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The Works "【ありがとう】幾歳逝く歳【さようなら】" includes tags such as "Fate/staynight", "槍弓" and more.
【ありがとう】幾歳逝く歳【さようなら】/Novel by 戚

【ありがとう】幾歳逝く歳【さようなら】

2,270 character(s)4 mins

ちょいと早いのですがお年玉代わりに置いていきます。
ツイッターでヤンデレ普独話とどちらがいいかを募った結果、以前サイトに上げていた囚人と看守槍弓話に采配があがりましたので。
ちょいとだけ手直ししています。
短いです。
どうせバッドエンドです。
別に拗ねてなんていませんともええそうですとも。

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「……おい」

 べったりと鉄格子にもたれかかった状態で、背後にいるだろう男に呼びかける。
 返事はない。いつものことだ。
 ただ少しだけ空気が動くので、それで相手が居ることを認識する。

「……居るな?」

 動きがなければ、体があっても相手の意識がないということだ。
 そして相手はよくそんな状況に陥っている。
 こうしてこまめに声を掛けて確認しないと、それすら自分で認識できなくなっている悲しい奴だが。

「暇なんだ。話に付き合えよ。どうせお前のことだから返事なんてしないんだろうけどなー……」

 格子の向こうで、背中を合わせて座り込んでいる奴のことを彼はよく知っている。
 そもそも、彼がこんな牢獄に閉じ込められるようになった最たる原因が、そいつだ。
 別に自分で決めたことに対する報いなので、それについて相手を責める気は毛頭ない。
 ないが、出来れば傍に居るのなら会話の一つでもしたかった。
 たとえどんなに相手が壊れて、自分のことさえ覚えていないのだとしても。

「昔話がいいな。オレがまたこんなしみったれたところに居ないで、オレの緑なす座に居たころの話だ」

 返事はない。そもそも自分の声を言葉として認識しているかどうかも怪しい。
 振り返って確認すればその目に意思があるかどうかを図れただろうが、生憎とこちとら不恰好な拘束具で体をがちがちに固められている。
 振り返ることすら億劫になるほど、隙間なく。
 それでも最初はどうにかして振り返って相手を見ようとしたものだ、と彼は思う。
 だがその度に相手は自分を見たことがない人間を見るような目で見て、そして回を追ってもそれは変わらなくて。
 相手に連続した記憶がないのだと理解するまでに、そう時間はかからなかった。
 そして時間を経るごとに、相手がどんどんと崩れていくのにも。

「なあエミヤ。聞いてるか? エイミー?」

 かつて呼べば怒り出した、からかう為だけにつけた愛称で呼んでも、もう反応すら見込めない。
 段々と振り返って崩れ去っていく姿を見るのが怖くなって。
 徐々に振り返らなくなって、ただ背中を鉄格子に押し付けて体温だけでも感じられればと。
 それも鉄格子の冷たさで全て奪われてしまうのに、一瞬だけの温もりが欲しいと渇望したのは彼の弱さか。
 目を見て話すことも出来ないくせに、その暖かさだけを与えて欲しいと思うのは。
 相手はずっと、鉄格子に背中を預けて座り込んだまま、動こうともしない。
 それは彼がこの監獄に入れられてからずっと変わらない光景だった。
 動くものは、声を出すのは自分だけ。
 空気に話しかけるよりも意味がない事を、骨の髄まで理解させてくれるこの世界。
 何故彼がそうしているのかは、知らない。
 知らないが、別にそれで動かないで居てくれるのならば構わなかった。
 振り返って確認したときに、その足が消えかかっていたことなんか、気付かなかった。
 気付かない振りをした。

「なあ、懐かしいとか思わねえか、エイミー。お前もオレも、昔はずっとガキで、遥かに馬鹿だったんだぜ」

 背中の体温は何も言わない。諾とも言わないが否とも言わない。それだけでもう、いい。

「……ああ。なつ、かしい」

 だっていうのに、どうしてお前はそう。

「懐かしい…………帰りたい、な」

 どうしてお前はそうしてオレを悲しませようとするんだ。なあ。エミヤ。

「帰りたい…………」

 背中の体温が消えていくのなんて嘘だ。
 気付かない。鉄格子のせいでそう錯覚するだけだ。
 勘違いしているだけだ。背中の向こうの相手は消えやしない。
 だって今の今まで話してたじゃねえか。
 たった今、久しぶりにオレの好きだったあの掠れた声を聞かせてくれたじゃねえか。
 なあ、嘘だろう。嘘だろうエミヤ。

「帰ろうぜエイミー。いつか、お前が自由になって、オレがここをぶち壊して出た時に」

 気付かない気付かない気付かない。
 気付いてなどやるものか。
 お前がオレをここに縛り付けた。
 本当ならこんな牢獄を出るのは簡単だった。
 それなのに出て行かなかったのは、ここにお前が居たからだ。
 扉の向こうで力なく座り込むお前が居たからだ。
 お前こそがこの牢獄の錠だった。
 だから出て行かない。
 ずっと、ずっと。出て行かない。

「一緒に帰ろうぜエイミー。オレとお前と二人で、オレたちの家族のところへ。帰ろうぜ」

 頬を伝う熱い雫が鬱陶しい。
 膝に頬をこすりつけてそれを拭っても、次から次にそれはあふれ出して止められない。
 思わず鉄格子から背中を離して、膝を強く抱えた。
 畜生、どこまでお前はオレを縛り付けやがるんだ。
 オレは自由に生きたいんだ。自由に、自由に、気ままにお前の手を取って。
 どこへでも行きたいし連れて行ってやりたい。
 地の果てでも空の向こうにだって、お前が望むのならば一緒に行くのに。
 ああ、気付かない。気付かないままで居たい。
 だというのに、冷えてしまった背中では、もう鉄格子の向こうの温もりがないことに気付いてしまう。

「エイミーって呼ぶなって、オレを殴れよ……エミヤ」


 そしてここは永遠の監獄になる。


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