JR東京駅から新幹線に乗って約2時間半、そこからさらに車で約20分。3本の矢印が特徴的なスポーツ用品大手デサント(大阪市)のロゴマークを掲げた真新しい建物が見えてきた。2025年7月にリニューアルした水沢工場(岩手県奥州市)だ。

 この工場は、デサントの看板商品の高級ダウンジャケット「水沢ダウン」を生産する世界唯一の拠点だ。10年に開催したバンクーバー冬季五輪の日本代表選手向けの防寒ウエアとして開発されたダウンで、表面の縫い目を極力減らす設計により、高い防水性と保温性を備える。約280にも上る工程のほとんどは手作業で行われているという。

 水沢ダウンは安い商品でも10万円を下らない高付加価値商品だ。セール販売はせず、年間の生産量もあえて2万5000着程度に抑え、希少性を維持している。

デサントは約30億円を投じ、看板商品の「水沢ダウン」の生産拠点をリニューアルした
デサントは約30億円を投じ、看板商品の「水沢ダウン」の生産拠点をリニューアルした

 約30億円を投じた生産拠点のリニューアルは、生産量拡大ではなくブランド価値向上が狙いだ。床がきしむほど老朽化していた建物は一新され、エントランスには水沢ダウンのパターンボードを展示するなどしてブランドの世界観を表現。工場内部も高い天井や自然の光、木のぬくもりに包まれた心地よい空間に生まれ変わった。

 日本、中国、韓国を中心に商品を展開しているデサント。そのブランドイメージは地域によって大きく異なる。韓国や中国では「プレミアムスポーツブランド」として認知されている一方、日本では必ずしも同様の評価を得ているとは言い難い。

 新型コロナウイルス禍後、円安の追い風もあってインバウンド(訪日外国人)は回復している。日本におけるブランドイメージが低いままでは、韓国や中国の事業にも悪影響が及びかねない。こうした危機感から、デサントはこの数年、水沢ダウンの販売方針に象徴されるようにイメージ刷新に心を砕いてきた。

 日本におけるリブランディングは19年3月に始まった。株主の伊藤忠商事が経営への関与を強めたタイミングだ。当時、伊藤忠はデサント株の2割強を保有していた。創業家出身の社長が経営を主導しており、韓国事業は好調だったものの、日本事業は振るわなかった。中国で協議していた現地企業との提携案件も進展を欠いていた。伊藤忠は経営陣に改善を求めたが議論がかみ合わず、今で言う「同意なき買収」に発展した。

伊藤忠はデサントの旧経営陣と意見が対立し、相手の同意を得ないままTOB(株式公開買い付け)に踏み切った(写真=yu_photo/stock.adobe.com)
伊藤忠はデサントの旧経営陣と意見が対立し、相手の同意を得ないままTOB(株式公開買い付け)に踏み切った(写真=yu_photo/stock.adobe.com)

 伊藤忠はデサント株の4割を保有するに至った。当時の経営陣を刷新し、デサントとの折衝を担当していた小関秀一氏を新社長として送り込んだ。当然、デサント社員の警戒心は強い。小関氏は「就任の際の挨拶でちょっとジョークを交えたが、社員からは全く反応がなかった」と苦笑交じりに回顧する。

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