はづき「くれぐれも無理はしないで、なにかありましたらメッセージを送ってください〜。」
俺ははづきさんの言葉に対して、肯定の意味で大きく頷いた。
日頃のずさんな生活が祟ったのか、朝起きると酷い喉の痛みに襲われた。その日のうちに病院に行き、大事でないことが判明したので、翌日には仕事に復帰した。しかし、症状は徐々に緩和しているものの、完全に治るまでの間は、できるだけ声を出さずに喉を労ることにした。
……うーむ、しかし、アイドルたちが事務所に来た時にどうしようか。手元に置いておけるくらいのホワイトボードでもあれば楽なんだが。なんせ急なことだし、長引くような症状ではないから、新しく買うのは勿体ない気がするし……。とにかく、今日のところは行き当たりばったりで対応していくしかないな。
◇
摩美々「おはようございまぁす……。」
お、摩美々か。
摩美々「……? ……おはようございまぁーす。」
どうしよう。無視してると思われてるな。ここはジェスチャーでなんとか……。
摩美々「……なんですかぁ? ……喉仏。バツ。唇。喋る。バツ。……あー、なるほどー。そういうことですかぁ。」
なんとか伝わったみたいだな。良かった。
摩美々「大変そーですねー。……なにか手伝いましょうかー?」
えっ……摩美々……! 内心、こんな状態のときに摩美々が来てしまって、どんな凄惨なイタズラをされるのか不安で仕方なかったけど……! 疑ってすまん……、なんて良い子なんだ……!
摩美々「……なんか甚く感動してるっぽい顔してますけど……。なんか失礼なコト考えてませんかぁ?」
えーじゃあ、どうしようかな。せっかくの摩美々の善意だし。……かと言って業務に関わるようなことはさせられ無いしな。飲み物でも淹れてもらうか。えっと、なにかに書いたほうが良いよな……。
摩美々「あ、なにか書くもの探してたりしますかぁ?」
お、やはり察しが良いな、摩美々は。でも、このくらいは自分で……
摩美々「わざわざ書かなくて良いですよー。紙がもったいないのでー。」
ん?
摩美々「プロデューサーがさっきみたいにジェスチャーで伝えてみてくださいよぉ。そっちのほうが面白いですしー。」
ほぉー、なるほど? まぁ、紙も大切な資源だし? 一理あるかもな? ……はぁ。いや! でも、手伝ってくれるって言ってるんだ! 俺だってそれなりの対価を払わねば……! 摩美々のおもちゃにでもなんでも、やってやるさ!
摩美々「……やる気になったみたいですねー。さぁ、なんでもござれー。……ふむふむー。コップですねー、……湯気が立ってて……。飲む。……なるほどー。あったかい飲み物が欲しいんですねー。了解しましたぁ。」
すごい、すごいぞ摩美々! なんという読解力……いや、これも俺と摩美々の築き上げてきた信頼の証なのかもな……! 以心伝心……つうと言えば、かあと返す。なんて理想的な関係性なんだ……!
摩美々「はぁい。淹れてきましたよー。熱いので気をつけてくださいねー?」
ありがとう、摩美々。そうそう、ブラックでね。やっぱり分かってるんだなー! んー、やっぱりコーヒーは良いにお……
P「〜〜〜っっっ!?? かはっ、ごほっ、ごほっ!!?」
摩美々「だ、大丈夫ですか〜?」
こ、これは……!?
摩美々「私ぃ、気をつけてくださいって言いましたよー? まさかそんなに勢い良く匂い嗅ぐとは……。」
これ……酢か! 黒酢だこれ!!
摩美々「え……なんですー? その顔……もしかして黒酢ダメでしたかー? 疲労回復に効果あるって聞きますしぃ、良いと思ったんですけど……。」
……この反応は……イタズラじゃ無い? いけない、いけない。危うく疑うところだった。そうだよ、勝手に匂いを嗅いだのは俺なんだ。摩美々はただ善意で飲み物を持ってきてくれただけだ。すまん、摩美々。せっかく俺に合わせたものを淹れてくれたのに。気を取り直して、いただくとするよ。
摩美々「あ、大丈夫なんですねー。どうですかぁ?」
あっっっまぁ〜〜〜……! この甘みと少しの粘り気……蜂蜜か!
摩美々「美味しいですかぁ? 蜂蜜。喉に良いと思いましてぇ。」
……どっちだ……摩美々……! 嘘なのか真なのか……。いや! いつもの摩美々なら悪魔的香辛料のひとつやふたつ入れてくるはず……! つまりこれは摩美々の優しさ……だよな! まったく……見てみろ、この摩美々の純真無垢な瞳を!
摩美々「プロデューサー、大丈夫ですかー?」キラキラ
摩美々はこんなにも俺を気遣ってくれてるのに……当の俺ときたら……。
摩美々「プロデューサー、これぇ。どうぞー。」
これは……ネギだな。
摩美々「首に巻いておくと風邪に良いらしいのでー。巻いてあげますねー。」
あぁ、摩美々。俺のために冷蔵庫からわざわざ持ってきてくれたんだな。それに加えて巻いてくれるなんて……。
摩美々「巻けば巻くほど良いらしいのでー。……はい。これで……ぷっ……、おっけーですー。」
すごい……コルセットみたいになって首が動かせないけど……摩美々、ありがとう!
摩美々「……ぷふっ……ふふふっ……。」パシャパシャパシャ
ま、摩美々? なんでスマホで撮ってるんだ?
摩美々「あ、大丈夫ですよー。この写真は事務所のみんなに送るだけなのでー。まだ、プロデューサーが声出せないこと、みんなに言ってないですよねー?」
あ、なるほどな。確かに、この状態を見て貰えば話が早いか。よし、頼んだ摩美々!
摩美々「そうそう……ぷふっ……、良い表情ですねー……!」パシャパシャパシャ
◇
摩美々、随分とご機嫌だったなぁ。逃げるように出て行ったけど……なにか用事でもあったのかな。
ガチャ
冬優子「……おはようございま……ぶふっ!」
冬優子? なにをそんなに堪えて……?
冬優子「……ぷ、プロデューサーさんっ……!」キョロキョロ
あ、周り見渡してる……いや、他に人はいないから大丈夫なんだけどさ……。なんでそんなに笑って……
冬優子「ちょ、ちょっと……あんた! なに変なこと鵜呑みにしてんのよ! 興味本位で事務所に来てみれば……! ぷふっ、あははっ!」
ん……なんのことだ……?
冬優子「あー……はぁーあ。笑った笑った。……ふっw ……これ見なさい。」
……え、これ……さっき摩美々が撮ってたやつか? ……な、なんだこのアホみたいな姿は!? これが……俺!? うわぁ、ネギのロングネックチョーカーじゃんこれ……。
冬優子「田中摩美々からこの画像が送られてきたときは、まさかと思ったけど。また上手い具合に引っかかったわね。おめでと。」
ま、摩美々ぃ……! くっそぅ……! でも蜂蜜黒酢は美味かったんだよな……憎めないやつめ……! なんか途端にネギが青臭く感じてきたわ……取ろう。
冬優子「ほんっとお人好しよねー。あんまり信じ過ぎないほうが良いんじゃない? とくに田中摩美々は。」
……そんな大したことじゃないさ。イタズラも摩美々にとってはコミュニケーションのひとつだろうしな。
冬優子「……なによ、その顔。はぁー、そういうところよ、ナメられるのは。まったく……。」
はは……。
冬優子「それで? 喉壊したんですって? 気をつけなさいよねー、体調管理はアイドルだけの仕事じゃないんだから。」
うぅむ……返す言葉もない……。ん? なんだ、これは……?
冬優子「ん。……なによ? ただの差し入れじゃない。……べつに変なモノは入ってないわよ?」
冬優子が……差し入れ? 俺に? ……なんで?
冬優子「……信じられないみたいな顔してるけど。普通に失礼よ、それ。」
あ、いや、ありがとう! 一体なにを……?
冬優子「まぁ、さっきコンビニで買ってきたやつだけど……。」
ふ、冬優子ぉ……! わざわざ買ってきてくれたのか……!
冬優子「な、なによ……? なんで泣きそうになってんのよ……?」
なんて良い娘たちなんだ……俺の担当アイドルは……!
冬優子「……ふん、ヘンなの。……えーっと、スポーツドリンクと……ゼリー飲料、ヨーグルトにタバスコね。風邪のときはこんな感じかなって思ったけど……はい。あげる。」
ありがとう……! ん……たばすこ? ……タバスコ? え、これタバスコ?? なんで??
冬優子「タバスコは、そのベーシックなのしかコンビニには無かったから。本当はデスソースくらいが良いと思うけど……ま、それで間に合うでしょ。」
え、俺が知らないだけ? そういう民間療法的なのが存在するの?
冬優子「ちょうどお昼だし食べましょ。えーっと、スプーン取ってくるわね。」
……あ、ヨーグルトでかいの2個ある。冬優子も食べるのか。……タバスコは……まさかな。
冬優子「はい、取ってきたわ。ふゆが食べさせてあげるから、ありがたく思いなさい。……なに? 文句ないでしょ?」
はは……まいったな……。お言葉に甘えさせていただくか。冬優子は本当に面倒見が良いな……頼りになる。……ふゆ……冬優子?
冬優子「懐かしいわね……。最近は風邪なんてひかないから"これ"をやる機会もメッキリ減ってたけど。」タバスコダバーーー
冬優子!? 冬優子!!? みるみるヨーグルトの表面が紅く染まっていくんだが!? なにこれ!? 聞いたことも見たことも食べたことも無いよこんなの!?
冬優子「は、はい。あーん。」
うぉっ……鼻を劈くカプサイシンッ!! やばい、これはやばい!!!
冬優子「ちょ、ちょっと……口開けなさいよ……。こっちだって……少し恥ずかしいんだから……!」
うぅ……ふ、冬優子ぉ……!! 俺はどうすれば……!!
冬優子「な、泣くほど嬉しいの……? も、もう、そういうのいいから早く食べなさいよ……まったく……!」
ふっ……ふぐぅ……!
冬優子「やっと観念したわね。はい……あ、あーん。」
P「ーーーーーーーーーーー!!!!!!」
冬優子「ご、ごめんなさい……。」
あやまらないでくれ、冬優子。俺も、ちゃんと抵抗するべきだったな。
冬優子「まさか、風邪のときにタバスコヨーグルトやらない家庭があるなんて、思ってもみなくて……ごめんなさい……。」
多分だがこの世のどこをさがしても黛家しかやらんだろ、こんな忌まわしい風習は。
冬優子「だ、大丈夫? 余計に負担かけちゃったわね……。このまま少し寝たら? 時間になったら起こすわよ。」
冬優子には申し訳ないが、そうさせてもらおう。アラームつけたスマホを冬優子に渡して……。
冬優子「ん? あぁ、この時間に起こせば良いのね。了解。」
あぁ……。冬優子の膝枕、きもちいいな……
◇
冬優子「起きてくださ〜い、プロデューサーさ〜ん♪」
ん……もう時間か。ありがとう冬優……
円香「……起きましたか。」
透「なんか唇腫れてる?」
円香……と透? 事務所に来てたのか。……あれ、この感触は。
冬優子「もうっ、くすぐったいですよ〜、プロデューサーさんっ!」
あっ、冬優子に膝枕してもらってたんだっけ。いや〜、おかげでぐっすりと……
円香「良いご身分ですね。担当アイドルはあなたの寝具では無いと思うのですが。」
うっ、いつにも増して鋭い目つき……。
冬優子「これはふゆが提案したことだから……プロデューサーさんを責めないであげて? 円香ちゃん♪」
円香「……そうですか。お言葉ですが、それを了承したプロデューサーに問題があると思いませんか? 勤務中に担当アイドルに膝枕をさせて仮眠するなんて……。」
冬優子「えー? ふゆは良いと思うけどなー? 本来なら自宅で安静にしてるべきなんだし、そうでなくとも、在宅勤務で良いところを、わざわざ事務所に来て仕事してるんだよー? 少しくらいは休んでも良いんじゃないかなー?」
円香「……でしたら、冬優子さんが膝枕をする必要はありませんよね?」
冬優子「そ、それはね? さっきも言ったけど、ふゆが……
円香「どういう経緯があれば、自ら膝枕を提案することがあるんですか。どんな理由があれど、なにか特別な関係性だと疑われても言い逃れできませんよ?」
冬優子「そ、それは……。」
透「え、膝枕くらいしないの? 樋口は。」
円香「……は? 浅倉、それどういう……
透「いっつもしてるよ。ね? プロデューサー。」
え? そうなの? 透にされた記憶ないんだけど。俺にないだけ?
円香「ちょっと、どういうことか説明……チッ、今喋れないんでしたね……。」
冬優子「と、透ちゃんもそうなんだー! やっぱりするよねー! もうプロデューサーさんったら、いろんな娘にやらせてるんですね!」
透「え……そうなの……? プロデューサー。私だけって言ってたよね?」
冬優子「……え? 透ちゃんに……だけ?」
円香「……は??」
ちょ、ちょっとまて! なんか話がややこしいことになってる!! 嘘と嘘のクロストークをするな! 透にはそもそも膝枕されてないし、冬優子にも今回が初めてされたし!!
冬優子「どういうことですか、プロデューサーさん? 百歩譲って他の娘に膝枕されるのは良いですけど、透ちゃんには『透ちゃんだけ』って言ったんですか〜? それって贔屓とはどう違うんですか〜?」
透「ふふ、もうプロデューサーったら。今回だけにしてね。冬優子さんに膝枕されるの。私はいつでもうぇるかむだからさ。」
円香「……あなた、私が見てないところで浅倉にそんなことを強要してたの? ……ありえない。最低ですね。……今後、私が浅倉に代わります。本当にしょうがない人……。」
透「え、なんで。私まだ……あ、やべ。」
おい。いまボロ出たぞ。そろそろ収拾がつかなくなってきたな。どうにかして、この場を収めないと……。頼む、冬優子……俺のアイコンタクトに気づいてくれ……!
冬優子「……? なに……あ、あー!」
透・円香「?」
冬優子「ごめんなさ〜い! ふゆ、このあと予定があって行かなきゃいけないんだった〜! 透ちゃん、円香ちゃん、また今度ね! お疲れ様でした〜プロデューサーさん♪ 大事になさってくださいねっ♪」
ガチャ
バタン
黛冬優子……なんと察しの良いアイドル……。あ、メッセージきた。『あとで覚えておきなさい』……って、俺なにもしてなくないか? ……さてと、少なくとも罵声がひとつ減った訳だが。透には聞かなきゃいけないことが沢山あるなぁ……?
透「プロデューサー……怒ってる? ごめんね、嘘ついちゃった。」
円香「……どういうこと? どこから嘘なの?」
透「……ほぼ全部?」
円香「……なにそれ。なんの見栄なの……。」
透「だって……負けたくないし。ずるいでしょ、膝枕。」
円香「……なんの勝負か知らないけど。それはそうとして、冬優子さんが言っていたのは本当なんですか? 『いろんな娘にさせてる』というのは。」
そんな訳ないとは気づいてるだろうけど、全力で首を横に振っておこう。
円香「……はぁ。そんなことだろうとは思いましたが。」
透「ちょっと信じてたじゃん、樋口。」
円香「うるさい。」
透「……なんか『代わりになる』みたいなこと言ってなかった?」
円香「……空耳でしょ。」
透「……ふーん。……プロデューサー、ほら。」ポンポン
……ん?
円香「……なにしようとしてるの? レッスンの時間でしょ?」
透「まだちょっとあるよ。だからさ、膝枕。」
ど、どうすれば……。冬優子にされてたところを見られてるだけに、断れる理由が……もしや無いのでは?
透「無いでしょ? 冬優子さんにさせて、私にさせない理由。」
円香「……。」
……仕方ない、5分……いや、3分で透も満足するだろう……。というか満足するって……俺は何様なんだよ……透には後でなにかしてあげよう。じゃあ失礼して……
透「どーぞ、お客さん。そのまま横になっ……
円香「ちょっと待って。」
P「」ピタッ
透「……どした。」
円香「私が代わります。浅倉、はやくその人から離れて。」
透「やだ。」
円香「……なんで。」
透「なんで?」
円香・透「……。」バチバチ
ど、どうすれば……ハッ! 時計……!
透「ん、どうしたの? プロデューサー。」
円香「なんですか……腕時計? ……あ。」
透「……レッスン終わったらまた来るから。待っててね、プロデューサー。」
円香「……分かってますよね? どちらの膝枕を選ぶべきか……。ではレッスンに行ってきますので。」
ガチャ
バタン
……早退しても怒られないよな。たぶん。
◇
さ、今日のところは少し早めに帰って……療養に努めますか……。
ガチャ
にちか「わっ!? ……あっれ〜? プロデューサーさん帰宅ですか〜? まだ17時ですけどー?」
にちか……学校終わりの時間か。玄関でバッタリとは……。
にちか「なんかプロデューサーさんが首にネギ巻いた爆笑画像見たんですけどー! あれなんなんですー? ハロウィンはとっくに過ぎてますけどー?」
あー、あれか……。あとで摩美々には送信取り消しして貰わないとな……。
にちか「風邪なんですってねー、ご愁傷様ですね! 私、風邪なんて滅多にかからないからわかんないですけどー!」
はは……、にちかは元気だなぁ……。
にちか「……むー、なんですかー? その顔! なんか眠たそうな顔しちゃってー! こっちだって、プロデューサーさんが元気なさそうだから、無理矢理テンション上げて喋ってるんですけどー!」
はは……、ありがとな、にちか……。
にちか「……もー、なんとか言ったらどうですかー? 私だけの喋りで間を繋ぐの無理ゲーなんですけどー! 喋んないとなんにも伝わんないですよー? 分かりますー?」
はは……
バタッ
にちか「え? ちょっ、ちょっと!? プロデューサーさん!? だ、誰か……ど……どうすれば……っ……!? 誰か……!」
はづき「にちか? 玄関でなにして……プロデューサーさんっ!?」
にちか「お、お姉ちゃん!? あっ、こ、これ……プロデューサーさん、いきなり倒れて……!!」
はづき「にちか、プロデューサーさんを仰向けに寝かせるよ。」
にちか「う、うん!」
はづき「せーの……!」
P「……ハァ……ハァ……」
はづき「……呼吸は……少し荒い。体温は……高め……。病院に連れて行きましょう……! にちか、公用車までプロデューサーさんを運ぶから手伝ってちょうだい。今、鍵持ってくるから。」
にちか「う、うん……!」
はづき「……よいしょ……っと。……ありがとう、にちか。ここからは私がやるから、にちかはレッスンに戻って。」
にちか「う、うん。……プロデューサーさん、大丈夫だよね……?」
はづき「……大丈夫。熱が ぶり返しただけだと思う。……じゃあ、行くね。」
にちか「うん……。」
はづき「あ、あと多分なんだけど……あ、やっぱり後で話すね〜。」
にちか「えー!? なにー!? 気になるんだけどー!!」
はづき「また後でわかると思うから〜。レッスンがんばってね〜。」
にちか「なにそれ……。」
◇
……ん、ここは……。
はづき「あ、プロデューサーさん、目が覚めましたか〜?」
はづきさん……?
はづき「事務所で急に倒れたんですよ〜。も〜『無理はしないで』って言ったじゃないですか〜。」
無理したつもりはなかったんですが……心当たりがない訳でも無い……。
はづき「……なにか思い当たる節があるみたいですね〜。なにかトラブルがあれば相談してくださいね〜。」
ははっ……心強いな……。ところでここは……どこだ?
はづき「あ、ここはですね〜、私の自宅です〜。にちかもそろそろ帰ってくる頃ですね〜。」
マジか……お世話になってしまって申し訳ないな……。どれ、俺は自宅に帰らねば……。
はづき「あー、ダメですよ〜安静にしてないと〜! いま帰ろうと考えてましたよね〜? 今日はウチに泊まってください。着替えも、下着くらいならコンビニで買ってきますので〜。」
いや、でも……。
はづき「大丈夫ですよ〜。私は一向に構いませんから〜。」
そう……ですか。……なら、今日のところは……そうするとします。
はづき「納得してくれたみたいですね〜。ゆっくりしていってください〜。」
はづきさん……すごいな……。喋らなくても伝わってる……、いや、表情を読み取る力に長けてるのか……?
はづき「ふふっ……なんですか〜? そんなに見つめられると照れちゃいますよ〜?」
かわいい。
ガチャ
にちか「ただいま〜。」
はづき「おかえり〜。」
にちか「えぇっっ!!? なんでプロデューサーさんがここに!?」
はづき「……驚いた?」
にちか「お、驚いた……けどっ!! なに!? なんで!?」
はづき「まぁまぁ〜、今日だけだから〜。」
にちか「今日だけ……って、もしかして泊まるの!? うーわ最悪ー!!」
はづき「じゃあ……にちかネカフェ行く〜?」
にちか「なっ、なんで私が外泊しないといけないの!」
はづき「じゃあ私たちが出ていきますかね〜?」
にちか「いやいや! プロデューサーさんは自分家帰れば良くない!?」
はづき「無理に動かすのは良くないし〜、またなにかあったら独りだと助けも呼べないかもしれないでしょ〜?」
にちか「そ、それは……そうだけど……!」
はづき「はーい、じゃあこの話終わりね〜。」
にちか「も〜……あんま変なコトしないでくださいねー、プロデューサーさん……。」
……俺ってそんな信用なかった?
にちか「……もう絶対盗撮とかしますよね? こんなピチピチアイドルとその姉の自宅なんて。いい歳して女っ気がないアイドルプロデューサーなんて、みんなそういう……ああぁっーーーー!!」
はづき「びっ……くりした〜。どうしたの〜?」
にちか「スマホ……事務所に置いてきた……!!」
はづき「……それだけ〜?」
にちか「『だけ』じゃないでしょ!? スマホ!! 文明の利器!! 人間に必要不可欠なモノ!! でしょ!! 事務所いってくるっ!!」
ガチャ
バタンッ
はづき「あ、にちか……って、行っちゃいましたね〜……。事務所まだ社長が帰ってなければ良いけど……。」
……やっぱり……。
はづき「……もしかして『やっぱり帰ります』……とか思ってますか〜? ふふ……あんな態度ですが、大丈夫ですよ〜。」
……はは。本当に、考えてることが筒抜けだな……。
はづき「……ふふっ。不思議そうですね〜。実は私、プロデューサーさんの考えてることがすべて分かってしまう、超能力を身につけちゃいました〜!」
……んな馬鹿な。……嘘だよな? ……嘘……ですか?
はづき「まぁ、それは嘘なんですけど〜。喋らなくても、だいたい分かります〜。」
……ははは……って、笑えないか……。今までのがドンピシャだったからな……ちょっと怖っ。
はづき「わかりやすいですもん、プロデューサーさんは〜!」
そうなのかな……。それを言ったらはづきさんだって俺からしたら……。
はづき「……そういえば、あんまりないですよね、こうやって二人で話すこと。」
はづき「プロデューサーさんって、いま独り身でしたよね……?」
ん……あの……
はづき「付き合ってるような人も….…いないんですよね〜……?」
はづきさん……?
はづき「プロデューサーさん….…私たち……似てると思いませんか〜……?」
……顔がだいぶ……近いんですが……
P「……はづk……んむ」
はづき「しー。無理して喋らなくていいですよ〜? プロデューサーさんが言いたいこと……分かりますから〜。」
はづき「……! なるほど、それでも喋りたい……と言った顔ですね〜……。良いですよ〜。」
P「はづき……さん。俺も……分かり……ます。はづきさんが言いたい……こと……。」
はづき「……!」
P「だから……敢えて言葉にします…。」
P「『ありがとうございます』。」
はづき「……はい……。」
P「それと……『よろしくお願いします』。」
はづき「!! ……ふふっ。はい〜!」
P「……合ってました?」
はづき「それは……喋らなくても分かってるハズですよ〜……!」
まさかのPはづだと…?とても良い…