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ブロンドチョコレートのスペシャルケーキ/Novel by 凍護@コメント嬉しい

ブロンドチョコレートのスペシャルケーキ

8,122 character(s)16 mins

またホロウっぽい謎時空/風の子ランサーにアーチャーがマフラーを貸してあげたり少しイチャコラしたりの甘甘です。寸止め注意報/ろーおんのケーキはうまい

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アルバイトを終えたランサーは白い息を吐き、靴の先で地面をコツコツと叩いて足を収め終えると足早にバイト先に背を向ける。
季節は冬、極東の四季というものを有するこの国はめっきり寒気を呼び込んでいた。ランサーもサーヴァントとして耐性は強いものの寒暖の感覚は時に命を左右する指標ともなるため、完全に無きものとはされていない。
そのため体温が落ちると、低下するパフォーマンスを維持するためにぶるっとついつい震える体の反応に苦笑する。既に命は終わっている体のなんと人臭い仕草だろうか、ついついクックと笑いながら周りは皆一様に体を縮こまらせて歩く商店街を抜け、携帯に送信されてきたメールが示す場所へつくと、そこにいる黒いコートに黒のマフラー、モスグリーンの手袋といった黒ずくめのアーチャーの前で立ち止まった。

「寒そうだな、お前」
「そういう君は…寒そうだな」
きっちり巻いたマフラーに顔の下半分を埋め、覗く鋼色の瞳が自分の格好を上から下まで視線を送った後呆れて細められる。
今日は夕食を衛宮家でご馳走してもらうこととなり、ちょうど外に出る用事があったアーチャーとバイト後に待ち合わせをしていた。
用事を済ませてから指定の場所で待ち人となって動かなかったこともあり、真冬の冷たい風に散々当てられたアーチャーは完全防備でも時折鼻をすすってぶるぶると小刻みに震えている。
対してランサーの防寒具は見た目の最低限の措置として裾の長い紺色のスマートなコートを羽織ったのみ、ジーンズに飾りっけのないスタイルはしなやかなランサーのスタイルにマッチしているが、それはファションにおいての話。
正直秋の装いなそれは、平均気温が1桁な季節に最早異様としか言いようがなかった。
たまに道行く人がぎょっと目を向いて二度見していく視線を感じているのかいないのか、そんな格好でも白い肌故に形のいい鼻の先をかすかに赤くしただけで平然としているランサーへ、アーチャーはがっくりと肩を落とす。
「まったく外見を少しは考えてくれないか。この季節、君のような格好でうろついている者がいるかね?あぁいるか、近所の小学生は確かこの時期もハーフパンツだったな」
「ったくうるせぇ野郎だなぶっ!?」
すかさず飛んでくる皮肉を素手の手をひらひらと振って払っていたランサーは、突如顔を覆った黒いものに言葉を切った。
それはランサーの格好を見かねて、つかつかと寄ってきたアーチャーが身につけていたマフラー。まだかすかに温もりの残るそれへ目を丸くしていると、淡々と続いて手袋を外したアーチャーはランサーの白い手を取って手ずからそれをはめていく。
「君にとって必要がなくともせめて手袋とマフラーはつけろ、コートの生地は君ならば洒落っ気で誤魔化せる。新しいものを買うまでこれは貸してやろう」
「おぉ…ありがとな」
「勘違いするな、街の名物に就任されては後々凛に迷惑がかかるからだ」
手袋をはめ終えて、投げつけただけのマフラーをきゅっと綺麗に巻き終えたアーチャーが、すっかり冬の装いへと変貌したランサーの格好の出来に満足気に頷く。
そして具合を見るようにニギニギと手袋をはめられた手を動かすランサーに、着せるにしても甲斐甲斐しくしすぎたとハッとしたアーチャーは誤魔化すように顔を背けた。


衛宮家への道を隣り合ったランサーとアーチャーは、微妙な距離を挟んだまま無言で足を進める。待ち合わせ場所でアーチャーがぶっきらぼうに背を向けてから会話のタイミングを逃してしまった。
天下の往来と言えど今は人通りもないため二人きり、これから夕食を過ごす暖かくも賑やかな衛宮家では味わえないシチュエーションをじっくり堪能すべきなのだが。
チラッと視線を送ったランサーがさりげなく数cm空いた微妙な距離を侵略すると、すかさずアーチャーはそれを避ける。おそらく無意識だろうが少し傷ついたランサーは、小さく白いため息をつき今回はこれまでかと思った。
しかしその時、ほんの小さなくしゅ…という音がランサーの優れた聴覚を揺らす。

瞬間ランサーは理解した。
手を取って指の1本1本へ褐色の無骨な手でふれられ、マフラーを巻くとき近づいた距離からまるで新婚ほやほやのラブラブカップルのように襟元を正してもらえた喜びで忘れていたが、マフラーも手袋も元はアーチャーの持ち物だ。
それをすべてランサーに渡してしまった今、アーチャーの防寒具は一気に最低値へと落ち込んでいる。元々一部の隙もなく寒気をシャットアウトしていても震えていたのだから、丸裸にされてしまった現状アーチャーは耐え難い寒さに侵されているに違いない。
事実、つい出てしまったくしゃみを手の甲で拭ったアーチャーはガチガチと時折歯の根が合わない様子、それに強烈な申し訳なさがもたげるが今更返すと言ってもこの世話焼きは受け取らず、売り言葉に買い言葉で確実にこじれる。
これまでの数え切れない経験でマフラーを返そうとした手を寸前で堪えたランサーは、アイテムを返さずにいかにしてこの身1つでアーチャーを温められるかで頭を回し、浮かんだ妙案にニィっと笑みを作った。

「…はぁ、日本の冬はどうだ?ランサー。この季節にテントでは流石に辛いだろう、時には小僧の家にでも泊めてもらうんだぞ」
「あぁ、そうだな。おいおいアーチャー、お前手が冷てぇのか?」
「む、そう…だが、君が気にすることではッおい!」
すりすりと手を擦り合わせ、こもった息を吹きかけて温めようとしながらアーチャーがこちらを向く。それをいいことに、ランサーは素早くアーチャーの手を掴むと抵抗させる間も与えずに自らのコートのポケットへ突っ込んだ。
突然握られた手が緊張するのも構わず、器用に手袋の手のひらの部分へ指だけでも入れてやったランサーは、直に当たるかじかんだ手を包み込むと明るく笑って見せた。
下心のなさそうなそれに毒気を抜かれたアーチャーは引き抜こうとした手の力を緩め、じんじんと冷えきった自身の手を温めるランサーの温もりに唇を尖らせる。
「弓兵が指を疎かにしちゃいけねぇな、ほらこっちの方があったけぇだろ」
「…子供体温」
「なんか言ったか?アーチャー」
この後に及んで可愛くないことをほざくアーチャーに、元々沸点の低いランサーはすぐさま挑発に乗ってしまう。顔は笑顔のまま器用に青筋を出現させ、握った手に思い切り力を込めた。
「いだだだ!!やめろ!筋力B(バカ)!!」
「ッの野郎!言いてぇ事が透けて見えるんだよ!人の好意を無下にする奴にはこうしてやらァ!」
にこやかな笑みで握った指がミシミシ言うほど握力を加えられたアーチャーが、少し涙を滲ませて噛みつく。
さらに燃料を投下されたランサーは手袋の中からアーチャーの指を抜くと、ポケットの中で素早く指と指同士を絡み合わせ、いわゆる恋人繋ぎをしてみせた。
言い争いをしているものからされるには甘ったるい繋ぎ方にアーチャーがランサーを睨みつけると、してやったりの顔で指の根元から先まですりすりとポケットの中で撫でている。
「なっ…!ばっ馬鹿者!!」
「大丈夫だっての、外からは見えねぇよ」
そう言って断続的に力を加えられれば、より密着した手の体温に連動するように顔の熱さも増していく。
ポケットの中に捕らわれてしまったことにより、微妙な距離は破壊され歩く度にランサーの肩へアーチャーは天を仰ぎたくなった。
騒いだところで無駄、むしろ公道で何やらポケットに2人で手を突っ込んだ外人らしき男が言い争っている図こそ街の毒でしかない。
抵抗を諦めたアーチャーを褒めるように、手の甲をとんとんと指の腹でつついたランサーは寒さ以外の要因でも赤みを増してきたアーチャーの頬へ軽くキスを送った。


たとえポケットの中でも、あのアーチャーから外で手を繋ぐことを許されたランサーがご機嫌で歩いていると、ふと道中で現代では見慣れたコンビニという生前欲しかったものトップ10入りするものを見つけて足を止める。
「お、タンマ。ちょいとビール買い忘れてたから寄ってくるわ」
「あ…」
ランサーが踵を返した時、ついでに離れてしまう手へアーチャーの口からつい名残惜しそうな吐息が漏れる。
口から思わずこぼれ出てしまった声にハッと口を押さえるアーチャーへ、一瞬だけ目を丸くしたランサーはすぐに輝かんばかりの笑顔へと変わった。
「すぐ戻るから待ってな!」

心底嬉しそうな顔を向けられて先に歩いて行くことも出来ず、体にとどまった恥に悶々としながらアーチャーが待っていると耳にカサカサとビニール袋の揺れる音が届き、顔を上げる。
そして露骨に眉を潜めたアーチャーが計三つもビニール袋をぶら下げたランサーの方へ仕方なく手を差し出せば、アーチャーの意図とは反してさも嬉しそうな声が聞こえた。
「へぇーそんなに待ち遠しかったか?」
「たわけ!お前の後先考えず購入したものが目に余ったからに決まっているだろう!ふざけてないで袋を貸せ!」
「いいっていいって!それよかほれ、口開けな、アーチャー」
案の定差し出した手にランサーの手を重ねられ、振り払おうとしたアーチャーは悲しい筋力ステータスの差から諦めるしかない。
むっと唇を尖らせるアーチャーに、レジ脇の魅力に負けて購入した肉まんを袋から出したランサーは、器用に片手で空になった袋を潰すとポケットへ入れる。
鼻先に寄せられるほかほかとした湯気にぐっと面食らったアーチャーは少し迷った末、躊躇いがちに口を開いて伏し目がちに白いふかふかのそれへかぶりついた。
「…ん、む」
「少しは暖まるだろ?」
「…夕食前に買い食いとは感心しない」
「かぁー!これだからお母さん野郎はったく!ヤローの買い食いなんて腹の足しにもならねぇって知らんのか」
「誰がお母さん野郎だ!男子の燃費の悪さくらい知っている!…む、か、感謝する。ランサー」
小言へ大袈裟に空を仰ぐランサーに、アーチャーは慌てて礼を口にした。
この堅物は小言を出さずにはいられない、それは長い付き合いでよーく深く知っているため肩をすくめるだけにとどめ、礼を欠いてしまいそわそわとしている生真面目な男にビールの入った袋ともうひとつ、手にぶら下げられた方の袋を差し出した。
「あとこれ、土産だ」
袋を受け取ったアーチャーが覗いてみれば、中に入っていたのは1人用の小さなケーキだった。ほぼターゲットは女性を意識されてるだろう可愛らしいサイズや商品ととても自分が結びつかず、アーチャーはきょとんと首を傾げる。
「私にか?」
「ったりめぇだろ?あの家の全員に買ってたら財布が持たねぇよ。これは俺がお前に選んだんだからな、まぁ受け取ってくれや」
「人からもらったものを人へ渡すほど礼儀知らずではない。…有難く頂こう」
ワンコインでお釣りが来るそれを、大切そうに抱いてはにかむアーチャーについランサーの顔に熱が集まった。あーもう可愛いなクソっと胸の中で悪態をついたランサーは手を握り直し、残り少ない家への道に足を向ける。
ちなみに照れの誤魔化しついでに、出されたものを目線を落としながら食うのはMらしいぞとバイト先で聞いた他愛もない心理テストを口にしてアーチャーの鉄拳が飛ぶのだった。


賑やかな夕食を終えて明かりも消え、すっかり衛宮家は静けさに包まれる。
たくさんの部屋のそれぞれに泊まった者達の寝息だけが聞こえる廊下を足音1つ立てずに通り過ぎた影は、居間とキッチンが一緒になったところの襖をそっと滑らせると冷えた空気にぶるっと小さく体を震わせ、体を滑り込ませた。
そして電気もつけずに冷蔵庫へ行くとドアを開け、中の明かりに一瞬眩しく目を細めて冷蔵庫の奥の方へキッチンの住人に見つからないよう慎重に隠したビニール袋を取り出す。
そしてキッチンに腰を下ろし、添えられたプラスチックのスプーンを手にフタを取ったケーキへ心の中でいただきますと呟いて口にした。
その時、パッと部屋に電気がつく。
キッチンに座ったアーチャーが弾かれたように顔を上げた先には、今日は帰ると言われてその背を見送ったはずのランサーがニヤニヤとした笑みを携え立っていた。
「…ッ!?…ランサー?」
「やっぱりな、ここに来ると思ったぜ。あいつらの前じゃお前はとてもそんなもの食えねぇもんな」
おそらく見送られてから衛宮家の塀を飛び越えて庭を通って戻ってきたランサーに小さくため息をついたアーチャーは、しゃがんで視線を合わせてきた相手を静かに見つめた。
「図ったのか?」
「無きにしも非ずってところだ。あいつらの誰かに見つかるんじゃねぇかって明かりが点いてる間ずっとそわそわして、寝静まった後1人寝床から足音消してコソコソ台所に来るあの堅物の姿が見たくなかったっつうと嘘になるな。怒ったか?」
鷹の目のような鋭い視線に臆することなく答えたランサーをしばらく見つめていたアーチャーだったが肩をすくめると、してやられたとばかりに目を閉じる。
「…いや、もらったものをどうするかは私の判断によるもの。今回は百歩譲って目をつぶろう」
「まぁ言ったことは本当におまけみたいなものだからよ。美味かったか?」
「ああ、昨今のコンビニスイーツは目を見張るものがある」
わくわくと感想を聞くランサーに、ハメられた怒りもあっさり氷解してしまったアーチャーは軽く微笑みながら続きを口にする。
アーチャーの男らしい手にはケーキの器はとても小さく見えるが、それを得がたい宝物のように1口1口味わって食べている恋人の姿に、これまで我慢していたランサーの欲が堪えきれずに噴出した。
「ほぅ、そりゃいい。俺にも一口くれよ、アーチャー」
「ランっ…んっ」
すっと体を寄せたランサーに顔を向けたアーチャーは突然呼吸ごと奪うように口付けられ、息をつまらせた。
口の中で溶けかかったムースが侵入してきたランサーの熱い舌によってさらに形を無くし、見つけた舌と絡み合う事に甘く芳醇な風味で味覚を刺激する。
ぐちゅぐちゅと音を立てながら歯列を余すことなくなぞり、口に含んでいた分を奪い取ったランサーは離れ際、唇にもう1度リップ音を残した。だがすぐにそれでは我慢出来ないというように唇をぺろりと舐めて、褐色の色に艶を持たせるとようやく顔を上げる。
「…ふぅ、ん、甘ぇ」
「…たわけが」
ほんのりと頬を色づかせた照れ隠しなど可愛い以外に思うことは無い、不意の濃厚な口付けにアーチャーが思わず取り落としかけたケーキのカップをシンクに置いたランサーは、シャツから見えるチョコレート色の鎖骨へすりすりと頬を寄せ、頬をひんやりと撫でる体温に眉をしかめた。
「こんな所に明かりもつけずにいたからまた冷たくなっちまってるじゃねぇか、悪いことしてるんじゃねぇんだからここまで息潜めなくてもいいだろうに」
「うるさい、君には関係ないだろう」
「俺が気になるんだよ。…なぁ、もっと暖まることしようぜ」
頬を寄せた首筋へふと舌を伸ばし、尖らせた舌先でうまそうなそこを舐めるとアーチャーの喉の動いた感触が直に伝わる。
そのまま体重を乗せるようにして押し倒すと、キッチンの冷たい床に背筋を跳ねさせたアーチャーが呆れたような顔でこちらを見上げていた。
足の間に体を入れ、たくましい太ももを早速いやらしい手つきで撫でるランサーの手をたしなめるようにつねると、部屋の明かりに影を落とす上の男の鼻をつまんだ。
「たわけ、君は今日泊まらないんじゃなかったのか?」
「忘れ物ってことで、どうとでもなるだろ。なぁ、アーチャー?」
冷たい鼻を楽しむように力を込めたり緩めたりとしているアーチャーの手を掴み、指と指を絡み合わせ外でした繋ぎ方を復活させたランサーはお返しとばかりにアーチャーの鼻先へキスを落とす。
くすぐったそうにぎゅっと目を瞑ったアーチャーはその時、見上げたランサーの姿にふと足りないものを見つけてしまった。

「ん……ん?そういえば君、私が渡したマフラーはどうした?」
「あ?あれって投影で作ったものだろ?とっくに消えたでぇ!!」
投影で作られたものは所詮魔力を編んだもの、差はあるが基本的に時間が経てば消えてしまうのだが、そう答えた瞬間ランサーは視界に星が散るほどの力を受けたまらずアーチャーの上からどく。
痛みの出どころの頭を抑えて尻餅をつくと、ランサーの脳天に渾身のチョップを加えたアーチャーがぶるぶると震えながら続けて襟元を掴みあげた。
「ばっかもの!!あれは正規品だ!つまりどこかに落としたのか?!こんっのたわけ!!」
正規品と言われて聖杯戦争が終わってから労働に勤しみ、1円の価値をそこらの学生よりも深く思い知っているランサーは衝撃の事実にサッと青ざめる。
つい先程の甘い空気はどこへやらランサーは土下座する勢いで、貸したものをその日のうちに落とされた怒りに歪むアーチャーの顔へ謝った。
「えぇぇ!?マジかよ!す、すまん!アーチャー!」
「マフラーを落として気づかないとは小学生以下か!!謝ってる暇があればとっとと探しに行け!私は家の中を調べる!」
そう言って叩き出されたランサーは、衛宮家を出てから他が就寝するまでぶらぶらと街中を歩いて時間を潰していた少し前までの自分を何度も頭の中で殴りながら寒空の元駆け回るのだった。


翌日、ふぁ…と欠伸をしながら支度を終えた凛が居間に行くと、昨夜別れたはずの見慣れた青い頭が机に突っ伏しているのを見てきょとんと目を丸くした。
「あら、ランサーも結局泊まったの?」
「これ探しに街中走らされて見つかった時には夜明けギリギリだったんだよ、流石に勘弁してくれ」
これ、と言ってよろよろと上げられたのは黒いマフラー。確かそれはアーチャーが身につけていたもののはずだったが、いつの間にか所有者が交代している事情に賢い少女は踏み込まず、座ると同時に出された目覚めの紅茶へほぅと息をつく。
本日も百点満点の紅茶をマスターに提供したアーチャーは、ランサーと同じく疲れた顔をしていた。
「君が探す途中にポケットから手袋を片方落とさなければもっと早くに寝れていたがね。まったく、次はすぐに見つけられるように匂いを覚えておきたまえ」
「どういう意味だそりゃあ!!」
早朝にぎゃんぎゃんと騒ぐバカ2人へ朝は沸点がさらに低くなる悪魔から1発加えられた後、ど深夜の望まぬランニングに今朝のケンカによって乱れた髪を整えたランサーが大きく伸びをするとしゃっきり立ち上がる。
「じゃあ、俺行くわ」
衛宮家の面々からのいってらっしゃーいとゆるい見送りをされ、手袋をはめてマフラーを無造作に巻いたランサーが出ていこうとした時。
「待て、ランサー」
「あ?ぐぇっ!」
動いた拍子にひらりと浮いたマフラーの端を器用につかみ引っ張ったアーチャーは、図らずも首を絞められたランサーがゲホゲホと咳き込む間、背後に回ってランサーの背中に垂れたもう片方の端と手に持ったそれとで首の後ろにリボン結びをした。
きゅっと最後にまた軽く絞められ、恨みがましそうな目を向けようとしたランサーは振り向いた先のアーチャーの柔らかな表情に言葉を失う。
「2度と落とすなよ、…いってらっしゃい」
「…イッテキマス」
とても直視出来ず勢い良く前を向いても、今度は少しも取れかかったりしないマフラーがさらに輪をかける。
成人男性が頭の後ろにリボンをつけて出勤していく姿に、ツッコミを入れられるものは誰もいない。
今日も凛の紅茶に砂糖はいらないようだ。

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