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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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第四章、僕らの【勇者(ヒーロー)】

 1.エッダ海岸


 プッチョ、ムッチョと一緒に砂に埋まって暖を取っている。

 真冬の海は寒い。寒すぎる。ゲージ削れる。

 そのクソ寒いエッダ海岸に足を運んだのは、帰国する米国勢を見送るためである。

 帰ろうと思えばいつでも死に戻りできるのだろうが、こちらで何人かスカウトに成功したらしく、そいつらを連れ帰るために船で帰るという訳だ。

 ジョンは苦笑した。


「本当ならサトゥさんも連れ帰りたかったデース。けど仕方ないネ」


 サトゥ氏は行方不明だ。

 あのあと、ョ%レ氏が倒れたことで俺たちは強制的にお仕置き部屋を追い出された。サトゥ氏も一緒に追い出された筈なのだが、ヤツがどうなったのかは分からない。気付けば姿を消していた。

【敗残兵】のメンバーが捜索しているが、まぁ放っておけばいいんじゃねえのか。あの時のサトゥ氏はどう見ても正気じゃなかったけど、最悪キャラデリすれば済む話だからな。俺はまったく心配していない。

 俺は砂から這い出して、ジョンの肩にガッと腕を回した。


「達者でな」


 差し出した俺の手を、ジョンがガッと握る。


「ペタタマサン……。約束、覚えてマスカ?」


 約束? ああ、その件か。悪ぃな。覚えてねーんだよ。酔っ払ってたからな。知ったかぶった。すまん。

 俺は正直に打ち明けた。しかしジョンは首を振り、


「イエ、ペタタマサンは約束を果たしてくれマシタ。あの晩、あなたは記憶なくなること見越してたネ。だから大したことは話してないヨ。プッチョサンとムッチョサンに入れ知恵したのは私デスヨ」


 あん? おお、スキル継承のペナルティか。じゃあ約束ってのは何だ? 俺、何かしたっけ?


「ペタタマサーン。正直、私はあなたのことを利用しようとしてマシタ。あなたの近くに居れば、きっとレ氏に接触できると思ったネ。けど……」


 ジョンは俺の腕をそっとどかして、改めてぎゅっと俺の手を握った。


「私たちはダチになれました。それが約束ネ」


 そうか。そりゃまた……うん。悪くねえな。

 俺とジョンが友情を確かめ合っていると、アンドレが近付いてきた。


「君主のジョブを持って帰れないのは残念だが、私たちも暇な身ではない。あれは君たちに一時預けるとしよう」


 可愛げのねえ野郎だなぁ。

 アンドレが海を渡ったのは戦争を引き起こすためだった。英雄は戦争の中で生まれる。ョ%レ氏が提示した、英雄の名に恥じない働きを見せるという条件を強引にクリアしようとしたのだろう。

 全てはジュエルキュリと再会するためだった。しかし連れ帰ることは叶わなかった。

 どうするんだ? これから。

 俺の問いに、アンドレは悪ガキのように笑った。


「再出発するさ。レ氏は気に入らねえが、言うことはもっともだった。俺たちはもっと強くなるぞ。まずはエッダを倒す。攻略法は見えた」


 マジかよ。アンドレはョ%レ氏との戦いで何かを掴んだようだ。

 おっとネフィリアが木陰に佇んでいる。アンドレも気が付いた。

 ネフィリアは、ぴっと二本指を立てた。ベジータじゃん。それ未来に帰るトランクスを見送った時のあれだよな? 何してんの、あの人。俺は呆れた。

 しかしアンドレは苦笑し、くるりときびすを返して歩み去りつつ片手を振った。クルーにきびきびと指示を出す。


「出航だ! 帆を張れ! イカリを上げるぞ!」


 一方、国内産のゴミどもは西洋美女との別れを惜しんでいるようだった。

 もるもると悲しげに鳴くゴミどもにカレンちゃんが元気に手を振っている。


「また遊びに来るからね! みんな、ありがとう!」


 晴れやかな表情だ。ジュエルキュリの心の中には自分たちが居る。それだけのことが、カレンちゃんにとっては大きな収穫だったのだろう。

 アメリカ勢が積み荷を終えて徐々に黒船に乗り込んでいく。

 最後まで砂浜に残ったジョンが振り返った。


「日本サーバーの皆サンに伝えておきたいことがありマース!」


 それはジョンなりの感謝の気持ちだったのだろう。


「このゲームのタイトルについて。レ氏は言葉遊びと言いマシタ」


 ああ、なんか聞いたことあるな。


合衆国ステイツではたまにあるトリックですヨ。だから分かったネ」


 トリック?


「点が隠れてるのデス。GunS じゃない。Gun'sネ。だからS。大文字なのデス。それは点を隠すため。言葉遊びヨ」


 うん? それはつまり……。


「このゲームの正しい名称は……」


 GunS Guilds Onlineではない。

 Gun's Guilds Onlineなのだとジョンは言った。


「銃たちと【ギルド】たちの物語ではありマセン。Guildは生体群という意味ネ。レ氏は、最初から隠す気なんてないのデス」


 俺の脳裏をョ%レ氏の言葉が過った。


(同じ武器、似たような編成ではあれには勝てない)


 ジョンが言う。


「このゲームは、銃の生体群の物語ネ。この星に居る【ギルド】はGuildsとは呼ばれマセン。Guild。つまり単体形なのデス。ほんの一部。一つの兵科に過ぎないネ。指揮官も砲兵も戦車も戦闘機もここには居ない。彼らは歩兵なのデス」


 クソ虫どもはまったく本気を出していないということだ。

 とても嫌なことを聞いたぜ。

 だが、世の中悪いことばかりじゃない。

 さくさくと砂浜を歩いてくる一人の人影にジョンがハッとした。


「ま、マスター……!」


 姿を現したのは居酒屋【火の車】のマスターだった。

 ダルそうに歩いてきてホイと薄い給料袋をジョンに差し出す。


「バイト代だ」


 ジョンはドッと涙を流した。マスターの手をぎゅっと握って頭を下げる。それはとても美しいお辞儀だった。


「クソありがとうございマシタ!」


 こうして米国勢は去って行った。

 いつかまた会えるだろう。その日まで、いったんサヨナラだ。



 2.クランハウス-居間


 見送りが終わったので、俺は丸太小屋に戻って経験値稼ぎに精を出す。

 ジョンたちに負けてられねえからな。まずはレベル3を目指す。

 藁人形を編んでいると、リチェットが飛び込んで来た。


「サトゥが見つからない……!」


 サトゥ氏め。居なければ居ないで俺の邪魔をするのか。本当にどうしようもねえクズ野郎だ。

 俺は、床に這いつくばっておいおいと号泣しているリチェットの肩をガッと掴んだ。

 ヤツのことなら放っておいてやれよ。な? アイツはいつもクランのことを第一に考えてきた。たまには羽を伸ばすのもいいさ。

 内心でこうも考える。見つからないだと? あの馬鹿デカい図体で身を潜めるのは無理だ。ヤツめ。スキルを奪われるのを警戒して種族人間に偽装したな……。

 俺は歯列をギラつかせてリチェットに迫る。

 なあ、いいじゃねえか。放っとこうぜ。サトゥ氏もそれを望んでる。イヤ……ヤツは三次職を飛び越して最高位のジョブを手に入れたんだ。これがヤツの幸せなんだよ。だったら俺たちはそれを見守ってやろうや。な?

 リチェットが俺の手を振り払った。


「お、オマエが記憶を失った時、サトゥはオマエのためにがんばったんだぞ! ふ、フレンドリストからサトゥの名前が消えてる! 私は心配で心配でっ……!」


 記憶を? ああ、そんなこともあったな。

 フレンドリストから消えてるのは君主の【戒律】だな。王は一人ってやつだろう。俺のフレンドリストからもサトゥ氏は抹消されている。あるいは既にキャラデリを実行に移したか。どちらかだろうな。

 けど、いずれにせよ二度と会えないって訳じゃあるまいし。果報は寝て待てって言うぜ?

 リチェットがぽかぽかと俺を叩いてくる。やめろよ。何だってんだよ。


「頭おかしい! 頭おかしい! そんなだからオマエは女に刺されるんだっ。オマエに人の心はないのかっ」


 ああ、もう。分ーった。分ーったよ。サトゥ氏を捕まえればいいんだろ? 仕方ねえなぁ……。


「えっ」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするリチェットに、俺は命じた。


「セブンを拘束しろ。サトゥ氏捜索の指揮を執ってるのはヤツだろ? だから捕まらない。ヤツはサトゥ氏と通じてる」


 俺はサトゥ氏の捕獲に協力することにした。



 3.マールマール鉱山-【敗残兵】前線基地-会議室


 簀巻きにされて床に転がされているセブンが、俺を睨み付けてくる。


「崖っぷち……! 何のつもりだ!」


 俺はドカッとセブンの上に腰掛けた。

 どうもこうもねえよ。セブン。お前はバカじゃねえ。サトゥ氏を捕まえるなんて簡単だろうがよ。どうして手抜きをした? それはな、お前が本気でサトゥ氏を捕まえようとしてねえからだよ。

 セブンがサトゥ氏に寄せる忠誠は昆虫めいている。アリが女王アリに尽くすあれだ。情や利害関係を越えている。それゆえにこの男はブレない。いかなる時もサトゥ氏に尽くす。厄介な男だ。コイツに指揮権を委ねている内はサトゥ氏は決して捕まらない。

 そして、それはお前らもだ。俺は【敗残兵】のメンバーを睨め付けた。君主のジョブに目が眩んだな。遣り口が手ぬるい。

 宰相ちゃんが物申してきた。


「だ、だったらお前ならどうするって言うんですか?」


 メガロッパ。お前、早いトコ実権を握れよ。分かってるんだろ? サトゥ氏はレ氏じゃねえんだ。逃げ切れやしねえよ。

 リチェット。情報を流せ。掲示板でも何でもいい。君主のクラスチェンジ条件は、君主の殺害だ。誰も救えない……おそらくは強制的にクラスチェンジが実行に移される。

 かつて先生もョ%レ氏を倒したが、先生は【賢者】だ。その手の強制は先生には通用しない。しかしこれは言う必要のないこと……。先生は君主のクラスチェンジ条件を満たしている可能性がある。

 俺は矢継ぎ早に命じた。

 周知徹底しろ。サトゥ氏が潜伏しているのはレベル上げができる狩り場だ。間違いない。セブンのような、一部の例外を除いて他のプレイヤーと遭遇したなら問答無用で襲い掛かってくるだろう。【戒律】の強制執行、逆臣の処刑ってやつだよ。君主はそういうジョブなんだ。生け捕りは諦めろ。


「し、しかしそれでは君主が渡っていくだけでは……」


 それでいいんだ。サトゥ氏を上回るプレイヤーは国内には居ない。確実に弱体化する。まずはサトゥ氏だ。イベント、王位の簒奪。君主のジョブを餌にゴミどもを釣れ。きっと殺到するぞ。楽しいことになる。

 さあ、サトゥ氏。どこまで逃げ切れる? いよいよとなったらお前は当然本性を現してくれるんだよな? くくくっ……。直感のアビリティか。悪くねえな。悪くねえ。

 プレイヤーの未来を考えるなら、サトゥ氏はここで死ぬべきだ。たったそれだけのことで、国内サーバーのプレイヤーの質は一段か二段、確実に跳ね上がる。

 未来は明るいぜ。サトゥ氏。お前という天才が居たことを俺は決して忘れない。お前は俺たちの中で永遠に生き続けるんだ。

 しかし、そのために俺は友人を切らねばならない。俺は寂しそうに微笑した。


「くくくくくっ……ふははははははははははははは!」



 4.捕獲成功


 簀巻きにされて床に転がされたサトゥ氏が悲しげに鳴く。


「もるるっ……」


 俺は忸怩たる思いだ。きさま……サトゥ氏。おめおめと生き恥を晒しおって……。

 俺はサトゥ氏の前髪をガッと掴んで引っ張った。

 なあ、おい。どうしてお前はここに居るんだ? どうしてベストを尽くそうとしない? ガッカリだぜ。サトゥ氏。お前は誰よりも国内サーバーのために働ける男だと思っていた……。だが、それは俺の思い違いだったらしいな。

 これが最後の忠告だ。サトゥ氏。本性を現せ。お前の本気を見せてみろ。そんなチャチな縛めでお前を止めることはできない。そうだろ?

 サトゥ氏はぺっと唾を吐いた。俺の頬にぺちゃりと当たる。

 ほう……。上等じゃねえか。これがお前の返事か。なるほどな。死んでもアビリティを明け渡す気はねえってことか。上等だよ。俺も是が非にでもって訳じゃねえんだ。俺は鍛冶屋だからな。今はウィザードだが。

 いずれにせよ、サトゥ氏。お前が出し惜しみしてる内は俺が手出ししないと思ってるなら、そいつは大きな間違いだぜ。

 俺はネカマ六人衆を呼び出してサトゥ氏の首を刎ねるよう命じた。


「えっ。でも、それだと俺らが君主になるんじゃない?」


 それでいいんだ。強制執行はしょせん本人のポテンシャルを越えるものじゃない。サトゥ氏に君主という組み合わせはマズいんだ。コイツは危険な男だ。頭も回る。放っておけば確実に逃げられるだろう。

 だからお前らが。俺は六人衆を順に指差した。……君主を引き継ぎ、ローテーションするんだ。そうすれば悪巧みしたとしても実行に移す前に潰せる。フレンドリストは破棄されることになるが……。お前らは人類の新たな夜明けになるんだ。

 俺は表情を隠して内心で最後に付け加えた。モルモットとしてな……。

 ネカマ六人衆は快諾してくれた。ふっ、無能もたまには役に立つ。


 かくして、君主のジョブは無能の奥深くに封印されることになった。

 職を剥奪されたサトゥ氏に、リチェットがガッと抱きつく。


「ばかっ……! 心配したぞっ」


「うん。ゴメン」


 サトゥ氏がリチェットの頭を撫でる。

 俺もガッと抱きつく。

 ばかっ……! 心配したぞっ。


「うん」


 サトゥ氏は歯列をギラつかせた。俺もギラつかせた。



 5.後日談


 サトゥ氏は俺たちの元に戻ってきた。

 だが、君主のジョブは歴史の闇に葬られることになる。


 ネカマ六人衆が何者かに暗殺されたのだ。


 サトゥ氏を始めとするクラン【敗残兵】は総力を以って実行犯を追跡したが、捕まえることはできなかった。

 やったのは廃人だろう。【敗残兵】の警護を掻い潜るほどの手練れだ。

 廃人にも事情はある。どれほど才気に溢れていようとも、βテストに参加できなかった廃人が居ても不思議ではない。もしくは、このゲームにハマった人物がリアルを捨てることだってあるだろう。


 この日、国内サーバーのどこかで怪物が産声を上げた……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 僅か一日で元サヤ。

 


 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
コタタマにこの手のことを任せると最速で結果を出す。有用な男だ。根フィリアが目をか ける理由もわかる。
[一言] なんか既視感あると思ったらにわとこの杖争奪戦だった
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