light
pixiv's Guidelines will be updated on March 18th, 2026.
View details
The Works "牢獄に捧ぐ愛" is tagged "士弓".
牢獄に捧ぐ愛/Novel by さく

牢獄に捧ぐ愛

5,124 character(s)10 mins

でぃきゅーえいと(りめいくまえ)ぱろのようなもの

1
white
horizontal

※とあるゲームの設定を借りたパロディ
※いきなり始まっていきなり終わる






薄暗い中、壁に灯された松明を頼りに慎重に足を進める。石階段を一段一段足降りるごとにじめじめとまとわりついてくる空気が不快で仕方ない。牢獄に来るのはこれが初めてではないというのに、この空気にはいつまでたっても慣れそうになかった。
最後の一段を降りると、そこには机と椅子が置いてあるだけの狭い空間があった。真正面には頑丈そうな扉が一つ。そして、見張りの兵士が扉の前で立ちふさがり、ぎょろっとした目を動かして上から下まで値踏みするかのようにしてこちらを観察する。やがて、降りてきた人物が誰なのか気が付くと慌てて姿勢を正し、狭い空間に響き渡るほどの大声を張り上げた。

「お待ちしておりました。勇者殿!!!」
「………お疲れ様です」
「長旅でお疲れでしょう。ただいまお茶をお入れしますので、そちらの椅子に座って休んでください」
「えーと、そんなに気を遣わなくてもいいんですよ?俺はセイバー達にくっついて旅してただけのただの僧侶なんだから」
「またまた御謙遜を。貴方達はこの世界を救った英雄ではありませんか!!」

兵士は目をキラキラさせながら背筋をピンっと伸ばす。それ以上は何も言えず、俺は大人しく近くにあった椅子に座った。
セイバー達が魔王を倒し、世界が平和になってから既に数カ月。それなのに俺は未だに今の兵士のような憧れを含んだ視線を向けられることが苦手だった。遠坂には相変わらず小心者だと笑われたが、名家の子女である自分と比べないでいただきたいものだ。こちらは修道院で育っただけの一般庶民なのである。
セイバーに稽古をつけてもらい、ある程度のモンスターとも渡り合えるようになっていたが俺の本来の役割は回復魔法。前線で剣を振るうよりも後ろで仲間のセイバー、遠坂、桜の補佐をすることのほうが多く、勇者様御一行として数えられるのは何だか皆を騙しているような気がして落ち着かなかった。

「勇者殿?いかがされました?具合でも悪いのなら一度外へ出て新鮮な空気でも」
「あー、何でもないです。気にしないでください。それより、…………あいつは今どこにいますか?」
「あいつ?あぁ、あの男ならば一番奥の牢屋にいます。この扉の向こうにある廊下を真っ直ぐ進んでいくだけです」
「ありがとう。あの、一つ頼みがあるんだけど」
「何でしょうか?勇者殿の頼みならいくらでも聞きますよ!!」
「ちょっとだけでいいからあいつとふたりっきりで話させてくれませんか?」

差しだされたお茶を飲みながら下っ端であろう兵士に無茶な願いを投げかける。案の定、何の権限も持たない兵士はおろおろと見るからに困っていた。

「いやそれは………、我々には『面会の際、それに立ちあう』という規則がありまして……。もちろん、勇者殿のご希望に添いたい気持ちは十分にあります!しかし、そのーそれを破ったらその罰則が、」
「責任は俺が持ちます。あなたは『面会にはちゃんと立ちあいました。問題はありません』と上に報告するだけでいい。もしバレたとしても俺が代わりに怒られときます」
「しかし、あいつは世界を混乱に陥れた凶悪犯です!あいつのせいで多くの命が奪われている!もし勇者殿に何かあったら、」
「それは、…………あなたの言う勇者はそいつに負けるような弱そうな男だって言いたいんですか?それともここで問題を起こすような人間に見えるとでも?」

我ながら最低な事をしているなという自覚はあった。その証拠に興奮で赤く染まっていた兵士の頬はみるみるうちに青ざめていく。それでも首だけは必死に否定しようと左右にぶんぶんと振られていた。
きっとこの兵士の勇者に対する憧れは本物なんだろう。それを利用する自分は、扉の向こうにいるあいつに匹敵するほどの悪人だ。これでますます勇者とは程遠くなったなと一人苦笑する。だが、今日だけは罪悪感を捨てなければならない。使えるものは全て使う覚悟で俺はここに来たのだ。

「…………………わかりました。そこまでおっしゃるのならば私はここで待っています。何かあったら必ず呼んでください」
「助かります。あと、美味しいお茶ご馳走さま。あなたに神の御加護がありますように」

右手で十字を切る。頭を下げる兵士を見て良心が痛まなかったわけじゃない。だが、首にかかっていたそれを握りしめ、後ろを振り向く頃には既にあいつのことしか頭になかった。
扉を開いて最初に目に入ったのは両側に牢屋がある長い廊下だ。渡された松明で道を照らしながらゆっくりと歩く。聞こえるのは俺の足音だけで、恨みごとが混じった呻き声も自らの人生を悲観したすすり泣きもなく静かなもんだった。新しく即位した法皇様がおっしゃっていた通り、ここにはあいつしか投獄されていないらしい。いや、それは正確ではない。正しくは他の連中は既に処刑済みってだけだ。



一番奥、廊下の突き当った牢屋にそいつはいた。音で何者かが来ているのは分かっているはずなのに、顔を上げず壁に寄りかかったまま聖書のページをめくっている。神を役立たずだと罵ったその口で今更何を祈ろうというのか。

「久し振りだな、アーチャー」
「……………………」
「おい、無視すんな」
「……………………」
「こっちを見ろよ糞兄貴!」
「…………私は兵士に規則を破らせるような弟を持った覚えはない」
「都合のいい時だけ兄貴面するくせによく言うよ。前に俺のことを弟と呼んだのは、確か厄介者だった俺を修道院から追い出したときだったかな?」

持っていた松明を壁に掛けながら俺が負けじと言い返すと、やはり自覚があったのかくくっと低い笑い声を漏らした。愉快そうに笑ってみせたアーチャーに少し驚いたが、そういえばこいつは案外感情表現が豊かな奴だったことを思い出す。まあ、笑ったりふざけたりするのも同期の前だけで、俺の前では憎しみと嫌悪に満ちた顔をしているか存在そのものがなかったかのように扱うか、の二択だけだったから忘れていたけど。

「それで?世界を救った勇者様がいったい何の用だ?」

アーチャーは聖書をぱたんと閉じ、それを簡素なベッドのほうへ放り投げた。そのときに見えた背中があの日の傷だらけの背中と重なり手を伸ばしかける。あのとき、心の整理がつかなくて酷い怪我をしていたアーチャーの背中を見送るだけしかできなかったことを今でもずっと後悔していた。無理やりにでも引き留めていたら、俺達はこんな暗闇の中じゃなくて、日の当たる場所で肩を並べることを許されていただろうか。

「処遇が決まった。一週間後、あんたは処刑される」
「…………………………」
「執行人は、……………俺だ」
「そうか」

情けなく声が震えていた俺に比べて、あいつからはまるで他人事のような返答しか戻ってこなかった。

「驚かないのか?」
「少し考えればわかることだ。私は前法皇だけでなくそれに関わる全ての人間を殺し、世界を支配しようとした犯罪者。多くの者にとって、私は魔王と変わらぬ存在だ。だが、お前は大勢の者が見ている前で死にかけていた私を助けた。今は勇者だと讃えられているが、お前を疑う者もこれから出てくるはずだ。その前に、犯罪者を助けたという事実は払拭せねばなるまい」
「そんな……………」
「良い機会ではないか。神の御加護に感謝するがいい」

皮肉な笑みを浮かべアーチャーは十字を切る。それを見た瞬間、感情の赴くままに怒鳴り散らしてしまいたくなった。それくらい腹が立って仕方ない。お前と殺せと命じられたことに感謝しろだと!?
相変わらずこの男は俺の気持ちなんてちっともわかってくれようとはしない。昔から俺の望みを奪っていく。

「死なせない!死なせてたまるもんか。あんたはやり方は間違えてたけど、あんたの信じた理想だけは間違えてなかった。それに前にも言ったはずだ。好き放題やってそのまま死のうなんて許さない、って。あんたにはまだやるべきことが残っているはずだ」
「勝手に決め付けるな。私の命は私のものだ。お前にとやかく言われる筋合いはない」
「あんたの命は俺が救った。だったら俺が口を出す権利はあるはずだ。…………なあ、あんたさ、…………抵抗したんだろ?」

俺がそう言うと、アーチャーは気まずそうに眼を逸らす。

「最後に見たあんたは生きる目的を失っていて、そのまま野垂死んでもおかしくなかった。でも兵に見つかった時、大人しく捕まるなんてことせずに抵抗したって聞いて俺は嬉しかったんだ。俺の言葉を聞いて、まだ生きようと、足掻こうとしてくれた。俺があんたを助けたことは無駄じゃないって思えた」
「…………例えお前の言葉通り、私が生きようとしていたとしてもそれももう終わりだ。こうして捕まって、処刑の日も決まってしまえばどうしようもない」
「まだ手はある。セイバーは力になってくれるって言った。遠坂や桜もだ。あんたさえ了承してくれればいつだって俺達が、」
「ふん、だからお前は未だに半人前なんだ。私とお前が異母兄弟ということはすぐに知れ渡る。先ほど言ったようにお前には私を救ったという前科もある。私が逃げれば真っ先にお前とその仲間たちが疑われるだろう。仲間を私と同じ犯罪者にするつもりか?」
「っ、………それでも、それでも俺はお前を助けたいんだ」

勝手にこぼれ落ちれそうになった涙を乱暴に拭う。目を開けると、いつのまにかアーチャーは俺の前に立っていた。その表情はいつもの憎しみや嫌悪に満ちた顔やさっきのような皮肉な笑みとも違い、穏やかなものだった。

「士郎、私がくれてやった指輪はどうした?」
「指輪?それなら、ここに」

服の内側から首にかかっていた鎖を通した指輪を取り出す。あの日、こいつから指輪を受け取った時から肌身離さず持ち歩いていた。

「今更返せって言うんじゃないだろうな?」
「そんなこと言わないさ。あぁ、それとお前の指輪も出せ」

そう言われて今度はくしゃくしゃのポケットから自分の指輪を取り出す。アーチャーは俺の手のひらから指輪を拾い上げ、それをしばらく見つめる。そしておもむろに口を開いた。

「………………この指輪を貰ってもいいだろうか?」
「俺のをか?」
「いらなくなったとはいえ、私の指輪をくれてやったんだ。それくらいの我儘言っても罰は当たらないだろう」

ニヤリと笑ってまるで宝物のように俺の指輪を握りしめる。その満足げな姿がいますぐにでも消えなそうなほど儚くて見えて、消えてしまう前に降ろされたままの反対側の手をとる。記憶の中にあるアーチャーの手より握り締めた手はあまりにも小さかった。

「私は昔から自分の色が嫌いだったよ。この髪も、目も、肌も全て母親譲りの色だ。この色である限り私はいつまでも使用人の子だ。対してお前の色は正妻である奥方様譲りの色。何の努力をせずとも愛される後継者の色だ。私はお前が、私の中に流れる血が妬ましくて仕方がなかった」
「……………………」
「死ぬまでお前の色と私の色を憎み続けるものだとばかり思っていたが………、お前とこうやって話せる日がくるとはな。それだけでここまで生にしがみついた甲斐があった。………士郎、ありがとう。私はこれで十分だ」

縋る想いで掴んでいたアーチャーの手をより強く握る。だが、その手が握り返されることはなかった。



欲しい物があるのなら何だってくれてやる。願いがあるのなら何だって叶えてやるから、だから、そんな覚悟が決まったような顔をしないでくれ。例え裏切り者と罵られようが、世界を敵に回そうが俺はお前が兄として傍に居てくれさえすれば他に何も望まないのに。
昔、一度だけ兄に優しくされたことがある。家族も家もなくなってひとりっきりで泣いていた俺の頭を撫でてくれた。大丈夫だと、もうひとりぼっちで泣かなくていいのだと、俺が伸ばした手を握り返してくれた。俺が弟だって知るや否や手のひらを返すようにこの手は振り払われたけど、その時の大きくて温かい手を俺は今でも覚えてる。


あの時のように俺の手を握り返してくれたのなら、俺はお前を連れてどこまでも逃げられたのに。

Comments

  • Yellink
    November 1, 2025
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags