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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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ウィザード問題

 1.スピンドック平原-【目抜き梟】クランハウス-レッスン場


 アイドル気取りどもが整列している。

 モッニカ女史が俺に手のひらを向けて俺の紹介を始めた。


「バンシーさんですわ」


 くそが。俺は胸中で悪態を吐いた。


 何が悲しくてこの俺がアイドル気取りどもに混じって【目抜き梟】のレッスン場になど立っているのか。事の起こりは、モッニカ女史が俺に泣きついてきたことにある。

 やはりと言うべきか、ウィザードの転職条件がクソ過ぎた件はプレイヤーの間に大きな禍根を残した。

 ウィザードの転職条件。それは、この星の成り立ちについて一定以上の知識を得ること。イベント【森羅万象の理】のクリアだ。

 つまり情報収集を掲示板等に頼っていたプレイヤーはクラスチェンジが困難な状況に陥ったのである。


 ウィザードの第一人者であらせられる先生は、ョ%レ氏との戦いで意図的にクラスチェンジを実行に移した。

 つまりクラスチェンジの条件に察しが付いていたということになる。

 それは運営の情報規制が不完全であったことから推測したらしい。

 口には出さなかっただけで、本当はもっと色々な理由があるのだろう。例えばプレイヤーの中での魔法職の位置付けであったり、このゲームを開発したョ%レ氏の性格だったり。

 情報開示を渋っていたのは……まぁ俺の所為だ。先生は、ョ%レ氏に【戒律】を刻まれた俺が記憶を取り戻すことを警戒していた。もしも全てを思い出したなら俺が無茶をすると分かっていたのだろう。実際に無茶したしな。

 先生は俺の身を案じるあまり情報開示のタイミングを逸してしまった。

 よってウィザード問題は俺が何とかするべき、というのがモッニカ女史の主張である。

 無論、俺は断った。何を言っているのか。アホかと。俺は【NAi】に利用された挙句にョ%レ氏に【戒律】をブチ込まれた哀れな被害者である。

 だが、モッニカ女史は卑劣にもお犬様を味方に付けていた。

 先生に情報開示を迫った張本人であらせられるお犬様はウィザード問題に責任を感じており、火消しに奔走していたのだ。

 俺はお犬様の頼みを断れなかった。何しろ着ぐるみ部隊は光の勢力のトップだからな。俺は光の勢力のエースとして、世のため人のため、助けを求める声があれば駆けつけるのさ。期間限定でな。

 モッニカ女史は俺紹介を続けている。


「えーと……。今回バンシーさんは仮入隊ということで、しばらく皆さんと一緒に行動を……」


 アイドル気取りが驚きの声を上げた。


「えっ。でも、その人、悪の大幹部ですよね?」


 誰が悪の大幹部だ。俺はスパロボ大戦で言うところのアストナージだぞ。先生がブライト艦長だとすれば、俺は艦長を陰ながら支えるメカニックチーフなんだよ。あんまり舐めたこと言ってるとMAP兵器作ってやらねえぞ。

 

「いや、あなたはアシュラ男爵でしょ!?」


 ホホホホ……あそこが早乙女研究所か。ゆけいっ、機械獣よ! いや何でアシュラ男爵をチョイスした? 言うほど大幹部でもねーし……。

 おい、モッニカ。いいからさっさと話を先に進めろよ。俺ぁ別にスパロボの話をしに来たんじゃねえんだよ。


「自分から話を振っておいて……」


 やかましい。あーもういい。俺が話す。

 俺はモッニカ女史を制止して一歩前に出た。

 俺がバンシーだ。世間ではクラン潰しだのコタタマの仮の姿だのと色々と言われちゃいるが、それは根も葉もない真っ赤な嘘だ。

 俺は堂々と嘘を吐いた。

 お前ら【目抜き梟】は男子厳禁っつー話だが、俺は先生の第一秘書にしてリリララのお気に入りなので特例だ。質問は受け付けない。だが俺は質問する。おい、リリララ。どうしてお前はそっち側なんだよ?

 クランマスターのリリララは何故か訓練生に混じっている。不思議に思って尋ねると、モッニカ女史が俺の肩に手を置いた。

 

「いいのです。そうですわね、マスター?」

「はい」


 リリララは従順に頷いた。

 いや、ハイて。ええ? 一体何があったんだよ? 下克上か?

 クラン【目抜き梟】は歌って踊れるプレイヤーで構成されたユニットグループである。もはや芸能界に片足を突っ込んでいると言われるほど人気があり、生放送の視聴率はトップクラン【敗残兵】を大きく引き離している。

 リリララは【目抜き梟】のメインボーカルだ。元々自信があったからアイドルグループなんぞ結成したんだろうが。実際、リリララの歌唱力は大したもんだ。独特の雰囲気がある。

 だが……。考えてみればリリララが踊ってるのは見たことないな。まさか、リリララ。お前……踊れないのか?

 リリララは静かに目を閉じ……。


現実リアルが全てじゃない〜。知らなかった自分わたしに逢いに行こう〜」


 歌って踊った。

 ……なるほど、天は二物を与えなかったようだ。歌は立派なもんだが、踊りに一切のセンスを感じない。片腕が常にピーンって伸びてるのは何なの?

 一方、生リリララにアイドル気取りどもは大喜び。拍手喝采してモッニカ女史に直談判し始めた。


「モニカさん! マスターはこんなに歌えるんだからダンスなんていいじゃないですか!」

「そうですよ! マスターは変に動かないほうがいいんです!」


 ところがモッニカ女史はにべもない。


「認めません。踊らないと踊れないは違います。そもそも【目抜き梟】の二本柱。歌とダンスは、リリララが言い出したこと。マスターだからと言って、いえ。マスターだからこそ」


 ……なるほど。俺は内心で納得していた。【目抜き梟】ってのは、こういうクランなのか。厳しいレッスンをクランマスターのリリララも受けてるから、手は抜けねえってんで訓練生もどんどん上達する。上手い遣り方だ。まぁリリララが踊れないってのはガチっぽいが。

 モッニカ女史が、ぱんと手を叩いた。アイドル気取りどもが整列し直す。よく躾けられている。


「では、レッスンを再開致しましょう。バンシーさんは今日のところは見学ということで……」


 いや、いいよ。適当に合わせるわ。

 初日から完璧に踊れって言われても困るけどよ。生放送でライブなんざしてたら一人や二人くらいは振り付けトチるだろ。お前らも周りの動きを見て補完してる面があるんじゃねえか? 俺が思うに本番に強いってのはそういうことだよ。ま、予行演習っつーことで。俺も外から見てたって何も分かんねえしな。

 じゃあそれで、ということになったので、俺は適当に合わせた。ららら〜。

 まぁ俺は目がいい。通しで一回見れば大雑把にはコピーできる。身体が動くかどうかは別なので完璧にとは行かないが。

 レッスンが終わる頃には、やろうと思えばミスが目立たない程度には合わせることができた。つまりダンスに関して言うなら俺は一日でリリララを越えた。

 俺はすかさずリリララにフォローを入れた。


「リリララ。俺はお前ががんばってることを知ってるぞ。今日はお前の意外な一面を見れて嬉しかったよ」


「バンシーちゃん。お願いだから、そうやってウチの子たちをナンパしないでね? 約束だよ?」


 クランマスター直々にナンパ禁止令を申し渡された。

 いや違えって。俺は弁明した。あのな、リリララ。お前さ、漫画とか読んでて、こじれた男女仲を見て自分ならこうするのにって妄想したことねえの? 俺はあるよ。あるから、対処法もストックしてある訳よ。今さ、完全にやる気もねえのに生意気で目障りな新人が現れたっていう流れじゃん? でも、そうじゃないよっていう話よ。新人いびりなんてウゼェことやられた日にはお前、俺はそいつを間違いなく潰すよ? そしたら紆余曲折あってウチのジャムジェムさんが出動するルートに入るじゃん? そういうのは今回ナシにしようぜっていう話よ。


「ジャムちゃん、可愛い」


 始まったぞ。また始まった。また俺の知らないところで相関図が更新されてる。なんだ? いつ知り合った? どういう馴れ初めだ?


「先生に紹介された。バンシーちゃんは着ぐるみの人たちのこと大好きだけど。それ合ってるよ。続けたほうがいいね」


 先生……。挨拶回りをしてくれたのか。赤カブトのために。

 俺は感動した。先生は、あのAI娘に居場所を作ってやろうとしている。実質的に不老不死だぜヒャッハーなんて喜んでいた俺なんかとは格が違う。やはり先生だ。先生さえ居れば、国内サーバーは安泰だ。ョ%レ氏はリアル先生の身の安全を気にしていたが……。俺は、あのタコ野郎と協調路線を歩むべきなのかもしれない。今になってそう思う。どうするか、ョ%レ氏が本社から戻ってくるまでに考えておこう。



 2.【目抜き梟】クランハウス-会議室


 レッスンが終わったらモッニカ女史と会議室で落ち合う手筈になっている。

 モッニカ女史は、書面に落としたメンバー表に目を通しながら俺に問い掛けた。


「初日を終えて、どうでしたか?」


 何とかなりそうだな。俺は率直な感想を述べた。

 モッニカ女史が期待に瞳を輝かせる。


「では!?」


 いや、そっちじゃない。

 俺はひらひらと片手を振って断りを入れた。


「えっ……」


 モッニカ女史は困惑している。そっちとは?という顔だ。

 まぁな。お犬様とモッニカ女史が俺に期待していたのは、ウィザード問題解決のモデルケースを作ることなのだろう。

 それは、可能か不可能かで言えば、可能だ。

 要は、ウィザードにもテイマーにもなれない連中を説得して他職に回せばいいのだろう。多分、俺ならやれる。【目抜き梟】にはリリララという絶対のカリスマが居て、リリララを支えているスタッフも言ってみれば意識が高いタレント揃いだからだ。他の道を示してやれば勝手に伸びるだろう。つまりイージーなケースなのである。俺も当初はその路線で考えていたが、ここに来て気が変わった。

 ウィザードに固執するヤツはとことんまで行かせればいい。他職を薦める権利など俺にはない。

 そうじゃないんだ。俺がやるべきことは。

 そうと決まれば善は急げだ。時間が惜しい。会議は終わりだな。俺は行くぜ。

 颯爽ときびすを返した俺を、モッニカ女史が呼び止める。


「コタタマさん! ど、どこへ?」


 仕事をしに行くのさ。

 モッニカ。俺の仕事は何だ?


「え。……メカニックチーフ、でしたか?」


 違う。生産職だよ。

 生産職ってのは何かを作るのが仕事だ。

 だから作るのさ。時代をな。


 このアイドル気取りどもは見誤っている。

 おそらくは、如何にしてリアルに近付けるかを目標に掲げているのだろう。

 確かに最初の内はそれで良かったのかもしれない。リアルでは滅多にお目に掛かれないような美少女軍団が歌って踊っていれば世間の注目を集めることも可能だろう。それがきっかけで、このゲームに興味を抱く連中も居る筈だ。

 しかし【目抜き梟】の知名度は、既に知る人ぞ知るという域を越えつつある。

 ならば、次のステージに進むべきだ。


 名付けて、リリララターン計画。


 この俺が直々にリリララをプロデュースしてやる。いや、そうせずには居られないんだ。

 見つけちまったからな。原石……ってやつを。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 そんなことばっかりやってるからレベルが上がらないのでは?



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コタタマの地味に小器用なとこ好き
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