ヤンデレ独占欲強めの樋口円香が嫉妬する話
Pドルです。
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2021/03/05の[小説] 男子に人気ランキング 2位
題「Pと円香:血肉に刻む」
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「283プロ…あー、あの時の!」
「そうです!お久しぶりですね」
あの男はだらしなく顔を綻ばせながら言った。つられて相手の女性も笑う。
一連の光景が妙に癪に障って、私は少し乱雑にスマホをポケットへ押し込んだ。
営業先の出版社のオフィスで出会った女性は、どうやらあの男が何年か前に一緒に仕事した人らしい。多分あの男よりも年上で…なんていうか、大人の魅力ってヤツを全身から漂わせている。
スーツの似合う美人。メリハリの効いた男好きのしそうなスタイル。控えめに首元を飾るアクセサリーも雰囲気に合ってるし、主張しすぎない程度のメイクも上手い。親しみやすく落ち着いた振る舞いが、彼女の心の余裕を演出している。自分が周囲にどう見られているかを理解しているタイプだ。
「……はぁ」
堪えきれず、私は聞こえない程度に小さな溜息を漏らした。
胸中のモヤモヤとした感情を晴らそうと足下の床を爪先で軽く蹴る。無機質なリノリウムが靴底と擦れて、絞め殺された鴨のような悲鳴を上げた。
「芸能誌の編集に転職ですか…踏み込んだ事を聞くようですけど、かなり勇気のいる決断だったんじゃないですか?」
「そうですねー。確かに悩みましたけど、前の業種とも無関係ではないですし、それに昔から興味があったので」
「おお。いいですねぇ、夢を追うっていうか」
「ふふっ、夢ってほど大袈裟な物でもないですけどねー。でも今は仕事してて楽しいです」
「あー、仕事してて楽しいってやっぱ大事ですよね」
「そうですよ~。芸能関係ってどこもブラックで好きじゃなきゃ続きませんから。あ、でもPさんならその点は問題ないですね。イキイキとした顔してますし」
「ははっ。確かに自分はこの仕事が好きですけど、それ以上にアイドルの皆が支えてくれてるおかげで続けられてるんですよ」
支えてくれてるおかげって言う割には、そのアイドルは放置。
いっつもそう。この男は口だけは達者。
口だけは達者だから…目の前のこの女みたいに、騙されてしまう人が出る。
楽しげな会話に黙って耳を傾けつつ、私は目の端でチラッと二人の様子を見た。
彼と楽しげに話すその女の眼は、ドロドロとした卑しい欲望にギラついている。粘ついた不快な視線が、あの男に絡みつくのが手に取るように感じられた。
「というか、私前の職場にいた時と比べると結構雰囲気変わったと思うんですけど…よく気がつきましたね?」
「すぐ分かりましたよ。仕事柄、人の顔を覚えるようにしてるんで」
「ふふっ、そうですか。なんか嬉しいです」
スッと、自然に。その女は彼に身体を寄せた。
触れるか触れないかの絶妙な距離。相手にさりげなく意識させつつ、決していやらしくない程度のボディタッチ。本当にアピールが上手いなと思わず感心してしまう。私よりアイドルに向いてるんじゃなかろうか?
「そうだ、良い事思いつきました。これも何かの縁ですし、今度食事でもどうでしょう?」
「え、食事ですか?」
「はい。今後283プロさんと仕事をすることも増えるでしょうから。ちょっとした打ち合わせがてら親交を深めたいなと」
「ああ、そういう事でしたら。是非ご一緒させてください」
「よかったです。ここのオフィスの近くにおいしいイタリアンがあるんですよ」
…全くもって信じられない。こんな凡庸な男の何が良いんだろう。
新進気鋭の283プロ、その事務所唯一のプロデューサー。アンティーカやイルミネなど、数多くの人気アイドルを担当している若手の星。確かにこうして表面だけ見れば悪くないけど、間近で見た実際の彼はもっと情けない。
カフェイン中毒で朝に弱い。意外と子供っぽい所がある。事務所のキッチンで変な歌を口ずさんでる。ユーモアのセンスが欠如してるからジョークが下手。アイドルにかける情熱が強すぎて暑苦しいし、真剣さが空回りして細かいミスをする。こちらの心の中まで遠慮無しに踏み込んでくるのに、自分の事は全く顧みない。
…『いつでも円香の事を見てるよ』だなんてキザなセリフを素面で吐きながら、実際にはそれを守らない。
欠点を挙げればキリが無い。こんな男の救いようのない短所を愛嬌だなんだと持て囃すのだから、世間の人間は馬鹿ばっかりだ。
…だから、今からする事は別に私がしたくてするわけじゃない。
下卑た欲望に眼がくらんだ馬鹿な女を、この男から救ってあげるだけ。
そんな愚かしい女にも優しい笑顔を向けるこの男に、少し罰を与えるだけ。
「早速ですが、今週の土曜なんてどうでしょう?」
「うーん、土曜はちょっと難しいですね。来週の────」
「…あの」
「お、どうした円香」
「少し、気分が悪いような」
「えっ!?」
彼は驚きも露わに私の方を向いた。
「ごめん、全然気がついてなかった!どっか座るか?」
「いえ。それよりも今は帰って休みたいです。一刻も、早く」
「分かった、すぐ車に戻ろう。ではすいませんが、今日はこれで。食事についてはまた改めて連絡します」
「え、あの────」
女はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、もう遅い。
焦った表情をした彼は、私の手を掴んでオフィスを足早に立ち去った。
こういうのが好きなのです