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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
121/978

穏やかな午後の昼下がり

 1.クランハウス-居間


 スズキ〜。エッダが強すぎるんだよぉ〜。慰めておくれよ〜。


「仕方ないなぁ。おいで〜」


 ソファに腰掛けたスズキが両腕を広げる。俺はスズキにひしっと抱きついてヨシヨシされた。


「今日はお酒何本?」


 二本で。いや俺別にアル中じゃないけどさ、二本くらいなら問題ないでしょ。一本じゃ物足りなくなってきたし。


「百薬の長って言うもんね」


 そうなんだよ。いやマジでアルコール入れると調子良くなるんよ。やっぱり生き物ってゆるやかに壊れていくものだし、その感覚を麻痺させるのって悪いことじゃないよなって思う訳よ。科学的にね。科学的に。


「コタタマ。大丈夫だよ。私は分かってるから。ね?」


 もるるっ。俺は嬉しげに鳴いた。スズキは俺を肯定してくれるから話していて心地いい。一緒にどこまでも堕ちていきそうなのが難点だ。しかしこれはこれで……。俺がスズキエンドに思いを馳せていると、ウチの丸太小屋に見知ったティナンが踏み込んできた。


「コタタマっ、いけない!」


 コニャックだ。ティナン姫に仕える研究者であり、種族人間の生態に並々ならぬ関心を抱いている困ったティナンである。

 コニャックは力尽くで俺をスズキから引き剥がし、


「コタタマっ。キミのお嫁さんは私が探してあげると言っただろ!」


 でも飼育員さんっ。

 一時期コニャックに養われていた俺は、このマッドティナンに逆らえない。

 コニャックはスズキとも面識がある。スズキに詰め寄り早口にこう言った。


「スズキもっ。勝手なことをされては困るよ! コタタマと結婚したいならせめて血統書くらいは持ってきてくれないと……」


 飼育員さんは雑種の中の雑種たる俺の血を高貴な血で薄めたいと考えているようだ。

 しかし純然たる上位種に叱られた劣化ティナンは反省するでもなく内股に手を挟んでもじもじしている。


「け、結婚って……」


 ほう。満更でもないようだな。

 どうやらウチの小せえのは俺の将来性を高く買ってくれているらしい。結婚イベントが実装した暁には参考にしよう。何しろ俺の資産は散々たるものだからな。誰とペアになっても損はしないだろう。最有力候補はやはりニジゲンということになるが……。

 まぁ結婚イベントが実装するかどうかは運営次第だ。嫁探しは今すぐじゃなくてもいいだろう。

 俺はコニャックに声を掛けた。今日はどうした? 俺に何か用か? お前の頼みとあらば大抵のことは引き受けてやるよ。


「おおっ。コタタマ。そう言ってくれるかい? 悪いね。キミが忙しそうにしているのは知ってるんだが」


 固ぇこと言うなよ。俺とお前の仲じゃねえか。

 で?


「うん。コタタマ、キミの知り合いにテイマーは居ないかな? 紹介して欲しいんだ。殿下が興味を示されていてね」


 テイマーか。俺は素早く計算した。マゴットはダメだ。あのちんちくりん二号の召喚獣は俺にまったく懐いてくれていない。飼育員さんの前で醜態を晒すのは俺のプライドが許さない。他にテイマーってーと……。

 だが、そんな俺の思いも虚しく、ちんちくりん一号が余計なことを口にした。


「あ、コタタマ。マゴットちゃんがテイマーだよ」


 ちっ……。俺は胸中で舌打ちした。ウチの小せえのはサトゥ氏やネフィリアほど察しが良くない。いや、スズキは普通なのだろう。あの二人が異常なのだ。普段からゴミの分別を意識して暮らしているに違いない。

 だが、俺はめげない。素知らぬ顔で腕を組み、いいやと手を振った。

 マゴットにも都合ってもんがあるだろう。それよりも【目抜き梟】に連れて行けば手すきのテイマーが一人や二人は居る筈だ。あそこは魔法使いが多いからな。

 いいや【目抜き梟】はダメだ。俺は前言撤回した。あそこは今ウィザード問題で荒れに荒れている。巻き込まれたくない。

 くっ、仕方ねえ。ここはマゴットに頼るか。そうさ、俺は動物に好かれる男。マゴットの召喚獣ペスさんとは一緒にレスリングした仲だ。俺の知らない間に固い友情で結ばれた可能性は十分にある。

 行こう。

 そういうことになった。



 2.山岳都市ニャンダム-露店バザー


 コニャックと一緒にマゴットとの待ち合わせ場所に向かって歩いている。

 スズキはお留守番だ。ポチョ、赤カブトと一緒に遊ぶ約束をしているらしい。ウチの三人娘はうまくやっているようだ。編成も聖騎士、狩人、魔法使いとバランスがいい。欲を言えばもう一枚前衛の厚みが加われば完璧だが、赤カブトは前衛もこなせる。求められるハードルは高いが……。それをクリアしたなら三人パーティーの完成形に近い仕上がりになるだろう。まぁ四人にすれば済む話ではあるのだが。

 さて、今日も露店バザーは賑わってるな。待ち合わせはバザーで。これは俺の定番だ。

 昔取った杵柄というやつで、俺はバザーのレイアウトを大体把握している。どこに何の店があるか。路地裏にも精通してる。つまりいざって時に撒けるってコトだ。そういう小さな気遣いの積み重ねが生き残るためのコツなのさ。

 おっと? 早いな。待ち合わせ場所で待機しているちんちくりん二号を発見。何やら気合いの入ったひらひらした格好をしてそわそわしている。その傍らにお座りしている白い毛むくじゃらが本日のメインターゲットだ。

 へへへっ……。俺はべろりと舌舐めずりして宿敵の身体を隅々までじっくりと眺める。

 ハッとしたペスさんがこちらを見る。俺はバッと両腕を広げて歓迎の意を示した。

 ペス! ペース!

 地を蹴ったペスが猛スピードで俺に迫る。よし、来い! 俺の胸に飛び込んで来い!

 しかし俺の腕を躱したペスが跳躍して俺の肩を飛び越えた。したっと着地したペスがくるりと振り返って俺の様子を窺う。発達した犬歯がギラリと光った。

 ペス……。俺はニッと笑った。

 絶・天狼抜刀牙……!

 切り裂かれた頸動脈からしゅーっと血が勢い良く噴出した。俺は首筋を押さえて止血を試みるが、完全に致命傷だ。足元にみるみる血溜まりができていく。これ、全部俺の血かよ……?

 ぬうっ……! がくりと片膝を付いた俺は、ペスを見つめて笑った。この俺を打ち倒した犬コロに惜しみない賛辞を送る。


「み、見事だ……」


 俺は、どうと倒れ伏して死んだ。


「こ、コタタマー!」


 ダッシュで死に戻りして再合流すると、コニャックがペスさんを抱きかかえて高い高いしていた。


「おお。おお。こ、これが君たち人間の故郷、地球の動物なのかい……?」


 興奮したご様子の飼育員さんにマゴットがコクコクと頷いている。


「そ。犬ね。秋田犬だよ〜」


 適当なこと言ってんじゃねえ。俺が割り込んだ。秋田犬はこんな大きくねえよ。おそらくグレートピレニーズだろう。フランス原産の犬種だ。


「あ、戻ってきた」


 よう。悪かったな、呼び出して。そう言って俺は、おめかししている妹弟子を上から下までじっくり眺めた。


「な、なんだよ」


 ふーん。やっぱ今時のガキンチョはセンスあるな。色気付きやがってよぉ。立派なもんだ。俺はマゴットの頭を撫でてやった。

 飼い主に接近した俺にペスさんが獰猛な唸り声を上げて威嚇してくる。

 やんのかゴルァ!

 俺ももるもる鳴いて威嚇する。もるぁっ、もるあっ……! 既に完敗を喫しているので少し弱気だ。

 コニャックが俺をひょいと抱えた。


「コタタマは攻撃的だなぁ。警戒心の強い子だ。よしよし……」


 俺はコニャックに腹を撫でられてもるもると喜びの声を上げた。

 さしもの猛犬ペスさんもティナンの前では大人しい。生物としての格の違いを肌で感じ取っているようだ。ぴたりとマゴットに擦り寄っている。

 コニャックの興味は多岐に渡る。


「犬。犬か。コタタマ、この子とキミが結婚したらどうなるんだ? どんな子供が生まれるんだろう」


 俺も試したことはないから絶対とは言えんが、俺とワン公の間に子供が生まれることはないんじゃねえかな。

 しかしコニャックは食い下がってきた。


「しかし個体差はあるだろう。試してみる価値はあるかもしれない」


 俺の貞操が危うい。

 でも飼育員さん。こういうのは当人同士の気持ちが大事なのであって、俺は女の胸や尻が好きなんです。俺とペスさんじゃ生活様式も大分違いますし……。


「そう? 残念だ。まぁ無理強いはしないよ。けど大事なことだからね。その気になったら言ってね」


 もるるっ……。悲しげに鳴く俺に、飼育員さんは微苦笑した。種族人間を飼うことの難しさを改めて再認識したという感じだ。

 コニャックはペスさんの前足を手に取る。肉球を指でふにふにと突付きながら「しかし困ったなぁ」と呟く。

 飼育員さん、何が困ったんです? 俺はすかさず追随した。


「いや、思ったよりも凶暴なんだね。センセイから話は聞いてたけど、予想以上だ。両殿下、特にマーマ殿下はあの気性だからね」


 ああ、ペスさんが姫さんに襲い掛かることを警戒してるのか。


「うん。私は大丈夫みたいだけど、マーマ殿下はガムジェムの所有者だからね。感情に引きずられて気配が漏れ出すことがあるんだ。過敏に反応するかもしれない」


 万が一にもティナンがワン公に後れを取ることはなさそうだが、むしろペスさんが危ない。一瞬で挽肉にされるだろう。無理を言ってマゴットに連れてきて貰ったのにそれはマズいだろうということだ。

 そうだな……。一度ジョゼット爺さんに会わせてみたらどうだ? 同じ王族だ。爺さんと姫さんには共通した雰囲気みたいなものはあるだろう。

 コニャックは両手を叩いて喜んだ。


「いいアイディアだ! コタタマっ、おいで!」


 俺は飼育員さんにひしっと抱きついた。高い高いされて俺ご満悦である。もるるっ。

 マゴットがぽつりと呟いた。


「パねえ」



 3.スピンドック平原-スピン牧場


 牧場のスピンは何故かペスさんには襲い掛からなかった。

 ペスさんも特にスピンを警戒しているような素振りはない。

 ちょこちょこと歩み寄ってふんふんと互いに匂いを嗅いでいる。

 なんだよ、おい。和むな。やっぱりあれか、ジョゼット爺さんの薫陶が効いてるのか。

 びくびくしていた俺は気を大きくした。柵を乗り越えて飼い慣らされたスピンに近付き、頬を撫でてやる。おら、人間様が来てやったぞ。ジョゼット爺さんはどこだ? 厩舎か? 案内しろや。

 スピンはぬっと立ち上がって俺の顔を前足で挟んだ。もふもふだ。ウサギに肉球はない。

 ぐっと俺の身体が持ち上げられる。こらこら。顔を持ってリフトするのはやめなさい。見ての通り俺らの首はデリケートな作りしてるんだよ。こら。揺らすな。頚椎が損傷するだろ。

 俺は地面にゴシャアッと頭を叩き付けられて死んだ。スイカ割りじゃねえんだから。やれやれだぜ。

 ダッシュで死に戻りした俺は叫んだ。


「凶暴!」


 ペスさんと戯れていたジョゼット爺さんが何事かと俺を見る。

 もうね、言わせて貰うわ。あんたらティナンはスピンが臆病だとか言ってるし俺らはそれを信じてきたけど、全然そんなことねーよっ。むしろ一、二を争う好戦的なモンスターだよ。モグラさんとウサギさんでワンツーフィニッシュだよ。それが隣接したマップで暮らしてるもんだから、たまに種族の存亡を賭けたファイナルバトルが勃発してるじゃねーか!

 言いたいことを言ってスッキリした俺はジョゼット爺さんに歩み寄って手を差し出した。無沙汰して悪かったな。舞い戻ってきたぜ。

 ジョゼット爺さんがプンッてなって俺の背後に回った。ふん、そう来ると思ったぜ。振り返った俺に爺さんが鼻を鳴らす。


「コタタマか。健在なようだな。以前とは少し気質が変わったか? その目……。何かを掴んだようだな」


 おっかねえなぁ。そんなことまで一目で分かるもんなのかい?


「ああ、山岳都市では私くらいだろうがな。コタタマ。話は聞いている。不甲斐ないところを見せてしまったようだな」


 三ヶ月前くらいにジョゼット爺さんはガムジェムを取り込んだマーマレードにやっつけられている。その模様は、ちびナイ劇場を通して放映されていた。

 なんて言うか、大変だったな。ああいうのは良くあることなのか?


「まぁな。私のような古い王族は自らの政策に縛られる。支えてくれた民を思えば、自分が間違っていたとは言えん。新しい考えを持つ王族との衝突は避けられんさ。それが、たとえ天から授かった実の娘だったとしてもな」


 そういうもんか。ああ、そうか。だから爺さんはガムジェムを持ってなかったのか。それは世代交代のために?


「いや、それは違う。私はガムジェムを無用の長物と考えている。あれは危険なものだ。だからニャンダムの居城に隠した」


 やめろよ。危ねえことするなぁ。ニャンダムがガムジェムを食ったらどうするんだよ。あれ以上パワーアップしちまったら世界の滅亡の危機だぞ。


「コタタマ。横着をしようとするな。お前の疑問に答えを見出すのはお前自身でしかあり得ないのだ。すまんな。願わくば、マーマレードを支えてやってくれ。あれは危うい」


 自分の娘だろ。あんたが支えてやればいい。


「私はもう若くない。正解を示すことはできても、それだけだ。もっと上手い遣り方があったのではないかと、ずっと考えてきた。それを見つけ出せるとすれば、それは失敗を恐れない若い世代だけなのだろう。それに……今更になっておめおめと戻れはしないさ。マーマレードは私を憎んでいるだろうからな」


 そうかい。まぁ親子だ。色々とあらぁな。

 ああ、そうそう。コニャックに言われてな。これからマーマに会いに行くんだわ。上手いこと言っといてやるよ。たまに一緒にメシ食いに行くくらいならいいだろ? 家族なんだからよ。


「好きにしろ。お前たちは冒険者だ。気の向くまま風の吹くまま自由に生き、時々は戻って来るといい」


 冒険者。探るもの、か。ョ%レ氏がそんなこと言ってたっけな。

 俺はコニャックたちに声を掛けた。おーい。そろそろ行くぞー。

 スピンとじゃれ合っていたペスさんがハッハッと呼吸を荒げて俺に駆け寄ってくる。ついにデレたか?

 よーし! ペス来ーい! 俺はペスさんに押し倒されて頸動脈を噛み千切られた。ったく、仕方ねえなぁ。俺はペスの頭を撫でて微笑んだ。大量の血と一緒に力が抜けていく。俺はぱたりと大の字になって死んだ。


「こ、コタタマー!」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 すごい勢いで死んでいく……。



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[一言] 主人公の命が水素より軽い
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