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恋を塗る人/Novel by ぜうろ

恋を塗る人

2,099 character(s)4 mins

三峰は童顔だから、大人っぽい色のリップが似合わなくて悩んだりしそう
でも顔が良いからなんでも似合いそう
そんなベタな妄想です

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「ねえ、Pたん。三峰のリップって、濃いかな」

 信号が赤になったタイミングで、助手席に座る結華は俺に問いかけた。

「俺は濃くないと思うけどな」

 道路のライトに照らされる、薄く赤みを帯びたピンクの唇に、特に違和感を感じなかった。

「だよねぇ?三峰も、別に濃くないと思ってるんだけどさ」

 信号が青に変わり、結華から目を離す。

「誰かに言われたのか?」

「あー、まあ、そんな感じかな。エゴサしてたら、さっきの生放送の三峰のリップ濃くな~い?って、ちらほら言われてて」

 心がひどく痛んで、ハンドルを握る手に力がこもる。結華は、この何倍も痛かったのだろう。

「ほら、初めて行く会場だったし、みんなバタバタしてたじゃない?だから、リップだけメイクさんに借りて自分でやってみたんだけど、失敗だったっぽい」

「……気にしなくていいんだからな」

「えっ、全然気にしてないよー?や、気にはするけど、傷ついてはないっていうか、どう改善しようかなって考えはするよ。どうすればもっとファンのみんなに喜んでもらえるかなって、考えてるだけだよっ」

 心配する俺に慌てて、早口で話す結華が、やっぱり心配だ。

「ならいいんだが……」

「Pたんも濃くないって言ってくれるなら、直接見たら濃く見えないってことでいいのかな。うーん、テレビ映りの問題?それとも、衣装と合ってない?そもそも、これって三峰に似合ってるのかな」

「似合ってるよ、三峰はなんでも似合うよ、かわいい」

 ぶつぶつと悩みを垂れ流す結華に食い気味でそう言うと、結華は少し笑った。

「あは、Pたんったら、自分がプロデューサーってこと忘れちゃダメだよ~?なんでも似合うって、絶対彼氏フィルターかかってるからね?パーソナルカラーとか骨格タイプとか、いろいろあるんだからね?」

「そ、そうなのか」

 美容用語らしきものを連発する結華に困惑してしまう。
 結華がアイドルとしての自分を磨くために努力を惜しまないということは分かっている。しかし、容姿に頓着しないイメージのある結華が、容姿を磨くための努力をしているのだと驚いてしまった。

「最近アイドルのメイク動画見て研究してるんだけどさ、顔が良いと、イエベブルベとか骨格とか関係ないってよく分かっちゃうんだよねぇ。なんでも似合うって、ああいうことなんだよ……」

 最高に顔が良いアイドルは、深いため息をついた。

「結華がなんでも似合うのは、つまりそういうことなんだな」

「え……?ああ、もう、Pたんったら、あんまりかっこいいこと言わないでよねー?」

 なんて、恋人らしい会話をしていたら、いつの間にか結華の自宅に着いていた。

「とにかく、気にしなくていいんだからな」

 車を停め、結華を見ると、

「き、気にしてないってば!」

 なぜかそっぽを向かれてしまった。恥じらう結華の顔が、ミラーにしっかり映っている。

「……あ、やっぱり、気にしてるかもー?」

 かわいらしい恥じらいが、なにか良くない企みに変わった気がする。

「リップ濃いって言われちゃうの、怖いなー?どうしようかなーっ?Pたん、どうしたらいいと思う?」

 結華はわざとらしく怯えた表情を向けてきた。

「え、薄い色に変える、とか?」

「ここは普通に、薄くする、って答えるとこだったんだけどなー。Pたん不正解っ!ざんねーん」

 うろたえる俺を見て、結華はにやにやしている。

「でも、Pたんには特別に、サービス問題を出してあげます!リップを薄くするには、どうしたらいいでしょうかっ」

「うーん、ティッシュで拭く、とか」

「それ以外で!」

 本当になにも思い浮かばない。美容の知識がないから分からないが、リップを薄くするための道具があるのだろうか。

「すまん、美容のことは分からなくて……プロデューサーとして、しっかり勉強しなきゃいけないよな……」

 申し訳なくなって、頭を下げる。

「……なんでこういうときだけ、プロデューサーになるのかなぁ、ずるいよ」

 頬にそっと触れられて、恐る恐る顔を上げる。

「目、閉じて?」

 なにかを隠すような清潔な匂いと、少しべたついた唇の感触。
 押し付けるように、印をつけるように、密着して、擦り付けられて、たまらなくなって、ギリギリのところで、

「────ほら、薄くなってるでしょ?」

 離れられてしまった。
 ピンクにまとわりついていた薄い赤が、消えている、気がする。

「……ああ、確かにな」

「こ、これでひとつ勉強になりましたなぁ、なんてねっ!じゃ、今日は送ってくれてありがと!また明日ねっ」

 呆然とする俺を放って、助手席のドアを閉めるのも放って、結華はそそくさと車から出ていく。

「次もリップ、自分で塗ろーっと」

 助手席のドアを閉める寸前に聞こえた呟きは、俺の頭で濃度を増して、濃いのにぼやけてしまって、

「ずるいのはどっちだよ」

 確かめるように人差し指で唇を触ると、少しべたついた赤色が付いて、何故だか安心した。

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