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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
205/978

ゲスト降臨

 1.山岳都市ニャンダム-露店バザー


 群れなすトナカイとミニスカサンタがョ%レ氏の登場を今か今かと待ちわびている。

 あのタコ野郎はラスボス候補と目される運営ディレクターであるが、話題性に関しては他の追随を許さない。そのョ%レ氏がついにイベントの指揮を執るとあって、山岳都市は一夜にしてゴミ置き場と化した。

 遠目に見える武家屋敷はゴミ屋敷と化していることだろう。ョ%レ氏は山岳都市と言うだけで具体的な場所まで指定しなかった。しかし、ヤツが現れるとすればおそらくは合法ロリ姉妹の屋敷の付近になるだろう。性格上、見下されることを嫌うだろうからな。山岳都市という区切りで言うなら、武家屋敷は街で一番高いトコにある。

 なお、ョ%レ氏が本日19時にここ山岳都市に降臨することはティナンたちに伝えてある。まぁ隠す意味もねえしな。

 ョ%レ氏をゲストと呼び祀っていたティナンはどんな気持ちなんだろうな。

 母子だろうか。手を繋いで歩くロリとショタが商魂逞しい種族人間の屋台でカモにされている。おい。そのクジは当たりがねえぞ。トナカイスーツの角にエッダお面を引っ掛けた俺が忠告してやると、店主のゴミが俺に食って掛かってきた。


「崖っぷちぃ! 人様の商売を邪魔すんなや! あるよ! 当たり!」


 あるの? マジで? お前、良心的なゴミだなぁ。お人好しが過ぎるんじゃねえか?

 良心的なゴミは俺から顔を逸らしてぶっきらぼうに悪態を吐く。


「けっ! り、リスク管理だよ! べ、別にティナンの喜ぶ顔が見てえとかじゃねえ! 勘違いするんじゃねえぞッ!」


 ゴミどもは着実にあざとい生き物に絆されているようだった。やっぱ見た目はデカいな。種族人間はロリショタに支配される宿命にあるのかもしれない。人生ってやつは基本的に右肩下がりだからな。赤ん坊が泣くのは不安だからだ。大人と子供の「居心地の良さ」は違う。赤ん坊にとっちゃ柔らかい布団だって異物だ。そりゃ泣く。言ってみれば改造人間にされる直前の仮面ライダーと一緒だ。やめろショッカー!ってな具合よ。つまり俺たちは人生のピークを母ちゃんの腹の中に置いて来ちまってるのさ。

 人は過去に戻ることはできねえ。だが時計の針を推し進めることはできる。だから大丈夫。お前は今が最高に幸せなんだ。あとは転がり落ちるだけ。そう考えれば気が楽だろ?

 俺がそう言って子ティナンを諭してやると、子ティナンはギャン泣きした。何だってんだよ。せっかく俺の人生哲学を言って聞かせてやったのに。

 ハッ。親ティナンが居ない。どこだ? 慌てて周囲を見渡す俺をあざ笑うかのように、俺の肩にベガ立ちした親ティナンが言った。


「どこを見ている? ここだ」


 くっ、いつの間に。なんてスピードだ……!

 ってな具合に俺がティナンと遊んでやっていると、目玉すくいをやっていたウチの子たちがこちらに駆け寄ってきた。なお目玉すくいと言うのは金魚すくいのアレンジだ。金魚なんて儚い生き物はこのゲームに登場しないからな。目玉で代用しているのだ。狂ってやがる。

 目玉を持って行かれた店主が「目〜俺の目〜」とあらぬ方向をうろついている。店主が自分の目玉を奪われまいとあからさまな妨害を仕掛けてくるのが目玉すくいの醍醐味だ。そいつを突破するとはな……。ああ、大したもんだ。

 ウチの子たちは強くなった。もうそろそろ俺のお守りは卒業だな。たとえ俺が居なくなってもコイツらは立派にやって行けるだろう。


「コタタマっ。早く早く! 次行こう! 次!」


 親ティナンに叩き伏せられた俺は、ポチョが差し出した手に捕まって苦笑した。ああ、分かってるよ。

 ポチョの手から吊り下がるすくい袋の中で、目玉がちゃぽんと揺れた。

 俺は、ちらっと赤カブトの近くを歩いているアットムと目配せをする。アットムはコクリと頷いた。

 赤カブトが「あっ」と声を上げる。


「先生!」


 サンタ帽を頭の上にちょこんと乗せた先生がトコトコとこちらに歩み寄ってくる。

 俺はホッと胸を撫で下ろした。何とか間に合ったな。

 先生が合流に遅れたのは、赤カブトの件で主だったクランのマスターと交渉していたからだ。できれば俺も同行したかったが、赤カブトの傍らを離れる訳には行かなかった。

 赤カブトの正体はョ%レ氏が作り出したAIだ。おそらくは【NAi】と同等か少し劣るくらいの潜在能力を秘めている。遣り方さえ学べば、特定人物の完全コピーを作ることも可能だろう。

 早い話が、赤カブトを口説き落とせば不老不死を手にすることも夢じゃなくなる。

 それを知ったゴミどもはどう出るかな? まぁナメック星人と地球人に出し抜かれたフリーザ様くらいには激怒するんじゃないか。

 だから、そうならないよう先生が動いた。

 もう赤カブトの正体を隠すのは無理だ。俺らの知らないところで知らないゴミが勘付いたってことはそういうことだ。

 だが……。俺は一つの懸念を抱えている。俺は……サトゥ氏に鬼武者の巣の写真を手渡している。赤カブトが平穏な日々を送るためにはトップクラン【敗残兵】の協力が絶対に不可欠。そう考えた上でのことだ。しかし早まったかもしれない。知らないゴミにサトゥ氏が情報を提供したとは言わないが……。何か嫌な符号を感じる。先生は偶然だろうと言ってくれているが……。【敗残兵】とRMT業者の癒着……。水面下で何かが大きく動いている。そんな気がする。

 とにかく赤カブトから目を離さないことだ。赤カブトの腰に腕を回して刺し殺された俺は死に戻りしてウチの子たちと一緒に夜空に咲く花火を眺める。

 そろそろ時間だな。

 赤カブトの手を引いてきびすを返した俺は、襲い掛かってくる刺客の首をオンドレぁ! もつれ合って転倒しごろごろと地面を転がってブーンに連れ去られるもジタバタと暴れて脱出。河原に設置された課金アイテムの花火砲台にスッポリと収まって花火玉と一緒に打ち上げられて真っ赤な花を夜空に咲かせた。俺のアビリティは心に作用するので、たまにこうして運命に導かれるようにして死ぬのだ。

 まぁアビリティなら仕方ねえ。

 ダッシュで死に戻りして合流した俺は、武家屋敷に向かう道すがら心の中に直接語り掛けられて足を止めた。


「コタタマ?」


 振り返ったスズキに「しっ」と黙るようジェスチャーして耳を澄ます。……聴こえる。


(旦那……ここだよ……。旦那……)


 この感じ、アンパンか? お前、ハードラックのアビリティを? どこに居る?

 俺は目に力を込めて視野を広げた。ギョロリと目を動かして周囲の人影を探る。

 居た。ティナンの家の屋根の上でちょこんと体育座りしているアンパンが、俺と目が合ってニコッと笑って小さく手を振った。

 物見には悪くないスポットだ。武家屋敷の周りはゴミでひしめき合っているだろうし、少し離れているくらいで丁度いいのかもしれない。目がいい俺に距離はあまり関係ないのだが、ョ%レ氏には全体チャットがある。

 俺は振り返って先生に「ここにしましょう」と提案して了承を得た。屋根に登ってアンパンくんの肩にガッと腕を回す。

 よぉ。アンパン。お前のミニスカサンタコスもそう悪くねえな。それとな、こいつは忠告なんだが……。下から見たらパンツ見えてンぜ?


「えっ。ほ、ホント?」


 アンパンはさっと頬を赤らめると、両膝を揃えて脚を寝かせた。

 くくくっ。別にいいじゃねえか。減るもんじゃなし。……本当は見せつけてるんだろ? 分かってるんだぜ? お前らネカマはそうやっていつも俺らの劣情を煽ってくる。口ではホモじゃねえと言っておきながらな。矛盾してるじゃねえか。どういうことなんだよ? ええ、おい? お前の本心は……どっちなんだ? お前の口から聞きたいね……。


「ちょっ、この人いつになくおかしいっ。俺をホモに仕立てて一体どうしたいの!?」


 いつになくおかしくなっている俺の心情をウチの劣化ティナンが訳知り顔で解説する。


「コタタマね、着ぐるみが好きみたい。着ぐるみ被ると可愛くなろうとするよね」


 ほう。堂に入ってるじゃねえか。なかなかの名探偵ぶりだ。

 そうよ。今の俺はマスコットキャラクター。愛されキャラなんだ。分かってくれるだろ? アンパン。お前なら俺の気持ち。

 アンパンが絶叫した。


「マスコットキャラクター!? 可愛く!? いやホモじゃん!」


 失礼なこと言うなや! その理屈で言ったら大概のマスコットキャラクターはホモってことになるだろーが!


「マスコットにしてはデカいし言動が怪しすぎだろ! と、トナカイだからって馴れ馴れしくしないでよね!」


 俺はどーんとアンパンに突き飛ばされて屋根を転がった。

 くそっ、何だってんだよ。こんなにも俺は可愛らしいのに。俺は四つん這いになって立派な角をぶんぶんと振った。雄々しさの中にキラリと光るキュートさを表現しているのだ。

 そんな俺に食いついたのがニジゲンだ。屋根の上で雄々しく角を振りたくる俺を発見したらしく、ぴょんぴょんと熟れた動きで屋根から屋根に飛び移ってくる。ううむ、生産職離れした身軽さだ。


「崖っぷち〜!」


 JKぇ! 見てくれ! 俺を! 雄々しく反り返ったこの角を!


「す、素敵だ!」


 すっかりメスの顔になったニジゲンが俺の角にしがみ付いて身体を擦り付けてくる。

 JKを堕としたぞォー! うおォー!

 俺は夜空に向けて雄叫びを上げた。この俺が優秀な雄であることをメスどもに知らしめてやらねばならなかったのである。

 おっと時間だな。俺はあぐらを掻いて屋根に座った。ニジゲンがぴったりと俺に寄り添ってくる。おや、アットムくんが俺を手招きしている。どうした? 俺はピンク髪を連れてアットムの右隣に座り直した。お前はこっちな。ピンク髪を俺の右隣に座らせる。

 アットムは少し不機嫌になっている。何だよ?


「コタタマ。ニジゲンさんも。ティナンの屋根の上であんまり騒いじゃダメ。ね?」


 それだけか? 今日の俺はキレキレだ。調子がいい。ゴミどもの熱に引っ張られたか。ポテンシャルがじりじりと解放されていく感じがする。昨日の俺より、今日の俺は絶対に強い。

 俺はじっとアットムの瞳を見つめた。


「な、何言ってるの! もう!」


 アットムは慌てて俺から目を逸らした。体育座りしてる膝に顔を埋める。へへっ。そうかそうか。コイツ、俺とニジゲンが仲良くしてるのが気に入らないんだ?

 肌寒い夜風が火照った顔に当たって気持ちいい。力がドンドン湧いてくる。ゴミどもと繋がってるのを感じた。今の俺なら何でもできる。この全能感。久しく忘れていた感触だ。

 俺はギンギンに目に力を込めた。見えるぞ……。眼下に群れなすミニスカサンタどものスカートの奥まで透けて見えるかのようだ。それは世界を征服することと一体何が違うのか。今の俺なら全てを手にすることができる。

 ……おいでなすったな。

 なあ、レ氏。俺は調子を上げてきたぜ。絶ッ好調だ。あんたはどうだい? 準備は万端か?

 

 アナウンスが走る。


【警告!】

【レイド級ボスモンスター接近!】


 死出の門が咲く。

 命の火が燃える。


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:レイド級ボスモンスターの討伐】

【制限時間:00.00】

【目標……】


【♯%】【ョレ】【Level-4862】


 門をこじ開けてニャンダム山脈に降り立ったタコの化け物が咆哮を上げた。


 Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa


 びりびりと大気が震える。

 聖夜。

 俺たちのクリスマスが幕を開ける。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 甚だ近所迷惑な男たち。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
先生サンタコスなんだ?トナカイコスじゃないってことはキャラクリ自体はメスなのか
[気になる点] 一年後ぶりのクリスマスだとティナン時間的に真っ昼間なんじゃなかろうか うるう年でなんとでもなるけど
[一言] ネカマって何なんだろう。
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