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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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短すぎた夏休み

 1.山岳都市ニャンダム-迎神尊像前


 タコっぽい像に熱烈なアプローチを掛けている。

 誤解しないで欲しいのは。レ氏。俺は確かにあんたの殺害に一役買ったかもしれない。だがな、俺はあんたのことをマジでスゲーやつだと思ってる。個人的な恨みは、そりゃあるよ。あんただって万人から好かれるなんて思っちゃいないだろう? そういうところなんだよな。

 ……ゴミどもが足を止めて俺の熱烈アプローチを見学している。くそがっ。だから嫌なんだよ。

 一次生産職の転職条件はクラフト技能を司るョ%レ氏の偶像に今後生産職としてやって行く熱い思いをぶつけることだ。

 そしてクラフト技能【ョレ】はョ%レ氏の固有スキルであり、生産職としてやって行くということはあのタコ野郎の力を借りるということ。

 クラフト技能とささやき魔法の利便性、汎用性は数ある魔法の中でずば抜けて高い。あるいは攻撃性で言えばポポロンの【全身強打】やマールマールの超重力のほうが上かもしれないが、このゲームの根幹を成しているのは間違いなくョ%レ氏と【NAi】の固有スキルだ。ゲーム性そのものを根底から支えている。

 それは、つまり……。


(アビリティとやらの正体はスキルなのさ)

(お前らはレイド級の足元にも及ばねえ)


 ョ%レ氏と【NAi】はレイド級と比べても決して見劣りしない。いや、はっきりと格上なのだろう。

 俺がョ%レ氏を支持するのはちっともおかしなことではない。

 それなのにゴミどもは俺がラスボスの足元にひれ伏すのがよっぽど楽しいらしく、ゴミ同士で固まって小声でぼそぼそと何か言っている。


「おい、無職が必死だぞ」

「なけなしのプライドを保とうとしてるな」

「しっ。何か言おうとしてるぞ」


 ……なあ、レ氏。俺は周りの人間がバカに見えて仕方ねえタイプの人種だ。それは、やっぱり自分が特別な存在だと思わねえとやってやれねえってことなんだろう。

 その俺が。あんたには敵わねえかもしれねえって認めちまってる。あんたは凄いやつだよ。だからさ……。

 俺は衆人環視の中でガバァッと土下座した。地に頭を擦り付けてお願いする。

 クラフト技能を! 俺に授けてください! イチ鍛冶師として出直します!


 その日の内には俺の渾身の土下座シーンが動画サイトにアップされた。

 ファックだぜ。



 2.クランハウス-先生の居室


 先生の居室で正座している。

 つまりSSコンテストでクズ女に唆されて大量虐殺に手を貸したことが先生にバレた。

 後で聞いた話なのだが、なんでもMPKの影響で活発化したモグラさんたちがマールマール鉱山全域で暴れ出し、ゴミどもが凄惨な死を遂げたのだとか。

 まぁ派手に死んだという意味では俺が断トツだがね。派手派手よ。

 俺に正座を命じた先生が俺の前を左右に行ったり来たりしている。ややあって、ぴたりと立ち止まった先生がぽつりとこう漏らした。


「ウチの公約は迷惑行為禁止なのだが……。それに関しては半ば諦めている。コタタマ。私はもう君を手放すことはできない」


 俺はドキッとした。せ、先生。それって……?

 だが禁断の愛に足を踏み入れるとかそういう話ではないようだ。先生は続けた。


「何はともあれ。何はともあれだ。一歩前進。そう言わざるを得ないだろう。コタタマ。君は自覚がないようだが、今回のイベント……。君は一貫して趣旨を外れなかった。戦争を起こさなかった。瞠目に値する成長速度だ」


 ! い、言われてみれば……。

 先生はひづめの角っちょをコツコツと打ち鳴らしている。


「うん。君は大きな変化の途上にある。もはや怒りで世界と向き合っていた頃の君ではない。ならば思い切ってもう一歩踏み込んでみよう」


 そう言って先生はくるっとターンした。じっと俺を見つめ、優しい声音で問い掛けてくる。


「コタタマ。他人を敵と見なすのはやめよう。できるね?」


 もちろんです。俺は即答した。しかし先生。具体的には一体どうしたら? 俺を導いてください……!


「うん……。コタタマ。君の考えは同じパイを全員で奪い合っているというものだろう。それは正しい。競争なくして発展もまたないのだから。しかし裏を返せば、我々は苦労を分かち合っているということでもある。時として競い合い、時として支え合う。敵ではない……。パートナーたり得るのだ」


 なるほど……! でも先生っ。俺は他人の不幸を見るのが大好きなんです……! この熱い想いは一体どうしたら!?


「さあ精神の修養だ。近世以降の資本主義は我々に多くの気付きを齎してくれたが、一方で行き過ぎた物質世界への傾倒は健全なバランス性を欠く。何事につけ人は盲目的な視点を脱却し新時代の到来に備えてきた。その真っ白なパワーこそが現代社会に立ち込める閉塞感を打ち破るものなのだ」


 ご一緒します!

 大きく頷いた先生が畳の上に両膝を突いて趺坐スタイルに移行した。俺も負けじと座禅を組み精神世界へと埋没していく。

 すぱっとふすまが開いて元騎士キャラが乱入してきた。


「ママ、ママ〜」


 あらあら、どうしたのこの子は。

 とてとてと駆け寄ってきたポチョ子が俺に後ろから抱きついてきた。


「ママ。ポチョ子ね。ポチョ子、打撃武器が欲しい」


 またこの子はそんなこと言って!

 前に買ってあげた槍はどうしたの。ちっとも使ってないじゃない!


「使ってるよぉ。でもドリルだし。思ったのとチョット違った……」


 またそんなこと言って倉庫に置きっ放しにするんでしょう! 倉庫を片付けるのはママなんですからね! いけません!

 ぴしゃりと言う俺。すかさず先生がノってきた。


「はっはっは。ママ。そう頭ごなしに否定しなくてもいいじゃないか」


「パパ!」


 パッと嬉しそうに笑ったポチョ子が羊パパの背中にしがみつく。

 羊パパはうんうんと頷いてポチョ子の頭を撫でてやる。


「打撃武器というとハンマーかな? 何に使うんだい?」


「あのね。今度みんなで地下マップに見学に行くの。ポチョ子、骸骨さんをハンマーで叩きたい」


 地下マップか……。

 攻略組が中心となって推進している新マップこと遺跡の探索は思わぬ展開を見せようとしている。

 新たな通路が発見され、複数の常設ダンジョンが地下で繋がっていることが判明したのだ。

 プレイヤーの侵入と共にモンスターが流出し、今や中層域は異なる種族が雑多に混じり合う地獄と化している。

 常設ダンジョンに出没するモンスターは地上のモンスターと比べるといささか見劣りするが、一芸に秀でているタイプが多い。それらが時として互いの弱点をカバーするような組み合わせを見せるのだ。

 ポチョの言う骸骨さんとはスケルトンのことだろう。倒しても倒しても立ち上がってくる面倒臭いモンスターであり、回復魔法で生命力を過剰供給して焼き払うのが一番手っ取り早い。しかし回復魔法はマナの消費が半端ないので、ハンマーやメイスといった打撃武器で蹴散らして時間を稼ぐのだ。それは剣や槍では難しい。

 遺跡マップの地下中層域を見学するなら、確かにチームポチョの武装は見直しが必要だろう。

 そして薄々はそうじゃないかと思っていたのだが、ポチョは純粋な剣士ではない。敵によって武装を切り替えるマルチ型のファイターだ。地獄に適応した女なのである。


 羊パパは娘たちに甘い。


「ママ。こう言っているし、ハンマーくらい買ってあげてもいいじゃないか」


 あなた! まったくもう……。ポチョ子に甘いんですから。

 ポチョ子。こっちに来なさい。俺がぺんぺんと畳を叩くと、ポチョ子は俺の膝にころんと寝転がる。


「ママ」


 いいですか、ポチョ子。まずはスズキ子ジャム子ときちんと相談なさい。ママはあなたが憎くて反対している訳ではありませんよ。あなたのことは大切に思っています……。が、それはそれ。

 仮にあなたにハンマーを与えればうまくやるでしょう。ですが、あなたの負担が大きすぎる。ママはハンマーを持つのはジャム子のほうが良いと思っています。

 三人でよく相談なさい。いいですね?


「うん、分かった。ママ。行ってくる!」


 コクリと大きく頷いたポチョ子は元気に居室を飛び出して行った。

 俺は溜息を吐いた。まったく……。あの子はいつまでたっても落ち着きがありませんね。誰に似たのかしら?

 羊パパが「ふふふ」と笑みを零す。なんです?


「いや、ポチョ子は若い頃の君にそっくりだよ」


 あら、俺はあんなお転婆ではありませんでしたわ。


「そうかな? 私はそうは思わないが……」


 そう言って羊パパは俺の左手首をちらっと見た。そこにはアットムくんと揃いのブレスレットが嵌まっている。羊パパから貰ったものだ。正確にはキャラデリの際にロストしたので、その模倣品ということになる。

 俺はさっと頬を赤らめた。あなた! 照れ隠しに怒鳴ると、羊パパは丸いお腹を揺すって鷹揚に笑った。


「はっはっは。大切にしてくれているようだね。嬉しいよ」



 3.クランハウス-居間


 結局ハンマーに関してはポチョが持つことに決まったようだ。

 バザーで買って来てもいいのだが、今度シルシルりんに相談してみよう。ポチョの装備品に関してこちらで勝手に話を進めると怒られそうだからな。

 それはそれとして、本日は久しぶりに登校日になるらしい。

 ネフィリア速報である。強制召喚を先読みし、その情報をリアルで拡散している。

 あの女はリチェットに制服姿はキツいだろと言われたことをよほど腹に据えかねているらしく、女キャラに制服着用を義務付けようとしている。一人だけ制服を着て行っても、それこそ自分だけがはしゃいでいるようで嫌なのだろう。

 かく言う俺にもセーラー服を着てこいと沙汰が下った。何なんだよ。

 しかし優等生キャラになってやると言い出したのは誰あろう俺である。やむなし。俺はバンシーモードに早変わりしてピエッタ手製のセーラー服に袖を通した。髪型は……いいや。三つ編みにするのは面倒臭い。メガネを装着してその時を待つ。

 つーか新入学キャンペーンっていつまで続くの? もう九月だぞ。ゲームん中じゃ真冬で、スカートなんて履いてると脚が冷えるんだよ。タイツなんざ持ってねーしよ。俺がぶつくさと文句を零しながら窓を開け閉めしていると、背筋がぞくっとした。強制召喚か? ガンツかよ……。それだけ言い残して、俺は意識を手放した。



 4.ギスギス学園-Z組教室


 今回は先生がログインしていない。

 では、Z組の担任教師は誰が務めるのだろう。ネフィリア辺りか?

 そう思っていた時期が俺にもありました……。


 Zooooo……


 担任教師マールマール、復職……。

 教壇に立つ凶獣の横には黒服二人が控えていて、ぱちっと俺にウィンクしてくる。ひそかにグッと親指を立てた。

 プッチョとムッチョである。

 俺は内心でバカ二人を罵った。

 ばか……! お前ら、本当になんていうか、大バカ……!

 え? マールマールをクビにして先生の機嫌を損ねたから戻したの?

 そういうところなんだよな。空気を読めねえやつは空気を読んだつもりでアクションを起こしてミスをする。余計な真似しやがって……!


 Zooo……


 マールマール先生がじっとバカ二人を見つめている。

 バカ二人は気さくにマールマールさんの肩を叩いた。


「悪かったな。マールマール。少し手違いがあってな。お前は思ったよりも生徒に愛されてるみたいだ」

「感謝しろよ〜。お痛は程々にな? 授業をしろ。生徒に手を上げようもんなら、この俺らが黙っちゃいねえぜ……?」


 校内に部外者は立ち入り禁止だ。

 マールマール先生は黒服二人の頭を引っこ抜いた。プッチョとムッチョは死んだ。


 ウチの担任教師はいささか野生的で、生徒の死すら辞さない熱血教師だ……。

 生徒ですらない部外者はチャイムを待たずして斃れていく。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 Z組に舞い戻って来たマールマール。その圧倒的な力を前にして生徒たちに成すすべはあるのか。今、再び戦いの刻を告げる鐘が鳴る。君は生き延びることができるか。



 GunS Guilds Online


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