来するくらいの暮らしが性に合ってるのさ。
「諸君らの気質はティナンとの相性が良い。ナイはそのように考え、諸君らを激戦区から遠く離れた山岳都市に配置した。が、それは失敗だったのかもしれないな」
【NAi】が。俺らを山岳都市に。そうだったのか。あの女もたまには役に立つな。
それで? レ氏。あんたは何を言いたいんだ?
「なに、難しい話ではない。ヒューマンめ。君たちではスピンドックを倒すことはできないだろう。私はそのように考え、モョ%モ氏との戦闘において時間稼ぎに徹した。彼女の疲弊を誘い、諸君らに武功を挙げさせるためだ」
モモ氏を倒したのはサトゥ氏だ。あいつが命を賭けてモモ氏を倒したんだ。あんたの手柄じゃない。
「ペタタマ。君と言い争うつもりはない。時間の無駄なのでね。ただ、私はこう言いたいのだよ。報酬は与えた。ボーナスタイムは終わりだ。ヒューマン。そして……以前にも言ったな?」
ョ%レ氏はニヤリと笑って剣先を俺に突き付けた。
「私は借りは返さねば気が済まないタチでね」
ハッ、俺を殺して溜飲を下げたいってか。いいぜ。やってみなよ。やれるもんならな。
俺はちらっと肩越しに背後を見る。ウチの子たちは……おっと? ウチの小せえのが頬に手を当ててうっとりと俺を見つめている。
「コタタマ……。凄く輝いてるよ」
ウチの金髪と赤いのが微笑ましそうに小せえのを見つめている。アットムくんは俺を心配そうに見てくれているが、赤カブトから目を離すなと事前に話してあるので加勢は期待できない。先生に関しても同様だ。ニジゲンはイキッている俺に見惚れてボーッとしているし、アンパンに至ってはほへーっとバカ面を晒して突っ立っている。くそがっ、何してる。毒を撒けよ。皆殺しにしろ。見れば分かるだろ。俺がヤバい。読め。俺の空気を。
だが今更アンパンの野郎に期待しても始まらない。そんなことは俺が一番よく知ってる。下手な考え休むに似たり。余計なことを考えずに言われたことを言われた通りにやれとアンパンを仕込んだのは他ならぬ俺とネフィリアだ。つまりネフィリアが悪い。おっぱいめ。
俺は完全に孤立していた。まぁそういうことなら仕方ねえ。久しぶりに本気を出すとするか。
俺は、すっと人差し指を立てて夜空を指差した。
ョ%レ氏が怪訝な顔をする。
「……何のつもりだ?」
俺は強がった。さあね。ただ……。レ氏。あんたが奥の手を隠し持っているように、俺にも切り札はあるってことさ。
……隕石だ。隕石が降ってきてョ%レ氏に命中すれば俺は勝てる。天文学的な確率なんだろうな。しかし可能性はゼロじゃない。ほんの僅かでも可能性が残っているというなら、俺はそいつに賭ける。へっ……少しばかりカッコ付けすぎかね?
思わず苦笑を漏らした俺に、ョ%レ氏は警戒を強めたようだった。
俺はカマした。
「抜きな、あんたの……玩具箱……を。まぁこの状況だ。リスクを避けたいって気持ちは分かる。が、俺は言ったぜ? 一対一でケリを付けるとな。困るんだよ。後になってゴチャゴチャと……。負けた言い訳にされてもな。全力で来いよ」
もちろんハッタリだ。玩具箱を使おうと使うまいと、ョ%レ氏に仕掛けられたら俺は一発か二発で死ぬ。結局は同じこと。しかし俺が口を回している間はョ%レ氏は動かない。少しでも時間を稼ぐ。時間を稼げば稼ぐほど、隕石が落ちてくる可能性は増える。
俺のメテオフォールとョ%レ氏の玩具箱。どっちが上かだ。雌雄を決する時がやって来た。
俺の挑発にョ%レ氏は乗ってきた。
「よかろう。何か策があるようだな。冒険者ペタタマ……。存分にやるといい。その上で私が勝つ。後悔だけはしてくれるなよ?」
ョ%レ氏がスーツの内ポケットから魔石を取り出した。ゴミどもによく見えるよう軽く掲げ、クラフト技能を発動した。
「この中には初見のものも居るだろう。よく見ておき給え。【戒律】とは……このようにして使う」
幾ばくかのゴミどもが小さな悲鳴を上げた。
ョ%レ氏の右手がみるみる枯れていく。血は滞り、肉は削げ、痩せ細った腕がドス黒く変色していく。呪い。呪詛を自らに打った。
ぶらりと垂れ下がった右腕を、ョ%レ氏は隠そうともしない。言った。
「等価交換などという生温いことは言ってくれるなよ? 人は勝利に尽くすことを目的として武器を手に取る。まずは失わねばならない。そうすることで、より大きな価値を手にするのだ。不純物は」
ョ%レ氏が剣を放り捨てた。
「捨てる」
俺は後悔した。
不規則に揺れ動くランダムオブジェクトを従えたョ%レ氏には王者の風格があった。君主というジョブを失って、なお傲然と立つ。
くそっ、カッコ付けやがって。本当に隕石が通用するのか怪しく思えてきたぜ。いや、迷うな。俺は隕石を待つ。それだけが、ちっぽけな人間である俺に残された最後の矜持なんだ。
だが隕石よりも先に俺に降ってきたのは、得体の知れない無数の金属片だった。ざくざくと容赦なく俺の身体を串刺しにし、俺を別の何かに作り変えていく。
言うほど使い物にならない両腕は凶悪なガトリングガンへと変貌し、進化の袋小路に迷い込んだ挙句の苦肉の策としか思えない二足歩行は安定性バツグンの八脚に。
俺はニヤリと不敵に笑って言った。
「言ったろ? この俺にも切り札はある、とな」
そして内心ではキョドッていた。くそっ、俺の身体に何てことしやがる。ほれ見ろ、俺を襲った突然の悲劇にゴミどもがざわついてるじゃねえか。
「あれどう見ても【ギ……いや。何でもない」
「……おい、ついに崖っぷちが味方のふりをやめたぞ」
「やっぱりラスボスだったんだ……」
誰がラスボスだ。くっそ〜。これまで俺が築き上げてきた清純なイメージが音を立てて崩れ去っていく。
ョ%レ氏に動じた様子はない。俺の身に何が起こったのかを把握している。俺はちらっと目を動かしてゴミどもを見る。そして内心で呻いた。うっ……居る。クァトロくんと手を繋いだラム子が無言でじっと俺を見つめていた。
くそっ、くそっ。何だってんだよ。もうちょっとこう……なんて言うか……隠せよっ。少しはウチの赤カブトさんを見習えっ。俺はアイツのことを最初アホの子だと思って疑わなかったぞっ。……いや、分かってる。俺は分かってる。ミスリードを誘ってるんだろ? 叙述トリックってやつだ。いかにも怪しいと思わせておいて犯人は別に居る。推理小説なんかで使い古された手口だ。そう信じていいんだな? 俺は信じるぞ。
ガソリン臭い俺の血がだくだくと噴出し、俺の足元に黒い血溜まりを作っていく。
もうおうちに帰って眠りたい。
しかし身体は闘争を求める。
俺は気を取り直してヨイショと両腕のガトリングガンを持ち上げた。照準をョ%レ氏に合わせ、奇声を上げながら突進した。
死に散らせよやァーッ!
銃口が火を噴く。反動で俺の肩が脱臼して使い物にならなくなった。吐き出された銃弾は明後日の方向に飛んで行き、なおも闘志を燃やす俺は角をぶんぶんと振って突進する。ぶらんと垂れ下がった両腕はドルンドルンと銃弾を吐き出し続け、走行を強烈にサポートしてくる八脚の足が俺に転倒を許してくれない。もはや俺の意思を無視して突っ走る俺の身体がガクンガクンと俺の上体を激しく前後に揺さぶってくる。
ョ%レ氏が動く。ブースターによる超高速移動。だが見えるぞ。以前の俺とは違う。レ氏。俺の目はあんたを超えた。しかし見えたからどうなるという問題でもなかった。ョ%レ氏の手刀が走る。俺の角がギラリと光る。
俺とョ%レ氏が交錯した。
くっ……。俺は八脚の足を屈した。ようやく止まってくれたか。だが……。
パキーンッ
俺の角が折れた。くるくると宙を舞い、ボテッと地面に転がる。
しかし生憎と俺はアルデバランほど人間が出来ちゃいないんでね。死なば諸共よ。
俺は振り返ってョ%レ氏を見た。歯列をギラつかせて吠える。
「レ氏ぃっ!」
びくともしない腕を脚で固定し、ありったけの銃弾をバラ撒く。おおおおおおおおっ!
ョ%レ氏は俺の銃弾を物ともしない。弾道を読まれてる。最低限の動きで銃弾を躱し、俺に迫ってくる。俺は銃口の向きを変えてョ%レ氏を追うが、速すぎる。先にブースターを狙うべきだったか? いやしかし。考えている時間すらなかった。俺の脇を通り抜けざまにョ%レ氏が手刀を二度振る。俺はとっさに【スライドリード】を発動した。
「おおおおおおおお……」
ガトリングガンの付け根をやられた。肉で絡め取ることもできなかった。全て読まれている。俺の奥の手さえも……。
こ、この俺が負ける? こんな、無様な。い、嫌だ。負けたくない。力を……。もっと力をくれぇ! 俺にっ、力をー!
ラム子が笑った、気がした。
真っ赤な唇が綻び、俺に何事か囁きかけてくる。
「チカ、ラ」
アナウンスが走る……。
【GunS Guilds Online】
砂鉄と似た小さな粉が俺を取り巻いた。砂鉄が群を形成し、黒い金属片となって俺の身体に突き刺さってくる。
そうだ。それでいい。俺に力を。レ氏すら圧倒する力をくれ……!
組み上がった金属片が、俺を更なるステージへと押し上げていく。
俺は山岳都市を見下ろし、歯列から寒々しい呼気を漏らした。人がゴミのようだ。所感を述べる。
「小せえなぁ、レ氏。そんなナリで大丈夫かい? 弱いものイジメにならなけりゃいいんだが……」
さあ、始めようか。第二ラウンドだ。
だが血が足りなかったので、俺はひっそりと息を引き取った。
ふん、運が良かったな。今日のところはこれくらいにしておいてやるよ……。
これは、とあるVRMMOの物語。
力に溺れて死んだ。
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