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同心線上/Novel by ちくわぶ

同心線上

5,815 character(s)11 mins

版権元:Fate/stay night 
注意:腐向け(士弓) ネタバレ 捏造 Rー15

ものすごく自然に士弓が主従関係だしやることやってる関係だし士郎が大人になるまで一緒に旅しているという設定です。
ぷらいべったーにあげたものと同じです。

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 荒れた息を整える。
 いや、そもそもこの身はただの霊体。息の乱れなんてものは錯覚に過ぎないし、伝い落ち口内に滲みてきた血の鉄臭さすらもまやかしである。
 となればへばり付くような赤の不味さも思い込み――と、言い聞かせたところで不快感は如何ともしがたい。飲み下す気は到底起きず行儀悪くも吐き捨てると、見下ろす男も対抗するかのように荒々しく鼻から流れる血を拭った。手の甲で乱雑に引き延ばしただけだ、止血もしてないのだからどうせまたすぐ溢れて来る。
 きっかけは下らないことだったように思う。そもそも今の現界のすべてが蛇足であるのだから下らなくない言い争いなど我々の間に存在しうるはずもないが、客観視する自分が呆れて目を覆うしかないような、そうだとわかって止められない未熟さが浮き彫りになるような醜い喧嘩だった。
 喧嘩。そう、喧嘩である。
 武器を用いれば、殺しあいになる。武器がなくても人は殺せるが、それでも最低限凶器は伏せようと最初に決めたのはこの小僧だった。それを互いに律儀に守っているのだから、餓鬼の喧嘩と変わらない。くだらないごっこ遊びだ。我々の関係性を省みればより滑稽なことだろう。
 最後の澱みを一息で吐き出せば、後に残されるのは馬鹿なことをしたという倦怠感だけだった。この男もよくやる。私の傷は魔力さえあれば容易に埋まるがこいつはそこまで簡単ではないし、そもそも私を癒す魔力の出所は眼前で同じように息をつく男だ。あらゆるツケは結局衛宮士郎が支払う他ない。自虐趣味でもあるのだろう、と煽ろうとした言葉はひどい皮肉になるので止めた。
「馬鹿な男だ」
 挑発を止めて、素直に吐露する。
 率直な言葉に衛宮士郎は眉をしかめたが、頭を冷やしたのは相手も同じらしく「何だよ」と素っ気なく返すに留めた。
 何だよも何も、最初から何度も何度も繰り返してきた言葉だ。お前は馬鹿だ。
「いつまで私を維持するつもりなんだ」
 また下りてきた血を服の袖で吸わせながら問うてみる。額が割れたせいで出血が多い。目に入って来たので瞬きで視界を回復させていると、見据えてくる飴色に怒りの火がちらついているのに気がついた。それで思い出す。そういえばこの喧嘩のきっかけは私が似たようなことを聞いたせいだった。
「いつまでも何も、ない。敢えて言うなら俺が死ぬまでだ。安心しろよ、多分そんなに長くならないから」
「そういうところが馬鹿だというんだ、たわけ。お前にもわかっているはずだが、お前はいずれ俺に至る。聖杯からのバックアップもない今、私を連れ歩くメリットより私を現界させる魔力のデメリットの方が上回るはずだ」
「…………それで?」
 呆れた風に促してくるのに苛立ったが、一息ついた現状を壊して激昂するほどではない。噛み付いて来ないなら好きなだけ言っておこうと鉄の臭いに辟易としながら口を開く。
「お前がここまで来たのなら私へ回している魔力を切った方が総合的な戦力は向上する。只でさえ早死にしそうな脳足らずの癖にそうしないから、貴様は馬鹿だと言っている」
 ヒクリと馬鹿の口端が引き攣ったが、掴みかかってくるなら話は早いと鼻を鳴らす。
 挑発に乗りそうなところまで行っていたと思うのだが、残念ながら大きく一呼吸してガバリと顔を上げてきた頃には小僧から怒りの色は消えていた。最近こういう生意気なところが増えてきて腹が立つ。
「ああ、もう! メリットとかそういう話じゃないんだって言ってるし、そもそもお前だってもうわかってるだろ? 俺を怒らせようたってそうはいかねえからな」
「何を言いたいのか知らんが貴様の短気を私のせいにされても迷惑だ」
「お前よりは絶ッ対俺の方が気が長い。……ったく、馬鹿はどっちだっての」
 大馬鹿者に馬鹿呼ばわりとはこれ以上の屈辱があるだろうか。
 言い負かしてやりたいところだが口内へ貯まりつつある血がいい加減邪魔で中断する。頭を冷やせば痰を吐き捨てるような行為はどうにも品がなくこいつの前でやるのには抵抗がある。諦めて唾ごと飲み込んだ。
 小僧の方は意識を切り替えて装備の損傷や服についた汚れの程度を確認する作業に移行しているようだった。とはいえ装備はともかく服の方は私が見る限り全滅だ。血の跡の厄介さを思えば買い替えた方が現実的だろう。
 痛みを無視して額を圧迫止血しつつ男の手際を眺めていると、俯いた顔から垂れた赤い雫が土の地面に新たな斑点を描き出していた。乾いた大地を叩くポトリという僅かな音すら拾い上げたような錯覚を起こす。
「中々止まらないな……」
 思い切り頭突きくれやがってと文句を垂れながら、また乱雑に血を拭う。止血もなしに早々止まるものでもないだろうにと眺める、拭い切れず残った赤。
 ふむ、と額を押さえたまま考える。今更泥臭い殴り合いに縺れ込むのも馬鹿らしいのは同意するが、ここでお開きにするのも癪だし、口の中は血生臭いし、現状この身は多少なりとも魔力に飢えている。
 意趣返しと口直しには丁度いいかと、声もかけずシワのいった胸倉を掴み上げた。ギクリと強張った体にさっきはこのままこいつの馬鹿面に額を叩き込んでやったなと思い返しつつ、止血に回していた手を離して後頭部を髪ごと引っつかんで固定する。臨戦態勢で睨みつける眼差しをすり抜けるように、やつの口元に顔を寄せた。唇に残った血の名残を舐めとる。
(――――甘い)
 不思議なものだ。元を辿れば全く同じ組成からなる血液である。凝固しつつあるタンパク質によるぬめつきも混じる鉄分の錆臭さも、正しく認識する触覚と味覚が再現されているというのに、それらを上回る甘美が確かにあった。
 味わうように丹念に舐め取っていると何を勘違いしたのか応じるように唇が綻んだので、鼻で笑って掴んだ髪の毛を奥へと引きはがす。
「い゛だだだだ」
「サカるなたわけ」
「はあ!? サカったのはお前が先だろ!」
「人の親切で勝手に欲情するとは世話ないな」
「あんなのが親切の範疇に入るか馬鹿!」
 顔を赤くして喚く様を観察していると大分溜飲も下がってきた。離せとうるさいので引き寄せていた両手をそれぞれ解放してやると、引っ張られていた首を庇いつつ慌てたように距離を取った。
「お前のこういうところ全然理解できねえ……」
「貴様の理解など端から求めていない」
 疲れたように言うのにおざなりに返事をしてやると、また呆れた視線をこちらに向けて来る。何か言いたげだったが額からまた血が流れてきたので、無視をして一度ラインを絞った。途端、肉体はほつれ物質を捉える器官を失い、世界はエーテルの疎密によってのみ知覚される。
 霊体化のこの独特の感覚は生前経験するべくもないものだが、抵抗感なく受け入れられるのは所詮この身は聖杯により都合よく作り上げられたサーヴァントに過ぎないという証明だろう。
 霊体であっても変わらず辿れるパスから魔力を奪い物質としての体を編み直す。一秒もない出来事だったので取り戻した視界に写る風景は変わらないが、確認する体には傷や汚れの一つもない。
 生前は物質の修復はともかく人体の治癒はあまり得手ではなかった。大した手間もなく痛みも傷も流血も無くしてしまえるのは単純に便利だと思う。
「はあ……無駄に疲れた。まずったな、俺の着替えまだあったっけ?」
「ジャケットは知らんがシャツは替えがあるはずだ」
「前もせめてジャケットは脱いでから始めようと思ったはずなんだけど、いざその場になるとつい忘れちゃうんだよな。まだしばらく洗えるようなところないし……ジャケットなしでいけるかな」
「自殺志願なら止めんが、そうでないなら無謀だな」
「だよなあ」
 私の霊体化は一種の終わりの合図である。
 それを受けてさっさと切り替えた小僧に適当な相槌を返しつつ、私も乱闘時に放り投げた荷物を拾いに行く。いつまでも言い争っていてもキリがないし結局お互いに言い分を譲ることなどないのだから、建設的に過ごすためにはこれは必須とも言えるルールであった。
 結局言い分を譲らないという辺りを冷静なときに思い返せば、我々の言い争いはこの小僧を殴り倒してストレス解消できるくらいのメリットしかない無駄なものという結論が出るのだが……いや、割と重要なメリットか。
「アーチャー、礼装貸してくれよ」
 打ち捨てられていた荷を背負い直していると、シャツを脱いで体を適当に拭っていた小僧が声をかけてきた。思い切り蹴り飛ばしてやった前腕部には早くも打撲傷が見られるが、折っても切り落としてもいないのでこいつなら特に治療せず済ませるだろう。
「貴様……サーヴァントの礼装をなんだと思っている」
「お前の礼装、流石というか暖かいし暑くないし丁度いいんだよな。元はと言えば俺から持って行った魔力で作ってるんだし、マスターの俺が着る権利はあるだろ」
 ……一度砂漠越えで貸してやったのは悪手だった。あれから明らかに味を占めている。
 だが言葉の通り、魔力の出所は衛宮士郎である。 残念なことに特に反対する要素がないのも確かだった。生前の私が有していたはずの赤原礼装を今のこいつが持っていないのも、恐らく私を連れ歩いている影響が出ているのだろう。
「悪目立ちする。人目がないところまでだ」
 元々この旅で赤を着るつもりはない。わざと構成していなかった礼装を無難に大判の布として組み替えて渡してやると、男は「サンキュ」と脳天気な礼とともに受け取り、頭から新しいシャツを被ると礼装を羽織って首もとを縛り固定した。
「なんだよ?」
 こちらの準備はあらかた整えてやつの姿をしみじみと眺めていると、不審そうな声がかかった。
 乾いた風に揺れる。赤い髪に、赤い礼装。
「――いや。お前にその色は似合わんなと思ったまでだ」
 皮肉を込めようと思ったが、失敗した。
 隠せぬ感慨が洩れたのに、言ってしまってから舌を打つ。はためく礼装をうまく捌いてもう一つの荷を背負った男は意外そうに振り返ってからしたり顔でなにやら頷いている。
「……なんだその顔は、腹立たしい」
「いやいやいや、よく考えたら俺も結構でかくなったもんだなと思って。身長も追いついてきたし? 今で追いついたってことはこれ最終的にお前を抜かすんじゃないのか」
「ふん、伸び止めだ伸び止め。私がお前ぐらいのころに成長が止まった記憶がある」
「おっまえ相変わらず覚えてたり忘れてたり都合のいい記憶の仕方しやがって。絶対嘘だろ、それ」
「根拠もなく人をホラ吹き扱いとは思い上がったものだ」
「根拠ないのはむしろお前の方じゃないか。身長抜かした時には謝ってもらうから覚悟しろよ」
 くだらない掛け合いをしながら、寄り道が過ぎた行程の再開の一歩を踏み出す。合図もなく全く同時に歩き出した隣の男は、私よりもまだ僅かばかり背が低い。
 確かに記憶は定かではないが、我々の存在を思えばこいつが私よりも大きくなる可能性は低いだろう。理性的には並び立つことはあっても越えることはできないと考えている。――が、こいつならばあるいはと思う私も確かにいる。
「吠えたな小僧。ハッ、私に勝てず土下座する貴様の惨めな姿が目に見える」
 とは言え、衛宮士郎相手に勝負を譲るなど冗談ではない。
「この負けず嫌いめ」
「どっちが」
「……まともな宿についたら一回比べておくか」
 歩みを止めない足元を見ながら小僧が呟く。色や無骨さは似たようなブーツだが、足底の厚さが同じかと言うと比べてみなければわからないだろう。
「まともな宿とやらに辿り着ければ考えてやる。いつになるか知らんがな」
 こいつの肌色はこの地域では目立ちすぎる。最近悪い方向に名が売れつつある男は、「そうなんだよなあ」と脳天気に相槌を打った。
「まあなんにせよまずは街だな。泊まらせてくれるかどうかは着いてからじゃなきゃわからないし」
 まだ日は高いが南中を越えここからは傾く一方だ。急がねば街に着く以前に野生動物とのサバイバルゲームに勤しむことになる。
 ……こうなると返す返す、無駄な殴り合いの時間が悔やまれる。しかし年々フェイントが小賢しくなっていくのだから私の苛立ちもむべなるかな。私には目障りにも付け上がる小僧に早いうちに灸を据えてやろうという崇高な理由があるのだから、やはりこの場合衛宮士郎が腹立たしいのが悪い。証明終了。
「ちなみにここから次の有人街まではおよそ百キロだ。走ることを奨めておいてやろう」
「…………。またマラソンかぁ……。いい加減バイクでも買わないか? 二人乗り」
「どうせ買うなら四輪の方がいいだろうな。荷物が乗せられるし、いざという時弾避けに使える」
「そうだな、車でもいいか」
 折角なら日本製がいいとかどうのこうのと贅沢な希望を並べているのを、どうせ叶わないが言うだけはタダかと聞き流してやった。マニュアル車がいいかなと同意を求められるので、癪だが頷いてやる。燃費や修理のしやすさから言えばマニュアルに軍配があがるだろう。
 その後もしばらくどうでもいい夢のマイカーの話が続いたが、それも次第に潰え最後にさも嫌そうに、
「……はあ。いい加減急ぐか」
 と呟くとおもむろにその場で屈伸をし始めた。
「折角だし競争しようぜ、競争。ただの長距離走じゃ気が滅入りそうだ」
「いくらでも滅入れ、なぜ私が一々お前の暇潰しに付き合わねば――」
「負けた方が罰ゲームな! じゃあ、よーいドン!」
 人の台詞を遮って馬鹿丸だしの掛け声をした愚か者が言うが早いか競走馬の様なスタートを切る。
「………………やれやれ」
 だまし討ちの如き所業。しかも内容は餓鬼のじゃれあいだ。育ちが知れるな、と肩を竦めて遠ざかる背中を見る。肉体強化を使っていることが伺える速度だ。
 焦ることもあるまいと辺りを見渡す。周りに誰もいないことを確認して慣れた洋弓を投影した。矢も投影して番える。
「――調子に乗るなよ、小僧!」
 闇討ちだまし討ち多いに結構。私相手に手段を選ばぬ勝負を挑んだ愚を思い知らせてやる!
 日頃の恨みも込めて放った赤原猟犬は都合四射。勢いよく目標に向けて疾走をはじめた矢を追うように、私も地を踏み締めてスタートを切った。

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