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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
193/978

GunS Guilds Online

 1.ティナン姫の屋敷-庭


 後ろからぽんと肩を叩かれて俺はドキッとした。


「よう。どうだ? ウチのクァトロは」


 サトゥ氏。クァトロくんか……。

 いや、分かった。素直に認めよう。大したもんだよ。新規でレベル999とは恐れ入ったぜ。この先どこまで成長するか楽しみだ。

 そう言って俺はサトゥ氏をじっと観察する。

 サトゥ氏はニコッと笑った。


「だろ? 俺もまさかここまでとは思わなかった」


 あっ。コイツ……。俺は察した。

 こいつ、別にクァトロくんの正体を知ってた訳じゃないんだ。ただ赤カブトの例があるから、αテスターなんじゃないかとは疑ってたんだな。俺は%じゃねえかと睨んでたがね。

 まぁそれは仕方ねえ。サトゥ氏は知る由もないが、つい先日俺は鬼武者の巣に寄って写真を撮ってきた。その時、端っこの一体が欠けてるとかそういったことはなかった。俺は以前に学校マップで鬼武者たちに二時間ブッ続けで自己紹介したこともあるからな。可愛い生徒たちを数え間違えるなんてことはない。

 クァトロくんがαテスターじゃないことは分かってた。となると答えは必然的に絞られてくる。

 ただ、思ったより偉い人が出て来たのでビビッているのだ。

 ヤバい。俺、完全に先輩風を吹かせてた。そして、それはサトゥ氏も同様なのだろう。サトゥ氏は幼稚で負けず嫌い。俺も幼稚で負けず嫌い。だから分かる。俺たちは今更になってクァトロくんに対して態度を変えることはできない。これが漫画なら、俺とサトゥ氏は後日クァトロくんに頭を下げて「知らなかったとはいえ数々の無礼を」とか言って慌てたクァトロくんに「そんな、今まで通りでいいよ」とか言われるパターンだ。しかし現実はそんなに甘くない。俺たちゴミにだってプライドはあるし、権威に屈する人間であると思われたくはない。しかしそんな下らないことに命を掛けるのもアホらしい。そう、命だ。クァトロくんの正体は勇者。つまり本社の会長。完全な意思決定権を持っている。端的に言うと、俺とサトゥ氏のリアルがピンポイントでヤバい。

 サトゥ氏は笑っている。


「しかしクァトロは優しすぎる。非情になりきれない面がある」


 コイツ……相当カマしたな。自棄になってやがる。くそっ、しかしサトゥ氏がレースを降りないというなら俺だって……。

 俺も自棄になって言った。


「まぁお手並み拝見と行こうか。見せて貰うぜ? 【敗残兵】期待の新人とやらの実力をな……」


 俺とサトゥ氏がアホな会話を繰り広げている一方その頃、クァトロくんはライフがゼロの俺らを畳み掛けるように更なる勇者ムーブに見せつけてくる。

 遥か上空に死出の門が咲き、知らないデカブツさんたちが舞い降りてきたのである。

 クァトロくんにひざまずき、臣下の礼をとるデカブツたちにクァトロさんは苦笑し、


「そうだね。僕には君たちも居る。行こうか」


 ほ、ほう。レプリカを従えるのか。こ、ここまでは及第点だな。ね? サトゥ氏。


「うん」


 サトゥ氏はコクリと頷いてぎゅっと俺の手を握った。心が折れそうになっている。かく言う俺も似たようなものだ。今からでも土下座して命乞いするべきなんじゃないかと頭の中の冷静な部分が囁いている。

 命乞いは得意だ。このゲームの本質はキャラ育てゲーだから、事あるごとに命乞いしてきた俺は命乞いに適したパーソナルを獲得している。

 よし、やるか。そう意を決した、その時である。


【GunS Guilds Online】【Loading……】


【バトルフェイズに移行します】

【戦列を組んでください!】


 バトルフェイズ? 戦列? よく分からんが、サトゥ氏と一緒に居れば安心なのかな? 念のためにウチの子たちとも手を繋いでおきたい。俺はサトゥ氏の手を引いて歩き出そうとしたが、ゴミが多すぎるので断念した。しばしぼんやりと待つ。

 戦列……。あっ、パーティー組めってことか!?

 俺とサトゥ氏はバッと顔を見合わせた。しかし身体は正直だ。交差した無言申請に、俺とサトゥ氏はとっさに反撃を選択した。俺の斧を掻い潜ったサトゥ氏がくるりと回って俺の首を切り裂く。

 ぐふっ。つ、強い……!

 俺はどうと倒れ伏して死んだ。


「ああっ。しまった! こ、コタタマ氏ぃー!」


 片方が死んでしまったらパーティーを組むもクソもない。そして、どうやら時間切れのようだ。ふわっと幽体離脱した俺を、地面から伸びてきた無数の手が地中へと引きずり込む。アットム……。



 2.ョレ宙域-深部


 ぺいっと宇宙空間に放り出された。

 いや宇宙空間ってお前。

 だが宇宙空間である。

 地球よりも緑色が濃い惑星がぽっかりと宇宙に浮かんでいる。ナメック星みたい。スクショ撮っておこう。スクショ、スクショ。

 だがスクショを撮っている場合ではなかった。俺の身体が勝手にどこかへ行こうとしている。どこへ行く、俺よ。

 おぅ、これは【目口】ボディ。まったく違和感が働いてくれなかったので気付くのが遅れた。俺は【目口】となってどこかに連れ去られようとしている。

 ……何なのだこれは? 一体どうすればいいのだ?


【Phase-1】


 あ? フェーズ1?

 うっ。そ、そういうことか。

 俺は頭で考えるよりも先に身体で理解した。立派に育ったクソ虫どもがビュンビュンと俺の周りを飛び回って光線を打ち込んできやがる。

 くそがっ、何が何だかさっぱり分からねえが、この俺に歯向かって生きて帰れると思うなよ! オンドレぁ!

 俺はブンブンと触手を振り回してクソ虫どもを撃墜していく。だがリーチが足りない。飛び道具っ。飛び道具が欲しいっ。

 おっと視界の端にポンとちびナイが現れた。飛蚊症かな?


【GunS Guilds Onlineの世界へようこそ!】


 出たっ、渾身の目潰し!

 やめろ! 邪魔すんな! そんなだからお前は巷でラスボス扱いされるんだよ! 近頃じゃもう敵がアナウンスを利用して攻撃を仕掛けてくるようになった感すらあるんだぞ!

 だが鬼畜ナビゲーターは聞く耳を一切持たなかった。


【え? 私? 私はナイ! チュートリアルナビゲーターの天使ナイだよ! よろしくね!】


 知ってる知ってる!

 どけや! 人様の視界の端で跳びはねんな! 殺すぞ! こちとらリアルタイムでクソ虫どもの集中砲火を浴びとるんじゃ!

 しかし鬼畜ナビゲーターはこちらの都合など知ったことではないとばかりに話を先に進めた。


【あっ、大変! ギルドが襲ってきたよ! まずは移動して攻撃を避けなくちゃ! 上下左右に移動してみて!】


 えっ、今? あまりのことに俺は怒鳴ることさえ忘れた。ち、チュートリアルを始めようってのか? 移動してみてって……。さっきから移動してるし、既に実戦に放り込まれているような気がするのだが……。実はチュートリアルモードで安全だったりするのか?

 ひとまず俺はネトゲーマーの習性として言われた通りに上下左右に移動した。当然避けきれる訳がないので、光線がバンバン俺の身体にヒットしている。

 しかしちびナイは両手をパチパチ叩いて大喜び。


【上手、上手! その調子だよ!】


 おお、そうか? そう手放しで誉められると悪い気はしねえな。俺は杭みたいな歯列をガチガチと打ち鳴らして喜びを表現した。


【次は攻撃ね! あなたは近距離戦が得意なタイプだから、近付いてきたギルドに斧で攻撃してみて!】


 近付いて来ないんだがどうしたらいい?

 ……返事はない。仕方ない。こっちから近付くしかなさそうだ。俺は被弾に構わず直進し、手頃なクソ虫を触手で捕獲。斧の先端で丁寧に三枚におろした。念のために味見をしてみる。むっ、意外とイケる。

 視界の端でちびナイがパチンと指を鳴らしてくるりと回った。


【お見事! でも調子に乗ってると〜……ほら危なーい!】


 何やら前方でチカッと光った。危なーい! 俺は宇宙空間をころりと転がって避けた。レーザー砲みたいなのが俺の横を通り過ぎ、俺の触手が二本ほど持って行かれた。えっ。マジかよ。今の直撃食らったらヤバくない?


【大丈夫!? 今の攻撃は狙撃兵ね! 最終フェーズに配置されてるボスの攻撃はとっても強力で、油断したらエンドフレームでも一発でやられちゃうかも! 気を付けて!】


 エンドフレーム? この身体のことか?

 おや、視界の端に新たに運営ディレクターが出しゃばってきたぞ。

 ちびナイがョ%レ氏を例に解説する。


【このゲームのキャラクターには二つの形態があるの。一つはコンフレーム。消費エネルギーが低くて、エンドフレームを維持するために働く、言ってみれば働きアリさんね!】


 視界の端でタコ野郎がむくむくと膨らむ。


【そしてもう一つがエンドフレーム! ギルドとの決戦に使われる最終フォームだよ! でもエネルギーの消費が激しいから、普段は眠ってるの】


 あれ? でもレ氏にはリア充の権化バージョンがあるじゃん。それに関してはどういう扱いになる訳?

 ちびナイは腰の後ろで手を組んでにぱっと笑った。


【本当は三段階あるんだけどね。あなたたちは変身できるタイプの種族じゃないから二段階までってことにしてるんだよ】


 変身できるタイプの種族じゃなくてゴメンなさいね。俺も本気出せば変身できるんじゃねえかと色々試したんだけどさ、なかなかフリーザ様みたいには行かねえわ。

 

【でもでも、あなたたちのコンフレームはとっても効率的! コストが良くて、エンドフレームへの負担が凄く小さいんだから!】


 雑魚でゴメンなさいね。俺ら、海で生きてくのちょっとキツくて陸に逃げたクチだからさ。

 狙撃兵とやらの長距離砲は連発できないようだ。すい〜っと宇宙を泳いでクソ虫どもを捕食していく。エネルギーが補給されているのを感じる。レーザー砲に持って行かれた触手が一本復活した。よし、この調子だ。ボス戦までには万全に仕上げたい。

 おや、クソ虫どもが撤退を始めたぞ。兵力が一定の割合を切ると、次のフェーズに進む仕組みのようだ。俺の身体が勝手にどこかへ連れて行かれる。


【Phase-2】


 ボスを見失うのはヤバい。俺はギョロギョロと目を動かしてクソ虫どもの動きを探る。

 狙撃兵とやらの長距離砲は威力がケタ違いだ。発射の直前にはクソ虫どもが射線に入らないようアクションを起こす筈。そら来たぞ。

 斜め後方がチカッと光る。俺はころりと転がってレーザー砲を回避した。よし、完全に見切った。

 ……つーかさ、これチュートリアルなんだよね? チュートリアルなのに一発食らったらアウトっていう難易度なの?

 視界の端でくるくる回っていたちびナイがぴたりと動きを止めた。ウィンクなどしてこちらを指差してくる。


【操作に慣れてきたみたいね!】


 慣れる慣れないで言ったら最初からある程度動かせたんだが。

 今のところ有益な情報が一切ない。何なんだ、この茶番は。


【でも油断は禁物! 最終フェーズで待ち受けるボスは最高指揮官の指揮下にあるギルドだから……今のあなたじゃ勝てないかもしれない】


 お前ら……。俺らを囮に使いやがったな?

 遠くで他のゴミどもが戦ってるのが見える。でも、そこまで行ける気がしない。感覚的に分かる。これはチャンネルの違いだ。そういうことか。チャンネル操作ってのは【ギルド】の侵攻に対抗するための機能なんだな? 言ってみれば結界に近い。物理的にどうこうじゃなく、互いに可能性を潰し合ってる。そんな気がする。

 ちびナイは俺の話を無視した。


【でも今回は大丈夫! 強い味方が居るからね!】


 おっ、いいね。チュートリアルっぽくなってきたぞ。


【ゲスト参戦!】


【儀仗兵】【ペペロン】【Level-1524】


 おお! クァトロくんのお仲間っぽいデカブツさんじゃねえか!

 颯爽と駆け付けたペペロンさんが槍をブンブンと振り回して次々とクソ虫どもを撃破していく。心強すぎる。


【逆臣の処刑】【覇道の礎】

【無数の墓標の一つでしかない】


 お? お? ペペロンさんの機体が命の火を纏ったぞ。何だろう。ちょっと雰囲気が尋常じゃない。

 ちびナイさんや。これは一体?


【儀仗兵は特定の条件を満たすとパワーアップできる強力な上級職だよ! ちょっとやそっとのダメージじゃびくともしないんだから!】


 ば、バルキリーモードか。

 ……とても嫌なことを聞いた。つまり【戒律】の文言から察するに……君主の指揮下に入った儀仗兵は、君主を殺さない限りキャラクターロストするまで戦い続けるのだ。

 何なんだ、このゲームは。上級職が軒並みクソ過激な【戒律】を搭載してやがる。

 だが命の火を燃やしてクソ虫どもに襲い掛かるペペロンさんはとても頼りになる。

 へへっ……。ペペロンの兄貴、その調子で頼んまっせ。俺は触手を擦り合わせながら、へこへことペペロンの兄貴に付いて行く。

 強キャラのゲストを頼りにイベントを乗り越えるのはチュートリアルの醍醐味だ。俺もあやからせて貰うとしよう。

 おっと兄貴。レーザー砲が来まっせ。俺は兄貴の槍に触手を巻き付けてくいっと引っ張る。完全には避け損ねた兄貴の片腕が吹っ飛んだ。

 ……ええ? 俺はドン引きした。今の、俺が何もしなかったら兄貴消し飛んでたよね? 数多の死線を潜り抜けてきた戦闘巧者とかそういうアレじゃないの? もしかして理性飛んでる?

 いや、すぐに腕が生えてきたぞ。そうだ。兄貴には永続リジェネがある。だ、大丈夫か? イケるのか? このまま兄貴に付いて行って大丈夫なのか?

 一抹の不安を胸に抱きながら、俺と兄貴は最終フェーズとやらに駒を進めるのであった……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 不穏な兄貴……。



 GunS Guilds Online


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パーティ申請は殺し合いの合図が染みついてるから咄嗟に殺してしまうのウケる
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