警察署で裸の遺体を撮影した元警官 なぜ処罰されない?死者への冒涜と刑法の限界 #エキスパートトピ

前田恒彦
元特捜部主任検事
写真:イメージマート

警察署の霊安室に安置されていた女性の遺体を私物のスマートフォンで撮影し、画像データを署外に持ち出すなどしたとして、警視庁綾瀬署で巡査部長を務めていた男(52)が懲戒免職になりました。駅で盗撮したとされる事件で逮捕後、自宅の捜索で裸の女性遺体の画像データが大量に発見されたといいます。しかし、男は駅での盗撮やネットで集めた児童ポルノの所持で起訴されただけで、遺体写真の件では罪を問われていません。なぜなのか、死者に対する性犯罪を巡る刑法の限界について解説します。

ココがポイント

検視に携わる鑑識係にいた際に撮ったとみられ、「性的欲求を満たすためだった」と話しているという
出典:毎日新聞 2026/2/27(金)

赤羽、城東、府中の3署に勤務していた2009年ごろ~22年ごろ、霊安室で検視をした複数の女性の遺体を撮影
出典:朝日新聞 2026/2/27(金)

たとえわいせつの意図に基づく行為であったとしても、(中略)性犯罪はあくまで生きている人に対する犯行を前提としている
出典:前田恒彦 2023/1/22(日)

死者に対する不敬な行為を処罰対象とする法改正について、検討されてもよいと思います
出典:弁護士ドットコムニュース 2026/3/4(水)

エキスパートの補足・見解

男は性的欲求を満たすため、裸の状態の女性の遺体を撮影したとされていますが、たとえ胸などを触っていたとしても、不同意わいせつ罪などに問うことはできません。生きている人に対する犯行を前提としているからです。わが国では屍姦などを罪に問うことができない法制度になっています。

死体損壊罪も物理的な損壊や毀損が前提なので、成立しません。盗撮を性的姿態等撮影罪で処罰することもできません。これも遺体に対する行為は対象外だからです。

2023年にも、性的欲求を満たすために葬儀場の霊安室で女性の遺体にわいせつな行為をし、スマホで撮影した葬儀社元社員が逮捕・起訴され、懲役2年6カ月執行猶予4年の有罪判決を受けたことがありました。このときも、葬儀場の女子トイレにスマホを設置して25人の女性を盗撮したとされる罪に加え、霊安室への建造物侵入罪に問われただけで、性犯罪などでは処罰できませんでした。

今回の場合、鑑識係に所属し、職務として日常的に霊安室に出入りする権限があったし、建造物侵入罪の時効は3年なので、この罪に問うことも難しいと判断されたものとみられます。今回のような死者への冒涜を適切に処罰できる罰則の創設が求められます。

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元特捜部主任検事

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ベスト エキスパート受賞

2025

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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