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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
155/978

第三章。ョ%レ氏の逆襲、完結

 1.???


 ョ%レ氏が大きなダメージを負っていることは明らかだった。返り血すら浴びることなく真っ白だったカッターシャツは今や自らの血で汚れ、第二ボタンまで外れて厚い胸板が覗いている。足取りはしっかりとしているが、呼吸は浅く早い。多分あばら骨が二本か三本折れている。世界最強のプレイヤー、ジョンが最後に見せた意地によるものだ。

 俺はョ%レ氏が嫌いだが、こうも思っている。

 赤カブトには父親が必要なのかもしれない。父親の厳しくも優しい眼差しが。俺は赤カブトを甘やかすことしかできない。それは母性だ。もちろんウチには羊パパが居る。しかし不十分かもしれない。順調に頭がおかしくなっている赤カブトさんを見ていると、その疑いを捨て去ることは困難だった。

 それらを踏まえた上で包み隠さず言えば、ョ%レ氏と戦うのはもう飽きた。この辺でいつものゆるい日常に戻りたい。

 だが悲しいかな、俺の気持ちを置き去りに事態は最高潮を迎えているようだ。

 例えばネフィリアである。闇の軍勢を率いる女が、過去の悪行を棚に上げてョ%レ氏を弾劾している。


「レ氏。あなたは……何なんだ? 何がしたいんだ? こうして一部のプレイヤーにちょっかいを出して、情報を垂れ流す。それが、あなたの言う公平性とやらなのか? 笑わせるなっ」


 ョ%レ氏は消耗している。おそらくは君主というジョブは回復魔法の恩恵を受けることができないのだろう。あるいはブースターの生成に伴う呪詛によるものなのか。右腕が使い物にならないというのは本当のようだ。紫色に変色した右手は今にも腐り落ちそうだった。もしも簡単に治せるなら、それは代償としてはあまりにも安い。


「答えよう……。ネフィリア。君の言う段階はとうに終えている。終わったのだ。αテストとβテスト。私は二度に渡り試験を実施した。それは負荷テストではない。本来……このョ%レ氏に試験などというものは必要ないのだ。予測と実測が異なるのは数学的な未熟によるものであり、この私のテクノロジーは諸君らのそれを大きく凌駕している……」


 ョ%レ氏が何か言っている。


「大切なのは、結果を出すことだ。私は二つの段階を経て、最終結論を出そうとしている。ネフィリア……。君たちがαテスターを上回ろうとするなら、私の干渉は不可欠だ。それくらいのワガママは許せ」


 何か重要なことを言っているような気がするが、俺は刃物を抜いた赤カブトさんの動向が気になって仕方ない。

 ちょこちょこと俺の周りを行き来している赤カブトが、ちらっと抜き身の剣を俺を見せた。俺と目が合うと、すぐに恥ずかしそうに剣を引っ込める。

 ……?

 分からない。俺はどう反応すればいいのか。何が正解なんだろう。何も分からない。人間関係とは、まるでブラックホールだ。光すら呑み込んで永遠に閉じ込めてしまいそう。

 しかし俺が刺されるよりも早く、赤カブトの姉君が反応した。ぴょんと大きく飛び跳ねた銀髪褐色ロリが赤カブトの手をがしっと掴む。


「ジャムジェムっ。あんた何してんの……。ョ%レ氏に逆らうつもりなの!?」


「え。ョ%レ氏に? いえ、ョ%レ氏は別に……」


 見目ロリたらしいお姉様は、日本サーバーに派遣された妹がョ%レ氏に刃を向けるつもりであると誤解したらしい。しかし正しい見解ではあった。まともな判断力の持ち主であれば、劇的な復活を遂げた俺に興奮して刺し殺そうとしているなどとは夢にも思わないだろう。俺のパソコンに入っているWindosですらもっと穏便で、よほど理性的だ。

 俺の手を、アットムがぎゅっと握る。ああ、分かってる。俺たちは先生とネフィリアの足枷にしかならない。このゲームの魔法職は、周りに居る味方を巻き添えにする形でしか魔法を撃てないのだ。ブースターを破壊した際には互いに【全身強打】を打ち消し合って光の輪に指向性を与えたようだが、あれはョ%レ氏には通用しないだろう。簡単に避けられる。アビリティが切れた今、同じことをやれるかどうかすら怪しい。

 俺は鍛冶屋で、アットムはヒーラーだ。共に鈍足で、ョ%レ氏を追う足はない。先生とネフィリアの盾になるべく前に出るしか道はない。そしてョ%レ氏の魔法の餌食になるだろう。それでいい。

 勝機はある。ョ%レ氏は、二国のトッププレイヤーを同時に相手取り相当な無茶をした。攻撃魔法で牽制し、各個撃破するという戦法を選んだ。しかし、もっと安全に勝つ方法は幾らでもあった筈だ。そうしなかったのは、おそらくマナの枯渇を危惧したからだ。

 度重なる魔法の行使と【スライドリード(速い)】の連続使用。

 君主というジョブの強みは、何でもできることだ。

 もしもョ%レ氏の魔力が底をつき、攻撃魔法という手札を失ったなら。

 先生とネフィリアは。この二人なら、きっとョ%レ氏に勝てる。

 俺はアットムの手を強く握り返した。

 ョ%レ氏が立ち止まる。おそらくは攻撃魔法の射程圏内に俺たちを収めた。すっと片手を上げ、俺をぴたりと指差す。口元を歪めて皮肉げに笑った。


「ペタタマ。君は驚くほど自分自身の死に対して無頓着なのだな。だから見誤る」


 あ? と思った時には遅かった。どん、と。俺は後ろから突き飛ばされてつんのめった。何を……。ネフィリアが笑ったような気がした。困ったように「ばかものめ」と呟く声が聴こえた気がした。

 俺は振り返る。アットムも。杖が二本、床に転がっていた。これは、ネフィリアと、先生の。

 二つの血溜まりができている。マールマールの、超重力。現状で唯一知られる、蘇生魔法への対抗手段……。

 暴れる赤カブトをジュエルキュリが抑え込んでいる。

 簡単な引き算だった。

 ネフィリアが俺を。先生がアットムを。後ろから突き飛ばして、俺たちを庇った。

 ……なんでだよ。馬鹿じゃねえのか? 死んだところで何になる。死に戻りすれば済む話じゃねえか。ゲームだろ。どうしてわざわざ勝率が下がるような真似をした?

 ョ%レ氏の言うことが正しいってのか。俺にどうしろってんだ。俺は鍛冶屋だぞ。

 ハッキリと言えるのは、先生とネフィリアは俺とアットムを買い被っていたということだ。

 こうしようと決めていたことを急に反故にされて、すぐに立ち直れるほど俺たちは賢くない。

 気付けば目の前にョ%レ氏が立っていて、手刀を振り上げていた。俺はアットムを押し倒した。しかしョ%レ氏は俺の行動を予測していたらしく、手の角度を少し変えた。床に転がった俺たちをまとめて串刺しにするつもりのようだ。ああ、しまったな。俺はぼんやりと思った。ョ%レ氏のマナはマジで枯渇し掛けているらしい。アットム一人なら勝ち目もあったのに。俺が足を引っ張っちまった。

 アットム。すまん。俺が目で詫びると、アットムはぎゅっと俺に抱きついてきた。


「いいんだ」


 なんだかアットムくんにメインヒロインの風格が備わりつつある。これでいいのだろうか。俺は宇宙に思いを馳せた。夜空に浮かぶお月様。星々のきらめき。流れ星。超新星。終わりと始まり。俺はハッとした。何か閃いたような気がしたが、気の所為だったかもしれない。轟音に押しやられて遠ざかって行ってしまう。待ってくれ。もう少しなんだ。もう少しで、俺は……。

 いや轟音? これ何の音? つーかモノローグ長くない? ョ%レ氏は何を……。俺は首をねじってギョッとした。

 う、嘘だろ。この触手は。セクハラ神様? 敬虔な信徒たる俺の窮地に、ついにセクハラ神様が駆け付けてくれた……訳ではないようだ。


【ペタタマぁ!】

【無事か!?】


 プッチョとムッチョであった。

 俺はガッカリした。なんだ、バカ二人かよ。俺のときめきを返せよ。



 2.兄と弟


 バカ二人がデカい図体を晒して飛び降りてきたので、ョ%レ氏は緊急避難したようだ。


「君たちには留守を命じた筈だが。緊急事態か?」


 その声は平静そのものだ。責めるふうでもない。雇用主が使えない部下に向ける冷ややかなものだった。

 一方、プッチョとムッチョの声は溢れんばかりに私情まみれだ。


【兄貴ぃ! どうしてだよ!?】

【ペタタマは俺らのダチなんだよ! ダチが出来るのはいいことだって、言ってくれたじゃねえか!】


「言ったとも。友人を得るのは良いことだ。違うのか?」


 プッチョとムッチョはバカである。気持ちいいくらいバカなので、運営側でありながら特定のプレイヤーを贔屓する。


【み、見逃してやってくれよ! な!?】

【そ、そうだ。ペタタマとは気が合うんだよ! 一緒にメシ行って酒飲んだりしてるんだぜ! へへへ……】


 気持ち悪い照れ笑いを浮かべる二人に、ョ%レ氏は意外なというような顔をする。ふ、と穏やかな顔つきで微笑み、「そうか」と一つ頷いた。両手を上げようとして、片腕が動かないことに今初めて気が付いたような仕草をした。


「ああ、これでは届かないな。二人とも大きくなったな」


 そう呟いたョ%レ氏が、瞬く間に本性を露わにする。アナウンスは流れない。レイド戦の条件を満たしていないからだろう。

 タコの化け物と化したョ%レ氏は、ピンク色の瞳で二人の弟をじっと見つめる。この暫定エイリアンは、感情によって瞳の色が変わる。ピンク色の瞳がどのような感情の表れなのかは分からないが、良い意味であるらしい。プッチョムッチョが喜色に弾んだ声を上げる。


【兄貴ぃ!】


 しかし俺は知っている。俺たち人間ですら感情をある程度コントロールすることは可能だ。激情ともなれば難しいが。ョ%レ氏なら鼻歌交じりにこなすだろう。

 や、やめろ……。

 俺の声は届かない。デカすぎる。不吉すぎる未来図が自然と脳裏に浮かんだから、そうでなければ良いのにという思いもあった。プッチョとムッチョは気のいいバカだから、報われてもいい筈だという思いもあった。二人が実の兄に冷遇されていることは知っていたが、それでもョ%レ氏について話す二人の口ぶりには憧れや尊敬が混じっていた。

 ョ%レ氏がタコ足をうにょると伸ばして、出来の悪い双子の頭をそっと撫でた。優しい手つきだった。

 俺は限界だった。そんな優しい未来はあり得ないのだと全身の細胞が叫んでいた。


「やめろーっ!」


 ョ%レ氏の瞳がさっと色を変える。真っ赤に染まったそれは、まざまざとした悪意を孕んでいた。

 ョ%レ氏がタコ足に力を込める。プッチョムッチョの頭を床に叩きつけ、一片の感情すら宿らない声で呟いた。


【愚弟……】


 真っ青な血が辺り一面に降り注ぐ。俺のダチの身体が破裂した。その巨体を内側から食い破った結晶のようなものが屹立する。クラフト技能だ。

 最悪の結末だった。

 ぷ、プッチョ。ムッチョ……。

 二人のタコ足が力なく這い回っている。

 プッチョ。ムッチョ。

 タコ足の先端が、そっと俺の指先に絡んだ。

 プッチョ。

 ムッチョ。

 俺の声にぴくりと反応したタコ足が、何故か俺に攻撃してきた。ひどく弱々しい。

 そよ風が俺の指を撫でる。俺の指が凍った。何しやがる。

 微弱な電流が俺の指を流れる。俺の指が燃えた。何しやがる。


【ペタタマぁ……】

【すまねぇ……。兄貴を……】


 二人のタコ足が力尽きてぱたりと倒れた。何がしたかったんだ。

 いや、俺は分かっていた。ただ、認めたくなかった。それはあんまりだろうと思った。そんなことがあっていいのかと思った。

 あまりにも弱々しすぎる。実の兄弟だろう。こうまで違うのか? こうまで……。落ち零れってそういうことなのかよ……?

 だが、俺は託されたのだ。


 アナウンスが走る。


【GunS Guilds Online】


【条件を満たしました】

【新たな魔法が解放されます】


【プッチョ】

【ムッチョ】


【GumS Gems Online】【Loading……】

【新たな魔法が解放されました!】


【風速零下を習得!】

【迅速発破を習得!】


 プッチョ。ムッチョ……。


(フフ……! 居た居た……!)

(すまんな。アイツは動物好きなんだ)


【条件を満たしました】

【イベント】【森羅万象の理】【Clear!】

【Class Change!】

【ペタタマ さんがウィザードにクラスチェンジしました!】


 俺は床に転がっている杖を両手に引っ掴んだ。ネフィリアの杖と先生の杖だ。二人が残してくれた最後の切り札。

 ョ%レ氏が縮んでいく。何事もなかったかのように口を開いて言葉を発した。


「続きだ」


 俺は前に出る。アットムが俺の横に並ぶ。

 ョ%レ氏も前に出る。徐々に距離が詰まっていく。

 なあ、レ氏。実の弟だろうがよ。どうして殺した。


「罰を与えた。幾分、手ぬるいがね。何しろゲームだ。リアルに影響はない」


 俺は言ったよな? 肉親を手に掛けるようなヤツは信用できねえ。


「信用されたいとは思わない」


 アイツらは、自分のことを落ち零れだと言ったぜ。


「事実だ。才能に恵まれず。努力を怠った。どうしようもない」


 そうかい。だがよ、あんたならどうにかしてやれたんじゃねえか? それが兄貴ってもんだろ。


「そのような義理はない。私は才能に恵まれ、研鑽を怠らなかった。彼らは私には必要のない者たちだった。それだけだ」


 いいや、あんたは頭が回る。肉親の情は利用できると考える。使えるなら使ったさ。だが、そうしなかった。

 もしも運命なんてものがあるとしたら、あんたの弟が弱っちいスキルを持って生まれたのは偶然かな? どう思う?


「試してみればいい」


 俺は立ち止まった。ョ%レ氏も立ち止まる。


 ョ%レ氏が魔石を取り出した。俺は杖を突き出した。凍る風。プッチョのスキルだ。下らねえスキルだ。人間一人、満足に殺せやしねえ。だが速い。マナの消費が極めて少ない。ョ%レ氏がクラフトを終えるよりも早く魔石に絡みつき、氷に閉ざした。

 プッチョのスキル。風速零下は魔石殺しのスキルだ。

 ョ%レ氏の創造魔法は万能かつ極めて強力なスキルだが、発動に魔石を要する。手順を踏まなければならない。それが唯一にして絶対の欠点だ。

 舌打ちしたョ%レ氏が【スライドリード(速い)】を発動した。俺は目を使った。時計回りに迫ってくるョ%レ氏に杖を突き出し、細い電撃を飛ばす。燃える雷。小規模な爆発にョ%レ氏が退く。大した時間稼ぎにはならない。しかし十分だ。アットムが腰を落とし、拳を構える。ョ%レ氏が時計回りに接近を試みたのは、俺の左隣に立つアットムを警戒してのことだ。

 俺は笑えてきた。迅速発破。ムッチョのスキルだ。これまた使い物にならねえ。分厚い毛皮を持つ魔物なら無視して突っ込んでくるだろう。囮くらいにはなれるかもしれない。遠隔猫だましだ。しかし速い。

 ムッチョのスキル。迅速発破は仲間を生かすためのスキルだ。

 プッチョとムッチョ。風速零下と迅速発破は二つで一つ。仲間を生かし、魔石を封じる。これらのスキルはョ%レ氏が最も嫌がる、創造魔法の天敵という位置付けにある魔法だ。

 プッチョとムッチョは、自分たちのことを落ち零れだと言って笑った。それは単なる強がりかもしれない。おどけて見せて自分たちを守ろうとしたのかもしれない。それでも。

 俺は言った。


「自分自身のスキルだぞ。気付かない訳ねえだろ。レ氏。アイツらは、あんたの邪魔になるのが嫌だったんじゃねえのか」


 ョ%レ氏は笑った。


「弱いスキルなどというものはないのだ。そういうものだからな」


 知るかよ。死ね。俺のダチをよくも。

 今のョ%レ氏は怖くない。俺とアットムは同時に駆け出した。ョ%レ氏も応じて前に出る。互いに遠距離戦は決め手に欠ける。ョ%レ氏は手負いだ。アットムなら勝てる。

 だがジュエルキュリが邪魔をした。俺とョ%レ氏の間に割り込んで両手を広げる。


「だ、ダメだ!」


 俺とョ%レ氏は同時に吠えた。


「どけ!」


 ジュエルキュリが首をぶんぶんと横に振る。


「ど、どかない! ョ%レ氏……!」


 ジュエルキュリがョ%レ氏の説得を試みる。


「生産職の、レベル2のプレイヤーに! あんたが負けるなんてことは、あっちゃならない!」


 ョ%レ氏は譲らない。


「手出しは無用と言ったぞ。ジュエルキュリ。私は勝つ」


「無理だろ! じ、ジョンに食らったダメージがデカすぎるっ。あんた放っといても死ぬぞ! そ、そうだよ。あんたは負けた訳じゃない。ジョンは……最強の男だ。合衆国ステイツと日本のトッププレイヤーを集めて勝つなんて無茶だっ……! 人間の身体はそんなふうに出来てないっ」


「私はプレイヤーの最高到達点だ。どのようなイレギュラーがあろうと関係ない」

 

「だったら変身しろよ! そうすれば一発だろ!」


「面白い冗談だ。ジュエルキュリ……。このョ%レ氏に、ヒューマンに本性を晒せというのか。追い詰められたから? このままでは負けそうだから? チェスで挑んでおきながら持ち駒を使えと? それこそ愚の骨頂だ。このョ%レ氏に……!」


 激情を露わに詰め寄ろうとしたョ%レ氏が、不意にアットムを見つめる。ゆっくりと首を振り、俺を。そして俺が両手に持つ杖をじっと見る。

 ョ%レ氏は、どっと疲れたように肩を落とした。


「……負けた? この私がか? ヒューマンごときに」


 赤カブトがフリーだ。俺はころりと床を転がって赤カブトさんの攻撃を躱した。すかさずアットムくんが赤カブトさんを羽交い締めにする。


「ジャムっ。こらっ」


「は、離してっ。アットムくん! 私、もう……!」


 俺はョ%レ氏を指差して勝利宣言した。


「俺たちの勝ちだ! ざまぁー!」


 だがザマァしてる場合ではなかった。

 ダッと地を蹴ったサトゥ氏がガッとョ%レ氏に体当たりした。腰だめに構えた剣がずっぷりとョ%レ氏の腹に刺さっている。

 殺害現場を目の当たりにしたジュエルキュリが悲鳴を上げた。


「あー!?」


 これには俺もびっくり。さ、サトゥ氏。お前……。生きて、いたのか。

 死んだふりなんて生易しいもんじゃない。擬死だ。どう見てもサトゥ氏は死んでいた。

 いや違う? 俺はサトゥ氏の生死を積極的に確認しようとしなかった……? 思い返してみれば、そんな気がする。

 もしかしてアビリティなのか? 誰の……。そこまで考えて、俺はハッとした。

 昆虫の擬死に似たアビリティ。それを他者に適用する、狂った思想。

 俺は、セミの抜け殻みたいに地面に転がっているセブンの死骸を見た。

 死によって、より強まる念……!

 いや念能力ではないが。まぁ似たようなものだろう。


 ョ%レ氏が首をねじってサトゥ氏を見る。


「……遅かったじゃないか。サトゥ」


 サトゥ氏はニコッと笑った。……ハイポーションを打ったな。首筋が内出血している。


「ふふふふ。はははははは……」


 サトゥ氏はョ%レ氏を蹴り倒して、腹から剣を引き抜いた。ジュエルキュリが止める間もなく、流れるような手さばきでョ%レ氏の首を刎ねる。

 勝った。

 サトゥ氏は小躍りした。


「あはは。ふふふ。あは、あは……」


 怖いわこの子。テンションがおかしい。俺はサトゥ氏から距離を取った。


【誰も救えない】


 おっと不穏なアナウンスが。

 どこからともなく差し込んだ光がサトゥ氏を照らす。赤い光だ。血のように赤い。

 先生の言葉が俺の脳裏を過る。


(誰も救えない。まさしく呪いと言うに相応しい)


 アナウンスは続く。


【条件を満たしました】

【イベント】【王位の簒奪】【Clear!】

【Class Change!】

【サトゥ さんが君主にクラスチェンジしました!】

 

 俺は叫んだ。


「マズい! サトゥ氏をっ、殺せぇっ!」


 アナウンスが押し寄せる。くそっ、邪魔だ! 目の前が見えねえ……!


【警告】

【強制執行】

【逆臣の処刑】

【消えゆく定め、命の灯火……】

【誰も救えない】

【王は一人】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:君主の殺害】

【制限時間:00.00】

【目標……】


【君主】【サトゥ】【Level-24】


 サトゥ氏が嬌声を上げる。


「アッー!」


 光の輪が放たれる。

 アットムが俺を突き飛ばした。アットム……!

 俺に覆い被さったアットムがニコリと笑う。


「コタタマ。無事だね。良かった」


 アットムの全身が弾け飛んだ。

 アットム……! くそっ。俺の身代わりに……。

 嘆いてる場合じゃない。くそっ、くそっ。サトゥ氏ぃーっ!

 俺は奇声を上げてサトゥ氏に殴り掛かった。そして返り討ちにされた。俺の首がころりと床に転がる。ふわ〜っと俺の霊体が天に召されていく。

 サトゥ氏は、ジョンの死体をじっと見つめている。へらっと笑った。


「なるほど。こうやるのかぁ」


 サトゥ氏の肉体が変貌していく。

 右腕がぎゅんの伸びて左腕がきゅっと縮まった。


「お? お? 結構難しいな……」


 しかしすぐにコツを掴んだようだ。これだから天才は始末が悪い。


「あはははははははははははは……」


 狂ったように笑いながらどんどんデカくなっていく。歪に膨れ上がった肉体が徐々にシャープな輪郭を描いていく。

 そして、こちらが完成したサトゥ氏です。


【GunS Guilds Online】【Loading……】


【警告!】

【レイド級???出現!】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:レイド級???の討伐】

【制限時間:00.00】

【目標……】


【君主】【サトゥ】【Level-1024】


 サトゥ氏の成れの果てを、赤カブトと銀髪褐色ロリが呆然と見上げる。

 天井を突き破った【刺しビン】が咆哮を上げた。


 Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa


 背中にブッ刺さっているビンがぎらりと輝く。空のビンではない。

 内容物の赤い液体が、ちゃぽんと揺れた……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 終わらない悪夢。



 GunS Guilds Online


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サトゥくんはさぁ...
[一言] やだ血尿?
[気になる点] 黄金色じゃないのか
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