Blood Bag【F/sn】
UBW最終回とマッドマックス怒りのデスロードを同日に見てしまった為出来てしまった産物。マッドマックスの微ネタバレですけど、ネタバレとか細かいことは気にすんな!!の精神で読んで頂けると有難いです。あとnovel/4746388と繋がってるような気がします。
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「……あれ?」
気づくとぐわんぐわん揺れていた。体も頭も世界も何もかもが。
「気づいたか」
すぐ近くで――あり得ないくらい近くで、聞き慣れた男の声がした。ああ、と頷いて、体を動かそうとしてぴくりともしないことに気づく。
「じっとしていろ。動くと危ない」
男は淡々とそう言って、ぐいと俺の体を抱え直した。……抱え直す?
「うわ……」
そこでようやく、己の置かれた現状を認識する。俺は、アーチャーにいわゆる俵担ぎをされていた。完全に気を失っていたので、死体を運ぶようにぶらぶらと。それは世界も揺れるだろう。
「悪い、下ろしてくれ」
「下ろした所で動けまい、大人しく担がれてろ。何ならもう一度気を失っておけ」
「……分かったよ」
アーチャーの言う通りだった。口を利くのもやっとの有り様で、他の部位はぴくりとも動かない。一時的なものだといいが、相手を考えると恒久的なものである可能性も否めない。
参ったな……と思った所で、腕に鈍い痛みがあることに気づいた。あれだけぼこぼこにやられた割には外傷はなかった筈だが、じくじくとそこは痛み続けている。
「うわあ……」
ぶらぶらと揺れる腕のその箇所を確認して、痛みの理由を今更知った。知って、我々の現状が非常にまずいことも同時に認識する。
「……緊急事態だ、許せ」
俺が気づいたことに気づいたアーチャーがぼそりと言った。
「……いや、それはいいんだけど。そんなにまずいか?」
「まずいな。おまえの血がなくなるのが先か、私が消滅するのが先か、と言った所だ」
「そりゃまずい」
思わず出た軽口にむっとしたのか、空いている方の手でぼんと頭を叩かれた。痛い。同時にそこに繋がったチューブが揺れる。
「おい、あんま動かすな。抜けたらヤバい」
「分かっているなら、あまり私を怒らせるな」
「了解」
やれやれと溜息を吐いて、腕の静脈に刺されたそれが奴の同じ場所に流れ込むのを大人しく見守った。
……そうだ、思い出した。砂漠のど真ん中で戦闘になり、多勢に無勢の中何とか渡り合い。逃げ出す奴らが最後に放った攻撃を、真正面から俺は喰らってしまったのだった。
俺が強力な使い魔を従えている(ということになっている。従うようなタマかよと思うがまあ部外者には伝わらないだろう)ことは、いつの間にか知れ渡ってしまっていた。その分断を狙われたことは一度や二度じゃないが。
今回の魔術師は、降霊分野のスペシャリストだけあってなかなか凝った攻撃を仕掛けて来た。俺とアーチャーのラインを断ち切って来たのだ。
不幸中の幸い、という奴だろう。単独行動スキル持ちのアーチャーはそれでもしばらくは持ち堪え、それは予想していなかったのか、奴らは効かないと見るととっとと退散してくれた。
残されたのは魔力がすっからかんの俺と、同じく魔力が切れかかっているサーヴァント。
ラインから搾り取ろうにも繋がりは途絶え、ならば直接供給……とするには俺も死にかけていて。すわ最終手段ということでアーチャーが取った手段が、いわゆる輸血だったというわけだ。
「……血を啜る時間も惜しかった。不愉快だろうが許せ」
大人しくなった俺に、しばらくしてアーチャーから声がかかった。だから、謝る必要はないって言うのに。
「いいって。でも、ほんとに役に立つことあるんだな」
「全くだ」
用意のいい男は緊急時の医療品一式を常に持ち歩いていた。その中に確かに輸血セットもあった筈だ。大げさな、と俺はいつも文句を言っていたが、まさかこんな時に役に立つとは思わなかった。
そもそもこんな輸血は許されないだろうが、俺たちには拒絶反応も無縁だった。
透明なチューブを通って、俺の赤黒い血が奴の体へと流れ込んでいく。律儀に同じ場所に突き刺しているが、ちゃんと吸収できているんだろうか? サーヴァントの仕組みは未だによく分からない。尤も、口の中に突っ込まれていたらそれはそれで嫌だが。さすがにぞっとしない。
「……」
世界が揺れるのは、血が足りなくなっているせいもあるんだろう。サーヴァントを養うのに血なんて非効率もいい所だ。それでもそれ以外の方法が取れないくらい、現状は切羽詰まっている。
そんな状況なのに何故か笑みがこぼれた。こんな場所だ、俺が死ぬかアーチャーが消えるかしたら、俺の死体は砂漠の真ん中でごろんと放り出されるのだろう。
そうして常に飢える砂漠の生き物たちの貴重な食料となり、残された骨は朽ちることもなく砂の中へと埋もれて行く。
そういう死に方は、悪くないように思えた。
「いてっ!」
と、同時に先程よりも酷く頭を殴られた。痛い。怪我人には優しくして欲しい。
「ロクでもないことを考えるなたわけ」
「何だよ、ライン切れてるのに分かるのかよ」
「解る。私と貴様の仲だ、ラインが切れようが大抵のことは解る」
「げえ……」
まあ、そんな気はしていたけど。こんな無害な空想さえも許されないのかとうんざりしてしまう。
「そんなことを考える暇があったら、大人しく気を失っておけ。死なない程度にな」
「了解。……あんたも死ぬなよ」
「貴様が死なない限りはな」
「信じてるからな」
言って大人しく目を閉じる。霊的な繋がりは失っても腕の鈍い痛みで繋がっているこの状態は、俺たちらしくて悪くはなかった。
*
「……あ」
気づくと薄明るい白い布が目に入った。何度か瞬きして、テントの屋根だと気づく。
同時に全て記憶が蘇った。今度も何とか生き長らえたようだ、よかった。
「気づいたか」
そんな感慨に耽る間もなく、今度は下の方から声がした。何だと思って見ると、ベッドに寝かされていた俺のすぐ下に、何故かアーチャーが横たわっている。何だこれ。
「……まだパスが回復していない。魔力を溜める暇もなかったからな。悪いがもう少し寄越せ」
アーチャーは腕を持ち上げて説明してくれた。ああ、なるほど。俺より低い位置にいないと血は流れないもんな。それはいいけど。
「……出血死の可能性は?」
「ないとは言い切れないが、まあ大丈夫だろう。先程水をたくさん飲ませた」
「水でいいのかよ……」
きっちりしてるんだか、いい加減なんだか、未だに掴めない男だ。確かに流れ込む血の量は少しずつで、それほど量はないようだが。
「とにかく、もう少し休め。私も動けん」
「……悪い、無理させた」
「いつものことだ、気にするな」
言ってアーチャーは目を閉じる。その存在感は確かに希薄だ。もっと大量の魔力を注ぎ込みたいが、その体力も俺にはなさそうだ。
とにかくメシでも、と思って動けないことに気づく。いや俺だけなら動けるんだが、アーチャーは動けそうにない。かと言ってこのチューブを外すのはまずい。
「……よし」
とりあえずチューブを解析し強化をかけ、液体の流れを一定化させる。高い位置から低い位置へ、ではなく、魔力の余っている方から足りない方へ流れるようにした。
それからよっこらしょ、とアーチャーを担ぎ上げる。しっかし毎度思うがサーヴァントの癖に何故こんなに重いんだ? エーテル体の構造は今以て謎だ。
「……おい」
担いだ荷物からくぐもった声がする。大人しく寝てればいいのに。
「さっきのお返し。いいからじっとしてろ、メシ食いに行くだけだから」
「……落とすなよ」
「そんなヘマはしない、さすがに」
「信用出来ない」
「正直言うと、俺も」
「……」
アーチャーの呆れた気配がするが、それ以上は何も言わなかった。まずい、本当に疲れているんだろう。
さっさと俺も補給して少しでも力を渡さなければ、と。担いだ腕に力を込めて、空いている方の腕でぽんぽんとその白い頭を叩いた。
初めてコメントさせて頂きます。とおの様の作品をいつもドキドキしながら読ませて頂いてます。二人旅本当に素敵で、何度も読んでしまいます。どんなことの合間にも二人が指輪しているのかと思うと・・・!コメント失礼しました。