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無題、あるいは/Novel by ちくわぶ

無題、あるいは

3,610 character(s)7 mins

版権元:Fate/stay night 
注意:腐向け(士弓) ネタバレ ねつ造

夢の話/昔の話

互いに対になる話。
Twitter公開時は行数もすべて同一になるよう制作していました。

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 思い出のような、夢を見た。
 夢の中で俺は着慣れないはずの重い装備を難なく装着し、ブーツの紐を締め、砂粒から目を守るためのゴーグルを下げる。
 暑く思えるがこれは日差しから身を守るための術なのだ、と誰とも知れぬ声が教えてくれるのに納得する。日焼けはむしろ望むところだったが、砂漠の日光はそんな暢気なものではない。
「――エンヤ!」
 子供の声がする。同行させてもらうことになった団体のうち一割は年端のいかぬ子供だった。俺の名前の発音が難しいのか、少し間違っているが意味は通るのでそのままにさせている。
 足下にじゃれてくる少年少女たちに、装備で隠れた口が緩む。その場で膝をついて目線を合わせた。頭は撫でない。それが侮辱にとられる地域もあることを俺はいい加減学んでいた。
「――――」
 口を開くと俺が知らない言語が飛び出して、ぎょっとした拍子にそういえば夢であることを思い出した。穏やかな口調の俺に楽しそうに頷く子供たち。
 なんと話しているのだろう。先ほどの誰かの声に通訳を求めてみたが、沈黙しか返ってこなかった。
 仲の良さそうな光景だけ見せつけられて、不意に場面は切り替わる。

 余程強烈な思い出だったのか、次の夢は音も匂いも熱までも再現された高解像度のものだった。静まり返ったキャンプ地。吐瀉物と糞便の臭い。夜を唯一照らす篝火。
 誓って言うが、そのつもりで近づいたのではなかった。俺が彼らの生業を知るまで、彼らはあまりにもよき隣人であった。
 富は人に余裕を生み、余裕は人を親切にする。金稼ぎの手段が非道なものだからといって、彼らが皆悪人であるとは限らない。見捨てられた孤児を引き取って育てるだけの慈悲があった。――そのための費用が人身売買によって得られたものであると知らなければ、俺は笑顔で彼らと別れることができていただろう。
 そのころには俺は人を殺すことに効率性を求めるようになっていて、今回使用したのもその中の一つだった。毒物というのは、倫理性を差し置けばこれ以上ない兵器である。
 足のつきやすさが難点だが、これは魔術的加工により精製したものである。一般人に特定は困難だし、魔術師たちは特定に興味を示すまい。ここが砂漠という一種の閉鎖空間であることも踏まえれば、人為的な事件であることを見抜くことすら困難な犯罪であった。
 黙って立ち竦む俺の足首には、掴んだ名残でひっかかっている小さな手がある。もがき苦しむ中で助けを求めて伸ばされた生存への本能だった。それを見下ろして、もう五分はここで時間を浪費していた。
 痕跡は残さず消えるべきだ。そうわかって、俺は結局あらがいきれずその場で膝をついた。汚物にまみれた衣服を気にせず抱き上げて移動する。野晒しというのはあんまりだろう、と思った。
 抱き上げた体は異常に軽い。腎臓一つ、肺一つ、肝臓半分、胃と大腸、片方の角膜を失った人の体。長くは保たない。使い捨てにはちょうどいい天涯孤独の命。その余生を好きに過ごさせてやるだけ、彼らは良心的だったのだろうか。
 生き残りのないテントとテントの間を進む。砂に汚れた衣服を洗ってやるという申し出も、銃の扱いの教えを請う代わりに希少な貴金属を譲ってくれた情も、いずれも真実であったはずだ。旅人である俺を騙そうとする意思は一切なかった。むしろ、一人の俺をあれこれと心配して気にかけてくれるくらいに親切であった。
 憤りに噛みしめた歯が軋む。どうして、と自らが為した非道の因果を問う。
 ――答えを求めぬその慟哭に。彼がかつて一人で自問せねばならなかったこの命題に。
 果たして今、答えはあった。声が言う。

 人は悪人であっても善をなせる。然るに、善人であっても悪をなせる。
 故に善悪を定めるのは当人の資質ではなく、為した結果とそれに対する周囲からの評価のみである。

 端的に答えだけを寄越して、また黙り込む。
 なるほど、さすがに説得力がある。俺は立ち止まり、夢の中の彼もまた立ち止まった。雲のない満点の夜空が頭上に広がる。
 俺の意識からずれて、俺の口が声を発する。それは誰かの名を呼んだかのように思われたが、俺は聞かない振りをした。

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