トナカイたちの挽歌
1.山岳都市ニャンダム
俺のボルテージは最高潮だ。
今回という今回はテッペンに来たぜ。
レ氏〜!
ディープロウに回復魔法はないッ。
たった一人で何ができる!? 何もできやしねえさッ!
跪け! 命乞いをしろ!
ニヤリと笑ったリア充の権化が前に出る。ピンクトナカイを射程外に? 【全身強打】だ! 下がれっ!
まぁ間に合わない。ゴミどもが木っ端微塵になった。しかし想定内だ。まだまだゴミは掃いて捨てるほど居る。
俺はョ%レ氏を挑発した。
おいおい、飛ばし過ぎじゃねえか? ガス欠起こしたあんたを殺ってもイマイチ締まらねえんだが?
……だが正しい。俺は内心で評価した。ゴミが多ければ多いほど攻撃魔法は効果を発揮する。序盤は攻撃魔法でゴミを刈り取るのが正解だ。
とはいえ頭数が違う。相手はョ%レ氏だ。マレじゃない。ョ%レ氏が本性を現して反撃してくることはないだろう。魔力は無尽蔵じゃない。体力だって。俺らと同じ人間の身体で一騎当千なんてのは無理だ。
ョ%レ氏が一振りの剣をクラフトした。剣だと? 玩具箱とやらはどうした? いや、これも正しい。溢れ返るほどのゴミからブースターを守りきるのは不可能だ。野郎、本気で俺らゴミを敵に回して勝つつもりなのか。
むっ、ピンクトナカイがきゃんきゃんと喚き散らしながら逃げ回っている。見たことない生き物だからひとまず殺そうと考えたゴミが居たらしい。まぁ仕方ねえ。戦争に犠牲は付きもんだ。成仏してくれ。
だがピンクトナカイは意外としぶとかった。つーか速い。身体能力が桁違いだ。そして適応能力が尋常じゃない。追い掛けてくるゴミをゴミと見るやトナカイアッパーで粉砕した。
ョ%レ氏が笑う。こちらは群れなすゴミに突っ込んで乱戦に持ち込んでいる。
「いいぞ、櫻井くん。君のそのアバターは特別製だ。期間限定という【戒律】を刻むことでヒューマンの限界を越えている」
やはり櫻井氏だったか。可哀相に。ョ%レ氏のワガママに付き合わされて、こんな殺伐とした戦場に連れ込まれるとは。
しかし期間限定の【戒律】ね。ョ%レ氏の自信はそこから来てるのか?
いや、そうでもなさそうだ。快調に飛ばす櫻井氏だが、すぐに動かなくなる。
「こ、腰が。腰に、なんかズシッと」
「……【戒律】が腰に来たか」
【戒律】が腰に?
腰をやったらしい櫻井氏は地面に寝そべって安静にしている。いや、ブラフだ。安静にするふりをして女キャラのパンチラを鑑賞している。どうやら早くもこのゲームの本質に気が付いたようだな。
よこしまな視線にハッとした女キャラが櫻井氏の首を刎ねる。櫻井氏は脱落した。自壊していくピンクトナカイを目にしたョ%レ氏が嘆息する。
「あれだけの素材があっても五分と持たないのか。改良の余地ありだな」
ョ%レ氏の余裕は何なんだ? 確かに強い。99というレベルに加え、おそらく達人と言える腕前を持っている。乱戦を制する手腕は見事の一言だが、あんなもんいつまでも続く訳ねえ。いずれ確実にバテる。そうじゃねえってのか? 何を企んでる? 勝ち目のない戦いを仕掛けるほどアホじゃないだろう。何かある筈だ。考えろ。
そして、ゴミどもをけしかけておいて何だが俺は攻略組でも何でもないので号令係を他の誰かに譲りたい。【敗残兵】の連中は何してるんだ? 姿が見えない。あっ、リリララ発見! リリララ〜。俺はリリララに駆け寄って指揮権を委譲した。宜しくね。俺は一兵卒に戻るから。
リリララは首を傾げた。
「私あんまり役に立てないよ? コタタマくん、知ってるよね? サトゥくんのほうが向いてると思うよ」
むっ、そうか。
リリララのアビリティ精彩予測は雑魚と相性が悪い。もっと言えば雑魚が持つハードラックとかいうアビリティとの相性が悪い。プッチョムッチョの言葉を借りればサイコロの出目が勝手に増えるようなものだからだ。心などという器官は人間様の身体には備わっていないのである。
人の心を読むことなどできない。できたとしても、その日の気分、体調でころころ変わるようなものなど何の当てにもならない。だから戦略、調略と呼ばれるものの正体は、準備し備えること、しくじらないことだ。リリララはそれが上手い。そして、それは現場で兵隊を鼓舞し率いる能力とはまったく異なる。
リリララはハッキリ嫌だとは言わなかったが、消極的な姿勢を見せている。……もしかして負けるのか? 俺たちは負ける? その未来がリリララには朧げに見えている?
そいつは……参ったな。正直に言って、俺は負け戦が得意だ。退き口とはまた違う。ゴミどもを指導し叱咤激励して沈むと分かっている船に乗せるすべに長ける。それでも……いいんだな?
いいんだとゴミどもが言ってくれた気がした。それは気の所為だろうが、俺の肚は決まった。
俺は四つん這いになって角をぶんぶんと振り、うおォーと雄叫びを上げた。少し身体が冷えちまったからな。熱を入れてやらねえと。
依然として俺は絶好調だ。身体のキレがすこぶるイイ。今の俺ならモグラさんとサシでやり合っても決して引けを取らないだろう。その確信がある。
うおーうおーと雄叫んでいる俺にゴミどもがキレた。
「うるせぇーよ!」
「遠吠えしてねーで指示出せや!」
「やる気ねえなら最初から黙っとけよぉ!」
「殺れとか殺せとかワンポイントの号令ばっかり達者になりやがって……!」
ちっ、逆ギレかよ。
「逆でもねーよ!」
振り返って俺の指揮にイチャモンを付けたものだから、ゴミどもの角がガチャガチャと引っ掛かって大層動きにくそうである。
俺はハードラックのアビリティを作動した。肌の表面に浮かび上がった複雑な紋様がゾゾゾと這い上がり、俺を黒く染めていく。
……最初は小さな点だった。しかし点が輝きを増すにつれて、周りの点も負けじと輝きを放っていく。やがてそれらは悪質なウィルスのように爆発的に増殖し、点は線へ、線は面になっていく。
ほんの少しでいい。俺の胸の内に灯る、この「怒り」を伝えてやりたかった。届けてやりたかった。俺は……お前らの吠え面を見たい。
届いた。
ゴミどもが目障り極まりない角をガッと掴んでゴミの頭をブンブンと振りたくる。
「ンだこの角ォー! 邪魔臭えんだよッさっきからァー!」
仲間割れが始まったようだ。……ふん。鼻を鳴らしてくるりときびすを返した俺の背に、リリララが声を掛けてくる。
「コタタマくん」
ああ。勝負は見えた。これ以上は時間の無駄だ。ペタタマさんはクールに去るぜ。
……そう、ョ%レ氏は最初からそのつもりだったんだ。俺らが放っておいても勝手に殺し合って死ぬことを理解していた。何より……怒りに任せて開戦したが、ョ%レ氏を殺したところで俺たちは何も得るものがない。そいつが一番マズい。つまりゴミどもに強いモチベーションを与えることができなかった時点で、俺たちの負けは決まっていたのさ。
だから戦線の崩壊を早めてやり、ゴミどもが混乱している内に俺はドロンさせて貰うとするぜ。敗戦の将として処刑されるのはゴメンなんでね。何しろ俺は悪くねえ。兵隊は指揮官を生かすために身体を張るもんだ。それが軍隊ってもんだろう。だから俺は逃げる。あいつらの分まで生きるのが、俺にしてやれる精いっぱいのことなんだ。
だが、俺の予測を遥かに上回りゴミどもはゴミだったらしい。トナカイどもはョ%レ氏そっちのけで殴り合いを始め、ミニスカサンタどもは勝手な判断で持ち場を離れ、じとっとした目で俺を見つめている。
結果としてフリーになったョ%レ氏が、剣を二度血振るいし、ゆっくりとこちらへと歩み寄ってくる。
トナカイどもはダメだ。使い物にならん。俺はミニスカサンタどもに告げた。
何をしてるッ! 殺せッ!
だがミニスカサンタどもは微動だにしなかった。おそらくは日頃の行いだろう。流れで何となく参戦したが、黙ってバックれようとしている俺を見て戦意を喪失した、といったところか。俺の鋭い洞察力が光る。
だがその洞察力をイマイチ有効活用できていないのが俺の欠点であり、またチャームポイントでもある。
……どうする? こうしよう。俺はさも満足そうに頷き、こう言った。
「それでいい」
俺はぺらぺらと口を回した。ョ%レ氏を指差し、
「レ氏。あんたは予想以上に腕が立つようだ。あんたが俺をどう考えているのかは知らないが、俺は無駄な血が流れるのは嫌いでね」
ミニスカサンタどもの幾ばくかが好意的な反応を示した。……そう、俺はろくでもないクズかもしれないが、そんな俺にだって良心はあるし、いつも悪さを働く訳ではないのだ。
ョ%レ氏がニッと笑う。
「相変わらず君は口だけだな。ヒューマンめ。冒険者ペタタマ……」
俺は斧を肩に担ぎ、ョ%レ氏に宣戦布告した。
「一対一でケリを付けよう。俺が頭だ。俺がケツを持つ」
これは、とあるVRMMOの物語。
圧倒的なマウンティングでプレイヤーを追い詰める運営ディレクター。果たしてペタタマの刃はョ%レ氏に届くのか? 苦境にあってこそゲーマー魂は熱く燃え盛り、大いなる進化の刻を迎える。運命を覆せ。次回、ペタタマ死す。
GunS Guilds Online