崇拝せよ、偶像
――あんた、知ってるかい?
うら寂れた場末の酒場、じりじりと寿命を告げる照明の下で男は口を開いた。曰く、とんでもない傭兵が居るのだと。
何処の出か判らないその傭兵は、味方に有ればそれはそれは頼もしいらしい。戦力としては勿論の事、機械類や車の簡単な故障なら直してしまうし、野営ともなればその腕を振るって絶品な料理を振舞ってくれるらしい。
だが、敵にするとそれはそれは恐ろしいのだと男は言う。
外すことを知らない射撃の腕は、拳銃もライフルもお構いなしなのだとか。飛距離を明らかにオーバーするような場所から恐ろしいほど正確なヘッドショットをぶちかますのだと言う。奴ならきっと、ウィリアム・テルもメじゃねえぞと酒臭い息で男は笑った。
そして何より怖いのは、奴の最も得意とするのが無音の弓術なのだそうだ。
銃の様に発砲音のない、微かな風切り音すらも立てないで矢が一線に命を刈り取るのだと。そして、射手の姿は目に付くところにはいないのだとか。漸う目を凝らした遠く向こうに、微かに赤い布が翻るのが見えるらしい。
――そいつが何て呼ばれてるか知ってるか?
ぐびり、と醜く音を立てて杯を干した男が、勿体ぶって問うてくる。知らないと意味を込めて首を振れば、にやりと得意げに口が釣りあがった。
――あかいあくま、って言うんだとよ。
そうそう。アンタみてえに大柄で、色の黒い、白髪の男……で、真っ赤な布を襟巻みてぇに……。
彼は、もうそれ以上を口にすることは無いだろう。
【師の異名を継いだ話】
*****
本文は全く関係ないアクション俳優槍×スポーツモデルもやってるトレーナー弓
職場でTar●an読んでて思いついたんです……需要が分からない……。
週末だからって引きこもってポチポチしてた
勢いのあるうちにかく。後悔はしていない_(┐「ε:)_
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*現代パロっぽい何か
*モブ弓前提 槍→←弓
気に食わねェやつだと思った。
今度の役どころはバリバリのアクションが必要なスパイ役。
俺は生憎と似た背格好のスタントが居ない所為で、アクションも自分でやるのがウリ。台本とイメージボードさらっと確認して、こりゃあちょっと役作りのために身体作る必要あんじゃねえかなって思って、駅からウチのちょうど中間くらいにあったジムに申し込んだ。
「初めまして」
ジムのマネージャーに紹介されたのは、仏頂面で眉間に渓谷が出来てる一人の男。褐色の肌に真っ白な頭髪、異国の配色なのに顔立ちは東洋風。
多分俺より少し背が高くて、ガタイが良い。特に肩から胸周りの筋肉は同性であっても惚れ惚れする造形をしてる。羨ましい限りだ。生憎と俺はそこまで筋肉が太くなる体質じゃない。貧弱ではないけれど、叔父やコイツのように逞しい筋肉と言うものには若干の憧れがないこともない。
低く耳触りの良い声とともに差し出された手を握れば、ゴツゴツとした感触。節くれだった男らしい長い指と掌の其処此処にある胼胝は、一体何で付いたものだろう。
思わずしげしげと握ったままの手を見つめていたら、ひどく不機嫌な声が降ってきた。
「もういいかね。生憎、男と何時までも手を繋ぐ趣味は無いのだが」
「あ゛ぁ?」
びきり、と米神に青筋が立った気がした。思わず手を放せば、腰に下げたタオルで拭く始末。アレか、俺は汚いものか何かか。
苛々しながらマネージャーを振り返るが、しょうがないと言わんばかりに肩を竦めていた。チェンジ要求してもいいんじゃねえかな、俺。
「では、早速だがプランを決めて行こう。ある程度は此方で用意したので、要望があれば言ってくれ」
「は、ぁ?! いや、マテよ。まだ俺良いとも何とも言ってねえだろうが」
「では訊くが、私以上に君に相応しいトレーナーが居るとでも? 君と同等の体格で、君が扱うだろう負荷を支えられる人間が私以外に居るとでも思うのか?」
はん、と嘲る様に息をついた相手をぎりりと睨み付けるが、全くもって涼しい顔だ。腹が立つ。でも確かにこいつの言う事にも一理ある。
ざっとジムの中を見渡してもこいつ以上に優れた体格の奴は居ない。マシンにしろバーベルにしろ俺はそれなりの負荷をかけて鍛えるから、何かあった時のことを考えるとそれをサポートできる奴じゃないと駄目だ。
こいつの言う事を聞くのは非常に、そりゃもう腸が煮えくり返る位にゃムカつくが仕方がない。撮影が終わるまでの辛抱だ。ある程度身体が出来たらとっとと辞めりゃあ良い。
そんな、最低の出会いを果たしたわけだったが。
ぱらり、と手にした雑誌を捲る。
素晴らしい筋肉美を誇る半裸の男女が写るそれは、決して色っぽいものじゃない。トレーニング方法やらなんやらが載った、ちゃんとした雑誌だ。
その中で、見開き丸々使って輝かしい裸体の上半身を晒す男。褐色の背中には珠の様な汗が浮かび、美しい凹凸を描く筋肉を光の陰影が彩っている。横には商品名。筋肉のお友達、プロテインの広告。
そっと、紙面をなぞった。写る鮮やかな隆起とは反対につるりとした感触が返る。当たり前だ、印刷なのだから。
「……はぁ」
零した溜息は、思った以上に重たくて。
「俺ノーマルだったはずなんだけどなぁああああ……」
ぼふり、と大きな音を立ててベッドに身体を投げつける。仰向けに寝っ転がって、伸ばした腕の先には雑誌の写真。腰から僅かに横を向いた下顎までしか写らないそれは、モデルの詳細を隠すかのようで。けれど、その日焼けとは異なる褐色の肌と、項に僅か覗く白い髪が、知っている者なら一人の男をはじき出せる。
あの、数か月前に知り合った気に食わない男を。
■ ■ ■
第一印象は最悪。正直ジムを変えようかと思う程度には初っ端から舌戦を繰り広げた。
けれど結局変更しなかったのは、奴の作るプランが恐ろしいほど俺に合っていたから。何時の間にやら事務所と連携を取って俺のスケジュールを完璧に把握し、分刻みで俺の予定を作成してプランを立ててきた。
食べるものまで事細かに指示されて、面倒くさいと言えば朝食だけ頑張れと言われ昼夜のケータリングがされるようになった。塩分とか糖分とかきっちり考えて減らされてるはずのそれは、物足りないこともなく俺の舌にド嵌りして、もう他のモノが食えないんじゃないかとすら思った。
後々それが奴の手作りだったと知った俺の衝撃を考えて欲しい。その頃には胃袋をがっつりしっかり握り潰されていたから。
やっべえなあ、ほんとにもう外食なんか出来ねえじゃん。思いながら楽屋でメシ(アイツの弁当)食ってた俺に、共演者が話しかけてきた。生憎と大部屋だったもんで、まあ仕方がない。
――先輩って、何処のジム通ってるんですか? 俺、最近本気で鍛えようかなって……。
事務所の後輩であるそいつは、そう言って愛読書なんですとはにかみ乍ら雑誌を見せてきた。その表紙に写った男を見て声を上げなかった俺は偉いと思う。
顔は巧く文字で隠されたレイアウト。けれどそのパツパツの胸筋から板チョコみたいに割れた腹と括れた腰、何よりウイスキーみたいに艶めいた肌と、ちょとだけ見えるわずかに赤みのある白髪は見間違えようがない。俺のトレーナーだ。
もごもごとなんとかその場を誤魔化して、仕事帰りに本屋に寄ったのは言うまでもない。最近の本屋って深夜までやってくれてるから良いよな。
結論から言えば凄かった。
いや、何ていうの? 俺ノーマルだし筋肉フェチじゃなかったと思うんだけどさ。ヤバい。男の裸、それも別にブツが見えたりしてるわけじゃないもん見て勃つってどうなのよ、俺。いやブツみて勃つのもどうかとは思うけど。
表紙に載ってるって事は、ひとまず巻頭のトレーニング方法のコーナー。中ほどに商品広告で。そして運の良いことにインタビュー記事。顔は写さないこと、と言うのが条件なんだとそこで知った。
――それでは、鍛え始めたのはその経験から?
――ええ。私もいつか彼の様に誰かを救う事が出来たら、と思いまして。
その昔に救われた記憶。それを励みに身体を鍛えているのだと言う。
特技は料理、かつては国体選手で今も嗜む弓道は教士七段。……良く判らんがなんか凄そう。外見は先祖返りで肌の色は生まれつき。好きなものは猫さん。……なんだよ猫さんって。可愛すぎか。
んで、ターゲットが良く判らないグラビアコーナー。勿論健全に決まってる。まあ、筋トレ仲間にゃあ理想の筋肉像ってんでいいのかもしれんが、正直野郎の筋肉になんの需要があるのかと思った。けど此処に有った。
顔が写らないグラビアってなんだ、と思わないでもないけど、全身の躍動する筋肉が放つ熱気が紙面を通してくるみたいだ。筋の浮いた首、張りつめた二の腕。割れた腹筋から平らな臍の下、股間に続く筋が描く陰影はいっとうエロい。
黒いボクサーに包まれた尻は両頬に綺麗なえくぼがある。きっと張りがあって揉み心地が良いに違いない。アップになった首から鎖骨、胸筋。褐色の肌のくせして、そこだけ慎ましやかに珊瑚色の乳首を見たあたりでダメだった。俺の息子が痛い。
■ ■ ■
それからだ。俺の本棚にその雑誌のバックナンバーが増えたのは。
レギュラーと言うわけでもないが、頻繁に紙面に写る。それはコーナーの一部だったり、広告としてだったり。毎号毎号何かしら載ってるものだから、俺の本棚の一角がその雑誌に占拠されつつある。
で、俺の右手のお供は専らそれらの雑誌になってしまったわけで。
ばさり。と腕を曲げれば顔面を覆う紙の束。
不毛だ。不毛すぎる。何が悲しくてあんな可愛げの欠片もない……ないこともない、いや、にしてもあんなガチムチで色っぽい身体の……ってだから俺!!
紙に顔を埋めたままジタバタともがいてみても現状は変わらない。一つ盛大な溜息をついて、大人しく身体の欲求に従うことにした。抜いて寝るに限る。
今日の分の撮影を終えて、適当に汗を流したらジムに向かう。どうせまたこれからひと汗かくんだけど、なんとなくだ。なんとなく。決して汗臭い恰好であいつに会いたくないとかそういうんじゃない。だってどうせ汗だくになるしな! あの鬼トレーナー容赦ねえ!!
撮影後の微妙に疲労が残った身体でできるぎりぎり限界のところを見極めてしごいてくるあたり、嗜虐趣味でもあるんじゃねえかと思わずにはいられない。シャワーを浴びて、家に帰って、飯を食って寝れるだけの僅かな体力を残して根こそぎ搾り取ってくる。
搾ってほしいのはソコじゃねぇですけどー、なんて下らない事を考えていたら重りを一つ増やされた。酷ぇ。
そうやって俺を鞭で傷めつけるくせに、指示通りに身体をキープした後とか、奴が要求した段階をクリアした時とかに柔らかく飴を渡してくるからもう溜まったもんじゃない。俺みたいに単純な人間は、その貴重な飴が欲しくて言われた通りにお手をしてやるのだ。
もう末期。
Comments
- わんわんおJanuary 1, 2025
- September 28, 2023
- July 14, 2022