「…アーチャー、なぁ、俺のこと嫌いか」
「愚問だな。お前は、私のことが嫌いだろう」
そういうことだ、と。
婉曲な言い方をして。
それでもそれは、確かにはっきりとした拒絶の言葉。
「俺は、お前のことを嫌いだとは思わない。好きだよ、多分」
衛宮士郎は首を振る。
―今なら解る気がするんだ。
そう言って少年は笑う。自分はこうは笑えない―と男は思った。
同じモノであった筈なのに。
―否、だからこそ。
自分と同じモノに微笑むなんて、出来る訳が無い。
互いの眼球の中に自らを認められる位に近づいても、アーチャーは動かなかった。
表情は薄く、嫌悪も愛好もそこからは読み取れない。
―少年はじっと、己と同じ存在を見つめる。
鉄(くろがね)の瞳。
己の物とは違う。
髪の色も肌の色も。
自分とは違う。
彼は変わってしまったモノだ。
何も変わらずに、最期まで遠い理想(ユメ)を手放せなかった男。
―彼の在り方は、自分がずっと焦がれ続けてきたものだ。
茜色の空。孤独な剣の丘。
たった一人であの場所に立ってきた男の気持ちなど、少年にはわからない。
―ただ、綺麗だ、と。
憧れたから。どうしたら自分も、同じ場所に立てるのだろうか、と。
どうしようもなく眩しい正義の味方に、少年は恋をした。
―そのまま士郎は、自分とキスをした。
触れるだけの、存在を確かめるような口付け。
ゆっくりと唇を離した少年を一瞥して―アーチャーは皮肉めいた言葉を吐いた。
「―酔狂だな」
「お前ほどじゃないさ」
「…比較にはならんだろう?」
呆れたようにそう呟く。
自分を殺そうとするのと自分と戯れるのと、どちらがより狂気の沙汰なのか。
ただひとつ、分かることがあるとすれば。
―甘やかな禁忌を貪る少年は、どうしようもなく愚かしい。
「―ばかものが」
「お前には言われたくないよ、アーチャー」
にやりと笑んで士郎は言った。
弓兵の方は呆れた様に目を眇めて、すぅ、と息を吸ってから口を開く。
「…衛宮士郎、貴様はとんでもないおおばかものだ。私よりずっとばかだ」
淀みなく紡がれた罵倒は、鋭さよりも寧ろ優しさばかりが目に見えて。
それが分かるから、自分に恋をした少年は苦笑する。
「…ひどいな、お前」
「何を言うか、自業自得という言葉すら知らんのか貴様は」
言われて当然のことをしている、とアーチャーは言いたいようだった。
「―こんなものは、幻でさえない事を理解しているのか?」
なぁ、衛宮士郎。