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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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失われゆく今だから

 1.ティナン姫の屋敷-御成の間


 さて、と。

 金を稼ぎ損ねた負け犬の遠吠えは耳に心地良いが、作家先生に構ってやってても話が先に進まねえ。そろそろ本題に入るとしよう。

 俺は口を開き掛けて、閉じた。

 ……何だよ? マーマレードがいやに優しげな表情で俺とキャメルを見ている。気に入らねえぜ。見下してんのか?

 憮然として口を尖らす俺に、マーマレードは苦笑をして手を振った。


「いや、なに。私が山岳都市の王となって四ヶ月と少しか。考えることが多くてな。王になって初めて見えるものもあるということだ。最近は父のことをよく思う」


 ……そうかい。俺は適当に相槌を打った。

 俺はジョゼット爺さんにマーマレードとの仲を取り持つと約束した。しかしマーマレードはこの性格だ。無理に言っても逆効果だろう。話の持って行き方で印象ってのは大きく変わる。ここじゃないと思った。俺はジョゼット爺さんに興味がないふりをした。

 だがマーマよ。お前さんはよくやってるよ。俺はそう思うがね。ガムジェムの捜索は進んでるのか? ああ、いや。言いたくないなら別にいいんだが。


「そのことよ」


 うん? そのことっつーと、俺に話ってのはガムジェムの件なのか?


「ああ。キャメルにお前の暮らしぶりを聞かれてな。ふと思い付いたのだ」


 マーマレードは口の中でころころと【飴】を転がしている。決して溶けない飴か。どんな味がするんだろう。ふと気になったのだが、生憎と俺にはマーマレードが口に含んだ飴を舐めると言い放った前科がある。下手なことは聞けなかった。


「率直に言ってガムジェムの探索は進んでいない。しかしお前たちに仕事を与えることはできた」


 ほう。ガムジェム探索クエストとやらには経済を回す側面もあったのか。なるほどな。俺は感心した。

 このゲームの金策には限りがある。モンスターを倒しても金をドロップしたりはしないし、無尽蔵に貨幣が湧いて出る訳でもないので、種族人間が扱う武器や防具の値打ちはどうしたって頭打ちになる。

 だが、イ号案件。経済的に追い詰められたプレイヤーは貨幣の偽造に走る。

 経済を回すってのは、市場を正常な状態に保つってことだ。金で買い物をするってのは言ってみれば信用取引だからな。

 プレイヤーが現れたことで不安定になった経済を、マーマレードは稼ぎ口を用意することでコントロール下に置こうとしている。

 ……ティナンの発想じゃないな。知恵を貸したプレイヤーが居る。シロ様クロ様か。着ぐるみ部隊の財務を取り仕切るお二人だ。とても可愛い。生産職相互組合のトップでもある。

 俺は鼻を鳴らした。ふん、仕事ね……。しかしプレイヤーの労働力はかなりのもんだ。非力ではあるが、ティナンとは頭数が違う。なのに手掛かりすら掴めないってえと、まぁ気付いてるやつは気付いてるだろうな。

 マーマレードはにやにやしている。


「と言うと?」


 レイド級だろうな。

 ガムジェムを持ってるのはレイド級だ。おそらくは体内に取り込み、同化してる。体質が変わってる。

 マーマ、お前も分かってるだろ。レイド級を殴ると魔石が出る。眷属には見られない現象だ。そして……おそらくは【NAi】も。


(私は、あなたたちが辿り着けるかもしれない可能性の一つでした。が、その可能性は既に潰えました)


 ヤツは、ガムジェムを手中に収めるルートを辿ったプレイヤーの姿なのだろう。だから魔法のギアを三段階目まで上げることができた。単なるジョブの違いやレベルの違いなら、ああいう言い方にはならない。

 ジョゼット爺さんの言葉とも一致する。ニャンダムの居城にガムジェムを隠していたのは、化け猫様がもう既に別のガムジェムを持ってるからだ。無限の魔力を供給するガムジェムを二つ持っていても意味がない。化け猫様には眷属も居ないしな。別のガムジェムに興味を示さないレイド級の根城。これ以上ない隠し場所だった訳だ。

 それで? マーマ殿下はどうするね? レイド級からガムジェムを取り出すのは無理だぞ。俺らは何度かポポロンを倒したが、ガムジェムをドロップしたことはなかった。今になって思えば、レイド級を倒しても何事もなかったかのように復活するのはガムジェムの作用なんだろう。で、どうする? 探索は打ち切りか?


「いいや、続けて貰うさ。ガムジェムをレイド級が守っているというならば、こちらから手出しする必要はない。問題になるのは、やはり野晒しになっているかもしれないガムジェムということになる」


 そうか。だろうな。しかしこうなると、ますます厄介だな。現在確認されているだけでもレイド級は六体。モンスターにはガムジェムを追う鼻があるのかもしれねえ。

 マーマよ。ジョゼット爺さんと仲直りはできねえのか? 酷なことを言うようだが、やっぱりあの爺さんは山岳都市最大の戦力だ。お前も耳にしているだろう。世界は海で繋がってる。いつ何が起こっても不思議じゃねえんだ。ジョゼット爺さんを遊ばせとく余裕はねえぞ。


「……分かっているさ。だが、私は父を前にして自分を保つ自信がない。今はまだ……」


 ああ、ガムジェムの暴走があったな。じゃあ焦っても仕方ねえ。俺はいったん提案を引っ込めた。楔は打ち込んだ。今はこれで十分としよう……。

 すぱっとふすまが開いた。あん? 見れば、髪の長いティナンが立っている。ずかずかと乗り込んできて、マーマレードの横に座った。

 おぅ。誰かと思えばラムレーズンじゃねえか。髪伸ばしたのか。こうして見っとお前もティナンだなぁ。綺麗な顔してっから分かりやすく美少女してる。つーか女の子だったのね。いや、前に会った時は男装してたからさぁ。今日は女の子らしいカッコしてんね。似合う似合う。で、どうした急に。

 火の武将ラムレーズンは顔を赤くしたり頬を膨らませたり緩めたりとコロコロ表情を変えている。忙しないやっちゃな。ラムレーズンは、ばんと座敷を叩いてこう言った。


「オレは殿下の護衛だ! お前のような不埒な人間を捨て置けるものか!」


 ちょっと。コニャックさん。俺は隣に座っているコニャックを肘で小突いた。仮にも俺は客人ですよ。マーマに招かれてこの場に居る俺にあの言い草はないんじゃないですか?


「ラムはコタタマのこと気にしてたからねぇ。会いたかったのかな? ねえ、ラム。コタタマとお話がしたいなら地下に来れば良かったじゃないか。無理に同席しなくとも……」


「お前はオレの話を聞いてないのか!? 殿下の護衛だと言ったろ!」


 きゃんきゃんと吠えるラムレーズンを、書籍化未遂作家様のクズ女ことキャメルがぼんやりと見つめている。ハッとして俺を見た。あんだよ。


「え? ロリコンなんですか?」


 ちょっと待ってくださいよ!

 俺は吠えた。

 何でそうなる? ロリコンはアットムの担当部署なんだよ。そっちを当たってくれ。いや、待てよ? 俺はすぐに考え直した。ラムレーズンはマーマレードからガムジェムの力を分け与えられた四天王の一人だ。クソ強力な回復魔法【心身燃焼】を使えるティナンという反則的な存在である。ましてマーマレードの護衛を任されるくらいだ。高給取りであることは間違いない。書類審査で弾くには惜しい。ロリコンの誹りを受け入れるだけの価値はある。アットムには悪いが、ここは俺の嫁入り候補にキープしておきたい。

 ふっ。キャミーよ。


「何ですか?」


 俺は歯列をギラつかせて言った。

 人間ってのは見た目じゃねえのよ。大切なのは何を思い何を成したか、だろ? ラムは俺には勿体ないくらいのイイ女だ。付き合いは短いがな、俺には分かる。尖っちゃいるが誰よりも仲間を大事にするやつさ。ロリコンなんて言葉で一括りにされるのは心外だぜ。

 ラムレーズンがばたばたと手を振る。


「ひ、ヒューマンめ! 思い上がるな! 誰がお前などっ……!」


 ふん。ティナンもヒューマンもねえさ。綺麗なものを綺麗と言って何が悪い。俺はお前のことを気に入ってる。それだけは言っておこうと思ってな。


「か、考えておこう……!」


 うむ。俺はティナン四天王のオレっ娘をキープした。やったぁ。

 おや、作家崩れが何かおぞましいものを見るような目を俺に向けている。いかがなされた?


「く、腐ってる」


 そいつは違うぜ。キャミーよ。

 俺の皮膚に得体の知れない紋様が浮かび上がり、じわじわと侵食が始まった。ちっ、アビリティの作動か。何だってんだ? やっぱり完璧にはコントロールできねえ。勝手に作動しやがる。まぁいい。俺のアビリティはサイコロで言う出目が増えるだけの慎ましいもんだ。無視できる。

 俺は歯列をギラつかせて言った。


「女性のそういう気持ちを利用するなんて俺にはできない」


 悪いが分かってくれ。人の好意を踏みにじるようなことは俺の中で一番許せない憎むべき行為なんだ。

 マーマレードが一つ頷いた。


「コニャック。この男を摘み出せ」


 何を言う。俺はこの家の子だぞ。お前は家族を捨てるのか。家族すら大事にできないで、何が山岳都市の王だ。そうやってお前は俺を捨てるようにいずれ民を見捨てるだろう。お前が目指す王道とはその程度のものなのか? 誰かを犠牲にすることでしか成し遂げることができないというなら、お前に王の資格はない。早々に妹のメープルに王座を譲ることだな。お前の下らない意地に振り回されて哀れな犠牲者が出る前に、な。


「危険な男だ。口が回りすぎる。私の側近を毒牙に掛けられては堪らん」


「しかし殿下……!」


 コニャックさん言ってやって。俺がどんなに愛らしく、癒しに満ち溢れた存在であるかを言ってやって。アニマルセラピーって言ってな、ティナンは種族人間と一緒に暮らすことで大いなる安らぎを得るんだ。なに、タダとは言わんよ。食費分の働きはするさ。一食500円として、平日と休日で合わせて週十食。5000円ってトコか。時給1500円計算で四時間でお釣りが出るな。少し譲歩して時給1000円としよう。サービスだぜ? つまり週五時間。平日は経験値稼ぎに当てたいから休日に二時間ずつ。キリが悪いな。時給は1300円にしよう。OK。休日に計四時間だけ働いてやる。平日の夜中は深夜残業が付くぞ。深夜残業は時給2000円とする。おっとネフィリアを放っておくとうるせえからな。たまに牢屋からふらっと居なくなるが、まぁ気にするな。メシまでには戻る。

 俺はマーマレード殿下直々に屋敷を追い出された。こ、コニャックさ〜ん!


「コタタマ〜!」



 これは、とあるVRMMOの物語。

 伸ばされたその手を掴み取ってあげることは叶わず……。



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[一言] どこでフラグ立ててんだこの男は…
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