羽那「ねー見てみて。これ、プロデューサーのお家の合鍵なんだけど」
シャニマスSSです
そ妄想ギスギス系です。苦手な方はリターンお願いします。
そんでもってわたしの勝手なイメージが盛りだくさんです。
冬優子はなんか嫉妬深いけど独占欲とは無縁そう。信じると決めたらPの事を信じそうですよね。盛大に皮肉を言いそうだけど気安い関係性ゆえに皮肉られて謝ってそれですっぱりとおわり、みたいな?そして羽那はあんな絶対純白みたいな顔しといてドロッドロに依存症で嫉妬深くて独占欲が強い…、とかだといいですね。いいですよね…!?なんか「あ、ヤバっ」みたいな顔しておいて意図的に牽制してマウント取って欲しい。趣味は外堀を埋める事です、みたいな。そんでもって甘奈と三峰は牽制球が致命傷になって曇る。運命ですね。
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そう言ってジャラリとストラップの付いたカードケースのようなモノを取り出したのは鈴木羽那。
どうやらソレはプロデューサーの家の合鍵らしい。ふーん、あいつの家の鍵ってスマートキーなんだ…。
——— ってそうじゃないわよ!!はあ!?合鍵!?なんでこの女が持って…!
突然の事に反応に一瞬間が空いてしまった。
とはいえ唖然呆然としているのはふゆだけではないようで樋口円香も大崎甘奈も杜野凛世も三峰結華もこの場に居る誰もが口をポカリと開け放っている。それだけでそのカミングアウトがどれ程衝撃的だったか解るだろう。
自宅の合鍵を預けられる。
その意味。
その関係性。
誰もが最悪を想像して黙り込む中、衝撃的な話を持ってきた当の本人たる鈴木羽那はカードケースに付いているストラップをジャラジャラと弄りながら『あははー』なんて呑気に笑っていた。その楽しそうな表情のままにふゆへと顔が向けられる。
「ねーふゆちゃん。」
「何かな、羽那ちゃん。」
「こっちの可愛いストラップのキャラクター知ってる?こっちはもともと付いてたストラップだから、たぶんプロデューサーが好きな作品だと思うんだけどー。」
可愛らしく首を傾げて問いかけてくる鈴木羽那。
一見するとただの質問。でもふゆには解る。というか女なら誰でも解る。
これは…、間違いなくふゆへの牽制ね。
『合鍵を渡されたのはふゆちゃんじゃないからね。勘違いしちゃダメだよ?ほら見てみてー。こっちはあたしが付けたストラップ、でもこっちはもともとプロデューサーが付けてたストラップ。だからあたしにはこれがなんのキャラか解らないんだー。だから教えて?何も貰えなかったふゆちゃんが、合鍵を渡して貰ったあたしに。』
と副音声が聞こえた。恐らくこっちが言外に込められた鈴木羽那の本音。
……はん。上等じゃない。
ニヤリと好戦的な笑みを浮かべると鈴木羽那は意外そうな顔をふゆに向けてきた。ふ~ん。その程度でふゆが潔く諦めると思っていたワケ?まあ当然向こうもそう簡単に上手くいくとは思っていないはず。けど少なからずショックを受けるとは思っていただろうから当てが外れたというところかしら?
とはいえこの女の計画通りにいってしまったらしき人物から慌ただしい声が割って入って来た。
「ははは羽那ちゃん!?プロデューサーさんのお家の合鍵って、どどどどういうこと!?」
「えー。そのまんまの意味だけど?預かっててって言って渡されちゃったんだー。」
「そ、それって…。」
「ねぇ、甘奈ちゃん。」
「な、なに…?」
「これって…、そう言うことだと思う?」
妖艶な眼差しに射抜かれる大崎甘奈。
あれはいいの入ったわね。メンタルがヨワヨワな大崎甘奈では耐えられまい。
ふゆの予想通り大崎甘奈は顔面を蒼白にしつつ、「うそ…」という言葉と共に膝から頽れるようにして床へとへたり込んだ。本来ならば急に倒れ込んだ事務所の仲間を介助しても良い。だが一瞬だけ不敵な笑みを見せた後にニコニコとしたいつも通りの笑顔を浮かべた鈴木羽那を見れば、これは女の戦いであることを否応なく見せつけられた。間違いなく、戦争。
しかしやるわね…。鈴木羽那。
大崎甘奈はPラブ勢の中でも最弱。とはいえこうも容易くワンパンされるなんて。
一人脱落したのを満足そうに見た鈴木羽那は次の標的を探すようにぐるりと見渡す。
そして三峰結華へとロックオン。人好きするような笑顔で「ねー、結華ちゃん」と話しかけた。
いくら人好きする笑顔とはいっても数秒前に一人を戦闘不能に追い込んだ女の笑顔。通常であれば無警戒だろうが今この時ばかりは三峰結華も若干笑顔が引き攣っていた。口角もヒクついている。
「な、何かなー。」
「結華ちゃんはこのキャラクター知ってる?」
「まあ、知ってるけど…。」
「そうなの!?じゃあ教えて欲しいなー。そしたらそのキャラについてあたしもプロデューサーとお話しできると思うし。」
「そ、そうなんだー…。」
早速追い詰められた三峰結華。
ここで教えたらアイツに対しての優位性を一つ失う事になる。だけど教えなかったら『教えてくれなかった』とアイツに言われる可能性がある。その可能性がチラつくだけで三峰結華は教える以外の選択肢を取る事が出来ない。もしも意地悪されたなんて伝えられたらアイツはどう思うのかしら。心が狭い女?それとも優しくない奴?何はともあれ三峰結華は八方ふさがりになったようで苦虫を嚙みつぶしたような表情でスマホをタップすると鈴木羽那へと画面を見せた。
「このアニメのマスコットです…。」
「わー。ありがとー、結華ちゃん。」
「いえいえ…。三峰がお役に立てたようで何よりです…。」
「あたしもこのアニメ見てプロデューサーといっぱいお話しよー。これからはいっぱい時間作れるだろうし。」
「そ、そうなんだ…。」
「うん。ありがとね、結華ちゃん。」
「………おえ。」
どんどんと顔色が悪くなっていった三峰結華が遂に嘔吐く。
その背をさすった鈴木羽那は「気分悪いなら無理しちゃダメだよ」なんて優しく言っているがふゆには副音声で『勝てないんだから高望みなんてしたらダメだよ』と聞こえた。追撃なんてえげつないわね。だけど恋の戦いは戦争だからルールなんてあってないようなもの。蹴落とし叩き潰して二度と歯向かう気力すら起こさないようにするバーリトゥードが如き戦い。しかしあまりやりすぎると意中の相手への風評が最悪になる為、いかに外聞を保ちつつ蹴落とし叩き潰すかが重要になる。
その点、鈴木羽那の隙の無さは完璧ね。心配するフリで完璧に取り繕って匂わせで追い込んで追撃。関係者でなかったらただ突然体調不良となった人を心配しているようにしか見えない。これでは悪い噂は立ちようがない。お手本のようなライバルの叩き潰し方。
けど…。アイツを巡る争いに限って、ふゆはそういう手は使いたくないのよね。
ソファーから立ち上がって三峰結華を庇うように割って入る。
庇われた三峰結華はまるでキリストの降臨を見た敬虔な信者のように目を見開いた。
「ダメそうなら休憩室に行った方がいいんじゃない?」
「ふゆゆ…。」
「うん。もう無理そうなんだし違うところに行った方がいいと思う。あっ。落ち着くまでは時間空けた方がいいと思うよ?」
けれど背後からの容赦のない追撃が再度三峰結華を曇らせ黙らせた。
「………。」
「聞いちゃダメ。結華ちゃん。屈服したら二度と立てなくなるわよ。」
「ありがと、ふゆゆ…。でも三峰…。」
「黙ってなさい。」
三峰結華を宥めて少し睨め付けるように鈴木羽那へと視線を向ける。だがしかし鈴木羽那は拗ねたように「ちょっとしたアドバイスなのに聞いちゃダメなんてひどいなー」なんて言うのみ。再起不能にしようとしたくせによく言うわね。
これ以上は特にやり取りは無く無言の間が出来たのでさっさと三峰結華を休憩室へと送る事にする。おとなしく見逃してくれるようなので安心したのだが部屋を出る時に見えた鈴木羽那は目だけは笑っていない笑顔をふゆへと向けていた。警戒された?いや、もともとしていたのかしら?とはいえ次は何を仕掛けてくるのか…。気が重いったらありゃしない。
この女、ちょっと手強すぎるわね。
このまま三峰結華を送った後は、あの部屋へと帰らないという選択も出来た。というかふゆ的にはそうしたい。だけど敵前逃亡じみた真似をしては今後必ずあの女にいいようにやられるのは目に見えているからそれだけは無理。女の戦いは舐められたら最後。根こそぎ奪われた大地に塩を撒くが如く全てを奪われる。
逃げる事は出来ない。
となるとやはり戻るしかない訳で。
「はぁ…。」
ため息を一つ。あとは息を吸って、吐いて。
心を落ち着けてからドアノブを握って僅かな金属のカチャリという音を立ててあの部屋へと戻った。
「えー。あたし絶対に円香ちゃんはプロデューサーのこと好きだと思ってたんだけどなー。」
「何言ってんの?ありえない妄想なら寝る時にして。」
「あははは!だねー。あ、ならさ…。」
「なに?」
「円香ちゃん、私の応援してよ。あたしは、プロデューサーのコトすごく好きだからさ。円香ちゃんに応援してもらいたいなー。」
「………事務所のアイドルのスキャンダルになるような事が出来る訳ないでしょ。」
「えー。別に付き合ったりする訳じゃないから平気だってー。」
「なら何の応援?」
「あたしね、プロデューサーと両想いにないたいんだー。誰よりも好きになって欲しいし、誰よりも大事にして欲しい。求めたら応えて欲しいし、求められたら応えたい。プロデューサーの一番になりたい。」
「………。」
「出来るでしょ?円香ちゃんはプロデューサーの事、好きじゃないんだから。出来るよ、ね?」
扉を開けるとそこは次の修羅場が発生していた。
今日は阿修羅と帝釈天の機嫌が良くないようね。喧嘩しすぎじゃない?なんて現実逃避してみたけれども口を震わせて戦慄く樋口円香が目に入って現実に引き戻され深々とため息を吐く。
「わ、私は…。」
「うん。」
「あなたの応援を…、は…。」
「うん。」
樋口円香をじっと見つめ、追い込むように相槌を打つ鈴木羽那。そんな鈴木羽那の視線を避けるようにブレる視線を下げて途切れ途切れの声を漏らす樋口円香。常日頃よりすました顔でいる事の多い樋口円香の苦悩の表情。
一度否定した手前断れないという感じかしら?
それとも自分すらも嘘で誤魔化そうとしたけれども本当の気持ちが悲鳴をあげたのかしら?
解らない。けれどこれも見ていられなくなって二人の話に割って入る。
「そこまでにしておきなさい。」
「あっ、ふゆちゃんお帰りー。」
「冬優子さん…。」
「でも今、あたしは円香ちゃんとのお話し中だからふゆちゃんはあっちで凛世ちゃんたちと一緒に座ってて?」
鈴木羽那が指し示す先には青い顔で震える大崎甘奈とその背中をさする杜野凛世。
その二人の方へと樋口円香の背を押して一度落ち着かせることにした。抵抗する事もなくそちらの方へとトボトボと歩いていく。その背へと年長者からの一言アドバイスも付け加えておく。
「自分の“好き”は別に素直にならなくていいけど、相手からの“好き”は素直に受け取った方がいいわよ。恋愛的なものであっても、そうでなくても。」
穿って捻じ曲げて裏を読もうとして。
あの娘は年頃なのかなんなのか、そんな事をしては味方のアイツにまるで敵のようにきつく当たって。身勝手なプライドを振りかざしている事は理解している故にそんな自分へと勝手に自己嫌悪をして。端から見てもしんどい生き方なんて事は容易に見て取れる。自分に自信がないのかしらね。
あんなに要領が良いならもっと楽に生きられるだろうに。
まあ、ふゆも真っすぐに生きているなんて胸は張れない。
そもそも自分が面倒である自覚があるからお手本として見なさいなんて口が裂けても言えない。
「ねー。ふゆちゃん。」
「どうしたの?羽那ちゃん。」
「さっきからあと一歩ってところで邪魔してくるけど、なんのつもりかなー?」
助言なんてらしくないコトしちゃって敵に塩を送るような事をしちゃっているし。
なんなら恋する乙女としても落第点かもしれない。
けど…、だから何だって言うのよ。ふゆはふゆのやりたいようにやる。それだけ。
直ちにキャラの仮面をかぶって応戦。
お互いに微笑みながらメンチを切り合った。
「えー。ふゆ、何の事かわからないなぁ。」
「んもー。ふゆちゃんなら解ってるでしょー?プロデューサーは人気なんだからライバルは減らさなきゃ。」
「プロデューサーさんはとっても人気だよね。でも…、アイツの担当アイドルが悲しい顔をしたらアイツも苦しそうな顔をすんのよ。」
「なら私がその分だけ慰めてあげる。なら平気じゃない?」
「馬鹿ね、ふゆはアイツを愛しちゃったのよ?ならアイツの夢はふゆの夢。アイツが苦しいならふゆも苦しい。だから邪魔すんじゃないわよ。」
堂々と向かい合う。
すると目を見張った鈴木羽那は大きな瞳を細めてこちらを睨みつけた。
「ふーん。やっぱりふゆちゃんが一番手強いかなー。」
あっそ。なんてぶっきらぼうに言いつつ相手の出方を伺う。
正面からか、搦め手からか。
気にする暇もなくプロデューサーの机に腰と手をついて体重を預けた鈴木羽那がこちらを上目遣いで見た。大きな瞳に整った顔立ち。そんな鈴木羽那が笑顔を浮かべながら「あのね」と言った。
「私の見た感じだとプロデューサーから一番信頼されているのはふゆちゃんなんだよね。」
「へー。それは嬉しい報せね。」
「それで、一番気にかけて貰っているのは円香ちゃん。世話を焼かれているのは甜花ちゃん。気安い仲なのは結華ちゃん。可愛がられているのは果穂ちゃん、って感じかなぁ。」
「まあそんな感じじゃない?」
「恋愛に疎そうな甜花ちゃんと果穂ちゃんは今のところは問題ないと思う。でも円香ちゃんと結華ちゃんはちょっと見過ごせないよねー。あとふゆちゃんも。」
誰もが惹かれるような笑顔の裏側に嫉妬心が煮えたぎっている。それを隠そうともしていない。
今まで手に入らないものなんて無かったのかしら?これだけ顔面がいい女だから表からも裏からも気に入られていたでしょうね。何でも手に入ったかもしれない。だから初めて上手くいかなくて癇癪でも起こしているのかしら?それとも逆にこれだけ顔面がいいから何でも簡単に手に入ってなんにも執着しなかった可能性もあるわね。それで初めてどうしても欲しいと思った。だけど一番になれなくて焦っている、とかかしら?
「ねー、ふゆちゃん。」
「なにかな?羽那ちゃん。」
「あたし、その目は好きじゃないかなー。見透かさないで欲しいかなって。」
「えー。見透かすなんて、ふゆ、そんなコト出来ないってばー。」
「あ、ふゆちゃん。その感じ、もう大丈夫だから。」
困ったような笑顔で首を振られた。大丈夫って何よ。
まあケロッとした表情で「そう?」なんて言ったけれど。
「とにかくふゆちゃん。あたしはプロデューサーの一番になる為なら何でもするつもりだから。ふゆちゃんは夢を護るために頑張ってね。」
「ご忠告ありがとう。全力で頑張らせてもらうわ。」
「プロデューサーが凹んじゃったらあたしがいっぱいいーっぱい慰めて甘やかしてあげるつもりだから。そこは安心してね。」
「そんな未来は訪れないから妄想を楽しんでおきなさい。」
挑発に挑発を返すと嫌な視線が返って来た。
とはいえ顔面がいいから美人には変わりない。ホントに恵まれているわね。
「ああ、それともう一つ言っておくけど…。」
「んー、なに?」
「アンタもアイツの夢だからふゆの夢よ。困ったことがあったら何でも言いなさい。恋愛相談以外なら何でも聞いてあげるわ。」
「………。」
「何よ。そんな呆けて。」
口をポカリと開け放つ鈴木羽那。
頭を振って楽しげな笑い声を上げた。
「んーん。なんかでーれー信頼されてる理由が解っちゃって結構えらくなっちゃった感じ。」
「はあ?何が偉いのよ。」
「ううん、何でもない。それよりもお言葉に甘えて今度相談させてもらうね、恋愛の。」
「今さっき恋愛相談以外って言ったんだけど。」
「えー。おえんなんて言わんといてーなー。」
ダメに決まってるじゃない。
そんな事をしたらアンタ本格的に手に負えなくなるのは目に見えている。
だけど…。
「お礼と言っては何だけどー。この合鍵で…、プロデューサーの家に行ってみない?」
なんて耳元でヒソヒソと言われたら心が揺れても仕方ないと思う。
結局それはあの女狐がプロデューサーの家を知る為に掛けられた罠だった訳で…。というか合鍵の話自体もアイツが落とした合鍵を拾っただけだったし。本当は来週返す予定だったみたいだし。ふゆはまんまと罠に嵌った訳で…。
あの女…!やっぱり手強すぎる。
*****
それはいつも通りのある日の事。
暑い暑い夏の日。燦燦と照り輝く太陽へと「んもー」なんて文句を言いつつ、今日も公共交通機関を乗り継いで283プロの事務所へと足を運ぶ。日焼け止めを塗って、日傘をさして、小型の携帯扇風機を首から下げて。レッスンがある日も、無い日も。
その理由は一つだけ…。
事務所へと到着すればエアコンの利いた涼しい空気を味わいながらソファーへと腰かける。背中を預けて、少々はしたなくても足なんか投げ出してみたり。
けれどもそんな事をしつつも視線はどんな日も事務所へと足を運ぶ”理由”である彼へとロックオン。
他の娘たちはレッスン中なのか事務所には私と彼だけ。
小さな幸運に『ふふふ』なんて笑みを浮かべてディスプレイへと顔を向けてお仕事中の彼をジーっと見つめる。キーボードをカタカタと叩く指先から時折顰める眉まで。
資料を漁ったり、立ち上がって金庫から切手を取りに行ったり、封筒へと封をしたり。電話に出たり、電話をかけたり。
今日もとっても忙しそう。
そんな時、プロデューサーが鞄を漁った時にカタリと小さな音を立てながらストラップの付いた黒いカードケースのようなものが落ちた。ストラップは何かのマスコットのような可愛らしいキャラクター。それが事務机についていたマグネットフックに引っかかっちゃったみたい。
トトトと小走りで近づいて腰をかがめて落とし物を手に取る。
なんだろう、これ。カードケース…?
「ねー。プロデューサー。」
「んー。どうした羽那。」
「これってなんのカード?」
ピラッと落とし物をプロデューサーへと向けると目を見開いた。
情けなさそうに頭を掻いた彼は「あー」と声をあげる。
「すまん。それ俺の家の鍵だ。」
「そうなの!?」
まさかの事実にこれが…、という感じでまじまじとその手にあるプロデューサーのお家の鍵を見た。
「拾ってくれてありがとな。」
「んー…。」
「あれ?」
黒いカードケースを持った手をひょいとひっこめるとプロデューサーは目を瞬かせた。
私の意外な行動に驚いているのかな?
「どうしよっかなー。」
「いや、返しなさい。」
「んふふー。」
もう一度どうしよっかなー、なんて言ってちばけってみる。
どこまでならオッケーかな?どさくさに紛れて抱き着いちゃっても平気?でもあからさまだと少し引かれるかも。ならプロデューサーが手を伸ばしたタイミングで避けるふりして胸をいろうちゃったりとか?そしたらプロデューサー、慌てちゃうかな。
顔を真っ赤にしちゃったり。あたしがでーれー照れたりなんかしちゃったらお願いとか聞いてくれるかも。
だけどタイミング悪くプロデューサーのスマホから初期設定の呼び出しメロディーが鳴り響いた。
するとプロデューサーはスマンと言って片手をあげて「もしもし」と電話に出ながら自分の席へと戻って行く。
「はい…。はい…。ええ、スケジュールは開いております。え、本当ですか!?」
なんかいい感じの電話みたい。
でもあたし的にはちょっと面白くはない。
もう少しで面白くなりそうだったのになー。
「はい…!今から向かいますのでその枠を開けておいてください!よろしくお願いします!」
「え…!?」
「それではまた後で。」
スマホをポケットへとしまって顔を上げたプロデューサーは上機嫌。
「そういう事だから」と言って鞄を片手に急ぎ足で出口へと向かう。
「ねー、プロデューサー。これはいいの?」
黒いカードケース左右に振ってアピールしてみる。
けどプロデューサーはさっきの電話の事で頭がいっぱいみたい。「あー、うん。合鍵だし」なんて言ってあたしの方も見ないで鞄の中身をチェック。やっぱり面白くない。
「預かっててくれ。けど、次来た時は返すんだぞ。」
「はーい。」
「それじゃあ、俺は急ぐから。」
「いってらっしゃーい。」
残されたのはあたしとプロデューサーのお家の合鍵。
ふと思う。この事務所にいっぱいいるライバルたちを。
預けられたのなら、これ…。ちょっと使っちゃおうかなぁー。
「恋する女の子にこんな大事なものを預けたらおえんよ。プロデューサー。」
誰よりも先を行く女、その名は甜花! 合鍵で入った家のなかで2人が見たのは、密着して一緒のゲームに興じる甜Pだった…