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夏休みのお嫁さん。/Novel by あさみ

夏休みのお嫁さん。

14,517 character(s)29 mins

夏休みの一時を一緒に田舎で過ごすセタショタ弓です。
田舎の教会で暮らすセタンタとそこへ夏休みにやって来るショタ弓。
教会の夏はセタンタ、言峰、そしてギル兄ちゃんと過ごします。
ついの中から生まれました。
キスシーンのみあります。
(ラストのみ槍弓雰囲気ありです)
タグが足りなかったらごめんなさい。

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彼と初めて出会った夏。
それはまだ幼い夏だった。
父親同士が幼馴染で、田舎に帰ったらたまたま彼と出会った。
青い髪をした綺麗な子。
「おれ、セタンタ!」
「ぼく……エミヤ」
父の仕事の関係で各地を転々としていた。
長くそこにいることもなく、保育園も度々変わっていた。
行かないこともあった。
だから友達と呼べる相手などいなかったのだ。
エミヤの初めての友達はセタンタだった。
「あそぼー!」
友達に手を引かれたのも初めてだった。
白い肌の汗ばんだ感触。
でもエミヤはそれが嫌いではなかった。
むしろ、すぐに好きになった。
「うん!」
「なにしてあそぶー?」
「セタのすきなのでいーよ?」
ニッコリ笑うエミヤを見て、父は驚いた。
いつもあの子は人の後ろに隠れていたのに。
母親の側を離れたがらなかった。
この世界を恐がっているように見えていた。
その子の心を開いたのだ、あの少年は。
「なあ、言峰」
「何だ、切嗣」
「あれ、お前の息子だよな?」
「親戚から引き取った子だ。あの子の両親は海外で事故に巻き込まれて死んでな」
そうか、とだけ切嗣は言った。
こんな田舎の教会に綺麗な男の子。
少し怪しいと切嗣は思ったのだろう。
言峰は長く神父をしているが、特別変わったところはなかった。
遊んでいる子供達を見て、切嗣は深く考えるのはやめようと思う。
それよりも写真をたくさん撮って妻に送ろうと思った。

2人は日が暮れるまで一緒に遊んだ。
汗だくになって並んで麦茶を飲んだり、冷えた素麺とおにぎりを食べたりした。
言峰はあまり贅沢な人ではなかったし、男だから質素な料理が多いようだった。
切嗣はそれに文句を言っていたが、エミヤは美味しそうに食べた。
その横でいつもは文句を言うセタンタも黙って食べた。
「おにぎり、おいしいね、セタ」
「うん!でもおれ、およめさんにするならごはんのおいしー人にするんだ!」
「およめさんってなぁに?」
無垢な瞳で尋ねられて、セタンタは少し赤くなった。
可愛い、と思ってしまったのだ。
男の子なのに、エミヤを可愛いと思った。
だから少し恥ずかしくなったのだ。
「お母さんのことだよ」
「おかあさんのこと?わぁ、じゃあごはんがおいしーひとがいいね」
ニコニコしてエミヤは言う。
美味しそうにおにぎりを頬張っていた。
「エミヤもごはんがおいしー人がいい?」
「うん。でもぼくのおかあさんのごはんおいしいよ?」
「エミヤ、お母さんいるんだ」
「うん。セタにはおとうさんしかいないの?」
エミヤがそれを聞くと、セタンタは黙ってしまった。
その目が遠くを見ている。
「ことみねはお父さんじゃない」
「そうなの?」
「でも、わるい人でもない……でもお父さんもお母さんも、とおくでじこってのにあっちゃったんだって」
「じこってなぁに?」
「わかんない。だから、かえってこれないって。おじさんいるけど、おしごといそがしいんだ」
へえ、とエミヤは言った。
その時、セタンタがとても寂しそうだった。
だから少年は言ったのだ。
「セタ、ぼくがセタのおかあさんになってあげるよ!」
「え?」
急にそんなことを言われて、セタンタは驚いた。
でもすぐに考える。
悪い話ではない、とセタンタは思ったのだ。
エミヤは自分と遊んでくれるし、年も近いし、可愛いし。
「ごはんつくれるようになって、セタンタのおかあさんになってあげる!」
「エミヤ、ち、ちがうよ!お母さんじゃなくって、およめさんだよ!」
「およめさん……?いーや、ぼく、セタのことだいすきだから!」
大好きだから、と言われてセタンタの目が緩んだ。
そしてその瞳にたくさん涙が溜まっていく。
「どぉしたの、セタ?」
「なんでもない!」
「ほんと?」
「うん!エミヤはおれのおよめさんだからな!」
「うん、やくそくー!」
2人は夏の太陽が傾きかけた頃、大事な約束を交わしたのだった。
それから切嗣はエミヤを連れて帰った。
エミヤはセタンタとの約束を忘れず、翌日には母のアイリに料理を教わるようになった。
どうしたの、と尋ねられておよめさんになるから、とエミヤは答える。
まあ可愛い、とアイリは言ったがその夜、何があったのか切嗣は問い詰められることになる。

翌年の夏、またエミヤはセタンタに会いに来た。
セタンタはそれをとても喜んだ。
再会を喜び、2人は子犬がじゃれるように遊んだ。
しっかりと手を繋いで走り回る。
エミヤが笑うとセタンタも笑った。
「数日、泊まって行かないか」
突然言峰はそんなことを言った。
切嗣はそのつもりはなかったが、2人を見つめる言峰の顔を見て考えを変えた。
「そうだな」
「あれの叔父がスイカやら食料品を大量に持ってきてな。2人では消費しきれん」
「僕は仕事があるからさ、エミヤだけ置いて行ってもいいかい?」
「構わん。着替えはセタンタの物で間に合うだろう」
こうして、エミヤは初めて友達の家にお泊りをすることになった。
セタンタもそういうことを初めて受け入れる。
2人共とても楽しそうだ。
一緒に並んで食事をした。
スイカを食べて、蚊取り線香の火を眺めた。
「エミヤ、明日、海行こうって」
「海?」
「うん、ことみねが連れてってくれるって!」
エミヤがここに泊まったのは数日のことだ。
けれども2人はずっと一緒に過ごした。
初めての海、砂浜。
言峰は2人をただジッと見守った。
「ギルにーちゃんだ」
「だぁれ?」
「ことみねの友達」
海に連れて行ってくれたのは言峰だけではなかった。
彼の友人というギルガメッシュという男がついて来ていた。
金色の髪をした格好いい男である。
「ほう、セタンタよ。その年で僕を見つけたか?」
「なにそれ?ばっかじゃねーの、ギルにーちゃん」
「なッ!?我に向かってバカとはなんだ!」
砂浜でセタンタはギルガメッシュに追いかけられた。
でもそれも楽しいひと時だった。
エミヤはセタンタと海に入り、それをギルガメッシュが見守った。
何だかんだと言いながら、彼はとても面倒見がよかった。
口と態度が悪いだけである。
するべきことはきちんとしてくれていた。
一日中遊んで、エミヤは疲れ果てた。
帰りの車の中、彼は後部座席で眠っている。
その横にいるセタンタはエミヤに肩を貸し、その手をしっかりと握っていた。
「妬けるな、言峰」
「馬鹿か。子供だぞ」
車を運転している言峰にギルガメッシュは言った。
高笑いをしながら、それでも彼は少し嬉しそうだった。
「エミヤは俺のお嫁さんなんだからな、ギルにーちゃんにはやらねぇぞ!」
「……嫁の意味を知っているのか、子犬よ」
「知ってるよ、だいじな人のことだろ!」
「合ってはいるが、表現がおかしいと思うがな。言峰、教育を間違えたな?」
「切嗣のせいだ」
ハンドルを握りながら、言峰はアクセルを噴かせた。
それから数日して、エミヤは帰っていった。
仕事の忙しい切嗣ではなく、アイリが迎えに来る。
この時、アイリは初めてエミヤが好きなセタンタを見る。
セタンタは本当に綺麗な少年だった。
「あんた、エミヤのお母さん?」
「ええ、そうよ。貴方がセタンタね?」
「うん……」
そう言いながら、セタンタはアイリを見た。
「あのさ、俺、大人になったらエミヤをお嫁さんにもらっていい?」
その目は真剣だった。
子供なのにとても真っ直ぐだ。
本当に好きなのだろう、とアイリは思う。
「いいわよ。でも苦労すると思うわ」
「いいよ、それでも。エミヤのこと好きだもん、俺!」
「そう、よかった。エミヤのこと、これからもよろしくね?」
「うん!!」
帰っていくエミヤの背中を見ながら、セタンタはずっと手を振っていた。

それからまた次の年の夏。
2人は小学生に上がっていた。
学校は違うけれど、でも今までと変わらずに夏に会った。
今度は夏休みという期間に。
仕事の忙しい切嗣は海外に出張に出ている。
アイリはエミヤと一緒にバスに乗って田舎を目指した。
事前に連絡を入れていたので、バス停にセタンタが来ていた。
バスを降りて、エミヤはセタンタを見て喜んだ。
「セタ!!」
「エミヤ!!」
2人は抱き合って再会を喜んだ。
幸せそうに手を繋いで歩く。
その様子をアイリは後ろから見つめた。
夏休みの間、そのうちの2週間程をエミヤはセタンタと過ごすことになっていた。
言峰の許可もあったし、時々ギルガメッシュも遊びに来るという話だった。
「ちゃんと宿題をしてから遊ぶのよ」
「はーい!」
初めての夏休み、エミヤはセタンタと並んで宿題をした。
教会の一室、エアコンの効いた部屋だった。
「あのなー、ディルって友達出来たんだー」
「どんな子?」
「んーっと、お父さんが大好きって言ってた」
「僕もお父さん大好き!でもセタのことはもっと大好きだよ!」
ニコニコしながら、エミヤはセタンタに言った。
その顔があんまりにも可愛くて、顔を赤くしたセタンタは下を向く。
「どぉしたの?」
「な、なんでもねーよ!エミヤは友達出来た?」
「えっと、しんじってのいるよ!あとは女の子も!りんとさくらって双子なんだー」
「えー、双子ってなに?」
「一緒に生まれたんだってよ?」
「すっげー!」
2人はそれぞれの学校のことを話した。
並んで宿題を済ませ、食事をする。
また素麺とおにぎりだった。
「僕ね、目玉焼き焼けるようになったよ!」
「え!?じゃあ、その……」
セタンタは視線を逸らして顔を赤くした。
「そのさ」
「なぁに?」
「もうお嫁さん、なれるじゃん?」
恥ずかしそうにセタンタは言った。
エミヤはくしゃりと笑顔を見せる。
「まだまだ頑張るよ、セタに美味しいのたくさん食べて欲しいもん!」
可愛いエミヤの笑顔を見て、セタンタは更に嬉しくなり、顔を赤くした。
こんなに可愛い存在が自分のお嫁さんになってくれる。
頑張って料理も覚えようとしている。
それがとても嬉しかった。
2人は着々と宿題を終わらせ、遊ぶ時間をたくさん作った。
森でカブトムシを採った時エミヤはとても喜んだ。
初めて見たのだと言って笑顔だった。
ギルガメッシュが来た時、彼の車に乗せてもらって外食に行くこともあった。
また海にも行って、少し離れたところにあるプールにも行った。
疲れ果てて、セタンタとエミヤは教会の中で寝ていることもあった。
「子犬共、こんなところで寝ておるぞ」
「ふむ、さすがにここは困るな。信者が来た時に邪魔になる」
教会の中で眠る2人を抱え、言峰はベッドに寝かしつけた。
幼い2人は並んで昼寝をし、また夕方遊んだ。
教会の庭は2人の遊び場だったし、近くの自然も全てが遊び場だった。
手を繋いで歩くことは幸せで、笑い合えることも幸せだった。
けれどもそんな時間はすぐに過ぎてしまう。
別れの時が来る。
「セタ、僕帰るね……?」
寂しそうなセタンタにエミヤは言った。
帰ることが悪いことのように思ってしまう。
セタンタはとにかく寂しくて、なかなか手を離さなかった。
「俺、早く大人になってエミヤをお嫁さんにするからな!」
「うん!!」
やっと離した手を振る。
セタンタの目には少しずつ雄が宿り、そして未来への希望に満ちていた。

翌年の夏、エミヤは1人でバスに乗ってやって来た。
1人でバスに乗るのは初めてではない。
間違えないように何度も練習した。
アイリにバス停の名前と運賃をメモしてもらっている。
それをお守りのように握りしめて、バスに乗っていた。
荷物は少し重い。
この前旅行に行ったから、そのお土産をセタンタにもあげたかった。
ドキドキしながらバス停を降りるとセタンタが待っていた。
「セタ!」
「エミヤ!」
2人は笑顔で抱き合い、手を繋いで歩いた。
車の少ない田舎道。
バスの数も少なくて、ここには2人きりのように思えてしまう。
「あのね、この前お父さんとお母さんと旅行に行ったんだ」
「へー!いいなぁ、俺、ギルにーちゃんと買い物しか行ったことねぇよ」
「お土産、買って来たんだ」
そう言ってエミヤは荷物から何かを取り出した。
キラキラ輝くキーホルダーだった。
「わ、綺麗だな」
「でしょ。あのね、セタが青で……僕が、赤なんだ」
色違い。
わざわざそれを選んだ。
セタンタはそれを受け取ってとても嬉しかった。
嬉しくて、嬉しくて上手く言葉に出来ないくらいだった。
「い、嫌だった?」
「ち、違うって!う、う、嬉しい……」
セタンタはそう言ってキーホルダーを握り締めた。
「ありがと、エミヤ」
「よかったぁ」
微笑むエミヤは可愛かった。
それを見てセタンタはドキドキする。
握った手が汗をかく。
暑いからだと自分には言ったけれど、それだけではないと分かっていた。
2人はまたその夏を楽しんだ。
ずっと手を繋いで過ごした。
並んで宿題をして、並んで眠る。
暑い日差しの中、言峰が作った畑の手入れも手伝った。
教会の裏庭で遊びながらの作業だった。
また素麺とおにぎりを食べた。
ギルガメッシュも遊びに来て、彼の車に乗せてもらう。
楽しい時間はすぐに過ぎ去っていった。

翌年もエミヤは1人でバスに乗って来た。
今年はギルガメッシュが早めに休みが取れたと言って、バス停まで迎えに来てくれた。
車を飛び下りて来るセタンタは幸せそうだった。
「ギルにーちゃんが迎えに来てくれたんだ!」
「ふん、今年は早目に休みが取れたからな」
「クビになったんだろ!」
「違う!!」
本当の兄弟のように、2人は仲がよかった。
それを眺めてエミヤは微笑む。
兄弟のいない彼にとってここでの時間はまるで家族が増えたかのような時間だった。
教会に着くと言峰は信者の相手をしている最中だった。
忙しそうにしている。
その横を通りぬけて、部屋に入っていった。
「神父様、忙しそうだね」
「言峰、最近忙しいみたいだからな」
セタンタはあまり詳しくは知らないようだった。
言峰の仕事は普通の人とは違う、とは分かっている。
毎週日曜日は朝から礼拝がある。
その他の曜日も度々他所へ出かけては、信者に会わなければいけないらしい。
「ふん、過疎化が進んだからな。隣の教会が閉鎖になったと言っていたぞ」
ギルガメッシュはそんなことを言いながら、車の鍵を回していた。
セタンタもエミヤもこのギルガメッシュがどんな人なのか知らない。
信者ではなく、言峰の個人的な知り合いとしか聞いていなかった。
仕事は何かしているようなのだが、正直何をしているのか想像もつかない。
いつも堂々としていて、高飛車なのだ。
でも長年の付き合いで言峰やセタンタの世話をよく焼いてくれる。
そして、その中にはエミヤも入っていた。
「ギルにーちゃん、かそかってなに?」
「馬鹿だなお前はッ」
「おしえてよー!」
セタンタはギルガメッシュによく懐いていた。
彼に飛びついては分からないことを知ろうとする。
ギルガメッシュは決して悪い人間ではないようだったが、教え方が上手いとは言えなかった。
その点では言峰の方が上である。
「とにかく、今日は言峰が忙しいからな!デリバリーを頼むぞ!」
「えー、隣町から来るから時間かかんじゃん!」
「ええい、うるさいぞ子犬!!」
どうやら言峰が忙しい時は店屋物で済ませているようだった。
それを見て、エミヤは少し考える。
ゆっくりと口を開いた。
「あの、僕が作ろうか?」
「な、なんだと、貴様作れるのかッ!?」
ギルガメッシュは驚いたようで、エミヤを見つめた。
「うん、簡単なのなら。何か材料あるかな?」
エミヤは台所の冷蔵庫を開いたり、調味料を見たりしていた。
それからしばらくは彼の世界だ。
様々なことをして、料理が出来上がる。
「簡単なのなんだけど、トマトとツナのスパゲッティ」
そのいい匂いは室内に充満していた。
涎を垂らさんばかりの勢いでセタンタはエミヤに近寄ってくる。
「すっげー!エミヤ、料理上手だな!!」
「練習してるんだ」
ニコニコしながらエミヤは盛り付けて、食卓に運ぶ。
セタンタも手伝った。
そして食事を開始する。
「う、美味い……」
ギルガメッシュが呟く。
セタンタはガツガツと食べていた。
「おかわり!」
「いっぱいあるからね、たくさん食べていいよ」
「わーい!」
エミヤはセタンタに尽くしていた。
それを横で見ていたギルガメッシュは少しだけ微笑む。
「ギルにーちゃんは?」
「我はもうよい。美味かったぞ」
「よかった!」
ニコニコ笑うセタンタとエミヤは本当に可愛らしい様子だった。
それから夏休みは瞬く間に過ぎていく。
暑い日々はまだまだ続くけれど、エミヤは帰らねばならない。
「……帰りたくないな」
帰る前日、エミヤは隣に寝ているセタンタに言った。
今にも泣きそうだった。
「エミヤ……」
「セタともっと近くに住んでて、毎日会えたらいいのにって思うんだ」
「俺も思うよ!早く大人になりたいッ」
「セタ……」
「あ、あのさ!エミヤ!」
起き上がったセタンタは、エミヤを見つめる。
顔が赤かったが、電気が暗くてエミヤには見えていないようだった。
「どうしたの?」
「あのさ、俺、エミヤのこと大好きだ」
「僕も好きだよ。大好き」
その言葉を聞いて、セタンタはエミヤに抱きついた。
今までも遊んでいてそんなことは何度もあった。
だからその延長のようで、でもセタンタの鼓動に気付いてエミヤは違う、と思った。
何か言おうとした時、エミヤは唇をふさがれたことに気付く。
息が出来なかった。
そしてとても熱い。
何だろう、これは、と思った。
触れたのはセタンタの唇だった。
「あのさ、ギルにーちゃんが好きな人にはこうするって!」
「そうなの?」
「うん!でもとっても大好きな人、お嫁さんにしたいくらい好きな人じゃなきゃしちゃダメって!」
とても大事なことなのだ、とエミヤは思った。
この行為は誰にでもしていいものではない。
「あのね……」
エミヤは遠慮がちに言った。
「もう1回……してくれる?」
彼の言葉を聞いて、セタンタは最初よりももっと優しくその唇に触れた。

次の年、エミヤはぼんやりと外を眺めながらバスに乗っていた。
セタンタとは手紙のやり取りをした。
汚い字だけれど彼はすぐに返事をくれる。
だからエミヤも一生懸命返事を書いた。
そしてあの晩のキスを忘れられなかった。
少しずつ大人になっていく2人。
それをセタンタもエミヤも気付いている。
けれども同時に、男同士でそういう関係になってはいけないのだ、という事実も知った。
色々考えているうちに、エミヤはバスを乗り過ごした。
気付いた時には降りるはずのバス停を通り越している。
焦って立ち上がった時、窓の外に自転車で走ってくるセタンタが見えた。
「セタ!!」
「エミヤーッ!!」
バスの運転手はすぐにバスを停めてくれた。
急いで降りて、エミヤは走る。
セタンタの元へ。
「セタ!!」
荷物をその場に落として、エミヤはセタンタに抱きついた。
あのまま知らない場所に行ってしまうかと思った。
焦りと不安でいっぱいだったのだ。
「エミヤ……」
エミヤを抱きしめて、セタンタはしばらくそれを味わった。
彼からこんな風にしてくれるなんて、滅多にないからだ。
それから2人でゆっくりと歩きながら話をした。
「エミヤ、こっち」
「何?」
「ここ、小川があるんだ。明日の夜、言峰と一緒に来ようぜ?蛍が見えるんだ」
「蛍?」
2人は小川を眺めて話をした。
小さなその川は自然そのものだ。
この時期、夜になると蛍が美しく輝く。
セタンタはそれをエミヤに見せてやりたかった。
「エミヤ」
セタンタは小川を見ていたエミヤを呼んだ。
そして静かに彼の身体を引き寄せ、唇を合わせた。
求め合った、その幼い唇を。
2人は熱いキスを繰り返し、それからゆっくりと離れた。
「こ、言峰待ってる」
「うん……」
2人は手を繋いで歩いた。
その日は特別暑い、と2人は思っていた。
夜、言峰と一緒に蛍を見に行く。
綺麗な蛍に囲まれて、エミヤは幻想的な世界を見た。
綺麗で、綺麗で。
「エミヤ」
セタンタが手を差し出してくる。
その手を取った。
温かくて、幸せな気持ちになった。
ずっと一緒にいたい。
その思いがどんどん強くなる。
年を重ねる毎に。

2人の夏は何度も繰り返されながら、少しずつ進んで行く。
小学生だった2人は中学に上がった。
それでもエミヤは毎年夏にはセタンタの元を訪れた。
暑い夏を2人で過ごした。
汗だくになって遊んで、2人で勉強をして。
並んで眠った。
手を繋いで歩いた。
そして、誰にも見られないようにキスをした。
ただ触れ合うような、そんなキス。
でも年を追う毎にそのキスは愛情を増し、熱く、苦しく、でも甘くなっていった。
繋いだ手を離せない。
触れる唇を味わいたい。
それがいけないことなのだと2人は分かっていたけれど、どちらからもそれを言わなかった。
「高校はどうするの、セタ?」
蝉の鳴き声がする中でエミヤはそう聞いてきた。
それは昨年も聞かれた。
その目には同じ高校に行こうというエミヤの初めてのお願いがこもっていた。
はっきりと言わないのは、彼が優しいからだ。
セタンタの願う道を閉ざす気はない。
「俺は……」
高校受験は目の前だ。
成績はさほど悪くなかったが、あまり苦労する気にはなれない。
最近、ギルガメッシュの仕事が忙しくて彼に会えていなかった。
以前は度々教会に来ていたが、なかなか来れなくなったのだ。
言峰は以前と変わらない様子をしていたが、着実に年を取っていた。
セタンタの叔父という人はなかなか現れない。
言峰は会ったことがあるようだが、セタンタ自体は詳しく知らなかった。
叔父は本当に忙しい人なのである。
だからその人に頼ることも出来なかった。
「まだ、考えてなくて」
「そうか。でもしっかり考えた方がいい。セタは頑張り屋だから」
微笑むエミヤ。
でも何処か寂しそうなのは、セタンタが自分を選んでくれなかったから。
エミヤは都会の進学校を希望していた。
そしてその後は大学に行くのだ。
それはずっとセタンタに話していた。
「言峰さんもなかなか忙しいから、相談出来てる?」
「まあ、時々は」
「そっか」
今年の夏は、少しだけ寂しい夏だった。
2人は毎年のように同じ夏を過ごしていたかのように見える。
けれどもエミヤの勉強が多かった。
遊びに行こうとセタンタが誘っても、もう少し、と言うことが増えたのだ。
「勉強ばっかしてさ、つまんなくない?」
セタンタはエミヤにそう聞いた。
涼しいエアコンの効いた部屋だ。
その中で、エミヤは必死に宿題と受験勉強をしていた。
「大変だけど、つまらなくはないよ。その、勉強したいことがあるから」
「でもさ、ずっと勉強ばっかじゃん」
「セタ……」
エミヤはセタンタの身長が伸びていることに気付いた。
そして自分もそうだ。
もう初めて出会った頃のような幼さはなかった。
だからセタンタはエミヤにもっと自分を見て欲しいと言う。
けれどもそれを受け入れられる程エミヤは暇ではなかった。
希望している学校に行くには、勉強がいる。
夏休みのほとんどを塾に行かなければいけない。
「俺はさ、エミヤのこと好きだけど、勉強ばっかしてるエミヤはあんまり好きじゃねぇよ」
「セタ……?」
「前みたいにあんまり笑わないしさ。一緒に遊びにも行かねぇじゃん」
それだけを言うとセタンタは席を立ち、部屋を出て行ってしまった。
残されたエミヤはぼんやりとノートを眺める。
どうして、と思った。
セタンタのことがこんなに好きなのに。
頑張っているのに、空回りをする。
何も言えなかった。
部屋を出て行ったセタンタは、言い過ぎたと思っていた。
あんなに頑張っているエミヤにどうしてあんな酷いことを言ったんだろう。
本当は応援してやればいいし、自分もそれくらい頑張ればいいのだ。
それなのに、子供の頃のように一緒に遊んでくれないエミヤが嫌だった。
違う、大好きなのに、それが言えない。

その晩の食卓で、言峰は黙っている2人を見た。
喧嘩でもしたのだろうとすぐに予想を立てる。
「喧嘩ならば他所でやれ」
「喧嘩なんてしてねーよ!」
セタンタは椅子から立ち上がって叫んだ。
それを見てエミヤがビクリと身体を振るわせる。
彼の様子を見て、セタンタは悪いことをしたと思う。
「うるさいぞ、セタンタ。エミヤを見習え」
「もういい!」
夕食もまともに食べず、セタンタは部屋を出て行った。
残されたエミヤは彼を呼んだが振り返ってはくれなかった。
「気にするな、エミヤ。反抗期なんだ、アイツは」
「でも……」
「そうだ、明日あたり台風が来そうだと予報が出ていた。悪いが明日は朝から庭の片づけを手伝ってもらっていいか?」
「はい……」
エミヤは返事をした。
でも頭の中はセタンタのことでいっぱいだった。
出て行ったセタンタは不貞腐れて部屋で寝ている。
いつもエミヤと一緒に寝ているベッドはだいぶ狭くなった。
彼の使う枕から落ち着く匂いがする。
エミヤの匂いだ。
それを嗅いだら眠りに落ちていた。
だいぶ時間が経って、腹が減って目が覚めた。
セタンタは部屋から出る。
エミヤはその部屋にいなかった。
ドアを開けると何かに当たる。
床に皿に載ったおにぎりが置いてある。
それを見ていると言峰の声がした。
「セタンタ!エミヤを知らないか!」
「え?」
「雨が降って来たのに、何処に行ったんだ?」
外を見れば急に激しい雨が降っていた。
台風の予報だったがそれが早まったようである。
「庭の片付けに出たのかと思っていたが、何処にもいない」
雨は激しく、風の音が響いた。
何処かでガシャンと音がした。
言峰は大きくため息をつく。
「教会か……全く先日ガラス窓を修繕したばかりだというのに」
「台風来てんだよな?」
「ああ」
言峰は返事をして歩き出す。
セタンタはその後を追った。
教会の方へ行くと幾つか窓ガラスが割れていた。
それを見て言峰が渋い顔をする。
その時、近所の中年男性達が数人やって来た。
皆、雨合羽を着たり、長靴を履いている。
「神父さん、山から凄い水が来てんだ!」
「ありゃ鉄砲水になる可能性がある!あぶねぇから年寄りとか教会に避難出来ねぇか?」
田舎なので高齢者は多かった。
足が悪かったり、目が悪かったりするのだ。
「それは構いませんが、教会も窓が割れてしまって。私の自宅の方を解放しましょう」
「そりゃ助かる!集会所は雨漏りが酷くってさ、もうありゃ使えねぇよ」
大人達はそんな話をしている。
セタンタはその中にエミヤを探した。
しかし、いないのだ。
「言峰!エミヤ、いない!!」
「何処に行ったんだ、エミヤは?」
「エミヤって、あの白い髪の子かい?川の水が増えたって話したら走って行ったよ?まだ帰ってねぇのか?」
1人の中年男性が言った。
まさか、とセタンタは思う。
走り出そうとして言峰が止める。
「行くな、セタンタ!私が行く、明日になればギルガメッシュも来ると言っていた!」
「嫌だ!俺がエミヤを探しに行く!!」
セタンタは言峰の手を振り切った。
そして止める大人達を抜けて走って行った。
彼には見当がついていた。
きっとあの小川だ。
あの蛍がいた場所。
あそこを守ろうとしているに違いない。
雨に濡れながら、セタンタは走った。
「エミヤーッ!!」
彼の声は豪雨にかき消されていく。
何処かで警報が鳴っていた。
田舎は何かあると鳴らすようになっているのだ。
木々の合間を風が抜けた。
道には木が倒れてきている。
「エミヤーッ!!」
小川まで来てセタンタは叫んだ。
水がかなり増えている。
危険だった。
「セタ……?」
「エミヤ!!お前、こんな危ない時に何してんだよ!!」
セタンタはエミヤの腕を引いた。
そして小川から離れさせる。
「山から水が来てるって、危ないって意味だぞ!」
「分かってるよ、だって蛍が……」
「蛍?」
「蛍の幼虫。少ししか見つけられなくて」
エミヤの持つ瓶の中には水と草、そして蛍の幼虫がいた。
どうして、とセタンタは思う。
こんなものの為にどうしてエミヤは危ないことをしたのだろう。
「馬鹿、エミヤッ!!お前が危ない目に遭ったらどうすんだよ!!」
「だって……」
「だってじゃねぇよ!!」
怒鳴って、セタンタは歩き出した。
早く教会に戻らねば危険だからだ。
「だって、セタとの思い出だからッ」
「え……?」
「だって、セタ、もう僕のこと好きじゃないんでしょ?だから、思い出はなくしたくなくてッ!!」
「エミヤ……?」
セタンタはすっかり忘れていたのだ。
勉強ばかりするエミヤに少しばかり悪態を吐いたことを。
でもエミヤはしっかりと覚えていた。
そして、もう嫌われてしまったと思ったのだ。
「もう、僕のこと、お嫁さんにしてくれないんでしょ!?」
雨に濡れながら、エミヤは泣いていた。
涙をボロボロこぼしていた。
エミヤの将来の夢はいつも変わらない。
たとえ、進学校に行ったり、大学に行きたいと思っても。
本当の夢は違うのだ。
幼い頃から微塵も変わらない。
セタンタのお嫁さん。
「僕が、勉強ばっかりしてるから、セタはもう別の人をお嫁さんにしちゃうんだって……」
セタンタは何も言わず、ただ突進するようにエミヤに抱きついた。
強く強く抱きしめた。
「エミヤは!!」
豪雨が激しい。
だから大きな声で言った。
「俺のお嫁さんだッ!!他の誰にもやらねぇしッ!!他の奴のとこに行くって言ったら許さねぇッ!!!」
「だって……セタッ……」
「俺、馬鹿だからッ……ごめん、エミヤ」
セタンタはエミヤを抱きしめたまま謝った。
その背中を最初は戸惑いながら、でも最後にはしっかりとエミヤは抱き返した。
2人は豪雨と強風の中、手を繋いで教会まで戻ってきた。
しかしエミヤは戻ったとたんに倒れ込む。
「エミヤ!?」
言峰がエミヤを抱きかかえる。
荷物の中から薬や何やらを出してくる。
エミヤは酷い咳と呼吸をしていて、目を開けなかった。
その晩は何とか凌げたが、翌日ギルガメッシュはエミヤを連れて何処か遠くへ行ってしまった。
セタンタは、この時初めてエミヤが病気を持っていることを知らされた。
都会の空気の中では療養が出来ないから、夏休みの間わずかでも田舎に来ていたのだ。
セタンタと過ごす夏は、エミヤの身体にとってとてもいい影響だった。
自宅に戻ってからもエミヤはほとんど体調を崩すことはなかったのである。
「肺炎にならなければいいが……」
電話口で言峰は言った。
相手はどうも切嗣のようである。
「気管支炎にはなっているだろうな。咳が酷かった。ギルガメッシュならば大丈夫だ」
雨に濡れて風邪を引くことは、エミヤにとって命取りなのだ。
それを本人も分かっていたはずである。
しかし、それでも彼は動いた。
「セタンタ」
「何?」
「切嗣だ」
「え?」
言峰は電話をセタンタに差し出した。
それを受け取って少年はドキドキする。
きっと切嗣に怒られる、と思ったのだ。
もう二度とエミヤに会わせないと言われるに違いない、と思った。
しかし電話の切嗣は怒ってなどいなかった。
ただ言う。
エミヤは君のお嫁さんになれる夏休みが、大好きだって言ってたよ、と。
セタンタの目から涙がこぼれた。
エミヤはこの田舎に体調の為に来ていたのではない。
彼の、セタンタのお嫁さんになる為に来ていたのだ。
夏休みのたった短い間だけ。
その間だけ、エミヤは最も愛する人のお嫁さんになる。
だから必ず来ていた。
暑い真夏の太陽の下。
交通の便が悪くて、山や川しかない。
買い物に行くにも時間がかかって。
観光名所もなく、人も少ない。
でもここには、セタンタがいる。
「おれの……およめさんッ」
泣きながらセタンタは言った。
そして切嗣に精一杯ごめんなさい、と言った。

その後、エミヤは肺炎を起こして入院したが、回復したとセタンタは聞いた。
そして受験をし、希望の高校に受かったと手紙が来た。
セタンタは教会からでも通える範囲の高校に進学した。
2人は高校に進学したが、エミヤは高校生活と体調の為にセタンタの元を訪れるのが厳しくなった。
それを手紙で伝えられて、セタンタは泣きながら手紙を書いた。
謝る言葉と手紙を書くから、と。
高校生になった2人はゆっくりと手紙のやり取りをした。
そのやり取りはエミヤを勇気づけ、セタンタを大人にしてくれた。

Comments

  • そー
    November 11, 2017
  • とこあか
    August 2, 2016
  • 麦茶

    台風のシーンはドキドキしました…無事お嫁さんになれたんですよね この話のギルにーちゃん…好きかも(*^^*)

    July 27, 2016
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