原子炉直下に新たな想定外「消えたコンクリート」 15年後の今も謎
原子炉が次々メルトダウンし、水素爆発を起こした東京電力福島第一原発。2011年の事故から10年以上たって新たに判明した「想定外」がある。
22年5月、1号機の原子炉直下の入り口に初めて調査用の遠隔操作ロボットが入った。溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)などの確認が目的だったが、原子炉を支えている台座(ペデスタル)に差しかかると、むき出しの鉄筋が映し出された。
台座は鉄筋コンクリート製で、内径5メートルの円筒形。その根元の一部が鉄筋を残してなくなっていた。
「地震に耐えられるのか」「原子炉が傾かないのか」。衝撃的な映像に注目が集まり、地元では不安の声が上がった。
翌年、ロボットがさらに奥に進むと、消失は台座の全周にわたっていることがわかった。床から1メートルの高さまで、1.2メートルの厚みの内側半分がごっそり帯状に失われていた。
【スペシャルコンテンツ】福島第一原発 15年後の謎
コンクリートはどのように消えたのか。CGを使ったアニメーションで原発事故を振り返り、残された謎と教訓を探ります
原子炉の周りは人が近づけないほど放射線量が高く、耐震補強は難しい。東電は、原子炉には横からの支えもあることなどから「大規模な損壊に至る可能性は低い」と説明する。
ただ、地震で原子炉が沈下する可能性は否定できない。沈下すれば接続部が外れ、放射性物質の通り道ができる恐れがある。
東電は「仮に支持機能を喪失したとしても、周辺環境への影響が十分小さいことを確認している」とするが、いつ終わるとも知れぬ廃炉作業の間、監視し続けなければならない。
原子力規制委員会は建屋の状態を把握するための地震計の追加や、放出を抑える対策を東電に求めた。
思わぬ現象に専門家も驚き
この消失は、原子力関係者にも衝撃を与えた。メルトダウンによって起こり得る様々な現象が国内外で研究されながら、このパターンは考えられてこなかったからだ。
「(事故の想定で)これまで一度も提案されたことのないような損傷。メカニズムをきっちり解明し、事故進展(進み方)の一つのモデルになるべきだと考えている」。原子力規制委員会の山中伸介委員長は今年1月の会見でこう述べた。
コンクリートはいつ、どのように消えたのか。事故調査が進むなかで、ある仮説が浮かんできた。
台座(ペデスタル)のコンクリートが消えていた東京電力福島第一原発1号機。消失の謎も、事故時の状況も、解明は高い放射線量に阻まれ、なお道半ばだ。
消えたコンクリートをめぐって専門家が注目したのは、その壊れ方だった。鉄筋は溶けずに、元の形を保っている。一方でコンクリートはきれいになくなり、付近に残骸も見当たらない。
「今まで考えられなかった事態」「なぜ、ほうきで掃いたようになくなってしまっているのか」
原子力規制委員会の事故分析検討会では戸惑いの声が相次いだ。事故時の対策や原発の設計に、こんな現象は織り込まれていなかった。
これまで知られてきたのは「コア・コンクリート反応」だ。核燃料が2千度に達するような高温で溶け落ち、直下のコンクリートや鉄筋を巻き込みながら床面を侵食する。
さらには地中を突き進んで、地球の反対側まで達する――米映画「チャイナ・シンドローム」(1979年)では、そんなブラックジョークとともに語られ、社会にも広く知られてきた。
しかし、1号機で消えたのは真横の壁だ。鉄筋が残っているなら、溶けた燃料より温度が低めだった可能性が高い。それでコンクリートだけ消えるとは、一体何が起きたのか。
なぜコンクリートだけ消えたのか
手がかりになるのが、台座の下部に入っていた、インナースカートと呼ばれる分厚い金属板と、台座の内外にこびりついていた軽石のような塊だ。
金属板は壁の中心に円周に沿って入っていて、高さは1メートル。コンクリートが消えた高さと同じだ。これが熱の伝わり方や内部の力のかかり方、水分の動きなどに何らかの作用をした可能性がある。
軽石のような塊は台座の内外に棚のように突き出していた。もとは一続きの殻のようなもので、高温で溶けて発泡したものが膨らみ、冷えて固まった可能性がある。
規制委の調査で有力視されているのは、次のような仮説だ。
溶け落ちた核燃料が床面に落ち、コンクリートと反応。大量のガスが生じて、軽石のような殻を形作った。
1号機は10日以上にわたり原子炉を冷やすための注水がままならない状況が続いた。この間、台座の壁は空だきの状況にさらされ続けた。その後、水が入って冷えるときにセメントの粒子の結晶構造が変わり、膨張。壁の表面から順に粉々になって落ちた。
粉末状になったコンクリートは、核燃料を冷やすために注いだ水で流された。殻も落下、一部が棚状に残った――。
しかし、あくまで仮説だ。ビルやトンネルの火災を想定した知見はあっても、原発事故の特殊な条件にさらされたコンクリートの知見は乏しく、物的な証拠もまだ採取できていない。鉄筋が溶けない温度でコンクリートだけが溶け、殻をつくったとの見方もまだ消えていない。
メルトダウンで溶け落ちた核燃料が、どこまで深く床面のコンクリートをえぐっているのかも、わかっていない。
建屋から採取したコンクリートを加熱する再現実験や、温度変化によるコンクリートの挙動を模したシミュレーションなど、要因を一つひとつ詰めて絞り込む地道な作業が続く。
調査には海外の注目も集まる。結果によっては、事故時の手順や原子炉の設計に反映させなければならないためだ。
実験を進める大阪大の大石佑治教授は「まずは、どういうメカニズムで起きたのかを調べる必要がある。ただ、当時の状況を模擬するハードルが高く、解明が難しい」と言う。
1号機は最初に危機に陥った原子炉だ。水素爆発を起こしたことで、ほかの原子炉の冷却作業にも影響が及んだ。消えたコンクリートの解明は、当時の温度や注水の状況など、事故の全体像の解明とも深くかかわる。
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- 【視点】
15年経ってこの状態で、分からないことばかりで、放射線量が高すぎて調査することもままならないような状況とは…… 作業に当たられている方々や、研究者の皆様の苦労や心労を想像すると、なかなか胸が痛みます。一体いつになったら廃炉が成功するのか、途方に暮れてきます。 人類にとって、原子力というエネルギーは夢であり、希望であり、必要なものなのかもしれません。しかし、これほどまでに荒れ狂い制御の困難なものを、私たちは本当に扱っていけるのだろうかと考えると、暗い気持ちになってくるのが正直なところです。 それでも、なんとかしなければいけないのが現実なのでしょう。研究・開発が進み、大きく解決しうるブレイクスルーが起こってくれるといいのですが……。
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