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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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ゴミの夜明け

 1.スピンドック平原


【目抜き梟】のクランハウスを追い出された俺とアンドレが肩を並べて草原を歩いている。

 このつまらない男が人目を気にしてか「少し歩こう」と俺を散歩に誘ったのだ。何が悲しくて野郎とデートなんぞ。俺は断ったのだが、「君の秘密を知っている」と耳元で囁かれては放置はできない。この海外製のゴミはウサ吉のエサにしよう。俺はそう決意した。

 くくくっ……。種族人間などしょせんは踊る宝石の亜種に過ぎんよ。しかしアンドレは世界最強のトリオの一人。そこら辺のゴミよりは栄養価が高そうだ。まぁゴミはゴミ。大した違いはないだろうが……。待ってろよ、ウサ吉。今お前のママが少し高めのエサを持って行ってやるからな。


 ここスピンドック平原は街の隣接マップということもあり、無謀な狩りに出る初心者が後を絶たない。チュートリアルを終えたチワワどもはひとまず最初に転送される森でポポロンの眷属に挑み、変な液体を注入されて壮絶な死に様を晒し、這々の体で辿り着いた山岳都市で心機一転して新たな冒険に旅立ったところをウサギさんに殴られて首から上を持って行かれブーンに焼かれてお持ち帰りされるのだ。

 今もそこら中でウサギさんにマウントを取られたチワワどもが助けを求めて喚いている。

 冒険者は常に試される。最初に問われるのは、男か女かだ。女キャラなら見かねた熟練者が助けに入ることもあるだろう。好みのタイプがどうかが大きな分かれ目になる。だが男キャラでスタートしたなら助太刀は期待しないほうがいい。生物学上、種族人間のオスは多少数が減っても問題ない造りになっている。だから可愛くない。大切なのは、見捨てられる側であることを自覚することだ。

 また仮に助っ人が居たとしても、狙いは懐の金かもしれない。このゲームに不慣れなプレイヤーは人を殺すことに抵抗を感じるから、熟練者に金銭を要求された際には黙って差し出すか殺されて奪われるかの実質二択だ。そうして踊る宝石は笑い袋へと劇的な変化を遂げていく。まぁオーソドックスな変遷だな。そこまで行ってようやく他人を無条件で信頼することのアホらしさを学び、抜け目のないゴミに成長していく。なお一握りのゴミは復讐を誓ってミミックへの進化ルートを辿るぞ。初心者を装って近付いてくるゴミを食い荒らす暇人だ。そうした輩は正義感を拗らせてマナー厨へと変貌し、正義の味方になっていくことが多い。対人戦に特化したプレイヤーキラーキラー……PKKerの誕生だ。

 負の連鎖は決して途切れることはない。それが人の世の理であり、歴史の授業では教えてくれない真実の世界の姿だ。権力者が理屈をこねて妙なことを始めたなら、そこには拭い去れない積年の怨みがある。逆に恩義を感じて、というパターンもあるから、人間関係はメチャクチャに錯綜して、当事者以外にはイマイチ真相が分からないふわっとした歴史へと収束していく。

 俺は、俺の横を歩くアンドレの野郎がウチのサーバーに戦争を仕掛けようとしたことを忘れちゃいない。何だか美談っぽくまとめられたが、コイツは戦争に勝利する前提で動いていた。負けるなんてハナから思っちゃいない。舐められたんだ、俺たちは。

 背後からブッタ斬ってやろうかとも思ったが、打ち込む隙が見当たらない。俺を警戒している。厄介なメリケン野郎だ。……が、スピンドック平原を人目の少ないほうへと行こうとすれば、自然と深部へと近付いていくことになる。そこはウサ吉の縄張りだ。くくくっ、いいぞ。そのまま歩き続けろ。断頭台がお前を待っている……。

 内心でほくそ笑んでいる俺に、アンドレがぽつりと言う。


「異常個体はシステムに弾かれる。それがこのゲームの普遍的なルールだと言うならば、そのルールを無視するのはレ氏の意向でしかあり得ない」


 んん? まぁそうなるかね。俺はおざなりに頷きながら、内心でこう付け加えた。

 ……ョ%レ氏のクラフト技能は万能の魔法だ。大きな代償を用意すれば、形のない概念ですら作り上げることができるかもしれない。あるいはそれこそが【戒律】の正体なのではないか。

 クァトロくんと一緒に召喚された小さな子供たち。その中の一人に、もしもョ%レ氏と同じスキルを持つ子供が居たなら……。クァトロくんは巻き添えで召喚されたという見方もできる。どうやって召喚されたのかは分からないが……。


(僕らの寿命は長すぎる。友達はみんな逝ってしまった)


 クァトロくんを召喚した何か。それが特定の人物だとしたら、とうに故人だろう。しかし世界を越えるほどの莫大なエネルギー。何かしらの装置じゃないかと俺は睨んでいるのだが。俺らの世界に魔法なんてものはないからな。

 アンドレが続けて言う。


「メインストーリー。聞き覚えはあるな?」


 メインストーリー? 俺はしらばっくれた。俺もバカじゃない。【NAi】の言うメインストーリーとやらが【ギルド】との戦いを指し示していたことくらいは察しがついている。あのポンコツナビは俺に何かをやらせようとしている。それはョ%レ氏の意向には反したことで、つまり胡散臭い運営ディレクターと鬼畜ナビゲーターの確執の原因に迫る内容なのだろう。イチ鍛冶屋の俺にとってはどうでもいい話だ。

 アンドレは俺を横目で観察している。


「だろうな。まず他人を信用しない。破滅的な願望を持ち、キルペナに対する一定以上の耐性……。殺害手段のすり替えを高い実現性で行える。異常個体に共通して見られる特徴だ」


 俺がそうだって言うのか? おいおい、お前さんに一体俺の何が分かるって言うんだい? 濡れ衣もいいトコだぜ。そういうお前さんこそ怪しいと俺は睨んでるんだがね。どうして異常個体とやらにそこまで詳しいんだ? 調べたからだろう。お前自身がそうで、興味があったからだ。違うかい?

 俺がそう言うと、アンドレは肩を竦めた。


「私が? あり得ないな。私はジョンの補佐だ。あの男がどこまで行くのか見てみたい。そう思って私はジョンのスカウトに応じた」


 スカウト? お前は別の国から引っ張られたクチなのか?


「そうではない。少し調べれば分かることだぞ。私とカレンは、元々ジョンとは別のクランを率いていたマスターだ。敵対関係にあった、と言っても決して過言ではない」


 ほう。それにしては随分と仲が良さそうに見えたがな。


「シャーリーだ。あいつが私たちを結び付ける唯一の繋がりだった。間抜けな女でね。何かと失敗してばかりだったあいつを、カレンが妙に気に入って……。それからだ」


 アンドレの話によればこうだ。

 何かといがみ合っていた三人のクランであったが、ョ%レ氏やGMマレとの決戦では一時的に手を結ぶしかなかった。カレンちゃんはジョンのトコに居た銀髪褐色ロリを妙に気に入り、何かと勧誘していたらしい。しかしクランマスターはクランの利益を追求する代表者でもある。馴れ合いはしなかった。むしろ関係は悪化した。ちんちくりん三号を付け狙うカレンちゃんをジョンは煙たがり、毎日のように勃発するゲリライベントの傍ら、乱戦に乗じてカレンちゃんを始末しようとすることも日常茶飯事だったのだとか。ジョンのイメージ変わるなぁ。昔は荒れてたのか。


 アンドレは、自分のことについては語らなかった。しかしアビリティ発動時に見られたあの念獣。かつては目を強化していたというカレンちゃんの証言もある。アンドレがキャラデリしたことは確実で、そのことをジュエルキュリは把握していなかった。

 キャラデリしたのは銀髪褐色ロリがョ%レ氏の元に走ったあとの出来事なのだろう。

 そこには全てを捨ててでも引っ越しした女児を追うという執念がある。気持ち悪いやつだ。来る者は拒まず去る者は追わずという格言もあるだろうに。

 そうした経緯を考えると、ジョンのスカウトに応じたというのは怪しい。まるっきり嘘ではないだろうが、請われて移籍したのだと周囲が納得するよう動いた、くらいのことはやってそうだ。

 アンドレは一切悪びれることなく堂々と嘘を吐く。


「私は誠実な男だ。異常個体などという存在からもっとも遠く離れた位置に居る。君とは違ってね」


 意地でも認めるつもりはなさそうだ。これが異常個体か。他人を騙すことに何ら抵抗を覚えていない。騙されるほうが悪いのだと言わんばかりの態度だ。魔族め。

 とはいえ、このままでは話が進まない。俺は一歩踏み込んで話をすることにした。


 それで……。アンディよ。仮に俺がその異常個体だとして、お前さんはどうして俺を殺そうとした? 殺し屋を雇ってまで。


「全て読み筋だ。暗殺が失敗することも分かっていた。星詠みのスキルは厄介だからな」


 星詠みの……。リリララの精彩予測のことか。


「君、異常個体の観察は急務だよ。何しろ理に反している。自動操縦を跳ね除け、自らの意思でエンドフレームを動かせる。あの最終局面で先駆者たちと口を利けるということだ」


 やはりあれは全サーバーで起こっていたことなのか。まぁ意外ではない。何となくそうだろうなとは思っていた。

 アンドレはぴたりと足を止めて俺を見る。そして傲然と言い放った。


「とても単純な話なんだ。子供でも分かる。世界の警察機構を司る合衆国ステイツの我々が知らないことを、他国の人間が知っていてはならない。秩序が乱れるからね」


 俺は鼻で笑った。ハッ、お国柄ってやつかね。らしい物言いだ。


「事実だからな。君たちに我々の肩代わりはできない。他の誰にもできない。それとも日本では警察はバカにされる職業なのかな? だとすれば、ここは治安の良い国だと聞いているが、その認識は改めるべきなのかもしれない。自分たちの暮らしが何によって保たれているのか分かっていないようでは、な」


 おーおー、煽ってくれるじゃねえか。

 アンドレは鼻を鳴らし、正面を向いた。


「そう、全ては読み筋だ。殺しの依頼主たる私を君は無視できない。異常個体は己の敵意に対して忠実だ。君と話をしておきたかった。それに……」


 俺たちは深部に足を踏み入れている。


 Nuuuuuuuuuuuuuuuuuu


 スピンドック親分の元で日々仕事に励んでいるウサ吉は、外敵の侵入を許さない。

 咆哮を上げた俺の可愛いウサ吉が地響きを立てて猛ダッシュしてくる。

 アンドレは笑った。


「この先に上位個体の巣があることも把握している」


 コイツ……。ウサ吉のことを知っていたのか。知ってて、わざと深部に? 俺は斧を構えた。何を企んでやがる。


「よく育った個体だ。合衆国ステイツではこうは行かない。上位個体が放置されるなどということは起こり得ないのさ。その日の内に狩られるだろうからな」


 そう言ってアンドレが、見せ付けるようにゆっくりと剣を引き抜く。


「私はゴジラが好きでね。世界に名だたる変態の国、ジパング。堪能させて貰うとしようか」


 接近したウサ吉が前足を地面に叩き付けた。ひらりと躱して跳んだアンドレを、ブンと頭を振ったウサ吉の角が串刺しにする。あまりの衝撃にアンドレの手足が千切れ飛んだ。アンドレは死んだ。俺は最初の一撃で死んでいる。俺たちは全滅した。

 ウサ吉が後ろ足で器用に立って勝利の咆哮を上げた。よしよし、もっと大きく育てよ。ペタタママはいつでもお前を見守っているぞ。ふわっと幽体離脱した俺とアンドレが天に召されていく。ぴくりと反応したウサ吉が俺のほうを見て、か細い鳴き声を上げた。


 Nuuu……


 ウサ吉。愛してる。俺はニコッと笑った。



 2.スピンドック平原-女神像付近


 死に戻りした俺は、地下祭壇にある女神像の前でアンドレと合流した。


「なかなか得難い体験だった」


 ウサ吉を誉められて俺も満更ではない。

 へへっ。まぁな。ゆくゆくはガムジェムを与えてレイド級にしてやりたいと思ってる。

 俺がそう言うと、アンドレは怪訝そうに片眉をひん曲げた。


「それに何の得が? お前たちは【重撃連打】を既に開放している。第二のスピンドックを生み出したところで得る物は何もないだろう」


 お前には分からないか、この領域の話は。俺は仕方なく説明してやった。

 アンディ。さっきお前は上位個体が放置されるのは俺らの程度が低いからだと言ったがな、それだけじゃないのさ。

 俺ら日本人の文化には切腹ってのがあるからな。偉いやつに腹切れって言われたら腹を切るんだ。それはイイコトで、お家の面目を保つという側面があった。時代劇なんかでよく打ち首獄門ってのがあるけど、同じ死ぬでも切腹を許されないってのは不名誉なことだったのさ。

 つまりスピンドックに忠実なウサ吉は、俺ら日本人の琴線をくすぐるんだ。切腹の制度が廃れた現代でもそれは変わりない。ボスに忠誠を誓う幹部はカッコいい。コイツは只者じゃねえって思うのさ。


「その通りだ」


 おっとサトゥ氏。勇者様にイキり倒して気まずい思いをしているサトゥ氏じゃないか。こんなところで一体何を?

 サトゥ氏は腕組みなどして壁にもたれ掛かっている。アンドレ来日の報を耳にして駆け付けたのだろう。

 サトゥ氏はイキッた。


「アンドレ。あんたは向こうのトップクランのサブマスターだ。そうやすやすとこっちに遊びに来られちゃ困るな」


 イキッてるイキッてる。

 アンドレはニコリともしない。


「サトゥか。話には聞いているぞ。キャラクターロストしたらしいな? ジョンは君を高く評価している。逸材だと。だが、彼の評価について私は懐疑的だ」


 サトゥ氏が応じる。


「試してみるか? あんた自身の手で」


 両者の視線が交錯して火花が散る。

 二人の視線を死に戻りしたゴミが遮って歩いていく。ぺこりと会釈しながら。

 ゴミが通り過ぎるのを待ってから、アンドレがニヤリと笑って威嚇した。


「教えてやるよ。俺のレベルは27だ」


 別のゴミが死に戻りした。公共の場で言い争いをしている傍迷惑な二人を白けたように見つめ、遠慮なく両者の間を突っ切る。

 アンドレは続行した。サトゥ氏を指差し、


「ジョンが居なければお前らはレ氏をやれなかったし、お前がモモ氏をやれたのはお前の周りに雑魚しか居なかったからだ」


 更に別のゴミが死に戻り。引っきりなしにサトゥ氏とアンドレの視線が遮られる。

 仲間をバカにされたサトゥ氏が低い声で凄んだ。


「お前に何が分かる」


 今度は団体様だ。仲間割れしたらしく、悪態を吐きながらゴチャゴチャと地下祭壇を後にする。歩く順番で軽く揉め、一人が死に二人が軽傷を負う刃傷沙汰に発展した。ゴチャゴチャと言い出したゴミの首を刎ねてやった俺は、しっしと手を振る。ほら、これで文句ねえだろ? さっさと行け。面倒臭ぇことになってるから。巻き込まれたら面倒だぞ。

 喧嘩を仲裁してやった俺は、サトゥ氏とアンドレにどうぞ続けてとジェスチャーする。コクリと頷いたアンドレが、しばし宙を見つめた。何の話をしていたか忘れたらしい。けと、すぐに思い出して話を続けた。


「分かるさ。俺やカレンなら、みすみすジョン一人に手柄を譲りはしない」


「手柄を……?」


 サトゥ氏も何の話をしていたのか忘れたようだ。さては待っている間に出撃画面の図鑑をチェックしてたな。無理もない。俺だったら今頃は帰ってるだろう。驚異的な粘りだ。

 サトゥ氏とアンドレは一触即発だ。剣呑な視線をぶつけ合っている。

 しかし団体様の死に戻りが重なり、地下祭壇はいよいよ混雑のピークに達しようとしていた。足を踏んだ踏まないで揉め始めるに至り、ついには無関係なゴミに絡む始末だ。


「なに見とんじゃ! 見世物じゃねえぞ!」


 恫喝された女キャラがびくっとした。サトゥ氏の目が青白く発光した。好みのタイプだったらしい。怒鳴り声を上げたゴミの首をすかさず刎ねて、連鎖したゴミどもを次々と始末していく。うぅむ。俺は唸った。スペースの使い方が上手い。こうまで混雑していると、レベルよりもセンスのほうが際立つようだ。

 殺戮を終え、完全に話を忘れたサトゥ氏が両腕を突き上げて吠えた。


「海賊王に俺はなる!」


 ど ん !


「……!」


 俺は涙ぐんだ。

 気分はルフィの旅立ちを見送る冥王レイリーである。やっぱり俺はサトゥ氏が欲しい。この男の代わりになれるやつは居ない。一度は断念した師匠ポジだが、今一度狙いたい。是非とも俺の金づるオールスターに迎えたい。


 死屍累々の地下祭壇を、物言わぬ女神像が柔和な微笑みを湛えてそっと見守っていた……。



 これは、とあるVRMMOの物語。

 喧嘩は外でやりなさい。



 GunS Guilds Online

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サトゥ君はどこに行って何をする気なのか...
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