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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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別れと出発の時

 拝啓。

 先生へ。

 今日、俺とサトゥ氏はニャンダムに嫁入りします。

 まぁいよいよヤバくなったら逃げるつもりなのですが……。

 いえ、正直に言います。ニャンダムは山岳都市の守り神だ。ニャンダムの機嫌を損ねるのは避けたい。そう考えています。

 世界は広い。アメリカ勢は強かった。あのサトゥ氏ですら米国サーバーでは五指に入れるかどうか怪しい。

 この先、もしも海外勢と衝突した時。ニャンダムが動くかどうかで戦局が左右されることは十分にあり得るでしょう。

 先生。俺は勝ちたい。そのために俺はニャンダムの元へ行こうと思います。

 ニャンダムはこう言っていました。ゲストですら自分を縛ることはできないと。

 獣王という称号は特別なものなのかもしれない。それは、ティナンが獣王ニャンダムに仕えていることと無関係ではないかもしれない。

 俺はこう考えています。ョ%レ氏は、他の%の介入を想定しているのでは、と。

【NAi】を作ったのはョ%レ氏なのでしょう。では、【NAi】のティナンに対する執着心はどこから来たものなのでしょうか?

 ョ%レ氏がそのように作ったと考えるのが一番自然です。が、ョ%レ氏本人は自覚がないようでした。

 ョ%レ氏と【NAi】は対立している。

【NAi】はかつて言いました。己自身の姿を見ることはできないと。

 そして先日の戦い。ョ%レ氏はアットムの投げ技を一度で模倣しました。

 あれは普通じゃない。頭が良いという次元の話ではない。俺はそう思います。

 先生。例えばの話ですが、人間が学習して行うような高次作業を、生物が無意識下で行うことは可能ですか?

 俺はョ%レ氏がそうなのではないかと疑っています。

 ニャンダムは何かを知っているかもしれない。それを調べるためにも俺はニャンダムの元へ行きます。


 追伸

 サトゥ氏がうるさいので付け加えておきます。

 ウチの子たちにはうまく言っておいてください。

 サトゥ氏の復職に手こずってるとか何とか。そんな感じで。

 俺もささやきが入ったら適当に誤魔化しておきます。では。



 1.輿入れ


 先生宛ての手紙をヘソ出し女に託した俺は、その日の内に御輿に担がれニャンダム御殿へと運ばれることになった。

 ニャンダムに見初められるのはとても名誉なことらしく、サトゥ氏とは別々の御輿である。

 先生には手紙でああ言ったが、俺は本気でヤバくなったら逃げるつもりだ。ただ普通に逃げても逃げ切れる訳がねーので、実際にニャンダムに会って口八丁で何とかするしかない。その場合、面倒事はサトゥ氏に全面的に押し付けることになるだろう。

 つまりペタタマくんは今日体調を崩してしまったので代理でバンシーさんが出陣したという体で行く。俺は御輿の中でバンシーモードに早変わりした。

 ニャンダムの鼻を誤魔化せる確率は低いと踏んでるが、まぁやらないよりはマシだろう。

 到着したようだ。御輿から出た俺は、そこで知らない女と目が合った。おっとサトゥ氏の面影があるぞ?

 お、お前……。俺は口をぱくぱくして暫定サトゥ氏を指差した。暫定サトゥ氏も信じられないといった様子で俺を指差した。

 お前ぇ! 俺はサトゥ氏の胸ぐらを乱暴に掴んで揺すった。サトゥ氏。お前。最悪の場合、俺に面倒事を押し付ける気か!?

 サトゥ氏も俺の胸ぐらを掴んだ。


「その言葉そっくりそのまま返すぜ! バンシーじゃん! お前バンシーじゃん! 俺を見捨てるつもりか!?」


 黙れっ、ネカマ野郎! 見下げ果てた野郎だ! 二人揃ってキャラチェンしてどうすんだよ!? もしもニャンダムが変装に騙されるようなら二人揃って逃げたことになるじゃねーか! 通るかっ、そんなもん!

 俺とサトゥ氏は揉み合ってごろごろと地面を転がってニャンダム御殿に突入した。



 2.ニャンダムの居城-大広間


 だが、やはりニャンダムの鼻は誤魔化せなかったらしい。


【来たか】


 化け猫様は寝心地が良さそうなデカいクッションの上で丸くなっている。付き添いの野良人間をちらりと見て、高圧的に告げる。


【下がれ】


 野良人間さんたちに否やはない。ぺこりと一礼して広間を出て行った。俺とサトゥ氏を置いて。

 化け猫様がじっと俺たちを見つめる。


【近く寄れ】


 ははーっ!

 俺とサトゥ氏は従順に化け猫様に近寄った。くそっ、まただ。逆らえない。何なんだ、これは? 服従を強要する魔法なのか? だが、そんな魔法があるなら以前にポポロンと戦った時にも使っているだろう。ナウシカ事件でポポロンの動きに不自然な点はなかった。使徒には通用しないのか? 分からない。情報がまったく足りていない。

 ニャンダムは寝そべったまま嗜虐的ににゃっと口元を歪めた。


【ワシの力が気になっているようだな】


 ええ、それはもう。


【つまりお前たちは何をされているのか理解していないということだ。まぁそんなものだろうな……】


 そう言って化け猫様は長い尻尾をくねらせた。


【お前たちは運がいい。このワシに歯向かうという愚を犯さなかった。そしてそれは、あの胸くそ悪いゲストの思惑通りでもある。どれ。少し見やすくしてやろう】


 化け猫様の尻尾が残像の尾を引く。

 いや、俺たちには見えていなかっただけなのだろう。それは目には見えていなかっただけで、俺とサトゥ氏の身体を締め付けているものの正体だった。

 ……【スライドリード】だ。

 サトゥ氏が唖然として言う。


「す、【スライドリード】に心を支配する力はない……筈だ」


 すると化け猫様は残像を操ってサトゥ氏の腕を軽くひねった。抵抗することなど不可能だった。引き倒されたサトゥ氏を化け猫様の金色の瞳が射抜く。


【そうではない。お前たちが勝手にワシに屈しているのだ】


 ……全身に圧力を掛けられればそうなるか。しかし外的要因によるものと分かれば、その限りではない筈だ。

 その筈ではあるが……。くっ、命を握られているこの感覚。人間の心ってやつは、どうにも現金に出来ているらしい。俺とサトゥ氏は小動物のように怯えることしかできない。

 化け猫様はべろりと舌舐めずりした。


【ワシはお前たちに力を与えてやった。お前たちは弱すぎる。水膨れや焼け残りの力だけでは不足だろうからな】


 ポポロンとワッフルのことだろう。

 ……ョ%レ氏はプレイヤーがニャンダムと敵対することを望んでいない。だからニャンダムの固有スキルは最初から解放されていたということか。

 しかし今の口ぶり。化け猫様は俺たちの味方なのか?

 いいや、そうとも限らないようだ。化け猫様がごろんと寝返りを打って前足をゆっくりと前後する。

 呻き声を上げたサトゥ氏が片腕を押さえて苦しげにうずくまった。


「何をっ……」


 サトゥ氏の腕が変貌していく。

 化け猫様がにゃっと笑った。


【お前たちはゲストに血を流させた。ただの人間には無理だ。あれは尋常の者ではない。自分が何をやっているのか把握していないことがある。それを打ち破ったというならば、お前たちは尋常ではない力に頼ったということだ……】


 俺はダッと地を蹴って逃げ出した。しかし逃げられない。残像の尾に引き倒されて凄まじい力で引き寄せられる。

 くそがーっ! 俺は腕から伸びた触手をブン回してニャンダムに反撃した。サトゥ氏も俺に合わせる。すっかり長くなってしまった右腕を鞭のようにしならせて化け猫に襲い掛かる。


「死に晒せよやァー!」


 まぁ勝てる訳ないよねっつー。たちまち捕獲された俺とサトゥ氏は化け猫様にべろんと顔を舐め上げられた。やんっ。舌がざらざらしてるよぉ。


【ははァ。一度壊れたタガが完全に元に戻ることはない。嬉しいぞ。よもや二人ともとは、な……】


 何をされているのか分からない。

 だが、ニャンダムが何らかの操作を行っているのは明らかだった。それは俺たちにニャンダムのスキルが埋め込まれていることと無関係ではないかもしれない。

 俺たちの母体を引きずり出そうってのか?

 くそっ、化け猫め。俺たちを一体どうするつもりだ……。


【お前たちをどうにかするつもりがあるのはゲストだ。お前たちは腹に何を飼っている? ワシの縄張りに妙なものを引き寄せたな……。あれは何だ?】


 妙なもの? ニャンダムの縄張りに……。

 め、【目口】のことか?

 化け猫様が前足で俺たちを押さえつけた。俺たちの身動きを完全に封じて、鼻面を押し付けてくる。やんっ。くんかくんかしちゃらめえっ。


【ゲストはお前たちを使って何をやろうとしている。お前たちはギルドの指揮官コマンダーではないのか。試してみる価値はある……】


 指揮官コマンダー? クソ虫どもの?

 いや人違いっスよ! 俺ら人間っス! 歴としたゴミっス!

 つーか仮に指揮官だったらヤバいんじゃないスか!? ここは穏便にっ……!

 俺は首をブンブンと振って身の潔白を訴えた。

 俺は人間だぞ! 解放しろ!

 化け猫様がにゃあっと一喝した。


【黙れ小僧! ギルドを呼べ……。このワシを下らぬことに巻き込みおって……。望み通りヤツらを滅ぼしてやろうと言っておるのだ】


 ほ、滅ぼす? また随分と物騒なことを仰る……。


(このゲームは、銃の生体群の物語ネ)


 Gun's Guilds Online……。

 二つのゲームタイトル。

 本社。

 地球の動物と酷似した姿を持つモンスターたち。偶然とは思えない。

 このゲームがただのゲームじゃないというなら、強大な力を持つモンスターを生み出したのはョ%レ氏だ。

 それは、何のために?


 俺とサトゥ氏の変貌が止まらない。

 うごごごっ……!

 ぐんぐんと目線が高くなっていく。

 俺とサトゥ氏は咆哮を上げた。


 PyaaaaaaaaaAaaaaaaaaaaaaaaaaa


 だが生憎と俺たちは指揮官コマンダーでも何でもなかったらしい。


【ガラクタめがぁ!】


 化け猫様にブン殴られた俺たちは一発でKOされた。

 どんなにパワーアップしてもゴミはしょせんゴミでしかないのだ……。



 3.ニャンダム山脈-カヌー船上


 よもや嫁入りした当日に三下り半を叩き付けられるとはな……。

 ニャンダム御殿の壁を突き破って物理的に嫁ぎ先から追い出された俺は、ヘソ出し女に下界に送り返されることになった。

 なお、一時はプレーリードッグ化した俺だが目が覚めたら元に戻っていた。なんだか大事なものを化け猫様に奪われたような心持ちだ。

 カヌーを漕いでいるヘソ出し女が神妙な面持ちでバツイチになった俺を慰めてくれている。


「聞いてくれ、コタタマ。私だってお前と別れたくないんだ。でもお前はニャンダムに嫌われてしまったし、何と言っても人里で暮らすのが一番なんだ。それに、お嫁さんを貰って子供を作れ。分かったか? コタタマ」


 分からない。転生システムなんて実装してないし子供なんて作れんでしょ。

 もるるっ……。悲しげに鳴く俺に、ヘソ出し女はうんうんと頷いた。


「そうだよ。お嫁さんだ。夜になれば、きっとお前のお嫁さんになりたいっていうメスがやって来る」


 それはお前じゃいかんのか? 俺と結婚するとか言ってたじゃん。

 ヘソ出し女はさっと頬を赤らめた。


「もるぁっ。そ、それはダメだ。私は山の民だから。ニャンダムの意を汲まねばっ。もるるっ……!」


 そうか。そうだよな……。

 俺はしゅんと肩を落とした。美人な嫁さんが欲しかったぜ。

 月明かりに照らされて、俺たちを乗せるカヌーがゆっくりと川を下っていく。


「……もう少し、岸に近付いてみようか」


 化け猫様に捨てられて傷心の俺を気遣うようにヘソ出し女の声は優しい。


「どうだ? コタタマ。お前の仲間の声が聞こえるか?」


 聞こえねえなぁ。

 と、その時だった。


「もるるっ……」


 岸のほうから、俺と同じバツイチの声が……!

 俺はカヌーの先端に行って岸を見る。


「今……! コタタマ。どこに居るか分かるか?」


 ヘソ出し女と一緒に目を凝らして暗い岸を見ていると、木陰から一匹のバツイチが姿を現した。化け猫様にブン殴られてはぐれたサトゥ氏だ。

 ヘソ出し女も岸に立つサトゥ氏に気が付いたようだ。


「あっ! あそこに居るぞ! コタタマっ。あれがお前のお嫁さんだ!」


 マジかよ。化け猫様んトコ行く前に整形チケット使ったから確かに見てくれは女だが。

 岸に現れたバツイチは右に左に歩きながら「もるるっ……」と悲しげに鳴いている。

 俺も悲しかった。もるるっ……。

 俺は振り返ってヘソ出し女を見る。ヘソ出し女はどこか寂しそうに笑った。


「……いいんだ。コタタマ。行っていいんだ。お別れの時がとうとう来たんだ」


 俺は岸とヘソ出し女を交互に見る。

 ヘソ出し女は大きく頷いて見せた。


「行ってお前の幸せを掴め!」


 あまり掴めそうにはないが……。


「行け! コタタマ!」


 まぁバツイチ同士、傷の舐め合いでもするとしよう。

 俺はカヌーから降りてすいすいと岸に向かって泳ぎ始めた。後ろからヘソ出し女が声援を送ってくる。


「……そうだ。それでいいんだ。コタタマ」


 岸に泳ぎ着いた俺とサトゥ氏は擦り寄ってもるもると悲しげに鳴いた。

 カヌーが遠ざかっていく。ヘソ出し女が精いっぱいの声で叫んだ。


「さよなら、コタタマ! 達者で暮らせよ〜!」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 バツイチ名作劇場。



 GunS Guilds Online


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