【Fate】憧れ-現実=恋?【槍弓】
アイドル兄貴×製薬会社研究員弓さんなお話です。元ネタはフォロワー様に頂いたネタを無理矢理おこさせて頂きました。しかしながら、残念な感じになりました…アイドルが生かせてないどころか、私の趣味に走ったために、なんか、兄貴、俳優っぽいです…あんまりアイドルっぽくない…ご、ごめんなさっ…!!私の趣味ですので、あれだ、特撮だ。特撮の件でかなり使ってしまった…いや、伏線ですよ、多分…あと、作中でセイバーさんが弓さんをアーチャーと呼ぶのは高校時代からの知り合いで、弓道部だったからって理由です。そんな感じです…ああああああ、未熟ですみません!!精進します私には無理だったっ!!あ、芸能人だから良いよね、弓さんがストーカーっぽ…(ry)
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アイドル兄貴×製薬会社研究員弓
真名バレ
それでも良ければ
↓
初めて彼と言う存在を自分の中で認識したのは、子供向けの、特撮番組でのことだった。
ヒーローという存在に幼い頃、とても憧れていた。それは少年ならば一度は抱く感情で相違なかっただろう。エミヤもまた、そんな少年のうちの一人だった。
誰かを救える存在になりたい。ヒーローとなって悪と戦いたい。あんな、テレビの中の存在のように、強い力をもって、人々を助けたいと思っていた。
だが、それはあくまでも幼い頃の憧れ。実際にこの世界には地球を侵略に来る悪なんてものはいないし、どう足掻いたってあんなヒーローみたいに変身もできない。持て得る力なんてたかが知れている。そんな現実を前にして、いつしかヒーローという存在を諦めてしまった。
それでも、昔抱いた憧れを、エミヤは捨てきることができなかった。鍛えられるだけ体を鍛え、高校時代は弓道部ではあったが、どちらかと言えば文化系だというのに、その胸板は熱く、腹筋も割れていた。毎日のトレーニングを社会人になった今も欠かしていない。
誰かを救いたいという気持ちは、悪と戦うではなく、薬学部へと進み、新たな薬を開発するというように形を変え、今は製薬会社で新薬の開発に当たるという形で消えることなくエミヤという人間を作り上げていった。
そのためか、エミヤは特撮から離れるということができなかったのだ。
普通ならば大きくなるにつれ、あんな作り物のヒーローにあこがれることのなくなり、別の興味に移っていくせいか、小学校の3年生にもなれば、朝早起きしてまであのヒーローたちを見ることはなくなる。
しかし、エミヤはそれができないまま、成人し、働き出してからも特撮を見ることを止められなかった。
一年に一度変わっていく作品。それを毎週欠かさず見るだけに飽き足らず、録画までしてしまうくらいには、エミヤは未だに特撮を愛していた。
そんななかで、エミヤは、クー・フーリンという存在に、であったのであった。
クー・フーリンは元々はアイドルで、モデルもこなすという、当時売りだしたばかりの芸能人だった。そんなクー・フーリンが何故特撮に、とかなり物議をかもしたものだ。
結局俳優業として、イケメンが売り出すのにもってこいだと言われる特撮から入った分かりやすい事務所の戦略だろうと世間では言われていたが、エミヤはそうではないのではと考えていた。
クー・フーリンの演じるブルーは常に生き生きと、そして、心から楽しげにその役をやり切っていた。そんな顔を作っているとは、エミヤは思えなかったのだ。
あまりにも、クー・フーリンのことが気になり過ぎて、エミヤは気付けば彼のことについて調べ始めていた。
まずは、特撮の雑誌を買った。そこに出ているクー・フーリンのインタビューや共演者の言葉を見て、彼が変身時以外のアクションをスタントなしで演じていることを知った。あの動きを、今はスーツアクターというスタントが当たり前にいる時代だ。エミヤもそれなりに知っているくらいには。
そのなかでわざわざ自分で演じるその度胸に、初めは感心した。
更にイベントに参加したり、DVDを購入して見ている中で、結局クー・フーリンが無類の特撮好きで、自ら望んでその役のオーディションを受けたことも知った。その上で、同じ世代ゆえか、好きなヒーローが一緒で、エミヤの中で親近感がわき上がっていった。
結局、その作品自体はそこそこの人気で終わってしまったのだが、その後エミヤは、クー・フーリンから目が離せなくなってしまっていた。気がつけば、彼のブログをチェックし、出ている番組も毎回録画予約をしている始末。
元がアイドルということで、出しているCDや写真集も全て買ってしまい、最終的には出ている雑誌を切り抜きまでしてしまっていた。
その姿に幼馴染の少女には、ファンさながらだとため息交じりに言われてしまった。だが、その言葉にエミヤは納得してしまったのだ。あぁ、自分はクー・フーリンという存在のファンになってしまったのだと。
自覚すればあとはどうということはなかった。迷うことなくファンクラブの会員になり、彼と言う存在を追いかけるようになった。
だが、唯一の問題が一つあった。それは、自分が筋肉隆々の成人男子であるということだった。クー・フーリンは今をときめく人気アイドル。ファンの殆どが女性で、どうしても握手イベントなどに行くことに、エミヤは抵抗があった。
握手イベントとなると、彼に直接触れられて、彼に直接差し入れが渡せるというチャンスだというのに、エミヤは結局代役を立てて差し入れだけを渡すのが精一杯だった。
クー・フーリンが自分という存在を知らなくてもいい。ただ、彼と言う存在が、自分にとって今生きがいになっているということは、言うまでもなかった。
「はぁ…馬鹿馬鹿しい会議だった…」
研究室の己の机に戻り、会議の資料を机に叩きつけるなり、エミヤは溜め息と共に悪態を吐き出し椅子へと腰掛けた。少し額にかかった髪をかき上げながら呟かれた言葉には、何処となく棘が含まれていた。
エミヤは研究員の一員であり、本来ならば重役会議などというものには出席しない。だが、上司がどうしても外せない用があると言って、エミヤに出席するよう言ってきたのだ。
そんな暇があるなら一つでも研究を進めたいというのに、上司の押しに負けたエミヤは渋々会議に出席。
だが、その内容たるや、やれ接待でなにされたなどの見栄張り会議でしかなく、エミヤは終始イライラを強いられていた。
「いかん、こんな気持ちで仕事をしていては…」
僅かな休憩をはさんでこの後も仕事が待っている。そう頭を振ったエミヤはそっとデスクの鍵を開け、引き出しを開ける。そして中のペン入れを退けて、物を少しだけかき分けると、そこから覗いたそれに、普段では見せないほどの穏やかな笑みを浮かべていた。
「あぁ…、やはり、いい…」
そこにあったのは、クー・フーリンのブロマイド、というものだ。しかも、エミヤが飛びきりお気に入りの笑みを浮かべたそれが、引き出しのそこに貼られていた。
勿論写真そのものに傷がつかぬように透明なファイルに入れられているし、それだけではなく、同じブロマイドをエミヤは他に3枚持っていた。
そのクー・フーリンのブロマイドを見るだけで、エミヤは全ての怒りを忘れられるような感覚に襲われる。この先の仕事も頑張ろうと、そういう気持ちにしてくれるのだ。
「本当に…、君はすごいな、クー…」
そっと写真越しに輪郭をなぞると気持ちを入れ替えるようにそのブロマイドを隠し、ペンを戻すと不容易に開けられぬように鍵をかける。
普段はポーカーフェイスか皮肉ばかりの自分が、男性アイドルにはまっているなど、そんな事同僚にいえるわけがなかった。だが、クー・フーリンの姿を何処かにとどめておきたい。その衝動にエミヤは逆らえず、ノートの中や、ペンなどに、こっそりとクー・フーリンの写真などを忍ばせ、自分の活力としているのであった。
それがエミヤにとっての日常。会えなくとも、その存在に憧れ、元気をもらう。
同性ではあるが、エミヤは純粋に、クー・フーリンという男性アイドルに心奪われた、ファンの一員であったのだ。
「よう、またお前さんが来たのか」
「そうですが、何か問題でも?」
「いや、いつになったら本人が来てくれんのかなぁって。これでも楽しみにしてんだぜ?」
「それは私には分かりかねますので」
「だよなぁ…」
それはとある握手会での、ファンと、芸能人の会話の一端であった。
普通ならばファンは自分の応援する芸能人に会ったらもっとキャーキャー言うものではないか。現にその後ろでは心ときめかせる女のざわめきが聞こえている。
だというのに、淡々と交わされた会話は、これで何度目のものだろうと、クー・フーリンは溜め息と共に考える。
初めてその少女に出会ったのは、大好きな特撮に役者として出演した後の頃だっただろうか。俳優としてそこそこ成功し、初めてのファンイベントの時だったはずだ。
その金髪の少女は、一人だけ場の空気と違っていた。だから、忘れられることができなかった。
ほかの少女たちは、己に会える嬉しさにざわめき、笑いかけただけでも頬を紅潮させた。手を握れば、発狂したり、中には眩暈を起こすものもいた。
その中で、金髪の少女は殆ど無表情にクー・フーリンの前に立っていた。そして、差し出した手に、綺麗にラッピングされたプレゼントを渡した。
『これは、さる方から頼まれたものだ。確かに渡したからな』
たったそれだけ告げて、握手することもなく、己の前から去っていった。
余りのことにスタッフ含め、一瞬動きが止まってしまった。ファンイベントにきて、差し入れだけ手渡していくだけとは。しかもそれはシャイとかいうレベルではなく、ただ頼まれ物を渡すだけに来たなんて。
もしかすると、その日に予定ができて、友だちか何かに頼んだのだろうと、そう思いながら、渡された中身を見れば、そこには綺麗に編まれたレースの手作りコースターが入っていた。
シンプルながらに器用なできに、クー・フーリンは痛く気に入り、愛用してしまっていた。そして、どんな子がこれを作っているのだろうと、いつしかそんな事を考えるようになってしまっていた。
だが、その相手はいつまで経っても現れることはなかった。ほぼ毎回ファンイベントには当たっているらしいのだが、そのたびに、あの金髪の少女が来て、差し入れを手渡していくだけ。
しかも、毎回渡される差し入れはどれも手作り、またはクー・フーリンがその時々で必要だと思うものが入っていおり、テレビ画面の向こう側の自分をどれだけ見ているのだと言いたくなるほどの気の遣われ具合だった。
そうなっていくると、どんな子がこの差し入れを頼んでいるのだろうと気になってくるのは人間の性だろう。
その気遣いや、手作りの品々の繊細さから、きっと、シャイで、何処かのお嬢様なのかもしれない。だから此処に入れなくて、なんて面白い妄動までしてしまうのだ。
「じゃあ、そいつってどんな感じの奴かくらい教えろよ!」
「それも本人から口止めされてますので。あ、それと、この写真集も気に入っていましたよ」
「え?マジ?」
「そんなあからさまに嬉しそうな顔されても…」
後ろが詰まっているのは分かっている。だが私的なこととはいえ好奇心には勝てない。
金髪の少女に詰め寄るが、口が堅く、今まで特徴らしい特徴を聞けたことは一度としてない。だが、そのたびの写真集やドラマの感想を添えてくれている。
金髪の少女から告げられるかの人物からの惨事に、気になる相手からの言葉だ、自然と喜びがわき上がるのは仕方のないことだろう。
だが、特にファンでもない少女はあからさまに嫌そうな顔をして、溜め息をつくとそれでは、とだけ言ってまた去っていった。
その時の差し入れは、最近の多忙を心配した綺麗な字で書かれたファンレターと、市販の未開封の飴で。未開封なら安心して口にできると知っているのだろう。そんなところも、と感激しながら食べた飴は、疲れを一気に癒すほどに、甘かった。
「あー…、会ってみてぇ…」
そして、クー・フーリンの心を更にくすぶらせていくのであった。
想いを抱く相手が、お嬢様どころか、製薬会社で働く成人済みのガチムチ体育会系男性なんてことを、知るわけもないまま…
「アーチャー!いい加減自分で行ってください!」
「礼のケーキを食べながらいうと説得力がないぞ、セイバー。助かったよ」
その日の晩、エミヤの家に、無事任務をこなした金髪の少女こと、セイバーがテーブルの前に腰掛け、エミヤ特性のケーキにありつきながら、むすっとした表情で言い放った。
身代りにされていることに不満があるのだろう。無理もない。興味もないアイドルのファンイベントに行くことなど、ただの時間の浪費でしかない。
そんなセイバーの前にいれたての紅茶を置きながら、エミヤは苦笑を浮かべることしかできなかった。
「貴方が自分から行けばいいのでは?」
「君もいったならわかるだろう。あの中に私が行ってみろ」
「………すごく、おかしいです」
「だろう…」
いい加減疲れたのだろう、セイバーはエミヤを睨むように見ながら告げるも、エミヤは肩を竦めて問いかける。
その言葉に少しセイバーは思案気な表情を浮かべ、暫くすると睨むような目が、残念な眼差しへと変わっていった。
あの中に居るのはうら若き女性、誰もが着飾っているような空間だ。そんな中で、ガチムチで、どうしたって体育会系にしか見えないエミヤがいる。それだけで、明らかに場違いなのは火を見るよりも明らかで。
小さく呟かれたセイバーの言葉に、エミヤは困ったように笑うことしかできなかった。
「私とて…、行けるものなら行きたい!この手で、クーと握手がしてみたい!」
「すみませんアーチャー!私が悪かった!もう聞かないから、泣かないでくれ!」
「泣いてなどいない、悔しがっているのだ!」
「変わりませんから!!」
拳を握りながら熱弁するエミヤに、セイバーは思わず慰めに入る。そうして、セイバーはこの後、エミヤがどれほどクー・フーリンが好きかを熱弁するのを、3時間ほど聞かされる羽目になるのだが。
「くっそ、折角のオフだってのに…社長の野郎…!」
その日、クー・フーリンは珍しく仕事が休みであった。折角のオフだ、何をしようと考えていた矢先、社長である言峰に、別に自分でなくてもいい使いを頼まれた。
拒もうとはしたものの、行かなければ即首を言い渡され、渋々ながらにジーンズ地のジャケット、革のパンツにサングラス、キャップ、伸ばした髪をキャップの中に隠すという、簡易変装をすると、街へと繰り出すのであった。
だが、やはり理不尽な命令に悪態をつかずにはいられない。ぶつくさと言いながら、人の中を隠れるように進んでいく。
その時だった。
「うわっ、マジかよ…」
ふと肘の部分に汚れが見えた。出かけることにはなかったそれは、おそらく誰かとの擦れ違いの際、相手が持っていたコーヒーか何かがジャケットの腕にかかってしまったのだろう。
クー・フーリン自身も、かかってから暫く気付かず誰に、いつ掛けられたのかは分からない。だが、すぐに取らねば、それなりに気に入っていたジャケットが二度と着れなくなってしまう。
「くっそ、どうするか…」
「あ、よかったらこれ、使ってくれ」
「え?」
道の脇に避けてジャケットを見つめていたその時、不意に声を掛けられる。
そこには見知らぬ褐色の肌の、大変体格のいい男が心配そうに此方を見ながら、ハンカチを差し出していた。自分よりわずかに背の高いその男に、男としての劣等感が僅かに刺激される。
「汚れたのだろう?まだ乾いていない。今ならまだ落ちるだろうから」
「いや、けどそしたら、お前のハンカチ汚しちまうし…」
あまりに突然のことに頭がついていかない。もしかすると己を芸能人と気がついて、恩でも着せるつもりなのではと身構えてしまう。
だが、相手の表情はなにひとつ変わることなく、本当に道端で知らぬ困った相手がいたから声をかけた。と言った感じであることに間違いはなさそうだ。
それでも、知らぬ相手、というのが、クー・フーリンの判断を鈍らせた。
「どうせ要らぬ布で作ったものだ、いくら汚してくれても構わんよ」
「あー…、けど…」
「困った人が自分から声をかける、見知らぬ相手でも、それが人助けと言うものだ。なんて受け売りだが」
「え、それ…」
「む?知っていたか?ある、ヒーローの言葉だ」
聞き覚えのある言葉に、クー・フーリンは目を丸くする。その言葉は、己が好きになったヒーローの口癖そのもの。
相手の年齢を見る限り、同年代。同じものを見ていてもおかしくはない。だが、それを今も覚えて使っているものがいようとは。そんな嬉しさに、クー・フーリンは差し出されたハンカチをそっと手にした。
「よーく知ってる。俺もそいつのファンなんだわ。サンキュ」
今やクー・フーリンには警戒心というものがほとんど薄れていた。
会ったばかりとはいえ、あのヒーローが好きな物に悪いものはいないだろう。そんなよくわからない確信があったのだ。
そのまま拭いただけでは落ちないだろうと、その場を後にしてクー・フーリンは男と場所を移動する。待ち中にある小さな公園。水道があればそれでいいと入ったそこには、平日の昼間と言うことで人気が殆どなかった。
そんな中、男がハンカチを濡らしてクー・フーリンに再びハンカチを差し出してくる。今度はそれを拒むことなく受け取った。
だが、ふと手にしたハンカチに目を落として、クー・フーリンはその手を止めることとなる。
なぜなら、それは、今しがた男がいった通り手作りのハンカチ。それも、いつかにもらったかの人物からの差し入れのものと、殆ど違わぬそれだったからだ。
「おいっ!」
「な、なんだ…?」
「これ、誰にもらったんだ!」
突然声をあげたことに驚いたのだろう、僅かに驚きに揺れた鋼色の瞳が見えたが、クー・フーリンにとって今はそれは大して気にすることではない。
目の前に、かの相手を知る絶好の機会が転がっているのだ。この時ばかりは無理矢理使いを頼んだ社長に感謝すら覚えてしまう。こうして、手がかりをつかむことができたのだからと。
「え、いや、それは、私が作ったものだが…」
「へっ?これ、が…?」
「裁縫が趣味なんだ…」
男が裁縫をしているということに僅かに恥じらいがあったのだろう、視線を知らしながら言われると、そうか、としか思えずクー・フーリンは力なくうなだれる。
相手は男。かの人物は女性のはず。同一人物なわけはないだろう。折角手がかりが得られるかと思ったが、それは気のせいだったようだ。
そう簡単なわけがないか、と近場のベンチへと腰掛け、ジャケットを吹き始める。男もそれ以上言われなかったことに安心したのだろう、クー・フーリンの隣へと腰掛けた。
だが、ふとクー・フーリンは考える。これはどう見ても己が持っているものと、同じだ。
そして、気が付く。自分はずっと相手が女性だと思い込んでいたのではないかということに。金髪の少女は『さる方』としか言わなかった。それが男とも、女とも言っていない。
もし、かの相手が男だったとしたら?あんな女性ばかりのイベントには来づらいだろう。それも、此処に居る体育会系男子ともなれば、浮くに決まっているし、偏見の目をむけられたり、下手をしたら引かれるかもしれない、なんて考えるかもしれない。
イベントに来ないのは、シャイなんじゃない。性別のせいだったとしたら?
そうだとしたら、合点がいく。
シミを取ったクー・フーリンは顔をあげて相手を見遣る。男は未だに己が『アイドルクー・フーリン』ということに気がついてはいないだろう。
ならば。
「これ、ありがとよ」
「あぁ、いや」
「それでさ、大した礼とかできねえから、俺のサインとかでもいい?」
「へ?」
「俺こう見えて芸能人だからよ、それなりの値段で売れんじゃね?」
そういいながら、クー・フーリンは帽子とサングラスを取って見せる。
途端、男は目を見開き、息を飲んだ。そして、一瞬にして顔を真っ赤に染めあげると、そこまで、と言いたくなるほどに一気に距離を取った。
「く、クー・フーリン!!」
「お、やっぱ知ってたか…ま、イベントがあるくらいには有名だしな?差し入れとかも貰うんだぜ?コースターとか、菓子とか、な?」
「そ、そうなのか…」
明らかに声が震えている。男は先程とはかけ離れた挙動不審っぷりを発揮しており、これはもしかすると、とさえ思えてくる。視線は泳ぎきっているし、冷や汗まで流していて、平静を装えていると思っているのだろうか。
正体を明かした途端これ、ということは、ただ知っている、というわけではなさそうだ。
「そうそう、この前、そういう感じのハンカチも貰ってな?気に入ったから使ってんだ」
「ほ、ほう?て、手作りともなれば、邪険に出来なかったのか?」
「あ?俺別に手作りとか言ってねえんだけど?」
勝手に自滅した。クー・フーリンは楽しげに男を見下ろして口元に笑みを浮かべる。
仕舞ったというように口元を押さえた男のしぐさ。これは本当にかの人物がこの目の前に居る男で間違いなさそうだ。
もっと華奢で、愛らしくて、守ってやりたいお嬢様形を想像していたクー・フーリンにとって、これはかなり幻滅、と思うところだが、何故か幻滅まで行かなかった。
それどころか、耳まで赤く染めて、目を潤ませる目の前の男を、可愛いとさえ思ってしまうほどで。
ずっと焦がれた相手だった。知らずそんな思いを抱いていてもおかしくはない。そう、知らぬうちに、クー・フーリンはかの相手に恋していたのだ。そして、その相手がはっきりした瞬間、その恋は終わるどころか、好みを焼こうとしている。
ああ、もう駄目だ…
そう思うが早かったか、クー・フーリンは男との距離を詰めるや、顔を近づけ、唇を重ねた。そうするのが、当たり前のように。
男はただ眼を見開いて、抵抗する前に、その唇を離すと、クー・フーリンはそっと身を離すと、男はその場にへたり込んでしまった。それを気にすることなく、己の名刺代わりにしている紙に持っていたペンでプライベート用の連絡先を書いて、男の膝に落とす。
「悪い、おれ、お前に惚れたみてぇ…もう行かねえとだけど、良かったら、連絡してくれ。じゃあ、な?」
確信はなかった、けれど、此処で終わるような気がしなかった。
だからこそ、クー・フーリンは振り返ることなく、男を置いて公園を後にしたのだ。
その場で真っ赤になって名刺を握りしめる男がいたことなど、知ることもないまま。
「さって、明日からも仕事頑張るかー!」
そんなどうでもいい決意だけを言葉にして。
この後どうなったか?さぁ、それは御想像にお任せ致しますよ。