【Fate】世界で一番どうでもいい【槍弓】
何を思い立ったか四年ぶりに続編を書きました。まさかの4年ぶり…【novel/1025302】これの続きです。美容師×会社員な槍弓。凛ちゃんが、めっちゃ出しゃばってます。タイトルは前回と続けて読みます、なので、これそのものに意味はないのです。美容室での話なんて世界で一番どうでもいい、と繋がったタイトルになります。どうでもいいか!
胃腸炎で唸ってたら唐突に書きたくなった続編。本当に唐突。しかも朝のテンションで書いてるので最後眠さに負けました。気力があれば書き直します。
それと、少しだけアンケートです。以前発行した「生のはなし【novel/4389887】」を通販もしくは、別イベントで出そうかと思うんですが、需要あります?今更?という思いもありまして…。ご協力お願いいたします。
すいません、アンケート設定し損ねて、あげ直しです。
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前作を読まないと正直意味わかりません
続きです
クーから連絡が来なくなったことに違和感はあったが、最後があれだったのならば仕方がないかと半ば諦めてはいた。諦めてはいたというのに、どうしてか最近ほとんどなることのない形態を見下ろしている時間が増えているような気がする。
そして、なんの通知も示さないディスプレイを見つめては溜め息をつくことも増えていた。
誰かから連絡が来なくなって、こんな風に心苦しくなることなんてエミヤは初めてのことだった。だから、胸に燻るこの苦しいという気持ちが自分自身のことでありながら理解に苦しんだ。
「なーに陰気な顔してんの」
「凛…」
「自覚ある?ここんとこ、携帯見て溜め息ついてる。眉間の皺も、前より倍増し」
「じ、かくはあるが…、仕事に穴をあけるような失態はしていない」
休憩中に携帯を見つめてまた溜め息をついていたらしいエミヤに声をかけてきたのは同期入社でコンビを組むことの多かった遠坂凛だった。基本的に群れることをしないエミヤだったが、人間関係の面倒くささがなくて気が楽だという理由から、最近では部署も違うため仕事での関わりが少なくなったとしても、社内で会えば言葉を交わすくらいの中であった。
そんな凛がエミヤの顔を覗き込んでは困ったような笑みを浮かべている。面白そうなことはとことん楽しむしからかうタイプの凛がこの顔をするということは、自分にとって異常事態だという認識をされてしまっているのだろう。
眉間の皺と指で軽くぐりぐりと押されると流石に力任せに振り払うようなことはしなかったが、そっとその手を掴んで下ろさせる。
「あんたがそういうとこ、切り替えられるのくらいは知ってるわよ。ふーん、訳アリね?」
「……楽しそうだな?」
「楽しそうな気配を感じた。よし、今夜飲みに行くわよ!勿論拒否権はないからね!」
「え…?」
にやりと、他の人間が見れば、本当にあれが遠坂凛なのかと疑いたくなるような悪い笑みを浮かべる姿に、エミヤは嫌な予感しかせず小さく肩を竦ませる。勝手な予定を立てる凛に止めては無駄と知りながら困惑が浮かぶのは仕方がないというものだ。
しかし、これは、厄介な相手に目をつけられたものだという自覚はあるものの、一人抱えるには、どうしていいのかも分からない。
「ちゃんと定時に仕事終わらせなさいよ?」
「それはこちらの台詞だ」
びしっと人差し指をこちらに突き付けてくる強気な姿勢の凛に、不思議といつもの調子に戻されるような気がして、ふっと笑ってみせるとその言葉に乗るような台詞を返せば、了承の言葉を言わなくとも、通じたらしく、小さくガッツポーズをしながら凛は自分の部署へと戻っていった。
台風のように来て去っていく姿を見ながらも、遅れてしまってはあとからうるさいことを知っているため、早めに終わらせなければ、と携帯をポケットに仕舞い込んでエミヤも自分のデスクに戻っていった。
「はあ!あんたそれで帰ってきちゃったの?そりゃ相手フラれたと思ってるに決まってんじゃない!」
ガンっと、グラスと机が大丈夫なのと心配になる勢いで叩きつけられたのを見て、そちらの心配をしてしまったのを見透かされたのか、酒が入って多少赤くなった顔で睨みつけられたのでそこについては言わないことにした。
凛に言われるままに提示で仕事を上がれば、凛にぐいぐいと連れてこられたのは、一応個室式の居酒屋だった。なんでこんな場所を知っているのかと聞けば、女子には人付き合いが大事なの、なんて言われてしまい追及するのをやめた。
最初の一杯が運ばれたタイミングで、凛は単刀直入に何があったか吐けと突っかかられれば、此処に来た時点で逃げる気などないエミヤは凛は偏見などないだろうという信頼から、クーとのことを包み隠さずすべて洗いざらい吐いた。
吐いた矢先に言われた言葉がエミヤの胸に容赦なく突き立てられた。
「だ、ろうな…」
「そっから一切連絡なし?」
「そうだな…」
「で、あんたは、どうしたいわけ?」
言い返す言葉もないと苦笑しながら手元のビールを軽く煽ると苦くもなれたらうまいと称される味が口内に広がり、あぁ、苦いなと思った。ビールの苦みなのか、改めて見たクーとの距離がなのか、それは分からなかったが、ずっと一人で抱えていた思いを口にしたことは少しだけ胸のつっかえを軽くさせた。
そして、案の定凛は同性同士だなんだのところを突っ込んでくることなく、エミヤを見つめてくる。
「どう、か…。彼は元気そうにしているから…」
「え?会いに行ったの?」
「店の前を通っただけだ」
たまたまではないことはあえて口にはしない。用事がなくてもちょこちょこと連絡を入れてきていた相手が何も言わなくなったのは、原因はあの告白だろうと感づいてはいたが、もしかすると体調が悪いとかそういったものじゃないかという一抹の不安はあったのだ。だから、見に行った。見に行ってみて、後悔をした。
美容室は普通に開いていて。隠されることのないガラスの向こう側に、客にあの人好きのする笑みを見せ、楽し気な姿で仕事をするクーの姿を見てしまったから。
心配していたのも悩んでいたのも自分だけで、相手は何事もなかったかのようにそこにいて、そのことに微かに落ち込んでしまっていることに気づいてしまった。だから、後悔した。
「それで、変わりない相手の姿に落ち込んで帰ってきたの?」
「なっ…、なぜ…」
「ばっかじゃないの。あんただってそうでしょ、仕事にそういう私情なんて持ち込まないじゃない。相手だって一緒。それが本心かなんてわかんないのに、それ見て、あ、自分はいなくてもいいんだ、とか思ってないでしょうね?」
「何故君はそこまでわかるんだ…」
何も言わずとも、エミヤの表情からすべてを読み取ったような凛の言葉に、思わず面食らってしまった。
まるで見てきたかのようだと思う中、そんなエミヤを見て凛は大きく溜め息をついた。
「分かるわよ、あんたの考えてることくらい。で、どうするの?もう諦めちゃうの?もう会えなくても、いいの?」
「会えない…」
呆れたような表情をしながらも、真剣にエミヤを案じてくれていることは分かった。だからこそ、真剣に自分も考えねばとも思う。
だが、目をそらしていたことを考えるというのはそれなりに苦しいものだ。
このままエミヤがなにもしなければ、きっと何事もなかったかのように終わっていくのだ。クーに告白されたことも、食事に行ったことも、カットモデルをしたことも、出会ったことさえも。
まるで最初からなかったのように、いつの間にか思い出になって、思い出もいつしか色あせ、消えていく。
もうあの声が『エミヤ』と嬉しそうに己の名前を呼ぶことはない。
もうあの笑顔が、自分に向けられることはない。
それはきっと当たり前のことで、今まで生きてきた中でも、そうやって通り過ぎていった相手は何人も、何百人もいたはずだ。それでも気にしなかった。物への執着がないように、人への執着もほとんどなかった。だから、自分が誰かの思い出に残っているとは思えないし、逆に自分の思い出の中に、誰かが残っていることもない。
つまり、いずれクーの中でも、自分のことは思い出にすらならないままに消えていくかもしれないということ。
「それは…、いや、だな…」
もう名前を呼んでもらえないことが、あの笑顔が自分に向かないことが、彼の中から自分という存在が思い出にされ、そして、いつしか消えていくことが。
寂しいと思った。悲しいと思った。
初めての感覚だった。告白された時は、困惑しかなかったが、不快感や嫌悪感はなかった。ただ、そんな目で彼に見られているのだということだけが、エミヤは処理しきれなかっただけだった。
会えなくなって思う、嫌なんかじゃなかった。声が聴けなくなって分かる、まだ会いたい。あの笑顔を見ることがなくなって、消えていくしかないと分かって自覚した。
クーという人間に惹かれ、恋していたのだということを。
「答えは出た?」
「あぁ…」
「なら、あとは行動あるのみね」
静かに黙ったエミヤに凛は何かを察したらしく、苦笑ともとれる笑みを浮かべながらも、仕方ないなと顔にかいてあるようだった。自覚するのにだいぶとかかってしまった自分に、鈍いなと言わんばかりに。
そこからは、もうこの話は終わり、あとは自分で何とかしなさい、と告げて、凛はまた酒を煽ると、自分の惚気話やら、仕事の愚痴やらを吐き出し始めた。今回の相談料だから仕方ないかと、エミヤは黙ってそれを聞きながら、どうすればいいのかを静かに考えるのだった。
「いらっしゃい、ませ…」
「予約はしていないが、いいだろうか…」
結局、自分から連絡をすることが怖くなってしまった。もしもう言葉が届かないと分かれば、きっと自分は諦めてしまうだろうと。もう遅かったのだと、後悔して、終わる。
だが、諦めたくはなかった。クーとのことは、きちんと伝えたかった。拒否されてもかまわないからと、意を決して次の休みにクーの美容室へと赴いた。今回は客として、営業時間中に。定休日に必ずいるとも思えなかったうえに、待ち伏せなんて真似はしたくなかっただけなのだが、店員として出迎えたクーはエミヤの顔を見ると驚愕に目を見開き固まってしまった。
想定内の反応に苦笑しながらも小さく尋ねると、待合席に座らされた。
「ご指名はありますか?」
「できれば、君に」
「遅くなっても、大丈夫です?」
「あぁ、構わない」
あくまでも店員として接しようとしているが、動揺しているのが目に見えて分かってしまい、思わず笑いが込み上げてきた。普段は砕けた言葉遣いしか聞いてことがなかったので、これはこれで新鮮だな、などとエミヤ自身は考えているが、向こうはどんな心情なのだろうか。
困っているだろうか、それとも喜んでいるだろうか。此処からでは店内すべてが見えるわけではないうえ、拙者句をじろじろ眺めるのも失礼だろうと、時間つぶしに置いてある雑誌を手にし、それに視線を落として呼ばれるのを待った。
「エミヤ…」
「ん?」
「あ、えっと、お待たせしました。どうぞ?」
「あぁ、ありがとう」
興味があったわけではないものの、いつの間にか雑誌に集中してしまったらしい。名前を呼ばれたことにしばらく気が付かず、自分がどこにいるのかということも一瞬分からなくなり、普通に返事をしてしまった。
そのことにクー自身も戸惑いを見せたところで、自分が何をしに来ていたのかということを思い出し、普通の客として接することにした。
「今日は、どうします?」
「いつものように、カットしてくれるか?伸びてきて気になっていたんだ」
「了解。今日は下ろしたまま来たんだな」
「カットが目的なのに、ムーズで固める奴はいないだろう?」
あくまでも店員と客として接しようとする相手に少しの寂しさを感じるも、今は客として来ているのだから仕方がないと割り切って言葉を返せば、髪に指先が触れるのを感じた。
自分の答えにくすりと笑う声が聞こえて、実のところかなり緊張していたのだが、いつもと変わらぬ相手の様子に安堵を覚えてしまう。
「わざわざ、来てくれたんだな」
「誰かさんが連絡をくれないからな」
「ならお前から連絡くれたらよかったんじゃね?」
「その誰かさんが逃げて届かなかったら困るだろう?」
はさみの音が耳元で響いているが、しっかりとクーの声も聞こえてくる。店内にはBGMが流れているせいか、普通に話している声は意識していないと聞き取ることができない。この会話も実は意識すれば近くにいる店員や客にも聞こえるだろうことから、あえてぼかして話すようにはしているが、どう見ても喧嘩しているようにしか聞こえず、小さく息をついた。
「逃げる?」
「あぁ、違うな。逃げたのは私が先。だから、通じなかったときのことを考えて、怖くなった」
「エミヤ…」
「答えは出たんだ。だから、もう遅いかもしれないが、返事を、してもいいだろうか…」
鏡越しに見えたクーの表情が歪んだのが見えた。言葉を間違えたことは自分でも分かっていたので苦笑を浮かべることしかできなかったが、それだけでも何かを感じ取ったのだろう。クーは人の感情の機微にとても敏感な人間だから。
美容師なんてしていれば、喋ることも仕事の一つで、踏み込んでほしくない客には干渉しすぎないようにとするものだ。それは言葉にせずとも察する能力が必要で、きっと、自然と備わっていったものなのだろうなと思っていた。
相変わらずはさみは動いたままだが、鏡に映るクーの姿は酷い顔をしていて、ずっと苦しめていたのだと察してしまって、少しばかり罪悪感を覚えてしまった。きっと、悩ませていたのだろう。言わなければよかったと思わせてしまっただろうかと考える。けれども、もう答えの出たエミヤはクーが何を考えていたとしても、その答えを言わないという結果にはたどり着けない。
遅くてもいい、聞いてくれるだけでいいと鏡を見つめれば、目が合った。
「ま、待て!此処で?今?」
「此処で、今。駄目か?」
「俺、仕事中なんだけど?」
「知っているが?客として今カットしてもらっているのは私だからな?」
「いやいやいやいや!時と場所考えようぜ!?ここで断られたら俺マジでこの後仕事になんねえんだけど?」
何度か目を瞬かせ、慌てた様子のクーにここで言わずしていついえばいいのかと思わず首を傾げれば、ないないと何度も首を横に振った挙句、エミヤの座る椅子の横に座り込んでしまったクーに安心を覚えてしまう。
嫌になったというよりも、本当に答えが聞くのが嫌で逃げていたのだろう。それは自分も同じだから、彼の言動で察してしまう。
「断るために、わざわざ私が此処まで来ると思うか?」
「え?それって…」
顔を上げた相手を見下ろして、その顔があまりにも幼くて、情けなくて、エミヤは思わず笑ってしまう。その顔がどんな顔をしていたのかは分からないが、クーの少しだけ泣きそうな顔を見て、言ってよかったと間違いではなかったのだと確信した。
それと同時にこみ上げる愛おしさに、目を細める。
「どうか、私と付き合ってもらえないだろうか…」
「よ、ろこんで…」
首にはタオルと、髪の毛を避けるためのクロスをつけられたままなんていう、何とも情けない格好のまま告げた告白に、此処がどこかも忘れているのだろう、クーはエミヤを抱きしめてきた。
そんなクーを抱き返してやりたくとも、上手く身動きが取れなくて、軽く腰を叩いてやることしかできなかったが、それでも、遅くなかったのだということが嬉しくて、彼にまだこの手が届くことが愛しくて、少しだけ視界がかすんで見えていた。
その後、我に返ったクーが他の従業員に冷やかされ、祝福される中、自分自身もこんなところでなにを、と我に返ったエミヤが羞恥心に悶えるのは、もう少し先の話である。
おわり