フレンドさんのランサーに口説かれています【WEB再録】
2020年11月に発行した本のWEB再録です。
古参Lv90超えのアーチャーのいるカルデアに遅れてやってきたレベル1のランサー。
初対面から印象も仲も険悪だった二人だが、ある日「アーチャー、フレンドさんのランサーに口説かれてるってよ」と聞いたランサーがもやもやして奔走して…という安定の両片想いからの両想いの短いドタバタコメディです。
フレンドさんの○○ネタは槍弓でも他のCPでも10000回くらい煎じられてると思うのですが、私はまだ煎じてないので念入りに煎じました。
<注意>
※FGOカルデア時空、人理修復前の5章後くらいの話です。
※霊基やサーヴァントの記憶に関して自己解釈・捏造があります。
※マスターは女性、名前は藤丸立香です。
※「フレンドさん」「イベント」などのメタ発言要素があります。
ラノベBLみたいなタイトルでかるーいノリで書きたかったので、かるーいノリで読んで頂けたら嬉しいです。
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正直に言うと、見覚えある筈の赤色が、記憶よりも鮮やかで華やかで、少し戸惑った事を覚えている。
「えっクー・フーリン!?――って、あ、キャスターじゃなくてランサーの方だ!」
覚えのある、座から現世へと引き摺り出される感覚と、覚えのないそんな不可思議な台詞に迎えられた。
いかにも、己の名前はクー・フーリン、クラスはランサー。
名乗りながら、ランサーは青く輝く幾何学的な陣と、周囲の無機質な壁質や床を見て、座の記録にない程には時間軸が後ろの方の時代だな、と判断する。
聖杯戦争に参加するための召喚。それにもこの身は慣れたものだったが、さて今回己を呼び出したマスターは――と目前を見れば、そこにいたのはまだ年若い(魔術師を外見でそう判断するのは軽率だが)、少なくとも外見上は少女だった。
「ようこそ、ランサーのクーフーリン!」
そう不思議な言い回しで朗々と言い、上気した頬に満面の笑顔を浮かべ、細めた瞳は強い意志を秘めた明るい焦げ茶。オレンジに近い赤毛は柔らかく、けれどどこか炎にも似ている。
――ふぅん、悪くねぇな。
第一印象でそう思い、自然と唇の端が上がった。
「……なんだ、キャスタークラスの俺なんかいるんだな」すぐに流れ込んでくる聖杯からの知識とやらと、マスターのマニュアルじみた説明で、ランサーはこのカルデアの現状と状況を把握する。
どうもこの召喚が、自分の知っている「聖杯戦争」のためのものではないらしい、ということ。
人理修復。過去への、正当な歴史への修復の旅。
フェイト・システム。
流れ込んでくる知識にふーん、と頷きながらも、こりゃ本当に特殊だな、と記録を探っても出てこない状況にランサーは首を傾げる。そしてその首の傾きは、「今やっとアメリカが終わって、オルタのあなたが本当に強くてね……」と疲弊したように苦笑するマスターの説明に、アメリカ?オルタ?とどんどん深くなっていった。
が、生前から、分からない事は立ち止まって考えずに身体で覚える性分だ。
「まぁ、現状と戦況はぼちぼち把握するわな」
「そうしてくれるとありがたいな!とりあえずカルデアを案内するね」
くるりと快活な動きで身体の向きを変え、意気揚々と早速先立って外へと出て行くマスターに、おいおいマスター自ら道案内かよ、といささか面食らう。
その軽い動揺をくみ取ったのか、マスターが振り返りながらにっと笑った。
「新入り英霊を紹介がてら案内するの、私の趣味なんだよね」
紹介?
ふと沸いた疑念も、すぐに解消される。
なるほど、ゆるくカーブしたカルデア内の廊下を歩いていると、途中、幾度も見知らぬ英霊達に目を留められ、声をかけられ、召喚されたばかりのランサーに気さくに挨拶をされる。
正直、その特異な状況よりも、同じ陣営にこんなにも多数の英霊がいる事、そしてシステムに頼っているとはいえ、これだけの数の英霊を召喚し、従えて精神を正常に保っている己のマスターの度量に舌を巻いた。
なるほどな、これはとんでもねぇわな。
そう思いながら、そういえば、とふと思い出してランサーはマスターの少女に声をかけた。
「赤い弓兵は来てねぇのか?」
「え?赤い?ロビンじゃないよね?緑だしな……」
「いや……」
問いながらも、しかしランサーの口元は確信に段々と緩んでいく。
なんとなく、だが、先程からこのカルデアに、キャスタークラスとやらの自分の別存在がいることは把握していて、それから、もうひとつ。
よく知った、既知の存在の気配を感じていて、それが誰なのかを分かっていたからだ。
腐れ縁、というやつだろう。
そういえば、アイツの真名はなんだったか。いつも、弓兵、とか、ただ――アーチャーと呼んでいた。あの。
「いけすかない、気障なヤツ。口を開けば皮肉しか出てこなくて、戦場じゃ手段を選ばない癪に障る戦い方をする、白髪の伊達男」
「うーん?いたっけ、そんな厄介そうな人……」
首を傾げるマスターに、なんだ、もしやここじゃ猫被ってやがるのか?あんなむかつく奴なのに外面の良さも癪に障るよな、とどこか優越感に似た気持ちで、唇の端が上がる。
ああ、そうだ、それから。
「作る飯は上手い」
「あ、エミヤのことか!そういえば知り合いなんだっけ」
「……っ!」
少女の、そういえば、と嬉しそうな何気ない言葉を聞いて、一瞬、ランサーは動揺に息を飲んだ。
エミヤ。
その名に覚えがあった。
あの日、あの特異な街のどこかで。
己が朱槍で心臓を貫いて、いちど殺した。あの少年の名ではなかったか。
覚えている。
けれど、決してそれはあの、いけすかない弓兵の名前としてではなく――そうとしては、知らず。
その事実と、少なくとも自分にとってはまだ会ったばかりの少女から、それを教えられたことにじわりと胸が焦げた。
「ちょうどこれから行くところが食堂だよ。今の時間だし、エミヤいるんじゃないかな」
「……ああ」
瞬間的に沸き上がったそれは、他のサーヴァントがいたらマスターに向けるにしては不適切すぎて大事になったに違いない――つまり殺意に近かったと思う。しかしそれを「ここではサーヴァント同士が真名を呼び合っている事」に対する驚きと違和感だと思い込み、ランサーは己の胸中から忘れ去ろうとした。
――それも、食堂に入った瞬間、マスターが上げた大声に、瞬間的に吹っ飛んだが。
「ほら、噂をすればエミヤだよ。ママー!」
「!?」
ママ!?
マスターの口から大声で出た呼びかけに隣で目を剥いたランサーをよそに、呼びかけられた先の人物はこちらに向けていた背中を捻ると、肩越しに振り返った。
「マスター、だからその呼び方をやめろ……と……」
流された鉛色の瞳が、ふわりと見開かれて。
目が合った。
「……ランサー」
赤い弓兵、と聞かれて、マスターがすぐに思い当らなかったのも無理はなかった。
アーチャー、ここではエミヤと呼ばれているらしい男は、今はあの赤色を纏わず、袖のない黒のインナーに、白髪を額に下ろした珍しい姿だった。
見た事が無い訳ではない。知っていた。
その、どこかあどけない、無防備な姿を。
――自分だけが、知っていると思っていた。
「アーチャー」
意図せず、硬い声音が出た。
その敵意じみた声に怯みもせず、片眉だけ上げて、呼ばれた男は少しだけ笑う。
「来たのか、君も」
それは確かに覚えのある皮肉気な表情だったが、けれど声音は柔らかく溶けていて、ほんの少しの驚きと、そして確かに懐かしさと、嬉しさが見えたのは気のせいではないだろう。
そんな風に、柔らかく、無防備に。
穏やかな顔と、声を、ずっと晒しているのか。「ここ」では。
誰彼構わずそんなふうに、笑いかけて、声をかけて……名前を呼んで?
――なんだ、それは
込み上げたのは、怒りだったのか、不快感か。
応える声は、自分でも思わぬ程刺々しいものだった。
「んだ、その腑抜けた間抜けなザマは」
「ちょっ……」
隣で、少女が驚いたような、咎めるような表情でランサーを振り仰ぐ。
それに構わず睨んだ先、白髪の英霊は一瞬、目を開いて。
返ってくるのは皮肉か、はたまた固有結界か。そう思ったのに、男はその幼気な顔に、どこか困ったような色を浮かべて
――少し、笑った。
それは、ランサーが見たことのない、どこか取り繕ったもので。
傷つけたのだ。と、それが分かってしまい、ランサーはチッと舌打ちする。
(失敗した)
どうしてそう思ったのかは分からない。けれどその時には、アーチャーの顔からはその影はとうに引っ込められていて、代わりに表れたのは、見覚えのある、皮肉を凝縮して固めたような表情。
目の下に皺を浮かべ、計算され慣れた仕草で気障ったらしく片眉と顎を上げ、キッチンの内側からアーチャーは朗々と言い放った。
「引っ込んでろ。へっぽこレベル1」
* * *
「カルデアでの私闘は禁止でーす!キッチンでの宝具展開なんて論!外!」
そう絶叫し、眉を吊り上げて拳を掲げた己のマスター(名は藤丸立香だと後から名乗られた)に令呪を使われ──驚くベき事に、このカルデアではマスターの令呪は使用しても一晩寝たら一画復活らしい。なんだそのふざけたお手軽感は──強制反省させられたランサーは、しかし言われるまでもなく動きを止める事になり、宛がわれた自室で呆然としていた。
己の霊基の脆弱さに。
……なんだこの、弱々しい戦闘力は。非力な筋力は!
宝具展開なんてもっての他、愛槍を顕現させるだけでも息切れする次第だ。
どうやら、このフェイト・システムとやらは、効率的な召喚とやらの代償なのか、レベル上げと再臨とやらを繰り返さないと、ある程度の霊基の強さ、つまり戦闘力、生存力が育たないらしい。
(めんっどうくっさ!)
それでも召喚されたその日のうちにマスターに引き摺り回され、なんとかやっと二桁のレベルを超え、第二再臨とやらまで到達したところだ。しかし、素材がない、というここでもまたふざけた理由で、しばらくこのやけに薄着の状態で待機となった。
いつもまとめていた後ろ髪がばっさりと短くなり、布量が少ない礼装は落ち着かないものの、動きやすくはあり気に入っている。ただし、どうにも幼く見えて、先程自室に戻る前に顔を合せた、キャスタークラスの自分に笑われたのは気に入らなかった。
もっとも、第二再臨が幼く見える、というのはランサーだけではなくあちら……アーチャーも、だったが。
どうやら、彼と食堂で初対面した時の、あの髪をおろした姿は第二再臨での姿らしい。動きやすいからという理由でキッチンではあの黒の薄着の礼装でいるらしいが、本来、癪に障ることに、あの男は最終段階の再臨にまで達している……どころか、聖杯の力で霊基での最大限のレベルも超えて、桁をひとつ増やすのにその聖杯をあとひとつふたつ喰らえば、というところらしい。
連れていかれた戦闘時に見るアーチャーは、ランサーにも見覚えのある赤銅色の――いや、それよりも幾分明るい、紅色に黄金の線が入った鮮やかな礼装を身に纏っていて、そして。
常に最前に立っていた。
マスターいわく脆弱だと言う、しかし数多の英霊がひしめくこのカルデアの中でも古参であり、トップクラスの戦闘力を誇る、錬鉄の英霊。それらしい、威風堂々とした姿で。
――正直に言うと、見覚えある筈の赤色が、記憶よりも鮮やかで華やかで、少し戸惑った事を覚えている。
そのどこか色気を纏ったような艶やかさは、ランサーの記憶にはないものだったから。
そして単純に。
美しいと、そう思ったからだ。