以前、ホンダ1300の話を書きましたが、空冷に固執する本田宗一郎氏に対して、若干ディスってる雰囲気を醸し出してしまったので、さぞかしコイツ、空冷嫌いなんやろうなぁ・・・
若しくは本田宗一郎が嫌いなのか?
などと思われた方もいるんじゃないか?と思います。
決してそんな事はないんですけどね(笑)
エンジンに関しては、空冷、油冷問わず、エンジンならば基本的に何でも好きです。
むしろそんな下らん事で区分けするヤツの方がどうかしてんじゃねーのか?
って思っているくらいです(笑)
空冷嫌いどころか、むしろ持ってるバイクは空冷の方が多いくらいですし。
さすがに空冷の四輪車は今は持っていませんが、過去に所有していた車で一番のお気に入りだったビートルタイプ1は、強制空冷式でした。未だに売ってしまった事を後悔している車です。
造形などの美しさ、趣味性の高さなら文句なしに空冷ですが、まぁ、時代なんでしょうか、環境性能や燃費性能を追求してゆくと、どうしても水冷の方が有利なのは否めません。
しかし性能(出力的な)を追求するなら水冷一択、みたいな事を言うと、一部のポルシェマニアから異議が出るかも知れません。
過去には1000馬力を大幅に超える空冷のレーシングカーも存在しましたし、特に1990年くらいまで市販車もレーシングカーもやたらと空冷が多かったのがポルシェです。
恐らくですが本田宗一郎も、当時ポルシェ904とか906、また1.5リットルF1用753型エンジンなどの空冷エンジンが大活躍していたのを知らなかったはずはないので、ポルシェに負けたくない、ウチの技術力ならポルシェをも超えられるはずだ、と言う想いで空冷に固執していた可能性も考えられます。
もしそうなら、空冷に固執していた本田宗一郎氏を頭ごなしに否定するのもどうなんだろう・・・いやいやホンダ1300の直後には例のマスキー法の件があるから、どのみち空冷に固執した事自体は悪手だったかも知れんかったよなぁ(笑)
などと思う訳です。
ってな訳でちょっとだけポルシェの空冷エンジンの事にも触れようかと思いますが、しかし、とんでもないギークがゴロゴロいるポルシェの世界にうっかり踏み込んで、下手な事を書いてしまうと大変な事になるので(笑)それは改めて軽くサラッと書こうと思いますが、とにかく空冷エンジンの世界はとても面白いです。
さて、まず始めに、何故空冷は環境性能や燃費を追求すると水冷に対して不利なのか、はたまたそれに対して水冷は何故優秀なのか、その辺の話を空気と水の物性などを絡めて軽く書きます。
まず、水と空気の性質の違いは、比熱と熱伝導率が大きく異なる点です。
比熱とは、ある物質の温度を1℃上げるのに必要な熱量の事を言い、比熱が大きい物質は1℃上げるのに大きな熱量が必要で、比熱が小さければ1℃上げるのに少ない熱で足りると言う事ですね。
で、水や空気の比熱は、と言うと水の方がかなり大きく、凡そですが
空気 約1000kJ/kg℃
オイル 約1800kJ/kg℃
みづ 約4180kJ/kg℃
つまり1kgの空気を1℃上げる為には1000KJ必要ですが、1kgの水の温度を1℃上げるには4180KJもの熱量が必要になる、と言う事ですね。
これを比率で表すと空気が1とすればオイルは1.8、水だと4.18になります。
比熱が大きい事によるメリットは、エンジンを冷やす為の冷媒が少なくて済む事と、エンジンが急激に温度上昇した場合に、その増えた分の熱量を吸収させても、吸収した熱量に対して温度上昇の割合が比較的緩やかなので、これが緩衝作用として働き、エンジン温度の急激な変化を抑え、一定に保つ作用があります。
特に環境性能を求めてギリギリの燃焼を追求してゆくと、燃焼室のほんの僅か数度程度の温度差でも大きく燃焼状態に影響する事が分かっています。なるだけ一定温度に制御した方が排ガスもクリーンで燃費も良くしやすいと言う事なんですね。
特に近年主流のダウンサイジングターボや直噴エンジンは、非常に厳しい状況下での燃焼になるので、かなり厳しく温度管理する必要があります。もう水冷必須です。しかも、昔のような緩〜い水冷ではなく、冷却水の流れなどを精密にコントロールして、特定の箇所に熱が溜まらないようにしなければなりません。
さて、もう一つ重要なのが熱伝導率です。
これは読んで字の如く、熱の伝わる早さですね。
ちなみに熱伝導率に関しては、
こちらのサイトに詳しいので参考までに。
生のじゃがいもの熱伝導率まで書いてあって草w
これを見ると、
空気 約0.024
エンジンオイル 約0.15
水 約0.58
生のじゃがいも 約0.55
とありますので、この中では水が最も熱を伝えやすい事が分かります。
これに次いで生のじゃがいもが続くので、空気やオイルで冷やすより、生のじゃがいもで冷やす「生じゃが冷」の方が効率が高いという事になります(笑)
生じゃがいもの話はさておき、改めて水冷の優れた面を書き出すと、急激にエンジン温度が上がっても素早くその熱を吸収できる事と、吸収した熱量の割に冷却水の温度上昇が少なくて済む事です。
例えるなら、あらん限りのテクニックを尽くして熱く激しくナニしても、全く感じてくれないばかりか母なる海のように表情一つ変えず一切動じないみたいな感じと言うか。何言ってんだ。
改めて言うと、これらは水の持つ比熱の大きさと熱伝導率の高さの恩恵です。
またエンジンの回りをウォータージャケットで覆っているので外気温の影響を受けにくい、水温の制御はサーモスタットの設定温度の変更で簡単に行える、パワーアップして発熱量が増えてもラジエターの設定である程度対応可能、等が挙げられます。
エンジン温度を一定に制御できれば、性能に直結する部分のクリアランス(ピストンリングの合い口隙間とか)をさらに詰める事が可能で、なおかつその性能を維持しやすいと言う事になります。
逆に空気で冷やす事を考えると、風の当たり具合やエンジンのデザインなどによってエンジンの各部の温度に不均衡が生じます。インライン4などは真ん中の2気筒に熱が籠もりやすいですよね。
走ってる時は風が当たる箇所は良く冷えますが、渋滞にハマったりして走行風がほとんど当たらなくなると当然エンジンの温度はどんどん上がります。それだけではなく、エキパイからの輻射熱で排気側の温度は更に上がりやすくなります。これは元々熱を持ちやすい排気側がより熱を持ってしまうと言う事で、性能もですが機関の耐久力的にはどうなのよ!?と余計な心配をしてしまいます。
要するに空冷の場合は、走行条件によってエンジンの各部の温度は刻々と変化してしまう、と言う事です。エミッションに対応しようとすると、これはかなり対応が厳しくなります。
均一に冷えてくれないと困るのがシリンダーで、冷間時に真円に加工してあっても、熱の不均衡が生じると熱で歪んでしまい、設計通りの真円にならず、真円にならなければピストンリングの面圧も均一にならないので圧縮も抜けるしブローバイガスも増えるしで、出力の低下、燃費の悪化、オイルの劣化も促進されたりします。
また、空冷大排気量だと、真夏の渋滞時には油温が120℃とか130℃になる事もありますが、ここまで温度が上がっても各部がクラッシュしないように、かなり余裕を持たせたクリアランス設定にしておく必要があります。
こうしておかないと、真夏になって少しエンジン温度がヒートしただけでエンジンブローしてしまう可能性もありますし、仮にブローしなくてもエンジンにダメージが蓄積する事に変わりはありません。
かと言って130℃でも大丈夫なように設定されたクリアランスでは、厳冬期の朝イチの始動時など、果たしてクリアランス的にはどうなっているんでしょうね?
恐らく相当過大になっているものと思われます。
逆に水冷だと、130℃超の温度を想定する必要もなく、四季を通じて適切なクリアランスを保つ事が可能になります。
この辺りのクリアランス設定などが理想通りになれば、ピストンリングの性能を理論値に限りなく近付ける事ができるので、シーリング性能も良くなりブローバイガスも減るし、パワー、燃費も向上します。
まぁ、あとは、水の熱伝導率は空気の24倍もあるので、空気で冷やすのと同じ量の水を循環可能ならば、単純に空冷の24倍の熱量を処理できると言う事になる訳で・・・実際は空気と水の粘性は相当違うので、同じ量を循環させるのはかなり難しいですし、そもそも熱量の移動って熱勾配やらレイノルズ数やら冷媒の粘度など複雑な要素が影響するので、単純に24倍と言えるようなものではありません。
なので軽く読み飛ばしていただけると幸いです。
でも、例え水冷が優れていると分かっていても、やっぱり空冷のフィンや、如何にもカムやピストンが動いてます、と主張するかのようなメカノイズなど、空冷には空冷の世界観があり、これは水冷では代えようもない世界だと思っています。
さて、そんな訳で、次は空冷エンジンの美しい?フィンのハナシです。
エンジンの造形、とりわけフィンのデザインなどは、美しいを通り越してセクシーさを感じるようなものまであります(笑)
自然空冷エンジンは、エンジンの表面に放熱用のフィンが並んでいて、放熱面積を大きく稼ぎ、なるだけ沢山の熱を放出できるようになっています。
走行風がフィンに当たり、熱を冷ますと言うシンプルそのものな冷却方式です。
しかし、このフィンが曲者で、最新のCFD解析で空気の流れと冷却効果をシミュレートすると、
こんな感じになるようです。
何とカッコいい角張った空冷フィンは、角で気流の剥離が起きて、あまり良く冷えないそうです・・・
走行風で効率よく冷やそうとすると、フィンの根本までしっかり風を当ててやる事が一番大切なんだそうです。
これを妨げる行為、例えばフィンがデカすぎ(深すぎ)たり、剥離の原因になるため乱流を誘発するような構造はダメよー、と言う事です。
つまり具体的に言うとフィンにアルミ板を溶接してフィンの大きさを増やしたり、アルミの洗濯バサミをフィンに挟むチューニング(笑)や、フィンに細かい穴をたくさん開けたりする行為は、気持ちは汲みますが全く逆効果になる可能性があります。
空気にも粘性があり、狭い場所や凸凹した場所は通り抜け難くなりますので、風の通りやすいピッチにして、フィンも程よい大きさにしておく必要があるようです。
フィンピッチと流速と放熱率の関係のグラフを見ると、10mmのピッチが最も放熱量が多くなっているようですが
ところが他の論文では、違う結果になっているものも。
海外の論文サイトで日本人の方が書いたっぽい
こんな論文を見付けましたので、参考までにURL貼っておきます。
*論文は英語です。
途中で出てくるグラフによると低速域(20km/h)では20mmピッチのフィンが最も放熱効果が高く、60km/hでは15mmピッチが逆転する、となっています。
結論としては、走行しない場合は20mmピッチが最も優れていて、走行する場合は8mmピッチが最も優れた結果を出した、と結ばれています。
これ、他の論文では7mmピッチが一番良いとか、10mmが一番良い、とするものもありますので、なかなか興味深いですね。
いづれにしても計測条件などが各々異なるようなので、読み込んでみるのも面白いと思います。
シリンダーのフィンの間隔が狭いと、フィン同士の熱境界層が重なってしまう為、風が上手く当たっても冷却効率が著しく落ちる、と言うような事が書いてありますね。
面白いのがシリンダーの位置により冷却効果が大きく異なる点です。
進行方向に対し130度辺りの位置が最も放熱効率が低く、これは走行風の渦により剥離が起きているから、と言うような事が書いてあります。さらに風が一番当たる前面より背面の方が冷える事もあるそうです。
冷え方もピッチやフィンの枚数のみならず、速度の変化でも著しく違って来るので、自然空冷のシリンダーが均一に冷えないと言う証明にもなりますよね。
あと、フィンに当たる風の速度が上がれば上がるほど放熱量は増えてますね。
風速が上がる事で熱境界層が薄くなり、放熱量が増えるから、だそうですが、この、「車速が増えると放熱量も増える」と言う現象を応用したのが強制空冷です。
つまりファンを使って風を吸い出したり送り込んだりする事で、車速が上がっている状態を人工的に作ってしまう訳です。
走行して風を当てるだけの自然空冷に比べ、ファンの風量を増やす事で相当な冷却能力の向上を高める事ができる訳です。
また、強力なファンで熱境界層を破れるならば、可能な限りフィンピッチも詰めて細かくしたり、深いフィンを採用する事で、冷却効率を上げる事が可能になります。
しかし、どちらも同じ空気を使うので、部分的な熱の不均衡などはどうしても生じるので、限界を追求してゆくと、どうしても無理が出て来ます。
ポルシェの強制空冷はこの辺の限界を追求した系エンジンのジャンルに入るのかな?
そこまで突き詰めた強制空冷も非常に魅力的ですが(笑)個人的には、もし所有するならば、もっと放牧的なまったりしたヤツがいいですね。オールドハーレーのあんまりパワーないやつとか古い単気筒のオール鋳鉄エンジンとかいいですね。
とか言いつつここで最初に貼る空冷はバイク、しかもラテンの熱い血がたぎる、まさに山椒は小粒でピリリと辛いイタリア車です。
日本でイタ車と言うとドゥカティ、たまにマニアックな方ならカジバとかMVアグスタの名前が挙がるかも知れませんが、もっとマイナーなヤツです(笑)
って言うかイタリアって中小企業含めバイク屋さん多すぎです(笑)
はい、これMoto Villaと言うワークスマシンです。
1969年の250ccクラスに投入された、空冷2ストロークスクエア4気筒エンジンに、ロータリーディスクバルブを採用。
しかしこのエグい空冷フィン。何となく海洋生物っぽいです(笑)
しかし近くで見ると、整然と並んだフィンは芸術的。
エンジンは下段のシリンダーが水平より10度、上段は20度の角度が付けられています。
出力は48ps/11500rpmと、250ccクラスに殴り込みを掛けるにはいささか非力。
ホンダのRC166は直6エンジンで60ps以上を誇っていましたので・・・
結局70年シーズンより250ccクラスは2気筒まで、と言うレギュレーションに変更された関係で、実戦に投入される事はありませんでした。
さて、お次は普通の市販車です。
3気筒350ccです・・・
って言ったら何人かは騙されるであろう逸品(笑)
エンジンのデカさに比べ車体はかなり華奢です。
本当に350ccもあるの!?
これだけ横幅あるエンジンなのに、エキゾーストパイプが一本しか出てません(笑)
3気筒じゃないよねこれ。
答え合わせです。
これはイタリアのAspes Juma、空冷単気筒、2サイクル125ccです。
エンジンの幅が広い理由は、エンジンを前からご覧頂くと一目瞭然というヤツでして
異様なくらい巨大な空冷フィン(笑)
でも目立つ事請け合いな見た目は最高です(笑)
エンジンも量産車としては相当なカリカリチューンで、イタリアの膝スリ小僧を虜にするには充分過ぎるくらいピーキーだったらしいです(色々とやりすぎて販売が低迷して後に倒産しましたが)。
空冷フィンフェチも泣いて喜ぶに違いない造形ですね(笑)
しかしこれ、冷却性能的にはどうだったんでしょうか。興味あったので調べましたが、詳細はよく分かりませんでした。
ちなみにパーツリストなどもあったりします
フィンの異様な大きさを除けば内部メカは至ってオーソドックス。
さて、長くなりそうなのでつづく。
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