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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
161/978

写るんDeath

 化け猫様に身体を弄ばれ捨てられた俺は、二号さんのサトゥ氏と傷の舐め合いをしながら帰途に着いた。


「いいや、正妻は俺だ」


 あ? そんなもんどっちでもいいし、ぽっと出のネカマ野郎が何言ってんだ。ニャンダムは俺に惚れてたね。お前じゃない。俺には分かる。

 サトゥ氏は長い髪を指先で払い、ニコッと笑った。どんぐり眼に冷ややかなものを浮かべて俺を見下してくる。


「お前ン中ではそうなのかもしれないな」


 こ、この泥棒猫! 俺はヒステリックな声を上げてサトゥ氏の髪を強く引っ張った。サトゥ氏も応戦してくる。きーっ! 何なのさっ、このアバズレ!


「お黙り! このちんちくりん!」


 互いの主張は平行線を辿り、俺とサトゥ氏は喧嘩別れした。

 くそっ、言うに事欠いてちんちくりん呼ばわりとは。スズキさんに失礼だろうが。俺のバンシーモードはちんちくりん一号をモデルにしてるんだぞ。

 ぶつぶつと文句を垂れながら一人寂しく丸太小屋に戻ると、何やらウチの子たちが決起集会をしていた。


「コタタマをニャンダムの魔の手から救い出すんだー!」


 ええ? 遅っせーよ。

 丸太小屋の前で剣を突き上げたポチョの横には先生が立っており、うんうんと頷いている。あれぇ? 助けは要らないと手紙に書いたつもりだったのだが……。うまく伝わってなかったのかな?

 おや、プッチョとムッチョも混じってるぞ。相変わらず自由だな。


「ポチョさん。俺らはいつでも行けるぜ」

「ニャンダムはこの俺たちが止める……!」


 いや無理でしょ。お前らのスキル、ゴミじゃん。ョ%レ氏とバチバチやり合った時は俺も雰囲気に流されて無価値なスキルなんてないみたいなこと言ったけど、改めて考えるとマジでゴミだよ。本当なんていうか宴会芸の域を出ないよねっつー。

 まぁこのまま出陣されても困るので。

 帰ったぞオラー。普通に歩いて戻って来た俺はひらひらと手を振った。あー。だりー。


「こ、コタタマ!?」


 ちーす。適当に返事をすると、ウチの子たちがワッと駆け寄ってきて俺を揉みくちゃにした。温度差が。温度差がひどい。

 だが、そんな中。赤カブトさんはむーっと頬を膨らませて俺を睨んでいた。目が合うと、ぷいっとそっぽを向いてしまう。

 むむっ。これは面倒臭ぇことになりそうだ。



 1.クランハウス-マイルーム


 粗方の報告業務を終えて晩メシを食った俺は、残すところログアウトするばかりとなった。部屋に戻って少し藁人形を編む。

 今の俺は無職だ。クラフト技能を使えない。藁人形の素材がなくなる前に鍛冶師に戻らねえとな。鍛冶師にさえ戻れれば、あとはネフィリアにお願いしてパーティーを組んで貰えばデサントに復帰できる。そう、デサントに転職するためには生産職であることが前提条件なのだ。

 さて……。俺は完成した藁人形をベッドの上に置いて立ち上がった。

 晩メシを一緒に食べている時も赤カブトは終始機嫌が悪そうだった。変に拗らせると面倒だ。さっさとケリを付けるとしよう。

 俺は壁の隠し扉をくるっと回して赤カブトの巣穴にお邪魔した。


「あっ……!」


 床に転がっているぬいぐるみの角度を調整していた赤カブトが振り返って俺を見る。すぐにぷいっと顔を逸らして私怒ってますと言わんばかりに俺を無視して作業に戻った。俺も手伝ってやることにした。

 木彫り熊を崇めるように取り囲んでいるぬいぐるみの並びを等間隔になるよう調整していく。


「あっ。そこ違う! キリンさんは背が高いからゾウさんの後ろでいいの!」


 知らねえよ。なんだその気遣い。キリンさんだってたまには前に出てもいいじゃねえか。好きで首が長くなった訳じゃねえんだぞ。

 ハッとした赤カブトがぷいっとそっぽを向く。仕方のないヤツだ。俺は赤カブトを抱っこして頬ずりしてやった。


「やっ。は、離して!」


 何を怒ってんだよ? 俺ぁ悲しいぜ。せっかく命からがら逃げ出して戻って来たってのによぉ。ママを歓迎してくれねえのか? ん?

 俺の腕の中で赤カブトがじたばたと暴れる。だが本気じゃない。甘えがある。本気で嫌なら殴るなり蹴るなりすればいい。俺なら肘でカチ上げるだろう。しかし赤カブトはそれをしない。俺への甘えがあるからだ。その甘さがある内はコイツは籠の中の鳥だ……。俺は歯列をギラつかせて赤カブトの耳元に口を寄せた。ぼそりと囁く。


「お前はもっと俺に甘えていいんだ」


 折れろ。堕ちろ……。

 だが赤カブトは思ったよりも強情だった。それはポチョやスズキが赤カブトに与えた強さだったのかもしれない。俺の知らない強さだった。人は希望という名の光に縋る。俺をキッと見るピンク色の瞳がきらりと光る。


「そうやってペタさんは誰にでも殺されるんでしょ!」


 ……?

 い、いや、呑まれるな。ここでいつも引くから俺は赤カブトのペースに巻き込まれんだ。……そうだ。まずは認め、受け入れることだ。

 これまで俺は自分がアホではないと思っていた。幾らかマシな出来のゴミだと思っていた。驕っていた。驕り高ぶりは目を曇らせる。言わば圧倒的に強い筈の敵キャラの負けパターン……。

 認めよう。この世の中には俺の知らない世界もある。だったら俺は改心した敵キャラになる。改心した敵キャラほど安定したポジションはない。実力は折り紙付きで、何しろ以前は敵軍に居た訳だからエピソードは盛り放題。オイシイんだ。改心した敵キャラってのは。

 そうさ。俺はヒュンケルになりたい。

 そのためには過去と向き合い、認め、受け入れることだ。俺を殺すことは赤カブトにとって何か重要なことなのだろう。ならば俺はそれを利用するまでだ。

 俺は赤カブトをベッドに運んでやると、ぽいと放る。可愛らしい悲鳴を上げた赤カブトにぐいっと迫り、頭を撫でてやった。

 ジャムジェム。お前、嫉妬してるのか? ニャンダムに。可愛いヤツだ。


「そ、そんなんじゃないよ!」


 いいや、そうだね。俺には分かる。お前のことは全部分かるんだ。お前は嫉妬してるんだ。

 だが、お前だって本当は分かってるんだろ? 本当の意味で俺を殺せるのはお前だけだよ。ジャム……。


「ペタさん……」


 赤カブトが俺にぎゅっと抱きついてきた。

 堕ちた……!

 俺は勝利を確信してほくそ笑んだ。これで良かったのかどうかは分からない。自分で言っておいて何だが本当の意味で殺すってどういうことなのかさっぱり分からない。だが赤カブトは納得したようだ。


「わ、私でいいの?」


 ……?

 意味は分からないが、ひとまず俺は頷いた。もちろんさ。お前がいいんだ。

 赤カブトはうっとりとして俺を見ている。


「ね。殺して、って言って?」


 それマズくない? えっ。俺、結局死ぬの? 死ぬのは嫌だ。

 どうしようかな……。俺は焦らした。


「言って?」


 赤カブトの瞳に一瞬だけ不安が過ったのを俺は見落とさなかった。くそがっ。結局はこうなるのかよ。何なんだ。やむなしっ。


「殺してくれ」


「もう一回」


 まさかのリテイク!?

 俺は赤カブトに布団に引きずり込まれた。

 赤カブトはすっかり安心しきったように俺に身体を預けてくる。


「ね。いいでしょ? もう一回言って」


 今更になって後戻りはできない。俺は赤カブトが満足するまで繰り返し殺して欲しいとお願いする羽目になった。


「もうっ。そんなに言うなら……一回だけだよ?」


 そして腹をブッ刺されて死んだ。



 2.翌日


 やっぱり分からないものを無理に分かったつもりになってもダメだな。

 ブーンの囀りに目を覚ました俺は、赤カブトのベッドから這い出して廊下に出た。セブンの死体を跨いで……いや、生きてる! 仰向けになって廊下に寝転んでるセブンに声を掛ける。どうした。


「サトゥが世話になったな。礼を言う」


 ああ、復職の件か。途中からどうでも良くなったから感謝されても今一つぴんと来ないが。


「お前には借りが出来た。その借りを今返そう。これを使え」


 早いな。相変わらずのハイペースだ。

 俺はセブンから手渡された紙きれを広げてみる。ほう。レ氏を賛美する原稿か。よく出来てる。これなら鍛冶師に戻れそうだ。セブン。お前が書いてくれたのか?


「いいや、メガロッパに書かせた」


 じゃあお前に偉そうにされる謂れはないんだが……。まぁいい。俺は、俺の部屋のドアを開いてやった。寝転がったままのセブンに窓を指差して言う。

 窓はあそこだ。


「崖っぷち。お前は話が早くていい」


 のそりと身を起こしたセブンが俺の部屋に入って棒手裏剣を二本投擲した。


「アアッー!」


【スライドリード(射撃)】の止め撃ちだ。ざっくり言うと猟兵はワールドトリガーの射手シューターが使うアステロイドみたいなことができる。ぴょんとジャンプして棒手裏剣に足を乗っけたセブンが腕を組んで窓を見据える。


「ふん……。じゃあな」


 急発進した棒手裏剣が俺の部屋の窓を突き破って遠くへ飛んでいく。だが足場が不安定なのが良くなかったらしく、ぐらついたセブンは窓枠に顔面からブチ当たって割れた窓からずるりと足から落ちていった。


「ちィ……」


 舌打ちして自由落下していくセブンをブーンが素早くインターセプトして飛び去っていく。ワッフルの雛の健やかな成長を祈るばかりだ。



 3.クランハウス-居間


 連れ去られたセブンを見送って居間に降りると、勝手にウチに上がり込んでいたクズ女ことキャメルが俺にブンブンと手を振ってくる。


「あっ。コタタマさん、お早うございます!」


 堂々としてやがる。

 俺は適当に返事をしてソファに腰掛けた。そして向かいに座るクズ女に「何しに来た?」と簡単に用件を尋ねた。

 クラン【学級新聞】のメンバーに名を連ねるキャメルは金に意地汚いブン屋だ。ハイエナのような女であり、俺の醜聞をブログで面白おかしく掲載して部数を伸ばしてきたクソのような経歴を持つ。

 だが、知る権利を傘に着た図太い女は、ほんの少しでも俺に対して申し訳ないという気持ちを持ち合わせちゃいないらしい。ぐっとを身を乗り出して興奮した面持ちでまくし立ててくる。


「コタタマさん! 夏休み特集ですよ!」


 夏休み、特集……?

 あっ。あ、ああ、あったな、そんなもんも。イベント発表からそう日を跨いではいないが、失職したり化け猫様に嫁入りしたりしてる内にすっかり忘れていた。

 夏休み特集というのは、要はSSコンテストのようなものだ。SSはスクリーンショットの略で、プレイヤーが撮影したSSを投稿して出来栄えを競うイベントというのはネトゲーではそう珍しくない。

 少し変わった点を挙げるとすれば、ヘソを曲げた運営ディレクターがブン投げた仕事であるということだろう。いや、そうと決まった訳じゃないのか。ョ%レ氏に何かあったのかもしれない。

 まぁ……今回のイベントはスルーでいいんじゃないか。俺は気乗りしない。薄々勘付いていたのだが、俺がイベントに参加すると毎回ろくなことにならない。他のゴミどもは日頃の行いが良くないからだと訳知り顔で言うが、おそらくは俺のアビリティが悪い方向に作用しているのだろう。アビリティなら仕方ない。

 だがクズ女は情熱を持て余しているようで、居ても立っても居られないとばかりに席を立って俺の手をぐいぐいと引っ張ってくる。


「一人の記者としてこのイベントは見逃せません! さあ! コタタマさん立って! さあさあ! コタタマさんと私で天下を取るんですよ……!」


 いや、なんで俺よ? 他を当たれよ。


「なに言ってるんですか! これはチャンスなんですよ!」


 なに? どういうことだ?

 俺はキャメルから詳しく話を聞いた。

 内容はこうだ。

 キャメルが言うには、今世間では俺の評判が好転しつつあるらしい。

 新スキルを解放したことで、ゴミどもの味方のふりをしてきた俺が本当に味方なのではないかと考えるゴミが増えたのだとか。

 ハッ。俺は鼻で笑った。おめでたい頭してんなぁ。そんなだからイベントで勝てねえんだよ。ガキの頃から人の嫌がることをしてはいけませんって習ってるもんだから、他人の良心に期待する癖が付いてるんだろうな。

 だが人の嫌がることもできねえで勝とうってのは甘いぜ。世の中は正義が勝つようには出来てねえからな。それがリアルってもんよ。

 キャメルがぱちぱちと拍手した。


「素晴らしいです! やっぱり魔族の方が人間の悪意から生まれるっていう話は本当だったんですね!」


 お前を殺したいが、いいだろう。続けな。

 それで? 俺の株が上がってることとSSコンテストに何の関連性がある?


「コタタマさんを被写体にコンテストに参加するんですよ! 不特定多数の方々を殺害することになりますが構いませんよね!?」


 そりゃ構わねえが……。MPKしろってのか?


「ザッツライト!」


 テンション高えなぁ。声を抑えろよ。俺は善良なプレイヤーなんだぜ? 人聞きが悪いったらねえぜ。俺は声を潜めた。

 で、どいつを殺るんだ?

 キャメルも声を潜めた。


「ですから、不特定多数の方々です。不幸にもその場に居合わせた人たちということになりますね」


 ほう。何やら具体的なプランがあるようだな。

 面白そうだ。いいぜ。話してみな。


「まず……」


 キャメルは人差し指を立てて計画の全容を語っていく……。


「……どうですか? 分け前は弾みます」


 いいだろう。俺は承諾した。

 俺は悪を憎む善良なプレイヤーだが、報酬を払うというのであれば断る理由はない。暇潰しにもなるしな。

 確かに百人ほど犠牲者は出るだろうが、これはゲームだ。イベントの一環だと思えば喜んでくれるかもしれない。

 要はサプライズさ。きっと死ぬほど驚いてくれるだろう。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 SSコンテスト。ただし人は死ぬ。



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