【HF士弓企画】表裏一体
HF士弓webアンソロジー企画参加作品。
企画の詳細は企画用記事をご参照ください。
<novel/10571544>
※当作品は企画の特性上、Fate/stay nightのHeaven's feel(桜ルート)のネタバレを含みます。
HF士弓webアンソロ企画開催おめでとうございます!小説で参加させていただきました!
今回参加するにあたって、UBWをクリアしてから長らく放置していたSNを起動し、HFをクリアしたのですが、あまりの士弓力にVita持ったまましばらく思考停止していました。
原作が士弓だから私が書くこと特にないのでは…?と思いながらネタを絞り出し、今の私が思うHF士弓を全力で書いたつもりですので、少しでも士弓みを感じ、楽しんで頂けたら幸いです。
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白い髑髏が二つに割れる。アサシンは顔を隠すように割れた面を抑えながら逃げ去った。アサシンは退けたが、例の影が見当たらない。嫌な予感がする。
「上出来!」
気の抜けた声を上げながら姿を見せた凛と木々の間から覗く影を目にしたのはほぼ同時だった。
「──凛!」
体は勝手に動いていた。凛を突き飛ばし黒い触手に貫かれる。痛みはさほどなかった。
はじめに感じたのは喪失感。次いで感じたのは焦燥感。
早く、ここから離れなければ。だというのにマスターはふらふらとこちらに近寄ろうとする。逃げろと叱責したが、立ち止まっただけで動かない。否、動けないのだろう。相変わらず想定外に弱い。体に刺さっていた触手を引き抜き、凛の元へ走る。連れて逃げるには間に合わないがこの身で庇うことはできるだろう。
呆けたままのマスターの腕を掴み、引き倒す。その体ができるだけ赤い外套に隠れるようにして抱き留める。
次の瞬間、全てが黒に埋め尽くされた。
黒い波が引いていく。絶望が引いていく。腕の中に目を落とすと、気を失ったマスターの姿が見えた。多少はダメージを負っているようだが、命に関わるほどではないだろう。奴とイリヤがいた辺りに顔を向けると、うまく回避したようで二人とも無事ではあったが、奴は左腕を溶かされていた。あのままでは──。
そこまで考えてようやく木上の気配に気づいた。
「ライダーか」
呟くと近くに気配が降りてきた。霊体化していたのか負傷している様子はない。
「ちょうどいい。あそこに倒れている奴を教会まで運んでくれないか。私は凛を連れていく」
「別に構いませんが・・・、リンも連れていきましょうか?」
貴方、もう動けないでしょう?と、言外に指摘される。
「弓兵のクラススキルのおかげか動くくらいは問題ないさ。さすがに戦闘はできないがね」
今にも膝をつきそうな体を無理やり動かす。ライダーから見たら凛を支えているのか凛に寄りかかって立っているのか分からないだろう。
「それに、まだやらなければならないことがある。私の左腕をそこで倒れている奴に移植する」
「──正気ですか」
常ならばこのような判断を下すはずがないと、己が一番よく分かっている。しかし、今は非常事態。放っておけばさらに多くの無辜の人々が犠牲になる。消えゆく自分が残せるもので最も効果を見込めるのはこの方法しかない。
そして、奴がこの腕を使うことは、きっと凛の助けになる。未だ気を失ったままのマスターへ目を向ける。先ほど強引に引き倒したからか、その髪は土に汚れていた。もう櫛で梳いてやることもないだろうと思いながら、手櫛で土を落とした。
半ば意地で凛を抱え、教会へ向かう。ライダーは奴とイリヤを抱え後ろからついてきた。一刻が惜しい、と少々乱暴に教会へ踏み入る。
「──おや、サーヴァントが訪ねてくるとは珍しいこともあったものだ」
この神父は苦手だ。できれば会いたくなかった。しかし冬木でサーヴァントの肉体の移植という芸当ができるのは彼くらいなので仕方がない。
「時間もないので率直に言おう。私の左腕をこいつに移植してほしい」
神父は一瞬驚いたような表情を見せたが、消滅しかかったサーヴァントと左腕の欠けた男を見て「やってもいいが、その男、死ぬぞ」とごく当たり前のことを口にした。
「私とこいつならば問題はない。それに、どうせこのまま放っておいても死ぬ」
「それもそうだな。では衛宮士郎はこちらに。・・・ああ、凛は後で治療するから別の部屋に寝かせておけ」
そう言いながら神父は礼拝堂の奥へ向かう。追随し、神父が入った部屋から少し離れた部屋に凛を寝かせる。何か毛布のようなものはないかと部屋を見渡したが、なさそうなので諦め、一度だけ凛の顔を見て部屋を後にした。
「さて、事態は一刻を争う。おまえが消滅するまでにその左腕を衛宮士郎の魔術回路に馴染ませなければならん」
「手術が終わるまで私が耐えればいいだけのこと」
無駄口を叩く暇があるならさっさと始めろ、と神父を睨む。神父はその視線を難なく受け流し、では始めよう、と仰々しく宣言した。
◇
体の結合が緩む。意識が飛びそうになる。もう自分はあと一秒ももたないのだと実感させられる。それでもまだだめだ。移植が終わるまでは何があろうとも現界していなければならない。
義務感と意地と不甲斐なさだけでこの世に居座り続ける。何か話していたほうが気がまぎれるかもしれないと思ったが、イリヤは別室で待機、ライダーはとうに姿を消し、話し相手は目の前の神父しかいない。しかし、この神父と別段話すことなどないし、むしろ話したくないという気持ちのほうが強い。手術が終わるまで大人しく黙っていようと思ったが、神父が「・・・驚いたな。おまえたち、双子か何かだったのか?」と珍しく言葉に感情をのせて尋ねるものだから、つい返事をしてしまう。
「だから言っただろう。問題はないと」
言葉を発することさえ億劫だ。やはり話していたほうが気がまぎれるが、話題が話題だけに相変わらず気分は最悪だった。
「これは双子というより・・・、いやはや、理屈はわからんが、おまえたちはとても相性がいいようだ。これならば衛宮士郎は無事持ち直すだろう。」
神父は手を止めずに呟いた。
「持ち直してもらわなくては困る。衛宮士郎の死に場所はここではない」
そう、衛宮士郎にはまだやらなければならないことがある。こんな場所で死ぬことは許されない。
「まるでここではないどこかで必ず死ぬという言いぶりだな。わざわざ片腕をもいで助けているというのに」
「私は小僧を生き永らえさせるためにその腕をくれてやったのではない。私がもうもたない以上、たかが腕一本欠けただけであっけなく死なれるのは私としても困るというだけのことさ」
今のままではどう転ぼうとも罪のない多くの人々が犠牲になる。この問題は早急に解決されなければならない。そして、衛宮士郎がここで死ねば、間桐桜はもう止まらない。
「そうだな。お前の腕を移植された時点で、衛宮士郎は死ぬ。この腕を使わなければ十年はもつだろうが」
「それはありえない。奴は必ずこの腕を使う」
そして死ぬ。左腕を通してアーチャーという英霊に全てを吹き飛ばされ、自分の名前はおろか大切なものの名前さえ忘れて死ぬだろう。
「・・・なぜ言い切れる?おまえはその姿を見ることさえないというのに」
「簡単なことだ。衛宮士郎は間桐桜を選んだ。選んだからには全てを切り捨ててでも彼女を助けるだろう。」
衛宮士郎にとって、誰か一人を選んで理想を選ばないということは、それまで生きてきた、生かされてきた己の全てを否定するということだ。
衛宮士郎が間桐桜を選んだ時点で、正義の味方にならなければいけなかった衛宮士郎は死に、「救うべき誰かを切り捨てる」という罪が生まれる。衛宮士郎はその罪から逃れることはできず、同時に罰として衛宮士郎を縛るだろう。
衛宮士郎は、愛だの恋だので間桐桜を選んだのではない。それだけで選べるのなら遥かに楽だったろう。きっかけはそうだったとしても、確かに親愛や性愛があろうとも、衛宮士郎はたとえ世界の誰もが間桐桜を責めようが間桐桜が自身を殺そうが彼女の味方として絶対に間桐桜を守るという決意を以て彼女を選んだ。
衛宮士郎は、借り物の理想を実現しようとした衛宮士郎のまま、間桐桜ただ一人を守り、救う対象に選んだだけ。だからこそ、衛宮士郎は自分が死ぬとしても桜を助け、救わなければならない。そうでなければ背いた理想も、切り捨てた、もしくはこれから切り捨てる人々も報われない。そんなことはあってはならない。他の全てを切り捨ててでも間桐桜を救うと誓った衛宮士郎は、必ず間桐桜を助けなければならない。
あくまで衛宮士郎は歪なまま、間桐桜のために己の全てをかける。たとえ死にたくないと思っても、間桐桜のために死ぬ。そうでなければ間桐桜は救えず、笑えない。
衛宮士郎は、「衛宮士郎」であるために、死んででも間桐桜を救わなければならないのだ。それが、衛宮士郎が誰か一人を選ぶということだ。
・・・そして、衛宮士郎は間桐桜を救うためなら自分が死ぬと分かっていてもこの左腕を使う。使わなければ死ぬだけだが、使えば間桐桜を助けられるかもしれない。明らかに釣り合っていない天秤に頷けるような愚かな男なのだ。
──だが。だがもしも、奇跡が起きるのなら。衛宮士郎が間桐桜を救い、生き延び、間桐桜が笑える未来があるというのなら──。
「どうした、急に黙り込んで。ついに死んだか」
「・・・勝手に殺すな」
神父の言葉で思考の渦から引き戻される。あろうことか、衛宮士郎とこの神父の前で呆けてしまうとは。いよいよ限界ということか。
「安心しろ。手術は終わった。おまえが消滅してもこの腕は消えることはないだろう」
衛宮士郎を見やる。寝台に横たわった体の左腕は明らかに異物で、魔力殺しの聖骸布で封じ込められている。
「言ったところで何にもならんのは知っているが、一応礼は言っておこう」
「責務を果たしただけだからな。さて、私はイリヤスフィールを呼んでくる。その間に消滅するなり好きにしろ」
言うなり神父は部屋を出ていった。いちいち腹の立つ神父だ。ああ、でも確かにこの状態でイリヤに会うのは少し憚られる。
立ち上がり、衛宮士郎の前に立つ。あと一秒後には消滅する身だがどうしても言っておかなければならないことがある。
この衛宮士郎は理想ではなく、個人を選んだ。オレには選べなかった道だ。否、選ぶという選択肢すらなかった。その先に破滅しかなくとも、その先に未来がなくとも、その道は少しだけ、ほんの少しだけ、羨ましい。もしも奇跡が起きるなら、間桐桜が笑うことができるのなら、それはオレにはできなかったことだから。
だが、こいつが死のうが生きようが関係ない。そもそも奇跡なんて滅多に起きないから奇跡なのだ。だから、こいつに送るのは羨ましい、などという言葉ではない。
「さらばだ、衛宮士郎。精々足掻け。それがお前の選んだ道なのだから」
言いきった直後、満足したとでも言うように体も意識もほどけて消えた。
◇
風の中にいる。風の中で誰かがこちらを見ている。誰だろう。顔がよく見えない。近寄ろうとしたが近寄れない。足を必死に動かしているのに前に進まない。もがいてもがいて、そいつの元へ向かおうとする。すると、そいつはあっちへ行け、こっちに来るな、というような手ぶりをするものだから、余計意地になって足を動かす。そいつはそんな俺を見て、呆れたような、怒ったような顔をした。・・・あれ、顔が見えないのになんで表情が分かるんだろう。疑問に思っていると、そいつが口を動かしているのが分かった。耳を澄ますが風の音ばかりが聞こえてくる。目を凝らして口元を見ようとしたが、結局、そいつが何を言っているのか分からないままそいつは消えた。
次の瞬間、風は止まり、代わりに灼熱に放り込まれた。
目が覚める。目の前にはイリヤがいる。なぜか壊れるような痛みに襲われる。混乱しながらイリヤの言う通りにする。・・・落ち着いてきた。冷静になってはじめて左肩に異物がくっついていることに気がついた。またもや混乱していると言峰がやってきて事情を説明する。
・・・つまり、俺はアーチャーに命を救われたと同時に、とんでもない爆弾を持たされたってことか。アーチャーの力を使えるんじゃないかって一瞬思ったが、使えば死ぬと言われたら何も言えなかった。だって、俺は死ぬわけにはいかない。桜を助けるんだ。死んでる暇なんかない。
言峰の説明が終わり、礼拝堂へ向かう。そういえば、何か夢をみていた気がするが思い出せない。なにか、すごく大切な夢だった気がするが思い出せない。まあ、思い出せないことを考えていても仕方ない。気持ちを切り替えよう。ああ、でも、
「アーチャーに礼、言いそびれたな」
少しだけ、残念に思いながら、礼拝堂への扉を開けた。
了