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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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英雄の死

 1.ギスギス学園-Z組教室


 数多くのゴミが潜在的に俺と同じアビリティを秘めている。だからだろう。ここぞという場面でプレイヤーは一つの目的に向けて団結しうる。

 サトゥ氏が劇的な復活を遂げたように見えたから、サバイバル期間の残り一日半をゴミどもは和気藹々と過ごした。どさくさに紛れて一人だけ三次職にコマを進めたリチェットを質問責めにして泣かせたり、新入生歓迎会の部活発表よろしくクランメンバー勧誘会をしたり、絡んできたゴミの首を刎ねたりな。俺はしこたま飲まされたらしく、気付けば懐に収めていた筈の巻物がドロンしていた。盗んだやつを殺したい。というか殺した。だが俺の巻物ちゃんは返ってこなかった。売り飛ばされたのだ。巻物紛失が発覚した俺に、チームメイトのピエッタさんはすっかりおヘソを曲げて口を利いてくれなくなってしまった。悲しい。もるるっ……。

 そうそう、新しく解放された電撃魔法の【重撃連打】も色々と試したぞ。試した結果、術者も感電して死ぬことが判明した。同じ電撃魔法の使い手たるスピンドックの親分には雷を制御する角が生えている。が、そのような便利な器官は俺ら人間様には備わっていないのである。絶縁体を巻く、避雷針を設けるなど思い付く限りのことを試してみたが無駄だった。まぁつまりなんだ。結論を述べると、名実ともに人間爆弾が完成した。今後のレイド戦では人間爆弾さんたちの自爆がメインの攻撃手段になるだろう。

 ここ二ヶ月で国内サーバーの魔法職は着実に手札を増やしてきた。既存の【全身強打】【心身燃焼】に加え、【風速零下】と【迅速発破】、そして今回の【重撃連打】だ。

 そうさ。これからじゃねえか。プッチョムッチョのスキルはゴミすぎて嫌がらせにしか使えねえが、【重撃連打】は違う。これからの人間爆弾さんたちは【全身強打】を撃って気分を害したレイド級に殺されるか【重撃連打】で派手に自爆するかを選ぶことができる。手札が増えればやれることも増えていく。もしかしたらエッダにも勝てるかもしれない。エッダに勝てたなら、スキルにブーストを掛けることだって不可能じゃないだろう。そうすれば人間爆弾さんたちは今よりももっとド派手に自爆できる。

 これからじゃねえか……。

 なのに、サトゥ氏は俺たちとは共に歩めないと言う。

 窓から差し込む夕日がZ組の教室を赤く照らしている。

 俺はガタガタと椅子を引きずってサトゥ氏の斜め隣に座った。溜息を吐いて言う。


「どうにもなんねえのか……?」


 サトゥ氏に悲観した様子はない。妙にさっぱりとした表情で「ああ」と頷く。


「ならない。俺は無茶をし過ぎた。あるいは先生やネフィリアの言うように、モモ氏と戦う前だったら何とかなったのかもしれない。俺だって別に死にたい訳じゃないからな。さっきGMマレには相談したよ。そこでハッキリ言われた。今の俺は燃料が少なすぎる。施術に耐えられるだけの体力がない」


 サトゥ氏によれば、一度は【刺しビン】に完全変形したコイツを無理にでも救おうとするなら、ポポロンの【全身強打】を当てて粉々にしてからワッフルの【心身燃焼】で多重封印を施すしか手がないらしい。

 しかし、その多重封印とやらの燃料になるのはやはりサトゥ氏の生命力そのものだ。それ以前にポポロンの【全身強打】を浴びた時点で燃料が切れるかもしれない。

 だが、例えば……。サトゥ氏よ。【NAi】には声を掛けてみたのか? お前はアイツのために身体を張ったようなもんだ。


「俺にそのつもりはなかった、し……。コタタマ氏。俺は一時的にとはいえ、モモ氏を圧倒できるくらいの力を手に入れた。一定以上の域に辿り着いたプレイヤーなら、やろうと思えば俺と同じことができるだろう」


 そりゃそうだろうが……。


「コタタマ氏。俺はこのまま死ぬべきだ。悪しき前例にはなりたくない。ゲーム性を壊すなんて真っ平ごめんだ。記憶を失っても俺は絶対に戻ってくる。だから、このゲームをつまらなくするのは嫌だ」


 ……マーマからガムジェムを借りるってのはどうだ? マーマは出し渋るかもしれんが、俺から上手く言ってやるよ。


「俺は壊れた蛇口だ。延命にしかならないだろう。ガムジェムを俺がずっと持つのか? そりゃ無理だ。とてもじゃないが守りきれない。確実に奪い取られる」


 ……マジでどうにもなんねえのか。

 サトゥ氏は笑った。


「コタタマ氏。お前は大丈夫だ。お前が意識的に【目口】の力を使ったのはキルペナ食らってた時だけだからな。先生も言ってただろ。キルペナってのは釣り針の返しだ。母体がこっちに出て来ないよう押しとどめる役割もある」


 俺のことはどうでもいいんだよ。

 お前が居なくなったら……【敗残兵】はどうなる? 俺らのやったことは……無駄だったのか。


「無駄じゃない。感謝してるよ。お陰でこうしてお前と話せてる。お前らは俺に時間をくれた」


 セブンは? リチェットには? この件はもう話してあるのか?


「いや。お前だけだ。やっぱ最後の最後まで俺が一緒に遊ぶのはあいつらだからさ。湿っぽくなるの嫌なんだよな。でも、具体的なタイムリミットが分かんないからさ。事前に誰か一人くらいには伝えておかなくちゃなって思ったら、頭に思い浮かんだのがお前だったんだ」


 責任重大じゃねえか。

 だが、まぁそうだな。お前の気持ちも分からんでもない。……そう。そうだな。お前と話すのはこれが最後になるかもしれない。

 いつまでもグダグダ言ってても始まらねえ。よし。サトゥ氏。俺に言いたいことがあるなら言っとけ。まず【敗残兵】だが……。お前の後釜はセブンでいいんだな?


「俺も最初はそのつもりだったんだが……。気が変わった。俺に代わって今後ウチの頭を張るのはリチェットだ」


 リチェットは意外と意外でもなく隙だらけだぞ。本当にいいのか?


「いいんだ。あいつがクラスチェンジした時、俺は【敗残兵】を率いるリチェットの姿が見えた気がした。あいつに継がせる。おれがそう決めた」


 後継はリチェット、と。他には?


「メガロッパを幹部に上げる。これは、できれば俺が生きてる内に」


 むしろどうして今まで上げなかった? 何か事情があるのか?


「お前だよ。メガロッパはお前をライバル視してる。なかなか楽しそうなことになってるな、と。しばらく気楽に遊ばせてやりたかった」


 面白がってんじゃねえよ。とにかく実力は十分なんだな? メガロッパ幹部入り、と。他は?


「コタタマ氏。ウチに来いよ」


 無理。次。


「無理じゃないさ。お前の言葉には力がある。人を動かす力だ。MPKや魔眼は便利な力だが、お前の本質じゃない。お前には優秀な手足が必要だ。査問会もまぁまぁだが、ウチのメンバーほどじゃない。コタタマ氏。ウチに来い。俺はお前が欲しい」


 嫌だね。俺は先生の元を離れるつもりはない。第一秘書だからな。

 サトゥ氏は苦笑した。


「振られた……」


 キショい言い方すんな。俺のホモ疑惑は大半がお前の所為なんだぞ。


「いや、ホモっつーか。もしも結婚イベント実装したら男女は関係ないからなぁ。有能なキャラに唾つけとくのは常識だろ」


 まぁね。それは分かる。身体目当ての結婚は連綿と受け継がれてきたネトゲーの文化だ。あのさ、JKいいよな。俺の中でJKの野郎は筆頭候補なんだよ。あいつ結婚相手として申し分ないだろ。


「分かる。ニジゲン最高だよな。俺もβ時代から目ぇ付けてたんだけどさぁ。あいつ、なんかやたらと俺を怖がるんだよ」


 そりゃ、だってお前、マシーンじゃん。冷徹な戦闘マシーンと結婚するのはキツいだろ。子供作って能力継がせる機能とか実装したらさ、サトゥ氏は嫁さんを子供産む機械みたいな扱いしそうなんだよね。


「それは仕方なくない? 僕アカでも轟家の個性婚が色々と言われてるけど、実際に成功例が生まれちゃってる訳じゃん? 子供ガチャ引けるなら引くわ。SSR引くまでがんばるよ。それが当たり前でしょ」


 セクハラ担当の峰田くんの個性強いよな。轟パパに狙われないか心配だわ。


「俺は轟パパが面食いだって信じてるから」


 個性個性言っといて嫁さん美人だもんな。納得行かねえ。

 ネカマ六人衆に関しては何かあるか?


「あの人たちは完成してるから。俺が口出しできる領分を越えてる」


 スマイルの旦那については?


「俺の寿命が縮んだのはアイツの所為だと噂を流す」


 怖っ。陰険だわ〜。

 何よ。なんなん? お前らの過去に一体何があった訳?


「裏が取れた。サタウのクランメンバーを殺ったのはアイツだ」


 おお。復讐に燃えるサタウか。最近見てないな。まさか?


「サトウさんを追ってる。サトウさんは……そういう人だ。聖騎士をバラ撒いてプレイヤー同士の争いを煽った。サタウが仲間を大事にしてるのを知ってたから、アイツは……。アイツは、そういうやつだ。プレッシャーを与え続けないとウチも危うい。追い落とされるかもしれない。金になるってのは強い誘い文句だ。幾らでも仲間を増やせるだろう」


 それだけか?


「……サトウさんは俺には優しかった。俺はあの人にとって便利な駒だったから。俺にとって、サトウさんは『いい人』で、苦しかった時に手を貸してくれた『恩人』なんだ。恨み言を吐かないと戦えない」


 ふむふむ。こんなもんか。

 そろそろ結果発表の時間だ。俺は頭を整理しながら席を立った。


「コタタマ氏。このことはくれぐれも……」


 ああ。他言無用だってんだろ? 分かってるさ。

 俺はひらひらと片手を振って教室を出た。んんっ……!


『あ、リチェット? 今さぁ、お前んトコのマスターがさぁ……』


 俺は速攻でチクった。

 そりゃチクるわ。残される側の身にもなれってんだ。


 かくしてサトゥ氏は【敗残兵】メンバーに連行され、残された時間を湿っぽく過ごすことになった。俺もお呼ばれしたぞ。


「コタタマ氏〜! お、俺を裏切ったな〜!」


 ええいっ、黙れ。勝手に俺を共犯者に仕立て上げようとしやがって。

 俺は【敗残兵】のクランハウスでベッドに寝かせられているサトゥ氏を指差した。

 裏切っただと? 違うね。俺は最初からこっち側さ。

 そう言って俺は、ベッド脇でサトゥ氏をガッツリ監視しているリチェット隊長殿にもるもると鳴いて擦り寄った。隊長殿が俺の頭をよしよしと撫でる。


「コタタマ。ご苦労だったな。感謝するぞ……。危うく騙されるところだった」


 ははーっ。


 なお、サバイバルで優勝したのはスマイルの一味だった。

 売名に成功したサトウシリーズ御大はいよいよRMT稼業に本腰を入れたらしく、山岳都市にはRMTを宣伝するエリアチャットが流れるようになった。

 ……そう、君主はささやき魔法【ナイ】の二段階目を使える。そして、それは予測済みの事柄でもあった。スマイルがネカマ六人衆を暗殺して君主のジョブを奪い取ったのは、エリアチャットを得るためだったのだろう。

 サトゥ氏はもう因縁の相手を追うことはできない。決着は持ち越しだ。


 サトゥ氏の命が尽きようとしていることは、リチェット主導で大々的に発表された。

 見舞いの客がひっきりなしにサトゥ氏の部屋を訪ね、【敗残兵】のメンバーはそれを見守っていた。

 そしてサトゥ氏の最期がいよいよと近付いてきた頃、【敗残兵】メンバーはサトゥ氏を連れて秘密の旅に出た。どこへ行ったのかは分からない。俺も誘われたが、遠慮した。

 サトゥ氏と一番長く一緒に居たのは彼らだったから。


【敗残兵】が旅から戻ってきた時、そこにサトゥ氏の姿はなかった。

 燃え尽きるような最期だったと言う。



 2.一ヶ月後-マールマール鉱山-山中


 サトゥ氏の死から一ヶ月の歳月が流れた。

 

 国内サーバー最強の男の死はプレイヤーたちに大きな衝撃を与えたが、だからと言っていつまでも立ち止まっている訳には行かない。

 ゲーム内の季節は冬から春へと移ろい、人の世も移ろう。

 新規ユーザーは日々増えていく。

 残されたものを受け継いで行かねばならない。

 教わったものを伝える側に回った時、人は自然と甘えてもいい段階を過ぎ去ったのだと自覚する。

 かつての新入りが先達となり、まだ頼りない後輩たちを叱咤激励して導いていく。


 今日もまたマールマール鉱山の山中では無謀な新人が足を踏み入れ、モンスターの餌食になろうとしていた。

 男女混合のパーティーだ。山岳都市の広場で組んだ野良パーティーだろう。連携がぎこちなく、装備もまちまちだった。


 マールマールの眷属は見た目こそ大きなモグラだが、現在確認されているモンスターの中でも屈指のタフネスとパワーを誇る。

 また山林での戦闘ということもあり、足場と視界が悪い。それが街を出てすぐのスピンドック平原との大きな違いであり、VRMMOの感触に慣れ始めた頃の初心者は、大抵がここマールマール鉱山でつまずくことになる。

 実のところ、人間の身体は斜面で戦えるようには出来ていない。せめて少しでも平坦に近い開けた場所を選ぶべきなのだが、索敵を怠るとそれすらままならない。仮に別個体と遭遇してリンクしたなら、いよいよ勝ち目は万に一つもなくなるだろう。

 モンスターの厚い毛皮に刃を阻まれた新入りたちが悲鳴を上げる。


「だ、ダメだ! 全然効かない! 魔法は……!」

「無理だって! さっき撃ったばかりだよ!」

「来た道を戻ろう! 俺が時間を稼ぐ!」


 近接職の男がしんがりを買って出る。パーティーの中でも頭一つ抜けた実力者なのだろう。全身の力を使うすべに長けるようだ。

 しかしモンスターの膂力は凄まじく、攻撃を受けるたびに男の疲弊は積み重なっていく。もう一人の近接職が果敢に挑むが、呆気なく殴り飛ばされて木の幹に強く身体を打ち付けてしまった。

 魔法は撃てない。

 近接職は一人が沈み、もう一人は体力の限界が近い。

 窮地に陥るパーティー。


 その時であった。

 一人の人物が木陰からふらりと姿を現し、溜息を吐いた。


「この狩り場はルーキーには厳しいと思うが」


 高い声。女だ。フードを目深に被っており、容貌までは分からない。

 斜面の上に立つ小柄な人影に気付いた魔法使いが涙目で訴える。


「た、助けて……!」


 フードを被った女がもう一度溜息を吐いた。


「魔法使いか。そうでなければ、とうに見捨てるところだ」


 最初のジョブにわざわざ魔法使いを選ぶようなプレイヤーは貴重だ。


「それと……」


 フードの奥で女が鼻で笑う。


「ふん……。探したぜ」


 女がフードを跳ね除ける。長い髪が山間に吹き付ける強風になびいた。

 ハッとしたモンスターが振り返る。

 女はニヤリと不敵に笑った。


「そんな雑魚が相手じゃ退屈だろ? 来い。遊んでやるよ」


 モンスターが地を蹴って斜面を駆け上がる。

 女が魔石を投てきした。鋭く投げ付けられた魔石が繭と化し、不規則に空中で揺らぐ。

 クラフト技能だ!

 生産職が使う創造魔法【ョレ】は、魔石の質によって成果の上限、幅が決まる。

 市場で流通している最上級の魔石は、レイド級ボスモンスターから取れるものだ。

 繭を突き破って産まれた三振りの槍がモンスターに命中した。まるで槍が自らの意思を持ち、急加速したようだった。カウンターをまともに浴びたモンスターが大きく仰け反る。

 新人たちが喝采を上げた。颯爽と窮地に駆け付けてくれた謎の人物がモンスターを一蹴する……。ありふれた英雄譚であり、しばしば人は自らを舞台の主役だと思い込む。

 だが謎の人物にだって事情はあるし、このゲームのMOBはクソ強いので漫画みたいに上手くは行かない。

 体勢を立て直したモグラさんが斜面を駆け上がって女の腰を前足でホールドした。


「ちょっ、待っ……!」


 女の焦った声。

 だがモグラさんは待ってくれなかった。女を抱えたままバッと跳躍して、空中で上下反転する。

 垂直落下式のバックドロップだ!

 頭から地面に叩き付けられた女が、ぴんと垂直にそそり立つ。

 その女は有名人だった。

 助けられそうで助けられなかった新入りどもが口々に叫ぶ。


「あ、あの人は、晒しスレのテンプレ殿堂入りの……!」

「一人三役……!」

「魔族……!」


 犬神家みたいになった女が、ぱたりと倒れて死んだ。


「クラン潰し、バンシー!」


 そう、俺である。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 少しは成長したのかと思いきや、そんなことはまったくなかった。



 GunS Guilds Online

 


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― 新着の感想 ―
人間爆弾の起源はここかぁ。やったね!!!ウィザード君に役割ができたよ!!!
[一言] 3世代構想ってリアル話じゃなく母体同士の交配の話なんだろうか
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