月15万払えても家が借りれない…収入があってもネカフェを抜け出せない「見えないホームレス」の絶望
FRIDAYデジタル3/8(日)10:00
限界の「自己責任論」と見えぬ貧困層
どうすればこの悪循環を断ち切れるのか。
「例えば病気になったりメンタルが壊れたりして働けなくなれば、今の不安定な居住状態も維持できなくなります。そうなれば生活保護を利用するしかなく公的支援につながる。現実にはそういうケースが多いですね。
今ある制度で支援を受けるためにいったん仕事を辞める決断をする方もいます。生活保護利用者になればハローワークや役所の支援を受けながら職業訓練も受けられますし、身分証や銀行口座も作れてアパートも借りられます。半年〜1年はかかりますが、必要な資格を取るなど力を蓄え正社員の職に就くこともできる。
長い目で見れば、ホームレスの人たちが税金を納める立場に戻れるのですから、社会的にもはるかにいいと思います」
生活保護を利用している人の約半数は今も65歳以上の高齢者だ。まだまだ働ける世代が生活保護利用者になる決断はそう簡単ではない。“働けている”という自負もあるはずだ。
それに生活保護の原資は国民が納めた税金だ。社会的反発や偏見もある。
「近年は社会的に生活保護制度が許容されにくくなっている。働けるなら働けという圧力がある社会で、仕事を辞めて支援を受けるということに強い抵抗を感じる当事者は少なくありません。
個人的な印象ですが、若者にはそれでも使える制度は使って人生を立て直すと割り切れる人も少なくない気がしますが、好景気の時代を知る中年層は割り切るのが難しい。
また、若い人でも不器用で世渡り下手な人は生活保護に対する忌避感は強いと思います。しかも今はアルバイトなら働き先はたくさんある。それが余計に自助意識を高め、体力・気力だけで頑張ってしまう。それでも住居は持てないし暮らしは良くならない。結果的には今の社会が本当の意味での彼らの自立を妨げているように思います」
生活が苦しいのは「ホームレス」に限った話ではない。家はあっても非正規やフリーランスなど不安定な職に就き、家賃上昇や物価高でギリギリの生活を強いられている人は多い。
大西さんが理事を務める自立生活サポートセンター・もやいは支援活動の一つとして毎週土曜日に都庁前で食料配布と相談会を行っているが、この数年で利用者は急増。持ち家やアパートなど自宅がある人が多数訪れるという。一見、暮らしに困っているようには見えない人が多く、貧困そのものも見えづらくなっている。
「家はあっても見えないホームレスの人たちと同じように収入は生活保護受給条件より少し上回るが暮らしは厳しいという方が増えているように思います。
ホームレスの人たちの居住支援には公的な住宅の整備や自治体が空き家を借り上げて貸し出すなどの政策が必要だと思うのですが、家がない人だけでなく、こうした暮らしに余裕がない若年層や子育て世代などにも幅広く必要でしょう。
特定の領域、特定の属性だけを手厚くすると、ある種の対立や分断、社会的なバッシングを生んでしまいます。だからといって対象を広げれば費用はかさむ。その負担をどうするのかという議論まで政治レベルでしてほしい。
生活保護制度や皆保険制度もそうですが、国や自治体にしかできない事業や制度はあってそれによって命が救われている。素晴らしいことなのですが、より多くの人を救えるよう時代に合う制度へと発展させていく必要性を感じます」
「見えないホームレス」や「見えない貧困層」が置き去りにされたままの日本の未来を、多くの人に想像してみてほしいと大西さんは言う。
2月末に厚生労働省が公開した人口動態統計速報では’25年の出生数が過去最少の70万5809人だった。日本の人口減少問題は深刻化する一方だ。
「信じられないほどの少なさです。東京の出生数は約9万人(前年比1.3%増の8万8518人)ですから、極端な話、5年後の小学一年生は1校あたり約70人しかいないということ。この先、もっと速いスピードで人口減少は進むはずです。
例えば派遣社員の人のなかには、正規雇用の人と同じ仕事をしているのに社会的信用は薄く賃金も上がらない、という人は大勢います。彼らが正社員と同じ雇用形態なら家庭を持つという選択肢が生まれます。そうなれば社会全体にとってもプラスでしょう。
企業が優秀な人材を安く使い倒したり、“貧困は自己責任”で片づけようとしたりする社会的風潮は長期的に見れば日本を縮小させる要因になる。人口減少が深刻化している我々日本社会はそういうことも丁寧に考え、貧困問題に取り組むべきではないでしょうか」
▼大西連(おおにし れん) 社会活動家、認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事長。1987年東京生まれ。’10年より新宿でのホームレス支援や生活困窮者支援に携わり、《もやい》の活動に参加する。’14年より現職。’21年より内閣官房(後に内閣府)孤独・孤立対策の政策参与も兼務。現場での相談支援のほか、社会保障や貧困問題について現場からの声を発信、政策提言を行っている。
取材・文:辻啓子