ラムダ
俺は鍛冶屋だ。
世界の果てやら何やらに出張って定められし終焉の刻に抗うファイナルバトルに参加したくてネトゲーをやっている訳ではない。
俺が理想とするネトゲーライフにラスボスが立ち入る余地など不要。心穏やかな日々を送りたい。キレーなチャンネーときゃっきゃしながら武器の出来栄えに一喜一憂する。そんな日々だ。
そりゃあトラブルの一つや二つはあるだろう。例えば、露店バザーでクソのような廃人に絡まれたりな。俺が精魂込めて作った武器を手に取ってサトゥ氏辺りがこう言うのさ。「こんな武器は使い物にならねえ」とか何とかさ。そんで俺の武器を下段突きで叩き折る。とんでもねえ野郎だ。もちろん俺も黙っちゃいない。売り言葉に買い言葉で【敗残兵】子飼いの鍛冶屋と腕前を競うことになる。サトゥ氏の薄汚い妨害にもめげずにがんばる俺の勝利に終わるだろう。鍛冶は心だとか何かそんな感じのふわっとした主張で審査員のハートをがっちりキャッチだぜ。ところが完全敗北を喫したサトゥ氏は納得しねえ。事故に見せ掛けて俺の抹殺を企むだろう。しかし世に悪が栄えた試しなし。うっかりモグラさんの縄張りに足を踏み入れたサトゥ氏は壮絶な死を遂げ、山に埋められる。俺の手を汚さずに済み、かつ後腐れもない完璧なラストだ。その後、サトゥ氏の悪事が白日の下に晒され、心を入れ替えたリチェットやメガロッパは俺にめろめろになる。キャーペタタマさん素敵ーってな具合よ。
それも、きっとあり得た未来の一つだ。可能性は無限に広がっている。オンゲーには色んなプレイヤーが居て、人それぞれの楽しみ方がある。
ナンバーワンじゃなくていい。オンリーワンじゃなくてもいい。その他大勢の一人でいいんだ。
それがオンラインゲームってもんだろう。
1.クランハウス-居間
ショタ勇者様はにこにこと笑っておられる。
「%? 違いますよぉ〜」
クァトロくんさぁ。俺は藁人形を手に取り、出来栄えをチェックしながら言った。俺のことアホだと思ってない? いや確かにアホだけどさ。俺は割と賢いふりができるアホだよ。騙されねーって。%かどうかは知らないけど、絶対にタダモンじゃないだろ。一体ドコのドナタ様なんだよ?
クァトロくんの連れは、無言でじっと俺を見つめている。自己紹介は期待できそうにない。口を開くつもりはまったくなさそうだ。動くものを目で追う習慣があるらしく、俺が喋っている間は俺の口元を凝視していた。
装飾過多なロリだ。ゴスロリ系に近いファッションで、幾重にも織り込まれたスカートが黒薔薇のようだ。フルアーマーロリである。
唇がいやに赤い。ガキンチョの分際で化粧でもしてるのかと思いきや、そうではなく、最初からそういうビジュアルのようだった。
無言。フルアーマーロリは、瞬きを繰り返す俺の目元をじっと見つめている。
……なんてことだ。俺は顔面を両手で覆った。ついに現れてしまったんだ……真の無口キャラが。
俺は、この場には居ないウチの元無口キャラを憐れんだ。
一体ウチの小せえのが何をした? 何の罪があってこんな……。残酷な仕打ちをしやがる。
ウチの劣化ティナンさんは、決してモテない訳ではないのだ。人見知りをするところがあるから、知らない人たちに声を掛けられるとポチョの後ろに隠れようとする。そういう姿にグッと来る連中が居るらしい。おそらく優しくすれば惚れてくれそうな感じがするのだろう。無口なロリキャラってのはそういう目で見られる。だから人気があるのだ。しかし……。
俺が今感じている危機感を分かりやすく言うと、こうだ。
人気投票を開催したとしよう。ポチョと赤カブトが二位か三位辺りなのにスズキだけが八位とか九位辺りをうろついている……。気まずいなんてもんじゃねえぞ。何故、スズキだけがそんなことになるのか。答えは簡単。新キャラのフルアーマーロリに票を食われたからである。
世間はロリに優しい。
だが、そうじゃないんだと俺は言ってやりたかった。
スズキは典型的な内弁慶だ。家の外では無口なロリキャラで通しているらしいが、意外と頑固で口うるさくて……。普通に喋るし、笑ってる。下らないことでポチョと喧嘩したりもするし、私服はパジャマで俺より上じゃないと気が済まないワガママ娘だ。そして、たまに二人きりになると俺を殺そうとする。
全然、無口キャラじゃない。無邪気でもない。ずるいし、嘘だって吐くし、計画的な犯行に及ぶこともある。
そういうところが可愛いんだ。俺はそう思うね。
俺は自己完結した。気を取り直して顔を上げる。フルアーマーロリが俺の動きを目で追ってくる。何だろう。とても絡みづらい。
膠着状態に陥った俺とロリを見かねてか、クァトロくんが取り成してくる。
「ラム。この人はコタタマさん。怖くないよ。強いパワーを持った人だ」
フルアーマーロリのお名前はラムと言うらしい。あだ名っぽいな。
ラム子はクァトロくんの口が動き終わってから俺に視線を戻した。真っ赤な唇が半開きになる。
「コタ、タマ」
「…………」
「コタ、タ、マ」
心穏やかな日々が俺を置き去りにしてマッハで遠ざかって行くかのようだ……。
知らないままで居たほうが幸せなことってあるよな。
俺は脳のスイッチを切った。省エネモードに移行してガキンチョの相手をしてやる。
コタタマってのは俺の名前だ。分かるか? 名前。ラム子は何ら反応を示さない。
タコ助ーッ!
俺は吠えた。
「わっ、びっくりした。どうしましたか?」
どうしたもこうしたもねえ! ちょっと来いっ。俺はクァトロくんを連れて少し離れたところで作戦タイムに入った。
ちょっと。ねえ。クァトロくん。あの子は誰なんですか? 雰囲気が尋常じゃありませんが。いや分かってる。言うな。言わんでよろしい。だが、これだけは聞きたい。どうして俺んトコに連れてきた? 事と次第によってはお前、あれだぞ。俺らの宇宙から最後に残された希望が消えるぞ。他ならぬこの俺の手によってな。
するとクァトロくんは照れ笑いなど浮かべ、
「その、コタタマさんって僕の昔の知り合いにちょっと似てるんですよね。それで、そのぅ……」
昔の知り合いって誰だよ? もしかしてペペロンの兄貴か? いや似てねえだろ。兄貴は純然たるパワーファイター系じゃんね。似てない似てない。
「似てますよぉ。サイドバックから切り込んで気付けば司令塔やってる感じがそっくりで」
なに? サッカー? クァトロくんサッカー好きなの? 地球に来たの、ついこの間だよね?
「あ、僕、ネットに繋げば大体のことは分かっちゃうので」
何だよ。ムカつくな。出木杉くんかよ。プッチョムッチョはそんなことないぞ。あいつら、いつもぼーっとしてる。
「僕は、ほら、【戒律】の関係で常時スキル使ってるようなものですから」
ああ、やっぱりクァトロくん変身できねえの? 勿体ねえなぁ。【敗残兵】にさ、セブンつーのが居るんだけど。知ってる? セブン。真夏のアスファルトに転がってるアレに似てる。セミね。
「セブンさん。はい」
あいつ勿体ないお化けだからね。変身できないなんて話したら説教されるよ。気を付けないと。よし、じゃあ戻るか。俺とクァトロくんはラム子の元に戻った。
よしよしよぉーし。ラム子を高い高いしてやる。おっと得体の知れない金属片が結集して来たぞ。ざくざくと俺の身体に刺さって俺の歩行を強烈にサポートしてくる。八脚になったぞ。やったぁ。スイッチOFF! 俺は省エネモードに移行してラム子を背に乗せ居間を練り歩く。いや〜最近の新規ユーザーは凄いなぁ。クァトロくんといい、このゲームの未来は明るいぜ! 俺はひとしきりお馬さんごっこをしてやってから、出血多量でぱたりと力尽きて死んだ。
動かなくなった俺を、ラム子は無関心な瞳でじっと見つめていた……。
これは、とあるVRMMOの物語。
新規ユーザーが凄すぎる。
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