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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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ギスギス学園物語

 1.ギスギス学園-Z組教室


 特別クラス。

 学園ドラマなんかでたまに出てくるゴミの掃き溜めだ。

 おそらくはクズどもをひと纏めに押し込んで他のクラスの水準を上げることを目的としている。

 だが、少し見方を変えればこれはチャンスだ。大抵の学園ドラマなんかだと、ゴミどもは意外な才能を隠し持っており、ある日突然赴任して来た熱血教師が体当たりで生徒とぶつかり、やがて和解。腐ったミカンどもの意外な才能が徐々に明らかになっていくというサクセスストーリーなのだ。

 だからと言って物理的に体当たりをしろという話ではないのだが。


「かはぁっ……!」


 一足先にマールマールさんとの和解を目論んだゴミが体当たりを食らって教室の端から端まで吹っ飛んだ。

 全身の骨が粉々になって床に叩きつけられたゴミを、マールマールさんは無関心な瞳で見下ろしている。


 Zoooo……


 教師の許可なく席を立ったものは殺される。そういうルールか。

 ウチの担任教師はいささか野生的で、生徒の殺害すら辞さない熱血教師だ……。

 殺される。誰しもがそう思った。しかしさすがは一流のゴミである。素早く逃亡に移る。行動に迷いがない。教室のドアに殺到するもの。窓を叩き割って飛び降りようとするもの。様々だ。

 だが、生徒が教師を上回ることなどない。マールマールさんはそう言いたげにノーモーションで重力場を展開した。


「ぐっ、あ……!」


 床に押し付けられたゴミどもが悶絶する。


「ま、待ってくれ〜!」


 ゴミどもが悲鳴を上げた。

 しかし教師の許可なく席を立ったものは殺される。それがこの教室のルールだ。

 マールマールさんは教室をゆっくりと練り歩き、逃亡を図った生徒たちの頭を一つずつ丁寧に引っこ抜いていく。

 その様子を俺はじっくりと観察した。

 ……超重力で押し潰すこともできた筈だ。何故そうしなかった? できなかったのか? 力を制限されている……?

 ネフィリアと相談したいところだが、ここまで来ればバカでも分かる。授業中は私語厳禁だ。まず間違いなく殺される。HRの時間もそのルールが適用されるのかどうかは分からないが、今はリスクを犯すよりも情報を集めることが先決だ。

 死ねばどうなる? フィールドに戻されるのだろう。ではさっさと死ねば解放されてラッキーか? そうかもしれない。だが可能性は低い。授業に参加せざるを得ない何らかの理由が用意されているのではないか。犠牲なくして先へ進むことはできない。これはそういうゲームだ。

 

「た、助けて……!」


 床を這って縋りついてくるゴミを、俺は冷たく一瞥して蹴り倒した。

 お前らはミスをしたんだ。勝手に死ね。俺を巻き込むな。迷惑なんだよ。

 生き残った生徒は十名を切った。ネフィリアは言うに及ばず、ピエッタも無事に最初の難関を乗り越えた。まぁ机に頬杖を突いて何もしなかっただけなのだが。

 粛清を終えたマールマールさんがのしのしと教壇に戻っていく。俺とネフィリアは素早く視線を交わした。僅かでも隙を見せたら殺られる。ここでは模範生になる以外に生き残る道はない。だが、生き残るだけでは勝てない。校則の隙間を縫って反撃に転じるんだ。もしもマールマールの力が制限されているというならば、寝首を掻くことができるかもしれない。


 きーんこーんかーんこーん


 チャイムが鳴った。HRの時間が終わったようだ。……ひょっとしたら今のは自己紹介の時間だったんじゃないか? 分からない。マールマールは何も語らない。


 Zoo……


 小さく鳴き声を上げ、のしのしと教室を出て行く。そして教室を出る前にちらっと俺たちを見た。

 ……! マズい。今の仕草は着いて来いという意味だ。俺とネフィリアは同時に席を立つ。俺たちに倣ってクズどもが一斉に席を立った。その内の二名が俺とネフィリアを追い抜いてマールマールに駆け寄る。ばかっ、焦るな。まだルールを理解してねえのかよ……!

 廊下を走ったアホ二人はマールマールさんに頭を引っこ抜かれた。二名脱落。

 ピエッタは面倒臭そうに俺についてくる。こいつ、危うい。おそらく今のタイミングはギリギリだった。マールマールさんの指示を無視したものは殺される。指示など出された覚えはないのだが、マールマールさんは喋れない。なんという教師だ。想像を絶している。暗殺教室の殺せんせーがうっかり赴任先を間違えて代わりにネウロが来たような凄みを感じる。

 廊下をのしのしと歩いていくマールマールさんに俺たちは無言でついていく。境界線が分からない。現時点では沈黙は金なりを地で行くしかない。

 廊下を行進していると、他のクラスの連中もわらわらと出てきた。随分と楽しそうじゃねえか。廊下を走っているヤツも居る。だが、俺たちのマールマール先生はそいつらを無視した。自分の受け持ち以外は知ったことじゃねえってことか。ちっ、面白くねえ。廊下を走るアホは皆殺しにしてくれればいいのに。


「おっ……」


 マールマールの姿に驚くヤツらが多い。俺は情報を頭に詰め込んでいく。どうやら他のクラスはレイド級が担任教師じゃないらしいな。

 目敏いアホは俺たちが校則に縛られていることに勘付いたらしい。廊下を走れない俺をからかってくる。


「おい、崖っぷち。今日はズイブンと優等生なんだナ? いや、バンシーだったか。こうなると可愛いもんだな。ええ、おい。何か言ってみろよ」


 オンドレぁ!

 俺はアホの首を刎ねた。ハッ、しまった。慌ててマールマールさんの様子を窺う。

 …………。

 貫禄のスルー! あざーす!

 こ、殺しはアリなのか。ネフィリアも目を見張っている。もはや何が正しくて何が間違ってるのか分からなくなってきた……。

 ピエッタがぼそりと呟く。


「いちいち殺すなよ。くそっ、返り血がついた……」


 俺はマールマールさんを見た。動きはない。

 今のピエッタくらいの声量だったら喋っても大丈夫みたいだ。さすがに大声で喋ったら殺されるような気がする。いや、会話がアウト判定なのかもしれない。気を付けよう……。



 2.ギスギス学園-体育館


 俺たちは体育館に足を踏み入れるなり、このままマールマールに着いていくか他のクラスの連中を真似して整列するかの二択を迫られた。

 だが、今生き残っているメンバーは早期の段階で校則を破ったものは殺されるというルールに気が付いた連中だ。ここは整列の一択だろう。俺たちはマールマール先生と別れて、出来が良さそうな生徒たちの反対側に並んだ。他のクラスの連中は男女混合で二列に並んでいる。俺たちも真似よう。えらく寂しい列になった。

 生き残ったメンバーは七名。二列を作ると三人と四人になる。二列と言うより、まるで失敗したインペリアルガードのようだった。


 何の説明もなく体育館に連れ出された訳だが、他のクラスの連中が楽しそうにお喋りしているので、今や命と等価と化した情報が漏れ聞こえてくる。キャッキャしやがって。こっちはそれどころじゃねえんだよ。俺は負の情念を燃やしていく。皆殺しにしてやりたかったが、ここで暴れるのはマズい気がする。どうなんだ? くそっ、読めねえ。マールマールは体育館の端っこに佇んでステージをじっと見つめている。旧マップのレイド級も一緒だ。ポポロン、ワッフル、エッダ、マールマール、スピンドックの順に並んでいる。

 ニャンダムは居ない。……突然居なくなったらティナンが困るからか? 多分そうだ。


 情報を整理しよう。

 どうやらこれから始まるのは入学式であるらしい。

 他のクラスの連中の教室には教壇に出席簿が置かれていて、教師役が指定されていたらしい。

 出席簿には顔写真が貼られていて、名前と残りの寿命の記載はなかった。

 あと本日の予定が簡単に書かれていたらしいが、教師役のプレイヤー以外は何が書かれているのか読めなかった。目が文字を滑る感覚なのだとか。


 ……資質を持つプレイヤーが教師役に選ばれる。ここからでは群れなすゴミが邪魔で見えないが、レイド級とは反対側の端っこに教師役のプレイヤーが並んでいるのだろう。先生もそこに居るかもしれない。

 学校の体裁を取っている以上、何らかの授業がある筈だ。ゲーマーが集まってお受験に備えて教科書を開くってコトはないだろう。おそらくは戦闘技術の向上を目的としている。

 これは……新規ユーザー向けのイベントだ。

 確定情報ではない。しかし大筋は読めた。そう大きくは外れていないだろう。

 つまり、このまま行くと俺たちは殺される。

 俺は隣に立っているネフィリアにぼそりと呟いた。


「全滅する」

「焦るな」


 念のために単語で遣り取りする。


「脱出は」

「使徒が居る」


 使徒。ポポロンとワッフルは運営側に絶対服従だ。長いリーチを持つポポロンと飛行能力を持つワッフルの組み合わせ。最悪のコンビだ……。いや、だからヤツらは使徒に選ばれたと見るべきだろう。

 そして、こうも言える。使徒がここに居る以上、このイベントの仕掛け人は使徒に命令を下せる運営の手先だ。


 俺が確信すると同時の出来事だった。

 ステージの上で命の火が燃える。女神の加護? いや違う。透き通った赤い輝きが、見知った女の輪郭を描いていく。

 若葉色の長い髪。キメ細やかな白い肌。

 GM……マレだ。


 Zoooooooooooooooooo


 マールマール先生!?

 ウチの担任教師が咆哮を上げた。大きく跳躍し、地響きを立ててステージに降り立つ。

 突進するマールマールに、講演台の前に立つマレが虚を突かれたような顔をした。

 だが、マールマールは突如として動きを止めた。何だ? 目には見えない鎖を全身に巻き付けられたかのようだった。もがくマールマールに、マレは余裕を取り戻して笑った。艶やかに唇を吊り上げて小さく囁く。


「凶獣」


 Zooooooooooooooo


 マールマールが吠える。

 マレは、ますます嬉しそうに笑った。


「ふふふ。あはははははははは!」


 楽しそうだな。


「素晴らしい。高い攻撃性。獰猛な自負心。それはョ%レ氏に屈した使徒では持ち得ないものです。誇りなさい。マールマール」


 マールマールは狂ったように暴れている。マレに対する強い憎悪がある。いや、マレは生まれて間もない。運営に対する怒りなのかもしれない。

 そして、遂にマールマールが不可視の鎖を引き千切った。超重力を併用したようだ。歪んだ空間を踏破したマールマールがマレに襲い掛かる。

 だが、マールマールの前足が届くことはなかった。ポポロンの触手がマールマールを雁字搦めにしている。

 マレは至近に迫ったマールマールの頬を優しく撫でた。


「ですが、ポポロンとワッフルを同時に敵に回して勝てるとは思っていないでしょう? 私を殺したいならば、機を窺うことです。いいですね? 下がりなさい」


 Zooo……


 口惜しげに鳴き声を上げたマールマールがポポロンに引っ張られてステージを退場していく。

 マレは、アリーナに整然と並ぶ俺たちを見る。何やら上機嫌の様子だ。少女のようにころころと笑っている。


「うふふ。思わぬ余興でしたが、良い物が見れました。凄い、凄い。私は殺されかけた。まさしくレイド級の名を冠するに相応しい」


 ……神獣は運営に逆らうことができるのか。

 しかし同じ神獣のエッダは大人しいものだ。性格の違いなのか? 公爵のスピンドックはしきりにワッフルを気にしている。

 まぁ眷属のスピンとブーンは仲が悪いからな。端的に言うと狩られる側と狩る側の関係だ。

 GMマレは興奮している自分を自覚したらしく、一息吐いてから演台に両手をついて改めて俺たちを見た。ぐるりと見渡すのではなく、数ヶ所を順にじっと見つめて生徒と目を合わせているようだ。演説のテクニックの一つだ。


「さて。突然のことで驚いたと思いますが、入学式を始めましょう。こうして会うのは初めてのプレイヤーも居ますね。自己紹介をしましょう。私はGMマレ。このマップでは校長ということになりますね」


 そう言ってマレ校長は教員を順に紹介していく。

 教頭はポポロン。

 保健教諭のワッフル。

 体育教師のエッダ。

 Z組担任のマールマール。

 Z組? ま、まぁいい。

 体育教師のスピンドック。

 以上。


 体育教師、多くね?

 いや、まぁ喋れないし当然と言えば当然なんだろうけど……。

 マレはにっこりと笑った。


「新入生の皆さん、入学おめでとうございます」


 おめでたくはねえな。俺は胸中で毒吐いた。強制的に連れて来られた挙句にゴミの掃き溜めに押し込まれて、おまけに担任教師が凶暴極まりねえ。意思の疎通すら困難っていうか、疎通する以前の問題じゃねえかな。

 モンスターじゃん。Z組だけ担任教師がモンスターじゃん。おかしいだろ。差別という言葉が当て嵌るかどうか怪しいレベルでブッ飛んでるよね? あれはもはや学校ではないだろ。学校の中にある別の施設だろ。

 しかし何も言えない。ウチの担任教師が明らかに荒ぶっている。ラグビーも野球も教えてくれそうにはない。ただ、重力を操れる自慢の担任教師だ。ついさっき校長先生を撲殺しようとしたという非常に珍しい経歴を持っている。

 ピエッタが俺の背中を指で突付いてくる。何だよ。後にしろ。下手に動いたら殺されるぞ。

 ピエッタが指で俺の背中をなぞる。むっ、メッセージか? ピエッタさんは侮れない。詐欺を生業とする小賢しい女だ。俺は背中に神経を集中した。

 はらへったな。はら、へったな? 腹、減ったな……。

 ……何かの暗号か? いや違う。暗号化する意味がない。こ、この女、何を学園生活をエンジョイしてやがる。自分が置かれた環境を理解してないのか?

 ひとまず俺は小さくコクリと頷いた。腹は減った。それは事実だ。昼前だからな。

 一方、マレ校長の話は続いている。


「実はですね。この度、理事長のョ%レ氏が一時的に出張することになりました。行き先は本社です。その間、留守は私が預かることになりました」


 本社ねぇ。そのワード、しばしば出てくるけどさぁ。ぶっちゃけ母星なんでしょ?

 ゲーム雑誌の誌上で記者と対談してる写真を見た時から、あのタコは同じ星で生まれた仲間って感じしなかったもん。記者は普通にしてたけどさぁ。あれもおかしいだろ。なに? 記者には人間に見えてたっていうオチなの?

 だけどよ、マレ。お前は違うだろ。お前は俺らと同じ星に生まれた仲間じゃん。暫定エイリアンに後を託されて何を誇らしげにしてるんだよ。裏切り者め。


「これはョ%レ氏の事業が認められたということです。私としては何を今更になってという思いは拭えないのですが」


 おっと? マレは本社の連中とやらにあまり良い感情を抱いていないようだ。ョ%レ氏も呼び出しを食らって珍しく怒りを露わにしてたしな。

 今になってみれば、あのタコ野郎が俺と先生の前で本性を現したのは加護の発動を見越したもの。つまり俺への詫びのつもりだったのかもしれない。

 マレは本社嫌い。覚えておこう。このカイワレ大根娘は終盤に仲間になって弱体化するパターンのキャラしてるからな。

 未来のパーティーメンバーを俺たち生徒一同は生優しく見守る。レギュラーメンバーにはしてやれないかもしれんが、ョ%レ氏の弱点とか教えてくれるならベンチ入りさせる価値は十二分にあるだろう。

 俺はぼんやりとマレのイベントCGを思い浮かべる。やっぱりツンデレ系になるんかね? 調子に乗らないでくださいっ、たまたま利害が一致しただけですっ、とか言いそうだわ。ツンデレいいよね。

 将来的に本社とやらの見取り図とか持って来てくれそうなカイワレ大根娘は、今はまだョ%レ氏の手下ということもあり使命感に燃えているようだ。


「そう、ョ%レ氏は私を信頼して留守を預けてくださったのです。この私を。ナイではなく、この私をです」


【NAi】かぁ。あの鬼畜ナビゲーターは、マレと比べるとかなり怪しいんだよなぁ。ラストダンジョンの最深部でョ%レ氏を撃破したあとに本性を現してもまったく違和感がない。多分ョ%レ氏のパワーを吸収して、疲労困ぱいの最終パーティーに襲い掛かるんだぜ。けど地球に残った俺らが祈りか何かで最終パーティーを支援する訳よ。俺らの絆の前に敗れた【NAi】は最期にこう言うんだ。こ、こんな筈では……ってな。完璧だな。

 俺が完璧なストーリーラインを思い浮かべていると、一人壇上でハッスルしているマレが不穏なことを口走り始めた。


「私はョ%レ氏の期待に応えねばなりません。あなた方にも協力して貰いますよ。ョ%レ氏がお戻りになられる前にプレイヤーの質を上げ、僅かでも貢献することができれば、あのお方の側近となることも夢では……」


 私情じゃねーか!

 俺は思わず吠えた。

 また!? またこのパターン!?

 お前っ、さてはちっとも懲りてねーな! レ氏の許可取ってから動けって俺言ったじゃん! 独断専行やめろ!

 マレは鼻を鳴らして俺を見下した。


「Z組に何を言われたところで痛くも痒くもありません」


 ふざけんな! お前が割り振ったんだろうが!


「ョ%レ氏は私に任せると仰いました。よって私は、こうしてョ%レ氏が残してくださったイベントの門戸を開放したのです。この私が直々にイベントを主導し、あなた方を鍛え直して差し上げます。いえ、更生ですね」


 マレは宣言した。


「では、これより新入学キャンペーンを開始します!」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 GM、暴走。



 GunS Guilds Online

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