かげゆちゃんのお話まとめ
ねぎめさんちの「槍弓♀夫婦と娘影弓ちゃん」(illust/67206985)のファンフィクションのかげゆちゃんのお話詰め合わせです。槍弓♀・狂王黒弓♀・ほんのりキャス影弓♀です。幼女かわいい!
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#かげゆちゃんと伯父さんが来る日
遠くから聞こえる子供の声と食欲をそそる匂いに目が覚める。ランサーはぼうっとした頭でしばらく天井を見つめてゆっくりと瞬きをした。平日よりは遅い時間だがまだ寝ていても構わないだろう。起こしに来るまで待つか迷って、すぐに嫁の顔が見たくなったランサーはすぐに起き上がる。
洗面所で顔を洗って居間に向かう。既に嫁も娘も起きていて、ランサーはエプロン姿の妻に声をかけた。
「アーチャー」
「ああ、もう起きたのか。おはようランサー……こら」
後ろから抱きしめると咎める口調とは裏腹に微笑まれる。そのまま口づけるのはもはや習慣となっていた。
とはいえずっと抱きしめていると本気で怒られてしまうので朝の触れ合いはほどほどにしておく。離れる体温を名残惜しく思いながら食卓に移動した。
「おはようさん。今日はご機嫌だな、シャドウ」
「おぁーお」
満面の笑顔でスプーンを振り回す愛娘にランサーはでれっと相好を崩した。家にいる時間が短いからか、普段は嫁に対するよりも態度が冷たいのだがそれもないくらいにご機嫌らしい。シャドウの子供用椅子の隣に座ったランサーに小さなお茶碗を手渡しながらアーチャーは苦笑した。
「今日はお義兄さんが来ると言ったらこの調子なんだ」
「なるほど……」
がっくりと肩を落とす。あいさつをしてくれたのは嬉しいが、ご機嫌の理由が他の男なら素直に喜べない。そんな父を横目にシャドウは歌うように声を上げた。
「すーちっ、すちっ」
「シャドウは本当にお義兄さんが好きだな」
「ぁい!」
「パパのことも好きだろ~?」
「……?」
こてんと首を傾げたシャドウは父親よりもごはんが大事なようで「んまー」と自分の茶碗を持ったランサーに手を伸ばした。その手からスプーンを受け取って離乳食を口に運んでやりながらランサーはもう一度尋ねる。
「シャドウはパパのこと好きだろ?」
「んま、まーま」
「ごはん美味いかー、よかったな」
口に運んだだけパクパクとよく食べるシャドウにランサーは諦めた。自分の手から機嫌よく食事してくれるだけいいのかもしれない、その原因が他の男であることがどうしても気に食わないけれども。
「いつもこうだといいんだがな」
ランサーのぶんの朝食を準備しながらアーチャーは苦笑した。
「兄貴のどこがいいのかねえ」
「さてね。人見知りしないのはいいんだが。士郎に預けたときもいい子にしていたようだし」
「坊主にも懐いてんだよなぁ」
シャドウの口元を拭いてやりながらランサーはため息をつく。シャドウはむずがりながらランサーの手をべちべちとはたきはじめた。
「んやぁ!やーっ」
「こーら、大人しくしろって」
「やあ!まー、まぁあ!ぁうああっ」
先ほどの機嫌の良さから一転、顔をぐしゃぐしゃにして泣きはじめた娘にランサーはうろたえた。それを見たアーチャーがやれやれと子供椅子からシャドウを抱き上げる。
「どうした?おっぱいか?」
「ん、んぅう……まぅ……」
ぐずぐずと泣いていたシャドウは母親に抱っこされて落ち着いたのか指を咥えながらアーチャーの豊満な胸に頰を押しつけた。
「ランサー、悪いが食べたら皿を片付けておいてくれないか?」
「あー、洗っとくよ」
「すまない」
ソファに落ち着いたアーチャーがぐずる娘を宥めつつ授乳しているのを眺めながらランサーはちびちびとトーストをかじった。
お腹がいっぱいになったシャドウはそのまますやすやと眠りはじめたが、ずっと大人しくはしていない。ランサーが寝顔を眺めているとぱちくりと目を覚ましてじいっとランサーの顔を見上げた。
「あー、だぅ」
「んー?どうした?」
「んばぁ、すーち」
手を伸ばしながら何やら訴えてくるシャドウにランサーはデレデレだった。はっきりとした発音ではなかったが「好き」と言った気がする。そうに違いない。
「やっぱパパのこと好きかー!よーしよしよし」
ベビーベッドから抱き上げて頬ずりするとシャドウは手足を突っ張って逃れようとしたが無駄な抵抗だった。不満そうな顔でぎゅっとランサーの耳のピアスを握りこむ。
「あでっ、こらピアスはやめろって」
「やーう!あーっ、あえ!」
「ん?お外か?」
玄関の方を指差すシャドウにランサーがそちらへ向かう。娘と散歩するのもいいかな、と思って玄関のドアを開けた瞬間、人影がいるのに思わずのけぞった。
「うわっ、兄貴?!」
「うおっ、ビビらせんなよ」
ちょうどチャイムを押そうとしていたランサーの兄、キャスターも目を丸くしていた。きゃあ!とランサーの腕の中のシャドウが嬉しそうな声を上げる。
「すち!すちー!」
「おお、シャドウ。元気かー?」
「あーい!あう、だーっ」
じたばたと暴れてキャスターに手を伸ばすシャドウにもしやとランサーは思う。キャスターが来るのを察知していて玄関まで誘導したのだろうか。
「マジか……」
「何がだ?ああ、キャスター。いらっしゃい」
後ろからひょこりと顔を出したアーチャーがキャスターに微笑む。土産の紙袋をアーチャーに渡したキャスターは父親の腕の中からどうにか抜け出そうともがくシャドウを抱き上げてやった。
「ちょっと重くなったか?」
「んーぅう、すちっ」
「伯父さんもシャドウのこと好きだぞー」
ご機嫌なシャドウを抱きかかえたキャスターは居間まで案内される。大人たちがテーブルを囲む中、シャドウはキャスターの腕の中で大人しくぬいぐるみを唾液まみれにしていた。
「キャスター、重くないか?変わるか?」
「やー!!」
「だってよ」
「パパの何がダメなんだよ……」
がっくりと肩を落とすランサーにキャスターは噴き出した。しかしランサーにとってはだいぶ重要な問題だ。アーチャーが冷静に突っ込んだ。
「構いすぎるからだろうな」
「うぁう、んま、ぉーう」
「そうなのかー、シャドウも大変だな」
「あう。まぁま、あおぅ」
真面目な顔でぬいぐるみを振り回すシャドウにキャスターが相槌を打つ。言ってることはさっぱりわからないが姪が可愛いので問題ない。
「んぅ、すち、あぶぅ?」
「うんうん、オレもそう思うな」
「あい!あーう!」
キャスターが頷いたことに満足した様子のシャドウはぬいぐるみを抱え直した。ちなみにぬいぐるみはキャスターの土産の一つだ。
「えー……オレとあんなにおしゃべりしてくれねえんだけど……」
「君はうるさいからな」
「うっ」
否定はできないのでランサーはがっくりと肩を落とす。シャドウはそんな父親の様子を見て、自分のせいだとは微塵も思っていないような顔で首を傾げてみせた。