GunS Guilds Online!
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ジョンはこのゲームについて、銃の生体群の物語なのだと言った。
モョ%モ氏はこのゲームについて、レプリカの育成を目的としていると言った。【ギルド】が作り、そのシステムを利用したのだと。
ョ%レ氏は、あざ笑った。単なる言葉遊びだと。
宇宙は広い。
言葉にすれば陳腐だが、本当に途方もなく広いのだ。
この果てしない宇宙で、俺たちが出会える確率はどれくらいなのだろう。
それでも、もしも出会いたいと願ったなら。
光を追い抜き、置き去りにするほどの技術があったとしたら。
俺は、ふとこんなことを思う。
生身の肉体を宇宙船に乗せる必要なんてない。
かつて先生が言っていたように、質量は重力を生むのだから。
荷物は少ないほうがいい。
この思い付きは、きっと正しい。
だって俺たちは、行ったこともない世界を想像できる。
行くよりも思うほうが早い。
それは俺程度の頭でも思い付く屁理屈でしかないのだが、俺たちがやっているのはそういうゲームだ。
VRMMO。
それはゲームとしては余りに破綻していて。
その同意規約はまるで全てを諦めろと言っているかのようだった。
この広い宇宙のどこかに俺たち以外のプレイヤーが居て、出会い、別れを繰り返してきたのだろう。
そして、今回はたまたま俺らの番だった。
そういうことなのだ。
それくらいのことは、何となく察しが付いた。
1.ョレ宙域-最深部
【End-Phase】
宇宙が虹色に輝いている。
ロマンもへったくれもないことを言えば宇宙空間を漂うガスか何かなのだろう。
フェーズ2をクリアした俺と兄貴はオート移動中である。いやに長いな。俺はギョロギョロと目を動かして警戒する。
……まるでクソ虫どもの墓場だ。打ち捨てられたクソ虫どもの残骸が一つ、また一つと自壊していく。
俺が暇しているのをいいことに、視界の端を占有しているちびナイが何やら語り始めた。
【……いよいよだね】
おい、やめろ。それ完全に最終決戦の前にオペレーターの人とかがやるアレだろ。言っとくが、お前は俺の戦友でも何でもないぞ。むしろお前の存在は確実に俺の被弾率を底上げしてたからな。お前方向から来る光線は普通に見えねんだよ。ちょこまかちょこまか動き回りやがって。計器類ですらもうちょっと気を遣うわ。
だがオペレーター気取りは俺と言葉を交わすつもりが一切ないようだった。
【私ね。これまで色々あったけど、あなたのパートナーになれて良かった。こんな私でも少しくらいはあなたの役に立てたのかな?】
だから言ってんじゃん。俺、お前のこと邪魔だったってハッキリ言ってんじゃん! やめろ! 今生の別れみたいなこと言うな! おい、ポンコツナビ! ずっと気になってたけど聞くの怖いから黙ってたけど、もう言うわ! これ負けたら俺はどうなるんだ!? なあ、おい! これ母体だろ! キャラロストするんと違うんか!?
ポンコツナビは俺の言葉を無視した。白々しくも涙を拭うふりをして、
【なんてね! あはは、心配しちゃった? 元気、元気! 大丈夫! あなたなら絶対に勝てるよ! この私が付いてるんだから! でも、もしも……ううん。私は信じてる。……なんだか寒いね。あのさ、地球に戻ったら……】
……ばか、泣くやつがあるかよ。その続きは地球で聞くよ。俺たちの故郷でな。生きて、一緒に……帰るんだ。それでいいだろ?
俺はノッた。殴りたいが、視界の端に住み着いたゴミが相手では分が悪すぎる。文字通り手も足も出ない。俺、モルボルみたいになってるしな。
ちびナイは嬉しそうに笑って頷いた。
【うん!】
……なんか一人で勝手に盛り上がってるけど、最終フェーズとやらで俺らを待ち受けてるのは狙撃兵なんだよな? 幹部とかでなく。一兵卒の。総大将の最高指揮官は最低でもレベル5000以上という話だったが……。そいつの部下は軒並みレベル1000越えだったりするのか? 嫌だなぁ。
兄貴……。兄貴だけが頼りだ。俺は先行く兄貴の背にじっと熱い眼差しを送る。
ペペロンの兄貴は俺なんかと違ってシュッとしたスタイルをしている。ロボ!って感じだ。理想を言えばスーパーロボット系が良かったのだが、というかマジンガーの兄貴が良かったのだが、残念ながらリアルロボット系である。異様に細くて脆そうな腰が少し気になるけど、カッコ良くした雨ガッパみたいなパーツが胴体から脚部にかけて伸びている。ビジュアル重視しすぎて雨漏れ半端ない感じだ。なんていうか主人公専用機のオーラがある。
クァトロくんの発言から察するに故人ではあるのだろうが、生前はさぞや立派な宇宙人だったに違いない。
高潔で、普段は群れるのを嫌う一匹狼。感情よりも理屈を重んじるが、それゆえに周囲の反感を買ってしまう。しかし誰よりも熱い心を内に秘めるタイプだな。クールだぜ。どこぞの五面ボスやら母体は一人一体という基本ルールすら守れないミノムシ野郎とは大違いだ。
お、移動が終わったぞ。
移動中は別チャンネルを経由しているようで、ボスの姿を事前に確認することはできなかった。さてさて、狙撃兵とやらはどんなだ? 俺はギョロギョロと目を動かして敵影を探る。
【警告】
【上位個体の出現を確認しました】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:狙撃兵の撃破】
【制限時間:00.00】
【目標……】
【狙撃兵】【?????】【Level-2022】
ほ、ほう。レベル2000を越えてきたか。予想以上だ。ま、まぁチュートリアルに出てくるボスは最初ということもあってインパクトが大事だからな。きっと兄貴が必殺技か何かで何とかしてくれる。それがお約束ってやつだ。
狙撃兵さんが静かに佇んでいる。
全長20メートルくらいか。ざっと見て今の俺の二倍ほどある。なるほど。
最高指揮官の手下ともなると、ビジュアルも凝ったものになるらしいな。まさかの人型ロボットである。スクラップ寸前という有様だ。そいつにウジ虫が寄生して操っているように見える。そして全身から銃身が生えている。串刺しにされたみたいに。なるほどね。なるほど。
……ずるい。ずるいぞ。普通に強そうじゃねえか。クソ虫さんたちだけは俺らの仲間だと思ってたのに。ゴミとカスで地上最弱の座を競い合えると思ってたのに。まったくそんなつもりはなさそうだ。
恨めしい。俺はじとっとした目で裏切り者の狙撃兵さんを見つめる。
おっと兄貴が考えなしに突進しようとしている。俺は兄貴の手足に触手を巻き付けて制止した。あ、兄貴。ここは一度距離を取って様子見に徹しましょうや。
だが、か弱いプレーリードッグの俺に兄貴を止めることはできなかった。兄貴が甲高い奇声を上げて突進する。触手で繋がる俺ごと。まるで俺はグラディウスのオプションだ。ただオプションと違うのは、俺は別に無敵ではないし飛び道具を持ってないから援護射撃できないってことカナ。
狙撃兵は動かない。固定砲台みたいなものなのか? しかし全身から突出した銃身は動かせるようで、にょきっと伸びてムカデの脚みたいにわさわさと蠢く。へえ。曲がってもOKなんだ? まぁ実弾を発射してる訳じゃねえしな。銃口からシュンと細い光線が放たれた。狙撃兵に飛び掛かった兄貴の手足が切断された。
あ、兄貴ぃー!
俺の絶叫が宇宙空間に木霊する。
2.【ギルド】と【クラン】
相手は狙撃兵だ。狙撃兵と言うくらいだからタイミングを見計らって懐に飛び込めば案外あっさり勝てるんじゃないかと考えていた。けど、そんなことはまったくなかった。
たちまち手足を生やした兄貴が狙撃兵に捕獲された。レーザー光線をメスみたいに使って兄貴の機体を固定、解体してくる。兄貴は一切怯むことなく応戦するが、すぐに関節部の可動域を押さえられ身動きが取れなくなった。俺には何もできない。打開策がまったく見えて来ない。
視界の端でちびナイが何か言っている。
【これが最高指揮官の兵……。儀仗兵がまったく歯が立たないなんて……。このままじゃ二人ともやられちゃう! スキルを使って!】
そ、そうか。プレイヤーにはスキルがある。移動して殴るだけが能じゃない。
おっと俺の視界が無断で二画面に移行したぞ。上下に分割され、下のほうでョ%レ氏の無双動画が流れ始める。ちびナイが短い手足を駆使して解説を付け加えていく。
【スキルの種類は大まかに分けて四つ! アクティブスキルと攻撃魔法、回復魔法とクラフト技能に分かれるの! 職業によって使えるスキルは違うから注意して!】
知ってる知ってる!
ちょっ、やめろ! 俺の視界がマリオカートみたいになってる! とても見づらい……!
俺の視界の下半分でタコ野郎が各種スキルを使って無双している。蹴散らされているのは曜日ダンジョンで日々バイトに勤しんでいるゴブリンたちだ。シフト制を導入しているようで、曜日によって中の人が変わる。中の人が変われば攻撃パターンも変わる。このゲームでは珍しい、まともに切磋琢磨できるコンテンツに仕上がりつつある。
タコ野郎が群がるゴブを【全身強打】で一掃したところで、ちびナイが視界の端できゃんきゃんと喚く。
【あなたは生産職だからクラフト技能を使える! クラフト技能の発動には魔石が要るの! 今回は特別に魔石を用意したから使ってみて!】
おお、太っ腹じゃねえか。兄貴っ、待っててくれ……! 俺は宇宙空間に放り投げられた魔石を回収し、すかさずクラフト技能を発動。少し離れたところで粘土をこねる。
【今のあなたはエンドフレーム! コンフレームの時とはまったくパワーが違うんだから! そうね……。大きな岩を作ってみて! 硬くて大きな岩!】
えっ。そっちで指定なの?
ま、まぁいい。岩ね。大きな岩。硬くて大きい。こねこね。よし、できたぞ! こいつをどうすればいい!? 指示をくれ!
【私に教えられるのはここまで! あとは実戦を積むだけだよ! あなたなら、きっとどんな困難だって打ち破れる! 私、そう信じてる!】
おい! 勝手に〆んな! こっからが肝心だろうが! お前っ……あっ、消えやがった!
【……なた、なら……メイン……リーを……ルドと……クラ……の戦いに……終止符を……】
電波障害で通信途絶みたいな演出やめろ! 何言ってるのか八割方伝わってるし! そんな都合いい途絶の仕方ってある!?
くそがっ、ポンコツナビを当てにした俺がバカだった。こうなったら俺がやるしかねえ。俺はヨイショと岩を抱えて突進した。粛々と兄貴の解体を進めているクソ虫のボスを岩でガンガンと叩く。オラぁ! オラぁ!
おぅ、レーザー光線で俺の岩がバターみたいに切り裂かれた。俺の手元に綺麗にカットされた石ころだけが残される。狙撃兵の銃口が俺に向く。こ、これまでか。
ハッ。兄貴。兄貴の胸部の装甲が切除され、剥き出しになったフレームに何かが埋まっているのが見えた。
それは、魔石と似ていた。複雑な紋様が刻まれた半透明の繭の中に、膝を抱えて丸くなった全裸の女が収まっている。瞳は閉ざされていた。深い眠りについているようだ。
あれは……。俺はとっさにセクハラした。何しろ全裸だ。考えるよりも先に身体が動いた。えいっ、脚照。女は微動だにしない。察するに兄貴の中の人だろう。セクハラしてから思い付いたのだが、もしも目覚めさせることができれば戦況の打開に繋がるかもしれない。けど、そう甘くはないか。でも念のために残された時間を全てセクハラに費やそう。脚照っ、脚照っ。
ふっ、どうやら無駄な足掻きだったようだな。女は目覚めないし、狙撃兵は俺を一発で消し飛ばすつもりのようだ。俺に突き付けた銃口がみゅんみゅんとエネルギーをチャージしていく。
兄貴……。ごめんな。俺、あんたに何もしてやれなかった。
俺が観念して最後の脚照を使った、まさにその時である。どこからともなく放たれた電撃が狙撃兵を直撃。硬直した狙撃兵の銃身が切り飛ばされた。
「ペペロン! コタタマさん!」
【ゲスト参戦!】
【勇者】
【君主】【クァトロ】【Level-999】
おお、勇者よ。
3.勇者参戦
俺と兄貴の窮地に颯爽と駆け付けたクァトロくんがニコッと笑った。
「ごめんね。少し手こずった」
どういう理屈なのかは分からないが、宇宙空間でも俺たちは会話できる。
俺は狙撃兵に体当たりして吹っ飛ばすと、クァトロくんにひしっと抱き付いた。もうダメかと思った。
おや、クァトロくんが目を丸くしている。いかがなされた?
「……意識があるの? やっぱり異常個体なんだね」
俺は、そんなことは決してないと頭を左右に振った。異常個体ではない……。
クァトロくんが小さな手で俺の身体を撫でてくる。
「本当にごめんね。怖い思いをさせた。ゲートを開くから、コタタマさんは今すぐ帰還して。事情は追って説明するけど、異常個体は連れて行かないルールなんだ。こんなさ……」
クァトロくんは自嘲するように笑った。
「訳の分からない戦いに巻き込まれるの、嫌でしょ? だからさ」
ああ、なるほど。俺は察した。
暫定エイリアンが欲しているのはエンドフレームとやらの戦力であって、俺らを本気で巻き込むつもりはないのか。そのための強制執行、オート戦闘なんだな。
兄貴の中の人が眠っているのは、それが普通で。バッチリ目を覚ましている俺が少し変なのか。【ギルド】の技術を利用してるって話だったからな。そういうこともあるか。
だが、クァトロくんよ。俺にはお前もバッチリ目を覚ましてるように見えるがね。お前さんは例外なのかい?
「そうだね。話はあとで。今、ゲートを開くから」
俺を帰してくれるのはありがたいがね。お前さんはずっとこんなことを繰り返してるのかい? たった一人でさ。
「僕は%だからね。あなたたちγ体とは精神構造が違う。平気だよ」
本当に平気なやつは平気とは言わねえんだよ。
いやっ、そうだな……。俺の物差しがお前に当て嵌まるとは限らねえよな。きっとお前の言うことが正しいんだろう。
でも、それはお前にも同じことが言える筈だよな? お前の物差しが俺に当て嵌まるとは限らねえ、し……。
どうやら兄貴も俺に同意見みたいだな?
アナウンスが走る。
【大人の矜持】【覇道の礎】
【無数の墓標の一つでしかない】
クァトロくんは勇者だ。勇者には行動制限や思考制限をひっくり返す【戒律】が備わっているのだろう。逆臣の処刑は大人の矜持に。それは、もしかしたら指揮下にある儀仗兵を正しく運用できる【戒律】なのかもしれない。
でも、それだけじゃない。
俺のアビリティは心に作用する。
人間は中身じゃない。見た目だ。
中身がどうであろうと、見た目ガキンチョのクァトロくんを置いてケツまくって逃げ出すのは俺の流儀じゃない。
その結果、キャラクターロストしようが別に死ぬ訳じゃないしな。
しょせんゲームじゃねえか。最後まで付き合ってやるのもいいさ。
だろ? 兄貴。
命の火が燃えている。
兄貴の中の人がパチッと目を覚ました。
ギョロリと目を動かし、クァトロくんをじっと見つめる。ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。
「よう、タコ助。チビどもは元気かよ?」
あれっ、ちょっとイメージと違うな?
もっとこう、騎士的なイメージだったのだが。
タコ助。クァトロくんはコクリと従順に頷いた。
「はい」
ハイて。
勇者様は直立不動の姿勢をとった。
兄貴がギロリと俺を見る。俺も直立不動の姿勢をとった。
「誰だお前? まぁいい。私の子分にしてやるよ」
俺は兄貴の子分になった。やったぁ。
おっと話し込んでる場合じゃなさそうだ。狙撃兵が吹っ飛んでいった方角がチカッと光る。
飛んできたレーザー砲を、兄貴はチョイと首を傾げて訳もなく躱した。
「けっ。アイツの手下かよ。モブがはしゃぎやがって」
兄貴の機体が槍を狙撃兵に突きつける。そして傲然と言い放った。
「30秒でケリを付ける。野郎ども、付いて来い!」
あいあいさー!
俺とクァトロくんはびしっと敬礼した。
これは、とあるVRMMOの物語。
兄貴、覚醒。
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