【クーエミFes!】ランサーくんとアーチャーさん【新刊サンプル】
高校生モデルのランサーくんと×売れないロリババアアイドル(見た目ロリだが実はアラサー)アーチャーさんがもだもだする話。
相変わらず意味が分からない槍弓♀現パロ本です。
A5サイズ・約60ページ・600円で販売予定。
西1オ-63b でお待ちしています。
こちらの新刊と既刊『王子様のセタンタくん~』は少数ですが通販を行う予定です。
通販予約『王子様のセタンタくん~』(https://kasure.booth.pm/items/1288034)
『ランサーくんとアーチャーさん(https://kasure.booth.pm/items/1449974)』
こちらの新刊は夏インテにも持ち込み予定です。
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「ちょっと、アーチャー! 大変よ大変!」
いつものように古びた事務所の扉を開くと、十年来の親友兼、所属事務所の社長の遠坂凛が興奮気味に駆け寄って来る。
「なんだいきなり………ってああ、またいつものうっかりか?」
彼女とは高校生からの付き合いだが、当時から彼女が時折やらかす『うっかり』には親友のアーチャーは巻き込まれ続けてきた。社会人になった今も、時たま彼女が起こすうっかりの後処理を任されるのは昔馴染みであるアーチャーの仕事だ。
「全く、日頃から気をつけろと言っているのに……。それで、今回は何だ? タレントのスケジュール管理を間違えたのか、それともまたメール返信に失敗したのか?」
「ち、違うわよ! ていうか失礼よアンタ!」
つらつらと並べられた過去の失敗談に、凛は羞恥と怒りで顔を赤くさせながらも反論する。
「し・ご・と、よ! 仕事の話! 貴女に仕事の依頼が来たの!」
遠坂芸能事務所の社長こと遠坂凛は、目の前のどう見ても中学生にしか見えない小柄な女性――アーチャーの頭に依頼書を叩きつけた。
アーチャーは所謂『アイドル』というやつだ。
高校卒業してすぐ、親友である遠坂凛の誘いで彼女の実家が経営する芸能事務所に入りアイドルデビューした。
事務所に入ってから歌やダンスを学び始めたとはいえ努力を積み重ねたアーチャーのパフォーマンスはアイドルとしては十分に戦えるレベルであり、それなりに整った容姿や珍しい髪色は確かに人の目を惹く。
そして何より、凛がアーチャーに目をつけた一番のポイントはその凄まじい童顔だった。
背が低く、あどけない顔はどこから見ても中学生ほどにしか見えないが、本来は凛と同い年で、アラサーと呼ばれる年齢になって数年経つ立派な成人女性である。
どのぐらいの童顔なのかと言うと、高校生の入学式で『新入生の列に間違って小学生の女の子が紛れている』と登校初日に一瞬で在学生の間で有名人となったり、高校二年生の夏休みに凛と遊びに行った遊園地で小学生以下のしかもらえない入場特典の風船を係員のお姉さん何の疑問もなく手渡されたり、三年生の頃に街でキッズ服のモデルにスカウトされたほどの童顔だ。その他にも、映画館に高校生料金で入ろうとしても小学生ぶんの料金しか受け取って貰えなかったり、凛と年の離れた姉妹だと勘違いされたりと、その手のエピソードには事欠かない。
この圧倒的な童顔力をもってすれば、アイドル戦国時代も生き抜けると確信した凛の判断は正しかったろうし、実際アーチャーの容姿は驚異の一言に尽きる。
しかし、悲しいかな芸能界とは想像以上に険しい世界だった。
タレントに十分な実力があっても、誰にも負けない個性があってもどうにもならない部分がある。
単純に言えば、運――チャンスがないのだ。実力がなくても一寸したキッカケで売れる人間もいれば、実力があっても運が回ってこない人間もいる。そしてアーチャーは間違いなく後者だった。
大手の芸能事務所であれば世間へ大々的に売り込むこともできたのだろうが、何しろ遠坂芸能事務所は弱小事務所だ。かつてはそれなりの規模を誇った事務所も、凛の父親であった前社長が死去してからはすっかり衰えてしまった。
今や雑居ビルの一室に事務所を構え、所属タレントも十人程度で細々やってる小さな会社だ。
売れないアイドルのまま早ウン年。アイドルとしてのアーチャーの仕事と言えば、毎月小さな地下劇場で行う定期公演と、デパートの催事場や地方遊園地のステージなどへの営業ぐらい。
流石にそれだけでは食べてゆけないので、最近では所属事務所で事務作業の仕事をしている。
「ああ、仕事の依頼だったのか。で、今度はなんだ? デパートの屋上遊園地か? それとも旅館の宴会場か?」
アイドルの仕事といいつつまたいつものように営業回りだろうと思っているアーチャーは特別はしゃぎもしない。
「ふふん、今回はそんなもんじゃないわよ!」
しかし、のんびりとしたアーチャーとは反対に、凛のテンションは益々上昇する。
「聞いて驚きなさい、今回の仕事はなんと有名ブランドの新作夏物カタログのモデルよ!」
「……キッズ服のモデルではないだろうな?」
「もう、違うわよ! 確かに若者向けのブランドだけど、ちゃんとしたレディースブランドよ。ブランドの方だって貴女のことをきっちり調べた上でオファーを出してきたんだから」
凛から渡された資料に記されたブランド名は、ファッションにさほど詳しくないアーチャーでも名前ぐらいは聞いたことのあるアパレルブランドだ。
確か繊細なレースやフリルのついたブラウス、凝った刺繍の施されたドレス、たっぷりとギャザーをとったスカートなど、ロリータファッションの要素を取り入れたファンタジックで可愛らしい服が特徴のブランドだったはずだ。
「何だって、こんなに華やかなブランドがわざわざ売れないアイドルに依頼を出したんだ……?」
「先方が言うには、貴女の容姿が探してたイメージとぴったり合うんですって。ほら依頼書にも詳細が書いてあるでしょ」
確かに、依頼書には見た目は少女でも老成した雰囲気のモデルが中々見つからず困っていた所に、たまたまエミヤの存在を知りオファーをしたという旨が記載されている。
「…少女なのに…老成?」
『老成』の文字に思わず頬がひきつる。ほんの少しだけ年齢と見た目が釣り合っていないことにコンプレックスを抱いているアーチャーだった。
「ま、まあ。いつまでも若く美しい女の子なんて、ミステリアスで、いかにもファンタジー小説みたいで女の子が好きそうじゃない?」
今回撮影するのは新作カタログに使う写真だ。どうやらカタログといっても、ブランド側は古い童話のようなストーリー性を持つファッション写真集を作りたいらしい。
「ああそれとね、今回の撮影ではもう一人、男性モデルが起用されるのよ」
アーチャーが依頼書をめくった先で、ある名前が目に入る。
──クー・フーリン
「クー・フーリンって確か、今売り出し中の新人モデルだったか? ランサーって愛称で呼ばれてる……」
「そう、その彼よ」
ここら辺の話題に疎いアーチャーでもクー・フーリンの名前を知っていたのは、頻繁に彼がテレビで紹介されているからだ。
クー・フーリン、通称ランサーは現在日本で活躍する高校生モデルだ。両親共に生粋のアイルランド人であるが、幼い頃、ファッションデザイナーとして多忙な両親の代わりに日本にいる恩師に預けられ、そのまま高校生になった今でも故郷から離れた日本で暮らしているらしい。
中学生でデビューして二・三年程しか経たないものの、優れた容姿と生まれながらの才能で今や日本国内だけでなく海外の雑誌やショーからもお声がかかる程の活躍ぶりだ。
「今回は貴方の相手役としてクーフーリンを起用したそうよ」
すらりとした体躯に蒼穹の髪、輝くガーネットの瞳、透き通る白い肌。なるほど、童話の世界観にはうってつけの人材だ。
「……いや、しかし……」
ファッションモデルなどやったこともないアーチャーには、新進気鋭の実力派モデルの相手役は荷が重い。
「わざわざ私を選ばなくても、もっと若くて立派なモデルがいるのではないか? 初心者の私などでは企業にも、ランサーにも迷惑がかかるだろうし……」
アーチャーは依頼書を眺めながらうーんと唸る。
確かに仕事が無いアーチャーにとってはまたと無い機会だが、人間には出来ることと出来ないことがある。
「大きな仕事をやり遂げるには、相応の実力が必要だ。とても私がこなせる仕事ではない……」
若い時分ならば、ブレイクの足掛かりにと飛び付く無謀さがあったかも知れない。だがアラサーと言われる年齢になって、最近うっすらと今後の人生を考えるようになったアーチャーは酷く冷静だった。
しかし、尻込みしているアーチャーに向かって凛が一喝。
「つべこべ言わない! この仕事のギャラ一体いくら貰えると思ってるの!」
社長の鶴の一声と言う名の強行突破に、この瞬間アーチャーの初ファッションモデルの仕事が決まったのだった。
「…全く、どうなっても知らないからな」
「大丈夫、大丈夫。何とかなるわ」
「他人事だと思って……」
都内の撮影スタジオの片隅、用意された簡易的な椅子に座ってアーチャーとマネージャー役の凛は声を潜めて話す。
スタジオの中にはセット設営や撮影機材の調整などで多くのスタッフが行き来して大変騒々しい。二人の会話が周りに聞こえる事はないと分かっていても声を潜めてしまうのは、やはり初めての撮影スタジオにアウェー感があるからだ。慣れない現場に、二人ともスタジオの片隅で借りてきた猫のようになっている。
カタログ撮影は数ヶ月かけて行われる。モデルがアーチャーとランサーの二人だけなので、何人ものモデルを使う撮影とは違い、逐一着替えやメイク直しの時間がかかるので一回の撮影で着れる枚数も少なくなる。何着とある新作の撮影を二人のモデルだけでこなそうとすれば自然と時間もかかるというわけだ。加えて屋外での撮影や多忙なランサーのスケジュールとの兼ね合いもあるので、毎日のように撮影をすることもできない。
撮影だけでも相当な期間がかかる上、製本のための編集作業もある。まだ秋だとはいえ、五月頃の夏物発表に間に合わるにはのんびりする訳にもいかない。
だから、スタッフも撮影をさっさと始めたい、はず、なのだが……
「なぁ、予定ではランサーもそろそろスタジオ入りしてもよさそうな頃ではないか?」
「そうね。少し遅くなるっては聞いてはいたけど、流石に遅すぎるわね…」
アーチャーがスタジオ入りしたのは、およそ一時間前。
あらかじめ担当者に伝えられていたタイムテーブルでは、一時間前にはスタッフ・モデル共に全員集合。各スタッフとの軽い挨拶を済ませてから直ぐにメイクや衣装合わせに入ることになっている。しかし、予定の時刻から一時間過ぎたが、アーチャーは未だメイクどころか私服のままスタジオの片隅に放置されている。
それもこれも全て、主役の一人であるランサーが遅刻しているのが原因なのだが。
今日は丸一日ここの撮影のため後に続く仕事を入れていないとはいえ、帰宅時間が大幅にずれ込むと近所のスーパーのタイムセールを逃すの羽目になるので避けたい。
一分一分、無為に過ぎてゆく時間に少しずつアーチャーの機嫌も降下してゆく。
『こうして無駄に過ぎた一時間、掛け持ちのアルバイト先でならすでに時給の1100円がもらえているのに……』
待たされる苛立ちからそんな事を考えていると、俄かに出入り口のスタッフが騒がしくなる。
「クー・フーリンさん入りまーす!」
若い男性スタッフのアナウンスと同時に、開け放たれた鉄扉から一人の男性が入ってくる。
そこに現れた黒いキャップを被った背の高い青年だ。
「ランサー……ようやくお出ましね」
傍の凛がぼそりと呟く。
予定から約一時間半、やっとランサー一行が現場に到着したようだ。周囲のスタッフ達は作業の手を中断してランサーに向かって挨拶をする。彼はそれに軽い会釈を返しながらゆったりとスタジオ内を進んでゆく。
キャップから溢れる青く長い髪はライトの光で艶やかに輝き、すらりとした体躯は若い狼のようなしなやかさ。極めつきはその容姿だ。すっと通った鼻筋、平行二重のまぶたから覗く真紅の瞳に宿る光は引き込まれそうなそうな程強い。
なるほど、人気が出るのも頷ける。まさしく生まれながらにして舞台が用意された人間だ。
「行くわよ、アーチャー」
「ああ」
彼に挨拶をするべく凛とアーチャーは椅子から立ち上がると、丁度ディレクターに挨拶をしていたランサーに近づいてゆく。
奥から歩いてきた女性二人の存在に気づいたランサーはディレクターから視線を外すと、二人の方に向き直る。
「初めまして、クーフーリンさん。私、遠坂芸能事務所の遠坂凛と申します。どうぞよろしくお願いします」
凛は営業用の美しい笑顔でランサーに微笑みかける。
ランサーは凛の姿を見て一瞬固まると、白皙の美貌に年相応の無邪気で人懐こい笑顔を浮かべる。
「ああ、こっちこそ。挨拶が遅れてすまなかったな、クーフーリンだ。この業界ではランサー愛称で通ってる、そっちで呼んでくれてもかまわねぇよ」
凛を前にしたランサーはやけに上機嫌だ。
「それではランサーさん、今回ランサーさんとご一緒させて頂くうちのアーチャーをご紹介しますね」
一歩後ろで待機していたアーチャーはすっと前に出る。
突如、アーチャーの頭頂部に「あ!?」という声が降ってくる。カエルが潰れたような声の主は他でもないランサーだった。
「なんだこのちんちくりん。何だってスタジオにこんなガキが紛れ込んでんだ。キッズモデルが来るなんて聞いてねーぞ」
ランサーの言葉に凍りつく一同。
周囲のスタッフもあっけにとられた表情でこちらを眺めている。
ランサーの後ろに控えていたマネージャーらしき背の高い女性の顔がさっと青ざめる。言いたい放題の彼の言動に彼女が素早く制止に入る。
「ちょ、ちょっとランサー、口が過ぎます…!」
マネージャー風の女性はランサーの耳元で咎めるが、小さな声では彼に届かない。
「ったく。どこから紛れ込んで来たんだか知らねえが、ここは嬢ちゃんみたいなのが来ることじゃねえよ。さっさと家族んとこへ帰んな。ったく、折角美人な姉ちゃんと仕事できるってのに、ガキに騒がれたんじゃ興ざめだ」
流石のアーチャーも、この物言いにはカチンとくる。今すぐにでも皮肉の一つも返してやりたいが、相手はまだ未熟な高校生だ。噛み付くのも大人げない、そう思って必死に堪える。
自分にそう言い聞かせて、ぐっと我慢する。
「君の言う年上のねーちゃんは私だよ。こんなナリでもとっくに成人済みでね──それでは改めて。初めまして、クー・フーリン。私は遠坂芸能事務所所属のアーチャーだ。宜しく頼む」
アーチャーはランサーに見せつけるように美しく一礼する。
「はあ!? これが相手役? 相手役ってこの美人な姉ちゃんじゃねえのか!?」
凛と話していた時の笑顔は一体何だったのか、相手役が凛ではなく目の前のアーチャーだと分かるとランサーは明らかにガッカリした声を上げる。
「大体、成人済みとか嘘だろ!? 小学校高学年か、よくて中学生にしか見えねーんだが。なあ、アンタどんだけ若作りしてるんだ?」
余りにもデリカシーに欠ける発言の数々に、アーチャーは頭の片隅で何かが切れる音を聞いた。
「挨拶は?」
「は?」
ランサーの耳に真下から突然、冷ややかな言葉が入る。何を言われたのか分かっていないランサーに、アーチャーは再び問いかける。
「だから、共演者とスタッフへの挨拶はどうしたと聞いている。それとも、挨拶が出来ないなら、一から礼儀作法でも教えて差し上げようか。なあ、坊や?」
「っ、坊……!」
エミヤの挑発でランサーの顔が歪む。
目の前の年下にしかみえない女は、鼻を鳴らして冷笑している。実際見下ろしているのはランサーなのに、彼女に見下されている気がする。
「誰が坊やだ!」
「おや、違うのか“現在高校生”モデルのランサーくん? 遅刻をした事の謝罪も、関係者への挨拶もしない君はまだまだ未熟な子供にしか見えないがな」
エミヤの指摘にランサーはぐっと言葉を詰まらせる。正論を振りかざされてランサーはぐうの音も出ない。
「もう一度聞く……挨拶はどうした?」
幼子に語りかけるような優しくゆったりとした口調がなおさらランサーの神経を逆なでする。
「っ……! ヨロシクオネガイシマス」
「遅刻した事への謝罪は?」
「クソっ! 遅れてすいませんでした! ほら、これで満足だろうが!!」
「よろしい」
まるで教師のように頷くエミヤに、ランサーはますます眉尻を釣り上げると腹立たし気にスタジオ奥に歩き去ってしまった。
「あ、あの…本当に申し訳ありません。先ほどはランサーが随分失礼なことを…」
ランサーのマネージャーが慌ててアーチャーと凛に頭を下げる。
「彼にはちゃんと挨拶も謝罪もした。貴女から謝られることなんて何もないよ」
「ですが、貴女に暴言を……」
「彼も予想外の人間が相手役で驚いたのだろう。それに彼を煽った私も彼のことをどうこう言える立場ではないさ」
アーチャーはそう言うと、メイク室の方へ歩き去ってしまった。
アーチャーの後ろ姿を呆然と眺めるランサーのマネージャーと凛はお互い顔を見合わせて、困ったように笑う。
「お互い苦労しますね」
「ええ」
これからの撮影が不安だ。