羽那「おはよ。プロデューサー」
鈴木羽那に狂わされた昨年一年でした。
また今年もよろしくお願いいたしんす。
来年はナチュラル既婚者はずきさん(Pはづ)とか書いてみたいですね。Pはづは心の栄養。でも絶対諦めない鈴木とかいいですよね。この女強すぎると言われる鈴木が大好きです。そしてその脇でひっそりと曇るよわよわ甘奈ちゃんは私が慰めておきます。甜花ちゃんと一緒に私の家に引き取ります。
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朝という時間はどうにも気持ちを重たくさせる。
きっとこの時間になると常に急かされ追われているからであろう。だからこそ、この日も久々の休日だというのに急かされ追われる日々と同じように朝のアラームと共に起き上がった。意識もせず。設定されたプログラムのように機械的に無意識に。
とまれ無意識下であろうとも日常のルーティンというものは身についているようで、起き上がった後には次いでとばかりに脳を覚醒させるべくシャワーを浴びようとのそのそとベッドから立ち上がった。
「あれ、プロデューサー。なんしょん行くの?」
「シャワー浴びてくる。」
その後は歯を磨こう。
そして簡単な朝ごはんを作って…。
………………ってん?
慌てて声のした方向を向いた。
「おはよ、プロデューサー。わやかわいい寝顔だったね。」
担当のアイドルである鈴木羽那。
いたずらっぽく笑うその人が先程まで俺が横になっていたベッドから俺を見上げていた。
***
「俺はいったい何という事を…。」
さては担当アイドルに手を出してしまったのかと頭を抱える。
だがそれよりも我が家には避妊具等の用意などしていない事が頭を過る。もしや酔った勢いで避妊もせずに手を出してしまったか…?妊娠なんて事になれば言い逃れの出来ない大スキャンダル。羽那へと大バッシングを浴びせられるのは容易に想像ができる。その後過激なファンが…、なんていう悪い想像が次々に湧いて出てくる。とまれ一先ずそれらの悪い想像たちを頭を振って追い出した。
後悔ならばあとでさんざん出来る。まずは行動すべきであろう。
それも最悪を予想して。
「先ずは薬局に行かなければか。その後は念のため検査キットも買わなければだな。最悪は俺が辞めてでも羽那がアイドルを続けられるように…。」
などと呟いていたらいつの間にかベッドの縁に座っていた羽那が俺の服の裾をちょんちょんと引っ張っていた。
そういや今の自分の格好を気にしていなかったが俺の今の服は昨日のまま。つまりスーツであり、羽那の格好も昨日のままであった。
「もー。呼んでるんだからこっち見て。」
「す、すまん。ちょっと考え込んでいた。」
「あたしのこと無視したらおえんよ。」
頬を膨らませる羽那。
だがこればっかりはよくよく考えて行動しなければならない問題だ。だがそれを言い募る前に羽那が俺の口を右手の人差し指で触れて塞ぐ。
「んもー。ちーたー聞いて。」
「はい。」
「プロデューサーはあたしに何もしてくれなかったんだよ。」
「そ、そうか…。…ってしてくれなかった?」
「うん。あたしはプロデューサーならいいかなーって思ってたんだけどなー。」
「良くない。だけどまぁ、これで…。」
ホッと深く深く息を吐いて視線を下げる。想定し得る最悪は回避できていたらしい。
家に連れ込んで一晩を明かす。これだけで十分なやらかしではあるが手を出していないならばまだ言い訳も立つ。薬局に行かずとも済むのだから下手に目立つこともない。
安堵から胸をなでおろしつつ顔を上げて羽那へと向ける。
「しっかし…。昨日は何があったんだ?いやまあ途中までは覚えているんだが…。」
「んー…。」
確か…、昨日はバラエティの特番の撮影があった。
それが終わって打ち上げをしようと声が掛り、断り切れずに参加した。そこで酔っぱらったスタッフたちが『今日は無礼講』なんて言って羽那にもお酒を飲ませようとしたんだったか。それを躱すために随分と俺が酒を肩代わりしたんだったな…。おかげさまで会場にいる時から随分と記憶があやふやだ。
「プロデューサーはでーれー酔ってたかなー。」
少し考えこんだ羽那が少し苦笑する。
けれどもその苦笑はちゃんと俺の行動の理由を解っていたかららしく「守ってくれてありがとね」とズイと近寄って耳打ちされた。照れくさくて気持ち少々後ずさったのだが…。
…案の定、会場にいた時から酔い潰れていたらしい。ただ、羽那が俺の苦労を解っていてくれていた事は救いだ。
「その後はプロデューサーをタクシーに乗せてくるって言ってあたしもあそこから出てきちゃったんだー。」
「まあ、それで正解だな。」
羽那があの場で一人と考えるだけでゾッとする。今考えれば直ぐにあの打ち上げ会場から出て行かなかったのは失敗だった。俺の落ち度だな。局のお偉いさんも参加するらしいと聞いたから会えるまでは我慢しようと考えたのだが…。そこは完全に判断ミスだった。
今後あのスタッフたちには気を付けなければ。未成年に飲酒をさせようとしたりいろいろと酷すぎる。
しかし当の羽那はと言えば「プロデューサーに肩を貸してあげたんだけど、重かったー」なんて言って笑っていた。
「それでね。プロデューサーの家に着いてベッドまで運んであげたんだよ?」
「ありがたいが…。俺も男なんだから、その後はきちんと羽那も寮に帰らないとだな…。」
羽那の言葉に眉が寄る。酔いつぶれて担当アイドルに介抱されて家に送られた奴が言える台詞ではなが流石に見逃がせず諫言の言葉が口から出た。
酔っぱらった男なんて何をしでかすのか解らない。
それは俺だって同じこと。けれども羽那は「えー」と言って俺を楽しそうに見た。
「あたしをベッドに引き込んだの、プロデューサーなのに?」
「えっ。」
「それでね、めげるかと思うくらいギューってあたしを抱きしめたんだよ?」
自分の両手で体を抱きしめながらドキドキしたーと言う羽那。
どうやら俺が何かをしでかしたから羽那は帰られなかったらしい。
ふらふらと三歩程さがって足へとぶつかったキャスター付きの椅子へと座り込む。まさか酔っぱらって寝こけた挙句、羽那をベッドに引きずり込んで寝ぼけて羽那をそのまま抱き枕にしてしまっていたとは…。項垂れた頭が上がらない。
そのまま椅子に座ったまま羽那へと更に深々と頭を下げた。
これもまた完全に俺の落ち度。申し開きもない。
「本当にスマン。」
「いいっていいってー。」
「あ、いや。なんか軽く済まされそうだが、流石にそれは俺の気がすまない。」
「えー。ホントにいいのに。」
女の子を大人の男が一晩抱き枕にしたのだ。
いくら親しくしてくれているとはいえ限度がある。
せめてものという思いから何かして欲しい事とかないか?と尋ねてみた。
「じゃあ、今度はプロデューサーがあたしの抱き枕になって欲しいなー。」
「いや、それは不味いだろ。プライベートで泊りは流石に認められない。」
それに…。口には出さないが一晩羽那に抱きしめられながら一晩中一緒のベッドとか、俺の理性が持つとは思えない。ゆえにそんな危うい橋は渡れない。断固拒否。
すると「えー」と不満げな声を漏らす羽那。しかしすぐに何かを閃いたようで表情が明るくなった。
「あ!ならお昼寝の時でいいよ。仮眠室で一緒に寝よ。」
「うーん…。まあ、それなら…?」
「じゃあそれで決定!」
まあ一晩抱き枕にされるよりはマシだろう。仮眠室ならば別室に他のアイドルやはづきさんもいるだろうし万が一にも間違いは起こらないはず。
それと俺も羽那も昨日と全く同じ格好をしていた理由も解った。
お互いに服を脱ぐという行為に至らなかった為に格好は昨日と全く同じだった訳だ。羽那は「お洋服がしわになるし脱ぎたかったんだけどなー」なんて言っていたものの、抱きしめて服を脱がさなかったという一点においては昨日の俺はファインプレーだったと言えよう。
まあたった一つファインプレーをしたところで補って余りある程の失態をしているのだが。
「そうだ、プロデューサー。お風呂借ってもいーい?」
「はい?」
いや…。それはダメでしょう。
そう言おうとしたものの「出来れば洗濯機も貸して欲しいなー」と羽那が言う。
「お洋服しわしわになっちゃったし、昨日お風呂に入ってないから…。臭いとか少し気になっちゃうというか…。」
上目遣いで顔を赤らめながら俺を見上げる羽那。
お風呂に入れなかったのは俺がベッドに引きずり込んだからだし、服がしわしわになったのも俺が寝ぼけて羽那を抱き枕にしたから。つまり全てにおいて俺が悪い。拒否なんて出来ようはずがない。
「そうだな。好きに使ってくれ…。」
「ありがと、プロデューサー。」
お礼の言葉と共に立ち上がる羽那。
「臭うてなかった?大丈夫じゃった?」
「平気だったぞ。むしろ俺の方が平気だったか?」
「あはは!でーれーお酒臭かったー。」
「まぁ、だよな…。」
申し訳ないと謝るしかない。
そのままお風呂場の扉を教えると小走りで向かって行った。
そして扉の前で立ち止まると「あ、そうだ」と言って俺の方へとクルリと向く。
「プロデューサーもシャワー浴びようとしてたよね。」
「そういえばそうだな。」
そういや眠気覚ましにシャワーを浴びようとしていたんだったか。
まあ既にありとあらゆる衝撃で眠気なんて吹っ飛んでいるのだが。むしろ今は冷や汗をかきすぎたためにシャワーを浴びたい気分だ。
そう考えていると…、さも今閃いたかのように羽那が「じゃあさ」と言った。
「一緒に入る?」
入りません。
椅子から立ち上がった俺は、なおも「えー」と抗議の声を上げる羽那を洗面所へと押し込んだ。
***
場所は変わって283プロの事務所。
円香に透に雛菜、そして小糸と本日はレッスンの入っていたノクチルが集まっていた。
そして透は事務所内をキョロキョロと見回すと首を傾げつつ皆の方へと顔を向けた。
「プロデューサーは?そういえば。」
「今日はオフだったはず。」
「え~。雛菜はプロデューサーにレッスン見てもらいたかった~。」
ソファーの背もたれ越しに雛菜が小糸に抱き着きつつぶーぶーと声を上げる。
そのまま小糸へと絡みついた雛菜は「小糸ちゃんもそうだよね~」と言いながら同意を求めた。
「う、うん…。わたしもちょっと残念だったかなって…。」
「雛菜もしあわせ~じゃな~い。」
「来るかな、呼べば。してみる?電話。」
「透先輩ナイスアイディア~。」
でしょ?と言う透。
しかし自分のスマホを探し始めて十秒ほどでフッと笑みを浮かべた。
「ないわ。スマホ。」
「じゃあ雛菜がかける~。」
頼んだ。透はそう言ったもののすぐ脇から「やめな」という声が飛んできた。
雛菜と透が声のした先へと顔を向けると自分のスマホへと視線を落としたままの円香がいた。そしてようやく二人へと顔を向けると端的に理由を告げる。
「はあ…。あの人、久々の休みらしいんだから。」
「た、確かにわたしたちも結構名前を知ってもらえるようになったし…。」
「あの人、一人暮らしらしいし家の事溜まっているんじゃない?」
ついでとばかりにぶっきらぼうに「はい、スマホ」と透が無くしていたと思われていたスマホを渡す円香。透は「サンキュー」と言って受け取った自分のスマホを上着のポケットにしまいつつも何か考え込むように円香の顔をじっと見る。
しばらくするとそんな透の視線に気付いて円香が顔を上げた。
「なに?」
「別に、なんでもない。ただプロデューサーの休み把握しているんだなって。」
「………………。」
透からの眼差しを避けるように無言で視線をスマホへと戻す円香。
透と雛菜は笑みを深め、小糸はあわあわとしながら三人へと忙しなく視線を動かす。
「へー…。」
「ふ~~~ん。」
「ぴゃあ…。」
「………。なんなの?」
「プロデューサー久々だったんだ。休み。」
「円香先輩くわし~。」
「詳しくない。」
再度黙り込む円香。
そこに雛菜が絡みに行き、透が「次の休みいつ?プロデューサーの?」なんて言い、小糸が二人を止めようとする。そんな小糸を見て円香は小糸の頭を優しく撫でた。
ちょうどその時ガチャリと扉が開く音が鳴った。
「結局羽那のやつ帰ってこなかったな。」
「はい…。連絡もありませんでした…。」
プロデューサーさまには連絡しましたが…、そう言って会話をしながら凛世と樹里が事務所にやってきた。
プロデューサーの予定を把握している円香はスマホへと視線を落としながら固まるが、他の三人は事務所へとやってきた二人へと注意が向いていて気づかれなかった。
「よっす。おはよう。」
「おはようございます…。」
その三人は放クラの二人へと挨拶を返す。
しかし円香だけは経年劣化した球体関節人形のような挙動で樹里の方へと顔を向けた。それもすべての表情を失った顔で。そして平坦な声音で「あの」と語りかけた。
その様子にさすがの樹里もこれには頬を牽く付かせる。
「な、なんかあったのか?」
「いえ。鈴木さんが帰ってこなかったと聞こえたので。」
「まあ、そうだが。な、凛世。」
「はい…。番組の打ち上げに参加すると聞いていたのですが…、まさか泊りとは聞いていなかったので…。」
「それであの人にも連絡が付かないと。」
「はい…。ですがプロデューサーさまは本日オフなのであまりしつこくするのも…。」
「ただまあ、一報は入れておこうと思ってな。」
「そうですか。ありがとうございます。」
そう言って直ちに立ち上がる円香。
首を傾げる他の皆。そのままレッスンの予定があるのにも関わらず事務所の出入り口へと向かっていく円香。そこに透が少し小走りで追いかけていった。
「ま、円香ちゃんどうしちゃったんだろうね…?」
「ん~~。たぶん、プロデューサーの事で何かあったんだと思う~。」
「ぴゃっ!?そ、そうなの!?」
「うん。でも雛菜は~、最後に雛菜のところにいてくれればいいから~。」
結局話に置いてきぼりだった樹里の「なんだったんだ、今の」という呟きだけが残された。
「で、樋口。どうしたの?」
「別になんでも。」
「えー。あるでしょ、なんか。」
そう言って楽しそうに円香をまっすぐと見る透。
まっすぐ向けられた視線に嘘は通用しないと諦めた円香は深々とため息を吐く。
「で、どうしたの?」
「昨日あの人、鈴木さんの現場の付き添いだったはず。」
円香の言葉に立ち止まる透。
それに三歩ほど歩いた後に気付いた円香が振り返りつつ「どうしたの?」と逆に問いかける。
口はポカリと開いたまま。そしてその表情らしい声を零した。
「え?」
「だからあの人の家に確認に行く。」
「それ行っていい?私も。」
「好きにすれば。」
円香が先を進み、透が後に続く。
しかし「あれ?」と首を傾げた透が隣を歩く円香の方を見た。
「そういやさ。プロデューサーの家、何で知ってるの?」
「………。」
誰にも答えられる事のないその質問はそのまま駅前の喧騒に溶けて消えた。
すんごい修羅場! 面白かったです!