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新生/Novel by ちくわぶ

新生

1,862 character(s)3 mins

版権元:Fate/stay night 
注意:腐向け(士弓) ネタバレ Rー15

士弓短文。お題『首筋の赤い跡』 
ぷらいべったーにあげたものと同じです。

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「サーヴァントは全盛期の姿で呼ばれるんだよな」
 布団にくるまったままポツリとこぼした。横で寝ていたはずの男はすでに上半身を起こしており、傍の体温が失せて余計肌寒く感じる。
 弱々しく朝日が射し込んでいる。障子に透かされた冬の陽射しはさらに薄まってひたすら優しくぼんやりとして見えた。それを浴びる男の裸体の表面に、筋肉の流れに沿って影ができる様は彫刻か絵画めいた侵しがたさがあったが、当の本人は自身の芸術性など一顧だにせず、それがどうした、と無愛想な返事だけ寄越した。
「情事の跡すら残らないのに死んだときの痕が残ってるっていうのは理不尽だなって。おかしな話じゃないか? それって首を落とされて死んだ英雄が首と胴が泣き別れたまま召喚されるようなもんだろ」
「お前は誤解をしているようだが、この肉体はあくまで聖杯戦争のシステムによる再現に過ぎない。かつての私自身をそのまま喚び出したわけではないのだから、必ずしも整合性がとれてなくともおかしくはあるまい」
 男は半胡座で前を見据えたままでいる。こちらからは発声に合わせて美しく蠢く喉元の影が窺えた。
 士郎は今、側面というにはやや後方に視点を置いて彼という作品を観覧していた。こうして見ると男の首を囲んでいるように思えた赤くどす黒い痣の形をした汚点は、後ろにまでは続いておらずわずかに末端をちらつかせるだけだった。
「いいや、やっぱり変だ。不合理だ。死んでまで死体の形でなきゃいけないなんて、あんまりな話だ」
「はっ。なんだ、愉快な言い回しをするな。寝ぼけているのか?」
 笑った男が振り返る兆しが見てとれて、士郎は慌てて布団を目元まで持ち上げた。できれば今朝は、彼を正面からは見たくない。
 わざとらしく籠城したマスターに何を思ったのか。しばらく視線を感じたが、馬鹿にされるでもなく「死んだのだから死体の形であるべきだ。小僧の割にはうまく言う」と独語してまた前を向いたようだった。それを察してゆるゆると掛け布団を元に戻す。
 弱い冬の朝日でもじっと見つめていては目に染みるだろうに、男はまた白く染まる紙の仕切りを見据えていた。独語が続く。
「全盛期の姿で呼ばれるのが決まりなら、アーサー王は鞘を得たままこの地に降り立っていただろうよ。聖杯は過去の英雄を召喚するのではない。英霊と言う現象を現実に再現しているだけだ。私にとってはこの跡が残っているのは、むしろ当然のことに思う」
 どうしてだ、とは聞かなかった。
 士郎とて彼との付き合いは短くない。そうでなくても互いが互いであるのだから、取り繕わない本心からの言葉の続きなど考えるまでもなく浮かんでいた。
 言われなくてもわかっている。それを相手も承知していただろうに、男はあえて言葉にした。
「かつて私と言う英霊は首を吊られて完成した。それを否定するのは私の生を否定するのと同じことだ」
 士郎が上下させた布団から埃が舞い、裸の男の周りで頼りなく瞬いている。士郎に絵心や詩才はなかったが、漠然とこの光景はもっと多くの人に称えられるべきだと思った。しかし手の届く範囲には布団かタオルかティッシュペーパーくらいしかなかったので、大人しく網膜に焼き付けるに留める。
 地獄に落ちてもついぞ死に様は忘れられなかったのだから、なるほど、それは彼にとって誕生の日と同じだけ大事な思い出なのだろう。それを玉の瑕かのようにあげつらって如何に醜く不要かと並び立てるのは侮辱に等しい。
 ――それでも。
「それでも、俺はその痣のないお前に会ってみたいと思うよ」
 ふ、と男の肩が僅かに震えた。失笑したのだろう。
「お前が私のように生きていれば嫌でも出会うだろうさ。出会わせる気は更々ないが」
 最後まで静かにそう言って、男はついに立ち上がって睨み続けた障子をあっけなく開けて出ていった。動作のついでに纏った衣服の投影の名残が、綿帽子のように一瞬室内を惑った。
「……俺も起きるか」
 寝転んだままのやる気のなさで呟く。開け放たれた廊下から冷えた空気が這ってきていた。温かい味噌汁でも飲みたいところだ。
 一度伸びをして頭をしゃんとさせる。男と違って一枚ずつ服を着てから居間へ向かった。
 その途中、縁側から臨む中庭の白さに足を止めた。
「雪か」
 道理で冷えるわけだ。僅かにすきま風が入ってきていたので、隙間まできちんと戸を閉め直し、また居間へ向けて歩き出す。
 鳥の囀り一つない。世界に二人きりになったような、静寂が耳につく朝であった。
 

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