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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
138/978

GunS Guilds Online……

 1.チュートリアル空間


 俺たちの知らない何か大きな力が働いている。まるで坂道を転がり落ちて行くかのようだ。


 トゥルーサトゥ氏を召喚したバカ二人が笑っている。


「はははは! 俺らの勝ちだ! お前らじゃその化けモンにゃ勝てねえよ! ざまぁーねえな!」


 しかし二人の表情は強張っている。余裕がない。追い詰められている。慢性的な不安に苛まれている時、人間はああいう顔をする。

 俺のミスだ。宇宙人にも個人差はある。そんな当たり前のことを俺は分かってやれなかった。プッチョとムッチョがョ%レ氏について話す口振りは、単なる雇い主に対するそれじゃなかった。

 俺は怖かったんだ。人の闇を恐れた。人間関係のゴタゴタをせめて地球圏内に留めておきたいという思いがどこかにあった。

 しかし黙って殺されてやるつもりはない。先日、山岳都市に出現した【目口】に俺がお帰り願ったように、サトゥ氏ならば……!


「あれ本当に俺かなぁ?」


 おっと? 何やら悪足掻きを始めたぞ。いいねぇ。他人の悪足掻きほど見てて愉快なモンもそうそうねえぜ。


「なんかロボっぽいけど、まぁそれは分かるよ。やっぱり俺はクランが大事だし、時には非情な決断を下さなくちゃいけないから。そういう目で見られるのは分かる。けど、全体的なフォルムがさぁ……」


 サトゥ氏はトゥルーサトゥ氏のビジュアルに不満があるようだ。


「なんつーか、俺の真の姿だっていうなら、もうちょっとネリーブレン寄りじゃないかなぁ?」


 ほう。渋いトコを突いてきたな。ネリーブレン。ブレンパワードか。つまり優しい子だと、そう言いたい訳だな。だが悲しいかな、見た目は明らかにバロンズゥ寄りだ。どっちかと言えばな。

 ……プレイヤーの母体。あの部屋で眠っているモノはプレイヤーの写し鏡みたいなものなんだろう。俺はダイの大冒険のポップみたいに物語を通して成長していくタイプだから、未だプレーリードッグとしては未成熟なビジュアルだったと考えれば辻褄が合う。

 一方、サトゥ氏のオリジナルはこれでもかと言うくらい特徴を盛りに盛られ、もはや五面ボスの貫禄を湛えている。二面、三面のギミックを仕込まれた変わり種じゃない。力押しで来るタイプの幹部クラスだ。左右対称シンメトリーを大きく崩した異形に、救い難い闇を感じる。しかし目を引くのは、やはり背中にブッ刺さっている空のビンだろう。さしずめ……【刺しビン】といったところか。

 まぁそういう訳だ、サトゥ氏。残念ながらスパロボ大戦にお前の席はねえよ。グロテスク過ぎる。

 

「でも【目口】さんっ」


 誰が【目口】だ。

 なあ、【刺しビン】さんよ。いい加減に観念しちゃあどうだい? 認めっちまえよ。そしたら楽になれるぜ?


「くそっ、リバイバルさえ……。Bプレートさえあれば……!」


 諦めろ! Bプレートは観念だ。それに縋ろうとするのは宗教と同じさ。神サマに縋るのは実際に見つかってからでいい。なぁに、許してくれるさぁ。お優しい神サマなんだから。それが賢い生き方ってもんだろ?


「何かを信じちゃいけないのかよ!? それをお前は宗教って言葉で人の感情をコントロールしてっ。支配した気でいる! そんな単純なものであるわきゃないのに! 貴様!……お前は! ネフィリア程度の女にそそのかされて……!」


 何をっ。このっ……!

 揉み合う俺とサトゥ氏にセブンが割って入る。


「おい、目クソ鼻クソ。じゃれ合うのは後にしろ。来るぞっ……!」


 うるせえ! どうせお前も一皮剥けば似たようなモンなんだよ! 耳クソめ!

 まぁ言い争ってる場合じゃないのは確かだ。【刺しビン】の巨体が迫る。俺らクソ三人は退避行動に移る。俺はマナが枯渇していて動けないので、サトゥ氏に抱っこして貰った。振り下ろされた剛剣をサトゥ氏が飛び上がって躱した。空中で身体をひねって強引に慣性を捻じ曲げる。鋭く速い。何つー動きしやがる。事前に舌を噛むなよとか言ってくれなかったので、俺は舌を噛んだ。血の味がする。サトゥ氏が反撃に出る。しかし上を行かれた。死角から襲い掛かってきた刃にサトゥ氏が目を剥く。


「なっ、に!?」


 右腕だ。【刺しビン】の腕は左右で長さが異なる。異形ならではの剣技と言えよう。

 削ぎ落とすような剣閃を、サトゥ氏は剣を立ててかろうじて防いだ。防いだと言っても刃筋を逸らすことさえ困難な体格差がある。剣を支点に回ったというほうが正しいのだろう。刃牙キャラみたいにバオッと大回転して着地したサトゥ氏が、ヒビの入った剣を突き上げて叫んだ。


「以降、目標を【刺しビン】と呼称する! 加護の発動はない! 死に戻りは期待するな! ヒーラーは後退し待機しろ! 前衛、前へ!」


 トコトコと寄ってきたポチョに俺が手渡される。ポチョに抱っこされながら、俺は内心で呟いた。こりゃ勝てねえ。

【目口】の時もそうだった。プレイヤーのオリジナルはレイド級とは似て非なるものだ。つまりサトゥ氏の言う通り、加護の発動がない。ヒーラーの魔法だけでどこまで戦線を維持できるか……。

 しかも一体だけと決まった訳じゃない。プッチョムッチョが【刺しビン】を召喚したのは、単純に一番強い手札だからだろう。不足と見れば戦力の増強は十分にあり得る。

 いや、早くももう一体を引っ張って来ようとしているようだ。大暴れしている【刺しビン】を上機嫌で眺めるバカ二人が死出の門に片腕を埋没させている。

 よし、いいぞ……。俺は胸中でグラサンを応援した。俺を【目口】呼ばわりした連中に正義の鉄槌を下したい。くくくっ……。流れからいって次はセブンだよな? いや、リリララという線も捨て難い。いずれにせよ、俺に失うものは何もない。やれ。やるんだ。プッチョ〜ムッチョ〜……! この俺に牙を剥いたお前らはブッ殺す。ブッ殺すが、それは今すぐじゃなくてもいい。

 だが、俺の祈りが天に届くことはなかった。


【エラー!】

【不正なアカウントによるシステム介入を確認しました】


 死出の門にびきりと亀裂が走り、砕け散った。弾き出されたプッチョとムッチョが首をひねる。


「……はぁ?」


 バカ二人は不満を隠そうともしない。上位権限を持っているのにシステムに反発されてご機嫌斜めのようだ。

 しかし構図は単純だった。

 このゲームは、ガンズ何ちゃらの一部だ。だから事あるごとにガンズ何ちゃらのゲームタイトルが表示される。

 プッチョとムッチョは関連動画のチェックを怠った。だから、ヤツらは知らないのだ。

 女神の加護という、【NAi】が勝手に作ってプレイヤーに植え付けたパッシブスキルの存在を。


 命の火が燃え上がる。

 条件は満たしていない。

 満たしたのは、別の条件だ。

 赤い輝きが砕け散る。

 誰のものでもなくなった命の火が、たちまち息を吹き返した。別の条件……。

 徴収された命の火が渦を巻く。


 魔法とスキルには二段階目がある。


 女神の加護。クソ強力なパッシブスキルにも、次の段階がある。

 いつか、こんな日がやって来ると。俺たちは理解していた。


 アナウンスが走る。


【条件を満たしました】

【パッシブスキルが発動します】


【女神の降臨】

【Death-Penalty-Cancel(もう離さない)】

【Stand-by-Me(私はここにいる)】


【Together……(一緒に)】


 命の火が人の輪郭を描いていく。

 踏み出した足は素足だった。

 くるぶしまで隠れる長い裾が地面を擦る。

 薄いカーテンを幾重にも重ねたような羽衣。

 袖口と襟元に、目を崩したような意匠が施されている。

 尖った耳。

 薄い緑色の瞳。光沢が強い。


「ふふふ」


 女の笑い声。長い髪がさらさらと揺れる。


「あはははははははははは!」


 アナウンスは途切れない。


【GunS Guilds Online】


【警告】

【強制執行】

【手招く災禍】

【決して終わることはない】

【安らぎがあなたを縛るだろう】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:ディープロウの討伐】

【制限時間:00.00】

【目標……】


 長いアナウンスが晴れた時、そこには一人の女が立っていた。

 このゲームのプレイヤーであれば、誰しもが知る姿だ。

 チュートリアルナビゲーター……いや。



【ディープロウ】【ナイ】【Level-80】

 


 やはり……ラスボスだったか。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 あなたたちは、とてもよく働いてくれました……。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
ノリが良いよな、ナイ 明後日の方向へ突き進む毎話のオチを務め上げてきただけある
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