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 青空に吸い込まれるはずだった機体は、わずか68.8秒で自ら果てた。「異常なデータもなく、壊す直前まできれいに飛んでいた。率直に言って残念だ」。宇宙スタートアップのスペースワン(東京・港)の関野展弘副社長兼開発本部長は、5日午後の記者会見で肩を落とした。

 スペースワンが開発した小型ロケット「カイロス」3号機の打ち上げが同日、失敗した。2024年3月の初号機、同12月の2号機に続く失敗で、三度目の正直とはならなかった。

 専用のロケット発射場、スペースポート紀伊(和歌山県串本町)から26年3月5日午前11時10分に打ち上げられた3号機は、打ち上げ直後から順調に飛行しているように見えた。しかし、打ち上げから68.8秒後、1段目の燃料燃焼中にロケットが自ら異常を検知して自動的に爆破させるシステムが作動した。何の異常を検知して爆破に至ったのか、詳細な原因は分かっていない。

 カイロスは全長約18メートルの固体燃料式小型ロケットだ。3号機は台湾国家宇宙センター(TASA)の衛星など、国内外の小型衛星5基を高度約500キロメートルの軌道に投入する予定だったが、いずれも紀伊半島沖に散った。軌道投入に成功すれば民間単独としては国内初の快挙となるはずだったが、またも見送りとなった。

作動した安全システム

 なぜ、カイロスは自爆したのか。前提として、カイロスには「自律飛行安全システム」が搭載されている。ロケットが制御不能になった場合、墜落して地上の人や建物、海上の船舶などに影響を与えないよう、機体が想定外の動きをした時には自らを破壊して安全を確保するためのものだ。

3月4日に予定していた「カイロス」3号機の打ち上げ中止について、同日の記者会見で説明するスペースワンの関野展弘副社長(写真=共同通信)
3月4日に予定していた「カイロス」3号機の打ち上げ中止について、同日の記者会見で説明するスペースワンの関野展弘副社長(写真=共同通信)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げるロケットの場合、計測されたデータに基づき、地上から人が飛行中断の指示を送る。カイロスの場合は、振動やノイズ、圧力などを判断基準とした「しきい値」を逸脱したとシステムが判断した場合、ロケットが自らを爆破する。この値の設定が厳しすぎると、本来は無視してもいいレベルのノイズやデータの揺らぎを致命的な異常と誤認してしまうこともある。

 3号機には、2系統のシステムが搭載されており、どちらかが機能しなかった場合、もう一方が起動して自爆する仕組みになっていた。関野氏は会見で「機体異常もなく、天候も良く、飛行は極めて順調。経路も想定から逸脱していなかった」とした上で、「片方の系統がおかしくなったと判断した場合、有無を言わさず残っている系統で壊しにいくシステムになっている。たぶん、そういうことが起きたのではないか」と、システム設計上の問題である可能性を指摘した。

前日からあった予兆

 「懸念していた通りだった」――。このシステムの自爆の引き金について、三菱重工業でH2Aロケットの開発に携わった金沢工業大学の森合秀樹教授は、別の観点から強い違和感を覚えていたと明かす。きっかけは、今回の打ち上げ前日、4日の打ち上げ延期の判断だ。

 4日は、打ち上げの直前、予定時刻の28.9秒前に測位衛星からの電波の受信状況が不安定になったとシステムが認識。飛行中の位置や速度を正確に捕捉できなくなる可能性があったため、中止を決めた。当時、関野氏は「万全な状態を期すために厳しめのしきい値を決めており、そこで自動的に打ち上げが止まった」と説明した。

 ただ、その一方で関野氏は、「狭い、山に囲まれた射場での測位であり、空中に飛び出せば受信状態は良くなる」「このまま飛ばしても大丈夫な状況だった」とも話しており、しきい値の設定や中止の判断について、説明の辻つまが合わない場面もあった。

 森合氏は「しきい値の設定やシステムのアルゴリズムが妥当なのか、前日の段階で心配だった。失敗しても何の異常か説明できるデータがないことが示すように、爆発させるべき根拠や判断が甘く、まだまだ試行錯誤の回数が足りないという印象だ」と厳しく断じる。

「民間のメリットを生かし切れていない」

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